パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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20.パウパウのキラキラとお友達 6

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  パウパウは、落ち着かなかった。
 だって、あと1つ寝たら、ミっちゃんとお出かけ出来るのだ。
 
 ウネビの敷地から殆ど出たことが無い幼児にとっては、大事件だ。
 落ち着いていられるはずがない。
 
  朝のタマゴ拾いだって、鶏たちに「パウね、あと1つ寝たらミっちゃんとお出かけするんだよ」と言って回った。
  ピピピピピヨと逃げ回るヒヨコを追いかけて、言って回った。
  
 ヴィンテの所へも行って「パウね、お出かけするの」と何度も何度も話たら、ヴィンテが厩舎おうちから出てこなくなった程、楽しみで仕方なかった。
 楽しみで楽しみで、このウズウズした気持ちを誰かに話したくて楽しみで、

 テレスにぃちゃにも、聞かれてしまったのだ。


 お出かけの前日のことだ。

 お昼を食べたあとかぁたまはパンを焼く集まりへエレーラを連れて出かけて、家にはとぉたまと、パウパウだけが居た。
 
 パウパウは、兄弟二人が使っている部屋のベッドの上で、明日の支度をしていた。

明日、ミっちゃんに会ったときに返す絵本を、忘れないようにナイナイ袋に仕舞っていた。
「あいがと」緑色の石の中の小さな魚が、クルリ、クルリと泳ぐ。
返事をもらった気がして、パウパウは小さく笑った。

 そのとき、バンッと乱暴に扉が開いて、外遊びから随分と早くに、テレスが返ってきた。

にぃちゃ、おかえり」

 テレスは、大切な木剣を自分のベッドに放り捨てた。
それから何処どこか不機嫌そうな、むくれた顔で、ふとパウパウの手元を見て
「それ、なんだよ」
「パウのナイナイ袋、ミっちゃんがくれたんだよ」
パウパウは、ミっちゃんから貰ったことが嬉しくてニコニコと兄に答えた。

「ふぅん。見せろよ」テレスはズカズカと近づいてきて、弟の袋に手を伸ばす。
「え。やだ!」
パウパウは身を丸めてナイナイ袋を守るように抱え込んだ。

 それが面白くなかったのかテレスは、ムキになりパウパウの体の下に手を捻じ込もうとする。
にぃちゃ、やだ、やだ、やー!」
「真名なしが、魔法袋を持てるわけないだろ。嘘つき!」
「嘘じゃないもん!やだ!やめてよぉ」
「いいから、よこせっ!」

 力任せにパウパウを引っくり返したテレスは、弟が握りしめている袋を無理矢理に奪い取る。
「ダーァメーぇ!」パウパウが悲鳴のような声を上げたとき

バチッ

「ギャっ」
テレスは思わず袋を手から離した。

 パウパウはベッドから転がり落ちるように降りて、床のナイナイ袋に手を伸ばす。
「痛っ、なんだよ!こんなもん」
テレスが怒りに任せて、袋を蹴ろうと、足を振る。
「ヤダァー!」


 そこに、身を投げるようにナイナイ袋を抱え込んだパウパウが居た。
袋を蹴るはずのテレスの足は、袋を抱えた弟の腹を蹴り上げた。

「何を騒いでいるんだ!」
 ガイアスが兄弟の部屋に入ってきたのは、丁度その時だ。
 
 パウパウが蹴られて転がり、

「グギャアァ!」と、テレスが獣のようにわめ

「パウパウっ!」
血相を変えた雑貨屋が、転移で飛び込んで不法侵入して来た。

 痛みにうめ子供テレスに目を向けることもなく
「大丈夫かっパウパウ」膝をつき、動かない幼子に声をかける。

「ミっちゃん……」
 大きな瞳を丸くして、うずくまったままのパウパウが呟いた。
「どこか痛いところは?」
 問われたパウパウが、ゆっくりと瞬きをして
「…ない」
「頭を、打ったりは、していないかい」
「だぃじょぶ」
幼子の答えにミっちゃんは、息を大きく吐きだし
「抱っこするから、痛いところがあったら言うんだよ」
手を伸ばし、ゆっくり、そっとパウパウを抱き上げベッドに腰掛ける。

うかがう様に見るミっちゃんに
「痛くない、ビックリだけ」
ぎゅっとナイナイ袋を握りしめて、パウパウは答えた。



痛い、痛いよぅ……父様ぁ

 テレスの呻き声にガイアスが、オロオロとしながら背をさす
「大丈夫か⁈何があった。なぜ、蹴ったんだ」
訳が分からぬながらも、辛うじて問うが、痛みに泣くテレスは答えられる状態ではない。

 ガイアスは思わず、パウパウを膝に乗せベッドへ腰かけた雑貨屋を、すがるように見た。

「……たぶん、袋の防御が発動したんでしょう」
 涙を流しながらうめく子供を、ガラス玉のような瞳で見降ろしている。
「パウパウの袋を無理に奪い取ろうとしましたね?」
その瞳に哀れみや同情といった色が無いのをガイアスは見て取った。

「す、すまんが、ウルジェド殿。この子の痛みを、なんとかしてくれないか」
うめうずくまるテレスを抱きかかえて、ガイアスが願う。
「三日もすれば治まりますよ」

「そんな…」
言外に治す気はないと言われ、ガイアスは絶句する。

「ミっちゃん…」腕の中のパウパウが呟いた。
「ん?どこか痛い?」
「パウ、にぃちゃとケンカしただけ。にぃちゃ痛いの取ってあげて」
「……そうか」
溜息をついてハイエルフは幼子に言われるままに、人差し指をクルリと回して解呪する。

 いきなり体を蝕む痛みが引いたテレスは、父の手を借りて、ヨロヨロと立ち上がり「痛く…なくなった?」と呟く。

「何かあったら大変だから、グーリシェダに体を診てもらおうか」
「パウ、明日、お出かけできる?」
「出来るように診てもらおうね」
パウパウを腕に抱いて立ち上がり、ガイアスに話そうとしたところを

「な、なんで、パウパウばっかなんだよっ」
とテレスが怒鳴った。

「…ガイアス様、パウパウをグーリシェダに診てもらうため、連れ
「っ無視すんなよ!お前。なんでパウパウばっかりヒイキすんだよ!」
「テレス!止めなさい」
ガイアスが慌てて止めようとする。

 ハイエルフは人差してから、腕の中の幼子の向きを変え、何も見ないように自分の肩口に顔を埋めさせた。
パウパウの頭をそっと撫ぜる。

「…ヒイキ。贔屓ひいきか?ふむ…ガイアス様、御子息にパウパウの話しは?」
「……妻が。伝えている」

 するとテレスが、酷く歪んだ顔で
「俺、知ってるんだ!母様が言ってた!病気なんだ。治らな「!」

ハイエルフは溜息をつきそうになるのを、堪えた。
ここの空気を吸いたくはなかったのだ。
「……ガイアス様。時間が必要でしょうから、今夜はパウパウをお預かりします。これを機に御子息には、をお伝え願いたい」

 息子の余りな言葉に衝撃を受けたガイウスは、機械的に頷く。

真っ青な顔色で昏倒しっしんした子供には目もくれず、雑貨屋へ転移をした。

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