【R18】兄弟の時間【BL】

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兄ちゃんが好き

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 凡そ、欠点という言葉とは無縁の人だった。

 長所だらけて一番近くにいるのに手も届かないような人が僕の兄だった。
 勉強も良く褒められていた、運動をすれば直ぐに目立つ存在になった。
 それでいて顔だって女の子みたいに可愛くて、兄ちゃんが笑うとつられて皆笑った。
 笑いが人を呼んで、またその人も笑って、温かい輪が広がっていく。
 その中心には兄がいて、人を和ませる明るい笑顔と性格は天性の他に言いようがなかった。

 そんな誰からも好かれる兄が一番優しくしてくれたのが弟である僕だった。



 幼稚園に入った頃だ、お母さんに一枚の写真を見せられた。
 そこには肌が真っ白で白髪のすらりと背の高い男の人が写っていた。
 古い写真だから白いのではないのだとお母さんは言った。
 お母さんのおじいちゃん、僕の曾おじいちゃんは先天性のメラニン欠乏症であると、アルビノだったと教えてくれた。
 そして僕に覚醒遺伝で少しその症状が出てると、家族で一人だけ違う髪を撫でながら教えてくれた、目の色が皆と異なるのもそのせいだった。

 僕を膝に乗せて、人とは少し違うけど特別なのは悪い事じゃないんだよと優しく抱いてくれた。
 兄ちゃんが来て、写真をピッと取って、確かアイスか何かを食べながら言った。
「何これ豹もこーなんの? かっけーじゃん! 俺は? 俺もなりたい神っぽい」
 って汚れた手でお母さんの美白化粧水頭からかけて怒られていた。
 気にすんなよ、俺はパンちゃんの髪も目も好きだぞと言ってくれてそれだけですごく安心した。
 それでも鏡に写る自分の目が怖いと言ったらお母さんは眼鏡を買ってくれた。

 家族じゃ見慣れていても初めて会った人はやっぱり珍しく気になるみたいで地毛なのかしつこく聞かれる事もあった。
 兄ちゃんが格好いいだろって言ってくれる日もあれば聞こえないフリをする日もあった。
 小学校のお楽しみ会のフルーツバスケットで髪が銀色の人と言われ、それはいじめじゃないのと終わりの会で議題になって居たたまれなくなった日もあった。

 人間関係が面倒臭くなって蔑ろにしていたら、いつの間にか軽くいじめまがいの嫌がらせを受けるようになって、僕はあんまり気にしていなかったけどお兄ちゃんは僕が心配なようだった。


 何でも僕を優先する兄で、何でも僕に譲ってくれる兄だった。
 毎日たくさん笑わせてくれて、わざと負けてくれて一番を譲ってくれた、独り占めしてる姿なんて見た事がなかった。

 素直で真っ直ぐで無垢で純粋で、淀んだ所が一ミリだってない綺麗な人だった。

 そんな兄から恩恵を受けて大事に大事に囲って守られてきたのに、無い物ねだりなワガママな弟は努力と天性で作られた兄ちゃんを妬んだ。
 言ったってどうしようもない癖に、いいよな、兄ちゃんはと兄の地位存在を妬むような言葉を彼に投げ掛けた。
 特に意味はなかった、でも兄さんはそれを聞いた後に自分の立場ですら譲ろうとした。
 僕に俺になれと、俺は僕になるからって笑って言ってくれた。

 そんな事までさせて卑屈になってるなんて恥ずかしい以外になくて、俺はその日から心を入れ換えてなじってくる相手に向かっていくようになった。
 いじめが落ち着いて一番喜んだのは俺ではない、兄だった。




 それはちょっとした好奇心だったと思う。



 お母さんの病院に置いてあった週刊誌に少し男女が絡んでるシーンがあった。
 セックスの意味を詳細には良くわかっていない年だった。

 けれど、好みじゃない古臭い男女の漫画なのにやたらと気になったのはキスして次のページが二人裸だったからだと思う、動悸がしたのを覚えてる。
 学校に持ってたらヤベェヤベェって言いながら男子は皆次のページを何度も捲っていた。

 兄ちゃんはどんな反応するんだろうって出来心。
 こんなの見るの止めとけって怒るのかな、と思ったけど……。
 やっぱりうちの兄ちゃんはどこまでも純粋で無垢だった。

 何で? どうして? と不思議がるばかりで恥ずかしい素振りも見せず、じっとそのページを見ていた。
 次のページを捲る事もしないで、しまいには女の人の鼻を弄ってハナクソとか言い出したから、俺はつまんなくなって……。
 そうそれも出来心でこうすれば、さすがにこの図が何してるとこかわかるかなって服を掴んで下から舌を差し出した。


 兄ちゃんは驚いて瞬きしてたけど、口をむずむずさせた後、少し口を開けて俺の舌に触れてきた。



 兄ちゃんに触れられてる所が燃えるように熱くなって心臓の音が止められなかった。
 もし、いつから兄が好きなのかと聞かれたら、生まれた時からだと答えるけれど明確な恋愛感情の有無を答えるとするなら、この瞬間だと俺は思う。

 胸の奥から感情が渦巻いて、それは言葉にするなら好きって形以外になかった。

 兄ちゃんが好き。
 兄ちゃんが好き。

 舌を離した兄ちゃんは、その行為がどんな意味を持つのか理解したみたいに直ぐに俺の顔を持って額を合わせこの事は秘密だからと俺に魔法をかけた。

 とても甘美な魔法だった、それに惹かれるみたいに俺達はその行為を楽しんだ。
 それがどんな時にするキスなのか、そんなの正直どうでも良かった。
 時間場所問わずに俺達は舌を重ねあって、舌が触れ合う時間は長くなってって唇まで重ねるようになった。

 俺はすでにその行為に性を感じてたけど兄は悪戯とスリルを楽しんでるだけのようだった。
 それで良いと思った、俺は純粋な兄が好きなのだから。

 兄が中学生になってもそれは続いていた、そろそろ俺は兄の身長に追い付こうとしていた。
 キスの回数は減った、俺からしかしなくなった。
 それでも小学生の弟がねだる事だからか兄は受け入れてくれた。
 でも唇を重ねて舌を擦ったら直ぐに離して額をつけて、はい、おしまいって兄さんは逃げるようになった。

 俺も中学生になった。
 その日兄はリビングで寝転がりながらゲームをしていた、俺は学ランのボタンを外しながら近付いて、兄さんに覆い被さった。
 兄さんは、おかえりって笑った。
 もう俺は兄より少し大きくなっていたゲームを取り上げて顔の横に置いて、下がった眼鏡を直した。
 自分より小さい兄さんの顔を持って額をつけたら兄さんはくっと眉間にシワを寄せた。
 それでも唇を重ねたら兄さんはびくっとしながら静かにそれを受け入れてくれた。
 舌を入れても嫌がらなかった、でもその日は心臓の音がおかしかった。
 俺じゃない、兄さんの心臓の音。
 股の間に置いた膝に熱を感じて5センチ位顔を離した。
 兄さんの息が熱くて顔が赤かった。
 唾液が糸を引いていた。
 俺もいつも以上に下半身に血が流れていった。
 見つめ合って、沈黙してもう言葉にできない何かが込み上げてきて胸の中がメチャクチャで頭が壊れそうだった。




 もっと深くこの人と繋がりたいと思ってしまった。




「兄ちゃん……」
「……んん」

 糸を辿ってまた唇をくっ付けた互いの膨張した下半身が擦れる、舌を潜り込ませて兄さんを感じて兄さんの吐いた息を吸い込んで、受け止めてくれるって信じてた。
 息継ぎする間に、

「絶対秘密にするから、お願い兄さん」
「あっ……豹ッ」
「痛くしないって約束する」

 制服の下に手を忍ばせてワイシャツ越しに兄さんの速い鼓動を聞いた。
 もう一度兄さんと唇を重ねようと思ったら、交差した両手が震えながら俺の口を塞いだんだ。
 息を詰まらせてひくついた声が濡れた紅唇から聞こえた。



「も、……分かってるん……だろ? これはな豹、兄ちゃんとしたらダメなヤツなんだよ」

 手の平が痙攣していた、弱々しい抵抗だった。

「兄ちゃん……」
「お願い、お願いだからもう……」
「…………ぃ…………ゃだ、やだ! だって俺兄」

 手に力が入ってぎゅっと言葉を遮られて。

「分かって? パンちゃん……」

 真っ赤な泣きそうな顔が左右に揺れて、兄さんは下半身を脈打たせながら理性を振り絞って俺を止めようとした。
 俺なんて自分の欲に任せるまま兄さんに跨がってるのに。

  それなのに兄さんはこの行為の先にある代償から弟を必死に守ろうとしていた。

 滲む真っ黒な瞳が瞬きしたら目尻から涙が一粒溢れた。
 好きな人の涙は堪えるものがあった、これ以上兄さんを傷付けてはいけない。
 それでももう好奇心からこんな事してるんじゃないってわかってほしくて口にある手を剥ぎ取ってキスをした。

 けれど兄さんはもう口を開いてくれなかった、固く口を閉ざして力なく首を左右に振った。
 初めての拒絶に胸が痛くてそれ以上踏み込めなかった。

 顔を離したら兄さんは隠すことをしないでポロポロ泣いていた。
 下から手を伸ばして俺の顔を掴むと自分の方に引っ張って額を擦りつけてきた。

「ごめんね豹、分かってくれてありがとう」
「うん、兄さんごめんなさい」








 好きだよ豹。







 震えた掠れ声で言いながら兄さんはキスして抱き締めてくれた。
 俺からはその言葉を口に出せなかった、出したら二人で留まった意味がなくなってしまうような気がしたから。



 その好きの意味がわかるから、俺達はもう唇を交わす事をしなくなった。





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