パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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3.パウだってタンレンできうも 2

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 それでもパウパウがヴィンテのところへ行ったのは、奇麗な水があるのを知っていたからだ。
 
 ヴィンテを大事にしているとおたまは、放牧場所の隅っこの湧き水を丸く石で囲んで池にした。
パウパウが生まれるより前のことだ。
 石積みの高さはパウパウの胸くらい、広さはニワトイさん皆がギュってしたら漬かれるくらい大きい。
こんこんと清水が湧くヴィンテの水飲み場だ。
 前に一度だけヴィンテに乗せてもらったとき、教えてくれたのをパウパウは覚えている。
 
 石の淵から清水が流れ落ちて、小川になってゆるゆると向こうの木々へ続いている。
小さい小鳥が、ピチチチっと鳴いて水浴びをしている。
 これもとおたまがコツコツ掘って石を埋めて作った、”水路”というらしい。
こっちは”灌漑”とか”治水”と一緒に、ザッカヤのミっちゃんが教えてくれた。

 そして、いま、パウパウはそこでパシャパシャしている。
さっき泣いた顔を洗い、身を乗り出して水面を見つめながら、ヤギにやられた髪をすすぐ。
 水汲み桶は置いてあるけど重くて使えないのだ。


「グーテーモクめ…」と呟きながら水をすくい頭にかける。

 いつもの、頭に湧いた言葉なので、グーテーモクが何なのか、パウパウには分からない。
 けど今は、ちょっと悪い呪文みたいでカッコイイなと思った。

 

 柵を潜る時、お庭を見渡したがヴィンテの姿は見えなかったので、遠慮なく水飲み場を使わせてもらう。
ヴィンテに気が付かれないうちに帰ればいい。

  なお、本人は髪を洗っているつもりだが実のところ、あまり上手にいっていない。
水の中に頭を突っ込むのは怖いから、小さい手の平で、ちょびっとの水を掬って頭にかけている。

圧倒的に洗えていない。
ただ髪の毛が濡れていく。
垂れた水は髪の毛以外も濡らしていき、着ている物もビショビショになっていく。
だがパウパウ本人は、洗えているつもりだ。

 その時、パウパウの隣で水を飲んでいた野鳥が、パッと飛び上がった。

 ふぅ~

 ある程度ビチョビチョになってパウパウ気づいた。
あの忌々しいヤギの匂いが消えている。
いま、感じるのは、水と強い牧草の匂いだ。
「よし!」
パウはやりとげた!グーテーモクに勝ったのだ!
 達成感いっぱいに頭を上げた先、パウパウが見たのは灰色の壁。

 ふぅ~
 
 頭を上げても壁だったのでパウパウは、後ろに下がってみる。
すると、あちらも数歩、後ろに下がってくれたようだ。
なんだか親切だ。

「…えっと…ヴ…」

 なぜか、口からはみ出すほどガッツリ牧草を咥えたウマさんが、パウパウを見下ろしていた。
はみだすっていうより、もう、はばけています。
溢れんばかりに左右モッシャリ牧草だ。

「…ヴィンテ」
 灰色の馬は、四才児にはとてもとても大きく見える。

 いや、実はパウパウは知らないことだが、この馬はデカいのだ。
他の馬を知っている人なら誰もが「でっか!」というほど、実は大きいのだ。

 後ろに下がったパウパウを、真っ黒い目で見降しながらヴィンテは
ふぅ~っと溜息をついた。
口は牧草で塞がっているから本当は鼻息だ。

「ぼ、ぼくパウパウ。水飲み場、使ってゴメンね」

 ペコリと謝るパウパウを見ながらヴィンテは ガボンっ!と牧草を咥えた口を水場に突っ込んだ。

次にガボリっと口を上げて、目線は外さず、ボタボタボタタァっと水の滴る牧草をパウパウの頭の直ぐ上に持ってきた。
大きな馬体は前に出て、首を伸ばせば直ぐにパウパウに届いてしまう。

「ヒィッ」牧草から滴る水が頭の上にビシャビシャかかる。
パウパウが固まっているのをいいことに、ヴィンテは咥えた牧草を振りだした。

 右っ左っ右っ左!
 ギャロップのリズムで
 右っ左っ右っ左!

 あわせてパウパウの頭が振れる。
ビシャッビショっビシャッビショっと水も牧草も飛び散る。

「や、ややヴィンテ、やぁめてぇぇ」
  
 小さいパウパウは頭どころか、上半身も揺れる。
「ヴィビビ…ビン…ビビやややあたあたあたま、とととれれれうぅぅ」
あんまり揺れすぎて頭がくらくらしてきた。

 あぁ。
せめてリンゴを持っていたら、めてくれただろうに。

 ヴィンテがリンゴを食べてるうちに、逃げ延びれただろうに。
にぃちゃが持ってったせいで、自分はこのままヴィンテに左右とゆすられながら生きるのだと、気が遠くなりそうになったとき

「パウパウ!」と、誰かが後ろから抱き上げてくれた。
九死
九死に一生を得たよ。いま。

「ヴィンテ、パウパウと遊んでくれたんだね。ん?手伝ってあげたのか。やっぱりヴィンテは賢いねえ」

クラクラしながら、振り向くと

「…ミっちゃん」ザッカヤのミっちゃん。

 奇麗な銀色の長い髪。優しい青紫色の目。
 長い耳の片方だけにキラキラした飾りを付けている。
パウパウが知っている奇麗の一番はザッカヤさんだ。

「うぇ…ミ゛ヂゴぢゃあ~ん」
ホッとするとボロボロっと涙がこぼれる。
本当に、あのまま左右に揺れるだけの生き物になってしまうかと思ったのだ。

「はいはい。大丈夫…じゃないねぇ。髪の毛がビショビショのボサボサで牧草が刺さってる」
と、地面におろしたパウパウの目線に合わせて膝を折り、微笑みながら牧草を取ってくれる。
「じゃぁ、髪と服を乾かそうね」と奇麗にして乾かしてくれた。

 魔法だ。
真名のある人は簡単な魔法なら使える。
ただミっちゃんみたいに、何も言わないで魔法を使える人は凄いのだ。
そうそうは居ないって、とおたまが言ってた。

「はいはい。そんなに泣いたら奇麗なお目目が溶けちゃうよ」
いつも着ている白いカッポギの右ポッケから柔らかい布を出してパウパウの涙をそっと拭ってくれた。
「ミ・チコちゃぁん」パウパウは、大好きなミっちゃんに抱き着く。
「大丈夫、大丈夫」

 パウパウを抱き上げ、背中をぽんぽんしながら、ミっちゃんはヴィンテの高い柵をフワリと跳び越えた。

「ヴィンテ。パウパウと遊んでくれて、ありがとうね」
咥えていた牧草をバシャっと水に漬けて、水汲み桶に入れてからモシャモシャ食べている芦毛の馬に挨拶をし、裏玄関へ歩き出す。

 パウパウも「ヴィンテ、あいがと」とミっちゃんの肩越しに呟くと、白い尻尾をバサリと振っていた。
草が美味しかったからか、挨拶したのかはパウパウには分からなかった。

「ミっちゃん、どうしてパウの家にきたの?」
ザッカヤさんの肩口に頭を寄せてパウパウが聞いた。

「エリアナさんが心配してね。テレスくんが、ちゃんと留守番しているかって」フフフとミっちゃんが笑って
「してなかったねぇ」と言った響きがほっぺに伝わって、ちょっとくすぐったい。
「…にぃちゃ、タンジくんと西の森のほう行った」

「あぁ、そうかぁ…だから私はね、パウパウに白玉団子を作ったのを届けるついでに、様子見に来たのだよ。団子好きでしょ?」
こくこくと頷くと、黒い髪がミっちゃんの肩口で揺れる。

「で、どうしてパウパウはヴィンテの首振り人形になっていたの?」

 尋ねられたパウパウは、頭をあげミっちゃんの奇麗な目をみつめて
「ん?」と首をかしげた。
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