パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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4.パウの白玉団子とナイナイ袋1

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 花のような青紫の目が、新緑の色をした目を見つめる。
 
パウパウの鮮やかな緑色の瞳を覗き込んだミっちゃんは
「あぁ、きっと色々あって忘れちゃったのかな?」と柔らかく笑う。
「んっと…」
 そう、すっかりパウパウは、何がしたかったのか忘れてしまった。
ヴィンテに頭を揺すられ過ぎたせいかもしれない。

 裏玄関の階段前でパウパウを降ろしたミっちゃんは、タマゴの駕籠を見つけて
「タマゴ、パウパウが取ってきたの?えらいねぇ」
「パウえらい?」
「うん。えらい。あのニワトリと仲良しなんだねぇ。すごいねぇ」褒められたパウパウは嬉しくて、口がムニュムニュしてしまう。

「お家にタマゴを運ぶかい?それなら扉をパウパウが開けてくれるかな」
言われたパウパウは、階段を3段あがり裏玄関の扉を紐を引っ張って開けた。
「ミっちゃん。どぉぞ」
「お招き有難うパウパウ」駕籠を持ち、ミっちゃんはニッコリと笑いながらパウパウの家に入った。

パウパウは扉を閉めて、後ろから付いて行きミっちゃんがテーブルに駕籠を置いてくれたのを見ながら気づいた。

 ミっちゃんをお招きするのは始めてだ。
というより、パウパウが誰かをお招きすることが初めてだ。

おもてなし!
オ・モ・テ・ナ・シって女の人が、昔言っていた!……ような気がする。

お客様には、おもてなしをしなければ!と、ウロウロしているとミっちゃんが

「パウパウ。天気がいいから外でオヤツにしようか」
「うん!」
「喉も乾いたでしょう?お茶もあるからね」
パウパウの小さい頭からOMOTENASHIはスッパリ消えた。

 表玄関から出ようとミっちゃんに言われるままに案内をして、玄関ホールへ行くと
「…パウ、玄関の扉、閉めてなかった」

表玄関の扉は、にぃちゃが開けっ放しにしたままだった。
「あぁ、私も転移で直接パウパウのそばに跳んだから、気づかなかったよ。
でも扉は重たいから、パウパウには閉められなかったんじゃないかな?大丈夫。ここに悪いモノが入ることはないからね」
パウパウの頭を撫でながらミっちゃんが言う。
「悪いモノ…マモノ?」
「うーん…色々だよ。ちょっと難しいから、今度、話してあげようね」
「うん!」
 パウパウはミっちゃんが大好きだ。
 
 ミっちゃんが言う”今度”は、ちゃんとした”今度”なのだ。

 とおたまやかあたまの「また今度な」や「今度ね」とか、にぃちゃの「今度、遊んでやるから」とは違う。
ミっちゃんの「今度、話してあげようね」は、絶対に話してくれるということだ。

 ミっちゃんは小さな”今度”を、いつだって必ず守ってくれる。
だからパウパウはミっちゃんが大好きだった。
 
 扉を閉めて、薬草畑の前でミっちゃんはカッポギの真ん中のポッケから椅子と低いテーブルを出した。
折りたたみ式の椅子を広げ、パウパウを座らせてくれる。

「野営の道具。試作品なんだよ」
 テーブルに茶器を載せ「パウパウは冷たいのがいいのかな」とガラスのカップに魔法の氷を入れ、果汁水を注いでくれた。

 小さなガラスカップは両方に持ち手が付いていて、パウパウの小さい手でも持ちやすい。
ミっちゃんがパウパウ用に作ってくれた物だ。
重量軽減と耐衝撃の魔法が使われている。
普通は一級防具に使う魔法だがパウパウには分からない。

 入れてもらった果汁水は、淡い金色。
氷がクルクルする度に金色が濃く見えたり薄く見えたりして奇麗だ。
 
 いつもミっちゃんは奇麗なものをパウパウにくれる。
「あいがとお」
 一口飲んで、喉が渇いていたことに気づき、ゴクゴク夢中で飲み干してしまう。
「ミっちゃん。これ、すごく美味しいね」
思わず笑うパウパウを嬉しそうに見ていたミっちゃんが、おかわりをカップに半分、注いでくれる。
「ライリの果汁だよ。白玉団子の甘さを邪魔しないと思ってね」と、次にガラスの小皿を2つ出してくれる。

 ツルリと白くて丸い団子に、ツヤツヤした黒い蜜をかけてあるもの。
もう一つの皿は、黄色いツブツブが練りこまれてた白玉に、キラキラした金色の蜜をかけてある。
どちらもパウパウの口に合わせて、小さめの団子だ。

「おぉ~」ツヤツヤとキラキラだ。
「どうぞ召し上がれ」
渡された手拭きで手を拭いてから
「あぃ。いたぁきます」

 銀の小さなフォークで最初に黒い蜜の団子を刺してツルリと、小さな唇を滑り口に入ると、しっかりとした蜜の甘さが広がる。
モキュっと団子を噛むと、気持ちいい弾力に団子の甘さと蜜の甘さが交じり合う。
「はぁ…」パウパウの口元が自然と笑顔を作る。
大切にモキュモキュ味わって、ライリの果汁を一口飲んでから、今度は金色の蜜の団子をツルリと口に入れる。

「わぁ…」

 花のような香りが、フワリと口から鼻に抜けていく。
こちらの団子は、さっきのより柔らかめでモチモチだ。

練りこまれた黄色いツブツブが、モチモチから顔を出して、ホロリと溶けると花の香が弾ける。
「いい匂い~」はぁ…またパウパウから、美味しい溜息が出てしまう。
目を閉じると花の中に居るみたいだとパウパウは思った。

「気に入ったかい?魔蜂の蜜と花粉が少し手に入ったから、使ってみたんだよ」
「どっちも、すっごく美味しい。ミっちゃんのオヤツはいつも美味しいねぇ」
「ありがとう。じゃぁ雑貨屋さんを辞めて、お菓子屋さんになろうかな」
「うぅん…それもいいけど…」
でも、そうしたら大忙しになったミっちゃんは、パウパウとオヤツを食べてくれなくなっちゃうかもしれない。
「大丈夫。私のオヤツはパウパウだけの特別だからね」

 パウパウの脇に手を入れて持ち上げ、自分の左膝に載せてミっちゃんが言う。
「トクベツ?」
「そう、私のオヤツはパウパウが幸せになるように作っている。特別性だよ」

 パウパウは知らない。
 
 黒い蜜の材料が遠い国からくる物で、美の神薬の材料とされ、こんな田舎どころか都の貴族でもそうそう口に出来ないことを。
 魔蜂の蜜も花粉も、命の霊薬の原料として、凶暴な魔蜂の巣から得るために死傷者が出るほど採取が難しい物だということを。

さっきのライリの果汁だって魔力調整剤として、そう簡単に手に入る物ではないのだ。
 泣く。
 きっと泣く。薬師大号泣だ。
 
 都の薬師が号泣するほどの物を、四才児のオヤツに平気で使うザッカヤさんは、白磁のカップに注いだ薬草茶を口にしながら微笑んで
「あぁ、そうだ。パウパウ」
カッポギの右ポッケから何かを取り出し、テーブルに置いた。

 広げると肩紐がついている小さな巾着袋だ。
巾着の口を閉めるための紐の両方には緑色の奇麗な石が付いている。
生成りの布地に緑色のツタの刺繍がワンポイントに隅についていて、大人の手の平くらいの大きさだ。

「なぁに?」身を乗り出して見るパウパウをテーブルの前に立たせて
「ナイナイ袋だよ。ほら、欲しがってたでしょ?」

 前に”今度ね”って言われてたやつだ。
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