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生と死と17
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「そう、やっぱりそっちにいたんだって言われた。車売ったのはお布施じゃなくて逃走資金だったみたい、お金あるのかって言われた」
「へえ」
「んで、美鳥さんが連絡したみたいで、お母さんお父さんの病気知ってたよ。でも私には看取れる権利ないですからって断ったみたい」
「そうか……だから最近やたらと熱心にお祈りしてたんだ」
「うん、そういう事だったのね。んじゃ向こう連れて行って」
「わかった」
手を繋いで、また台所に戻る、桜は流しに向かってお鍋にお水を入れて。
「何作るの?」
「カップラーメン、長崎ちゃんぽんのご当地カップ麺があるっていうから食べてみたくて。ねえこのカップ一杯200ccかな」
「うん、じゃあ二杯だな。いや僕も食べたいから四杯入れて」
「え? 食べるの」
「うん、まあ」
鍋を火に掛けよとしたら、今度は僕の携帯が鳴った。お尻から取り出して、お母さんかと思ったら恩田さんだった。
いや、詳細には恩田さんのインスタグラムで、更新通知がきた。どっちにしろ、何でこんな時間に更新を? と思ったらそれは予約更新だった。画面には「皆様注目~」って書いてある。それと動画が貼りつけられている。
ちょっと躊躇ってから、再生ボタンを押せば明るい表情の恩田さんが画面いっぱいに現れた、場所は……ホテルだろうか静かな場所だ。
「はい、りょうでーす。皆は今お昼かな? 好きな物を好きな人と食べられるって最高に幸せだよね。私もさっきまで日本で満喫してました! えーと……そして今はまたちょっと難しい地域に向かってます。うん、一口のご飯の幸せを噛み締められる人が増えたらいいなって、少しでも支援できたらと思ってます」
それは、こないだ話した恩田さんそのもので、元気で可愛らしくて笑顔が眩しいピアスもしてない。
もっと彼女の声が聴きたくて音を大きくする、桜もじっと携帯を見てる。恩田さんはこないだここの周辺で子供達と遊んだ話や彼らが今何を望んでるか、ここでの暮らしや現状を真剣な顔で話していた。
動画の後半になって深呼吸して、最後にもう一つだけ聞いてほしいと言った。
真面目な顔で真っ直ぐ僕を見て、
「信じる事を諦めないで下さい。挑戦しなくなったら、そこでおしまいだけど、チャレンジし続ければ例え失敗したって、それは夢に近付いてるんだから」
そして「これが今の私の心の支えです」と畳んであった紙を広げた。
その絵を見て、桜は何? と首を傾げる、僕は驚いて携帯を落としそうになった。
だって恩田さんは、僕の描いた桜の拡大コピーを掲げているんだ、彼女はさっきよりも大きな声で。
「The person who drew this picture is Hiro Hyoudou.Because he's alive, I love this world.」
バイバイと笑って動画が終わった。桜がポツリ言う。
「この絵を描いたのは、梧 兵藤。彼が生きるこの世界を私は愛している?」
恩田さんのフォロワー数はいつの間にか四千万人を越えていて、左下に表示される再生回数も凄い数になってる。
これは、何? あれはそうだ、恩田さんが一番好きって言ってた東京の路地裏で描いた桜だ。
朝日に照らされて綺麗だったから写真に収めたんだ。どうやって復元したのか知らないけど。いや、それどころじゃない、今や全世界から注目されている恩田さんに僕の名前を公表されてしまった。
けれど逃げなきゃ、という気持ちには不思議とならなかった、それよりもどういう意図でこれをしたのか考えなきゃ。
「お兄ちゃんどうするの」
「さあ、どうしようか。でも僕の名前が割れたって僕は透明人間みたいなもんだから、ここに居るって知ってる人の方が少ない。警察はやっぱりアイツって思ってるかもしれないけど、直に捕ま」
「いや、そうじゃなくて、もう三時になるよ」
「え」
約束の二十四時間、居間ではテレビがついてる、音は聞こえない、特集は恩田さん、速報はない。
そしたら隣で桜が自分の携帯を操作し始めた。画面を表示させる度に僕には聞き取れない速度のボイス音声がその内容を読み上げる。桜は画面をタップして、これ、と何かを僕に見せて来た。
「何」
「この人達のサイトだよ、アラビア語だから分からないと思うけど、海外のサイト、昨日見つけた」
「どうやって?」
「見えないからさ、見ちゃいけないものがよく分かる。直にこのサイトに上げられた動画が加工されて日本で流れるよ。これはライブ映像、ほら……どこかな、見えない? 私はわからないから」
携帯を渡されて、変な汗が噴き出る、心臓の音が可笑しい。
真っ黒の背景、そこに赤い文字が羅列して、途中で明るくなる、画面には昨日見た砂漠地帯が広がっていた。
灼熱の朝日が昇って暑そうだけど、黒装束の男は目しか出ていないのに、息が上がっている様子はない。むしろ僕の方が息が苦しい、恩田さんも昨日と変わらず真っ直ぐこっちを見ているだけだ。
でも、嫌な予感しかしない、吐きそうになってこのまま見ていいのか怖くなる。男はナイフを持ったまま誰かと話をして、頷いている。恩田さんにも何か言って、彼女は唇を噛むと一度だけ深く首を縦に振った。
男がこちらにナイフを向けて言う。
「Here's the answer.」
ナイフを振って合図を送れば後ろで銃を構えていた少年兵が反動に備えて前屈みになった。
非日常すぎて、この先の図が思い浮かばない、まるでゲームの世界だ。
恩田さんは背を伸ばして目を瞑る、この状況で口元は歯を食いしばるでもなく緩んでいた。
少年兵は狙いを定めると、トリガーを引いた。銃声と同時に煙が上がって細い体が浮く、前のめりに倒れる。
声なんて出なかった、一瞬だった。恩田さんは倒れたまま動かない、銃声に桜の体がビクッと反応してた。
うつ伏せの体からジワリと血が広がる、横に立っていた男が、恩田さんの後頭部の髪を掴んで人形のように起き上がらせた、真っ赤な頭を振ったところで僕は携帯を置いた。
「もういい」
「何があったの?」
桜は画面を消して、聞いてくるけど僕は顔を両手で覆ってその場にうずくまってしまった。わかる、わからない、わかる。
何が起きたのかは分かるけど、理解できない。何だよ僕の人生ってどうなってるんだよ。
テレビからニュース速報が流れる、インターネット上で恩田 りょうさんとみられる女性が殺害される動画が流出。政府はこれが本物か今調査している。
そして殺害の数分前に投稿された恩田さんの動画も合わせて報道され、僕はもう何をどう受け止めていいのか分からなかった。
「ねえお兄ちゃん」
「何」
「読む?」
「は?」
桜は見えない目を左右に動かしながら、お尻のポケットから……。
「お前、何でそれ持って」
桜の手には恩田さんの手紙が握られていた、タイムカプセルに入っていた手紙だ。
「へえ」
「んで、美鳥さんが連絡したみたいで、お母さんお父さんの病気知ってたよ。でも私には看取れる権利ないですからって断ったみたい」
「そうか……だから最近やたらと熱心にお祈りしてたんだ」
「うん、そういう事だったのね。んじゃ向こう連れて行って」
「わかった」
手を繋いで、また台所に戻る、桜は流しに向かってお鍋にお水を入れて。
「何作るの?」
「カップラーメン、長崎ちゃんぽんのご当地カップ麺があるっていうから食べてみたくて。ねえこのカップ一杯200ccかな」
「うん、じゃあ二杯だな。いや僕も食べたいから四杯入れて」
「え? 食べるの」
「うん、まあ」
鍋を火に掛けよとしたら、今度は僕の携帯が鳴った。お尻から取り出して、お母さんかと思ったら恩田さんだった。
いや、詳細には恩田さんのインスタグラムで、更新通知がきた。どっちにしろ、何でこんな時間に更新を? と思ったらそれは予約更新だった。画面には「皆様注目~」って書いてある。それと動画が貼りつけられている。
ちょっと躊躇ってから、再生ボタンを押せば明るい表情の恩田さんが画面いっぱいに現れた、場所は……ホテルだろうか静かな場所だ。
「はい、りょうでーす。皆は今お昼かな? 好きな物を好きな人と食べられるって最高に幸せだよね。私もさっきまで日本で満喫してました! えーと……そして今はまたちょっと難しい地域に向かってます。うん、一口のご飯の幸せを噛み締められる人が増えたらいいなって、少しでも支援できたらと思ってます」
それは、こないだ話した恩田さんそのもので、元気で可愛らしくて笑顔が眩しいピアスもしてない。
もっと彼女の声が聴きたくて音を大きくする、桜もじっと携帯を見てる。恩田さんはこないだここの周辺で子供達と遊んだ話や彼らが今何を望んでるか、ここでの暮らしや現状を真剣な顔で話していた。
動画の後半になって深呼吸して、最後にもう一つだけ聞いてほしいと言った。
真面目な顔で真っ直ぐ僕を見て、
「信じる事を諦めないで下さい。挑戦しなくなったら、そこでおしまいだけど、チャレンジし続ければ例え失敗したって、それは夢に近付いてるんだから」
そして「これが今の私の心の支えです」と畳んであった紙を広げた。
その絵を見て、桜は何? と首を傾げる、僕は驚いて携帯を落としそうになった。
だって恩田さんは、僕の描いた桜の拡大コピーを掲げているんだ、彼女はさっきよりも大きな声で。
「The person who drew this picture is Hiro Hyoudou.Because he's alive, I love this world.」
バイバイと笑って動画が終わった。桜がポツリ言う。
「この絵を描いたのは、梧 兵藤。彼が生きるこの世界を私は愛している?」
恩田さんのフォロワー数はいつの間にか四千万人を越えていて、左下に表示される再生回数も凄い数になってる。
これは、何? あれはそうだ、恩田さんが一番好きって言ってた東京の路地裏で描いた桜だ。
朝日に照らされて綺麗だったから写真に収めたんだ。どうやって復元したのか知らないけど。いや、それどころじゃない、今や全世界から注目されている恩田さんに僕の名前を公表されてしまった。
けれど逃げなきゃ、という気持ちには不思議とならなかった、それよりもどういう意図でこれをしたのか考えなきゃ。
「お兄ちゃんどうするの」
「さあ、どうしようか。でも僕の名前が割れたって僕は透明人間みたいなもんだから、ここに居るって知ってる人の方が少ない。警察はやっぱりアイツって思ってるかもしれないけど、直に捕ま」
「いや、そうじゃなくて、もう三時になるよ」
「え」
約束の二十四時間、居間ではテレビがついてる、音は聞こえない、特集は恩田さん、速報はない。
そしたら隣で桜が自分の携帯を操作し始めた。画面を表示させる度に僕には聞き取れない速度のボイス音声がその内容を読み上げる。桜は画面をタップして、これ、と何かを僕に見せて来た。
「何」
「この人達のサイトだよ、アラビア語だから分からないと思うけど、海外のサイト、昨日見つけた」
「どうやって?」
「見えないからさ、見ちゃいけないものがよく分かる。直にこのサイトに上げられた動画が加工されて日本で流れるよ。これはライブ映像、ほら……どこかな、見えない? 私はわからないから」
携帯を渡されて、変な汗が噴き出る、心臓の音が可笑しい。
真っ黒の背景、そこに赤い文字が羅列して、途中で明るくなる、画面には昨日見た砂漠地帯が広がっていた。
灼熱の朝日が昇って暑そうだけど、黒装束の男は目しか出ていないのに、息が上がっている様子はない。むしろ僕の方が息が苦しい、恩田さんも昨日と変わらず真っ直ぐこっちを見ているだけだ。
でも、嫌な予感しかしない、吐きそうになってこのまま見ていいのか怖くなる。男はナイフを持ったまま誰かと話をして、頷いている。恩田さんにも何か言って、彼女は唇を噛むと一度だけ深く首を縦に振った。
男がこちらにナイフを向けて言う。
「Here's the answer.」
ナイフを振って合図を送れば後ろで銃を構えていた少年兵が反動に備えて前屈みになった。
非日常すぎて、この先の図が思い浮かばない、まるでゲームの世界だ。
恩田さんは背を伸ばして目を瞑る、この状況で口元は歯を食いしばるでもなく緩んでいた。
少年兵は狙いを定めると、トリガーを引いた。銃声と同時に煙が上がって細い体が浮く、前のめりに倒れる。
声なんて出なかった、一瞬だった。恩田さんは倒れたまま動かない、銃声に桜の体がビクッと反応してた。
うつ伏せの体からジワリと血が広がる、横に立っていた男が、恩田さんの後頭部の髪を掴んで人形のように起き上がらせた、真っ赤な頭を振ったところで僕は携帯を置いた。
「もういい」
「何があったの?」
桜は画面を消して、聞いてくるけど僕は顔を両手で覆ってその場にうずくまってしまった。わかる、わからない、わかる。
何が起きたのかは分かるけど、理解できない。何だよ僕の人生ってどうなってるんだよ。
テレビからニュース速報が流れる、インターネット上で恩田 りょうさんとみられる女性が殺害される動画が流出。政府はこれが本物か今調査している。
そして殺害の数分前に投稿された恩田さんの動画も合わせて報道され、僕はもう何をどう受け止めていいのか分からなかった。
「ねえお兄ちゃん」
「何」
「読む?」
「は?」
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