前略、僕は君を救えたか

文字の大きさ
47 / 49

生と死と17

しおりを挟む
「そう、やっぱりそっちにいたんだって言われた。車売ったのはお布施じゃなくて逃走資金だったみたい、お金あるのかって言われた」
「へえ」
「んで、美鳥さんが連絡したみたいで、お母さんお父さんの病気知ってたよ。でも私には看取れる権利ないですからって断ったみたい」
「そうか……だから最近やたらと熱心にお祈りしてたんだ」
「うん、そういう事だったのね。んじゃ向こう連れて行って」
「わかった」


 手を繋いで、また台所に戻る、桜は流しに向かってお鍋にお水を入れて。

「何作るの?」
「カップラーメン、長崎ちゃんぽんのご当地カップ麺があるっていうから食べてみたくて。ねえこのカップ一杯200ccかな」
「うん、じゃあ二杯だな。いや僕も食べたいから四杯入れて」
「え? 食べるの」
「うん、まあ」

 鍋を火に掛けよとしたら、今度は僕の携帯が鳴った。お尻から取り出して、お母さんかと思ったら恩田さんだった。

 いや、詳細には恩田さんのインスタグラムで、更新通知がきた。どっちにしろ、何でこんな時間に更新を? と思ったらそれは予約更新だった。画面には「皆様注目~」って書いてある。それと動画が貼りつけられている。

 ちょっと躊躇ってから、再生ボタンを押せば明るい表情の恩田さんが画面いっぱいに現れた、場所は……ホテルだろうか静かな場所だ。


「はい、りょうでーす。皆は今お昼かな? 好きな物を好きな人と食べられるって最高に幸せだよね。私もさっきまで日本で満喫してました! えーと……そして今はまたちょっと難しい地域に向かってます。うん、一口のご飯の幸せを噛み締められる人が増えたらいいなって、少しでも支援できたらと思ってます」


 それは、こないだ話した恩田さんそのもので、元気で可愛らしくて笑顔が眩しいピアスもしてない。
 もっと彼女の声が聴きたくて音を大きくする、桜もじっと携帯を見てる。恩田さんはこないだここの周辺で子供達と遊んだ話や彼らが今何を望んでるか、ここでの暮らしや現状を真剣な顔で話していた。
 動画の後半になって深呼吸して、最後にもう一つだけ聞いてほしいと言った。



 真面目な顔で真っ直ぐ僕を見て、



「信じる事を諦めないで下さい。挑戦しなくなったら、そこでおしまいだけど、チャレンジし続ければ例え失敗したって、それは夢に近付いてるんだから」


 そして「これが今の私の心の支えです」と畳んであった紙を広げた。


 その絵を見て、桜は何? と首を傾げる、僕は驚いて携帯を落としそうになった。
 だって恩田さんは、僕の描いた桜の拡大コピーを掲げているんだ、彼女はさっきよりも大きな声で。




「The person who drew this picture is Hiro Hyoudou.Because he's alive, I love this world.」



 バイバイと笑って動画が終わった。桜がポツリ言う。



「この絵を描いたのは、梧 兵藤。彼が生きるこの世界を私は愛している?」



 恩田さんのフォロワー数はいつの間にか四千万人を越えていて、左下に表示される再生回数も凄い数になってる。
 これは、何? あれはそうだ、恩田さんが一番好きって言ってた東京の路地裏で描いた桜だ。


 朝日に照らされて綺麗だったから写真に収めたんだ。どうやって復元したのか知らないけど。いや、それどころじゃない、今や全世界から注目されている恩田さんに僕の名前を公表されてしまった。

 けれど逃げなきゃ、という気持ちには不思議とならなかった、それよりもどういう意図でこれをしたのか考えなきゃ。



「お兄ちゃんどうするの」
「さあ、どうしようか。でも僕の名前が割れたって僕は透明人間みたいなもんだから、ここに居るって知ってる人の方が少ない。警察はやっぱりアイツって思ってるかもしれないけど、直に捕ま」






「いや、そうじゃなくて、もう三時になるよ」




「え」

 約束の二十四時間、居間ではテレビがついてる、音は聞こえない、特集は恩田さん、速報はない。
 そしたら隣で桜が自分の携帯を操作し始めた。画面を表示させる度に僕には聞き取れない速度のボイス音声がその内容を読み上げる。桜は画面をタップして、これ、と何かを僕に見せて来た。




「何」
「この人達のサイトだよ、アラビア語だから分からないと思うけど、海外のサイト、昨日見つけた」


「どうやって?」
「見えないからさ、見ちゃいけないものがよく分かる。直にこのサイトに上げられた動画が加工されて日本で流れるよ。これはライブ映像、ほら……どこかな、見えない? 私はわからないから」




 携帯を渡されて、変な汗が噴き出る、心臓の音が可笑しい。
 真っ黒の背景、そこに赤い文字が羅列して、途中で明るくなる、画面には昨日見た砂漠地帯が広がっていた。





 灼熱の朝日が昇って暑そうだけど、黒装束の男は目しか出ていないのに、息が上がっている様子はない。むしろ僕の方が息が苦しい、恩田さんも昨日と変わらず真っ直ぐこっちを見ているだけだ。


 でも、嫌な予感しかしない、吐きそうになってこのまま見ていいのか怖くなる。男はナイフを持ったまま誰かと話をして、頷いている。恩田さんにも何か言って、彼女は唇を噛むと一度だけ深く首を縦に振った。


 男がこちらにナイフを向けて言う。





「Here's the answer.」





 ナイフを振って合図を送れば後ろで銃を構えていた少年兵が反動に備えて前屈みになった。
 非日常すぎて、この先の図が思い浮かばない、まるでゲームの世界だ。

 

 恩田さんは背を伸ばして目を瞑る、この状況で口元は歯を食いしばるでもなく緩んでいた。


 少年兵は狙いを定めると、トリガーを引いた。銃声と同時に煙が上がって細い体が浮く、前のめりに倒れる。
 声なんて出なかった、一瞬だった。恩田さんは倒れたまま動かない、銃声に桜の体がビクッと反応してた。
 うつ伏せの体からジワリと血が広がる、横に立っていた男が、恩田さんの後頭部の髪を掴んで人形のように起き上がらせた、真っ赤な頭を振ったところで僕は携帯を置いた。




「もういい」
「何があったの?」


 桜は画面を消して、聞いてくるけど僕は顔を両手で覆ってその場にうずくまってしまった。わかる、わからない、わかる。



 何が起きたのかは分かるけど、理解できない。何だよ僕の人生ってどうなってるんだよ。

 テレビからニュース速報が流れる、インターネット上で恩田 りょうさんとみられる女性が殺害される動画が流出。政府はこれが本物か今調査している。



 そして殺害の数分前に投稿された恩田さんの動画も合わせて報道され、僕はもう何をどう受け止めていいのか分からなかった。












「ねえお兄ちゃん」











「何」














「読む?」









「は?」
 桜は見えない目を左右に動かしながら、お尻のポケットから……。






「お前、何でそれ持って」 





 桜の手には恩田さんの手紙が握られていた、タイムカプセルに入っていた手紙だ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...