21 / 88
21.パウパウのキラキラとお友達 7
しおりを挟む
「はい到着、いらっしゃいパウパウ」
明るい声でミっちゃんは言いながら、そっとパウパウを不安げに見る。
早くグーリシェダを呼ぼうと思いながら、幼子をソファーに座らせた。
「ミっちゃん、ミっちゃん。さっきパウ、音なくなったの!」
「え、今は、どう?」
「いま、だいじょぶ!」
「そっかぁ。じゃあ、それも診てもらおうね」
コクリと頷いたパウパウが、興味深げに室内をキョロキョロ見回している合間に、グーリシェダにお遣い鳥を飛ばし、パウパウ用の薄い緑色のガラスコップにライリの果汁水を入れ、焼き菓子を添えて出したところで、何も無かったはずの壁の扉が開きグーリシェダが入ってきた。
「パウパウ~、グー姉さまが来たぞ」
言いながらパウパウの隣にボスンッと音をたてて勢いよく座った。
「……お早いお着きで、って、手!手!ばぁちゃん、アマツ離して!」
お遣いの鳥が握りしめられて、グッタリしてる!
やめて~、うちの可愛いチャンだから!転移できる仔だからっ!
まるで何処ぞのエセ美人のように、心の中で悲鳴を上げた。
「お、おぅ。忘れてた。すまなんだな」
くったりした鳥をグーリシェダが手渡す。
白目をむいてる、ひどい。
首、カックンしてる。あんまりだ。
「わぁぁぁ、アマツぅ」回復、回復、霊薬、霊薬と、バタついている孫に構わず、グーリシェダはパウパウを膝の上に抱き上げた。
初めて慌てふためくミっちゃんを見たパウパウは目を丸くしていたが、グーリシェダが
「元気にしてたかの」と、声をかけると
「グー姉たま、こんにちは」
くったりしていた鳥が首をプルプル振ったのを見て、ホッとしたパウパウが挨拶をかえす。
「うむ、挨拶が出来てパウ坊は偉いの。久しぶりじゃ、大きゅうなったわ」
グーリシェダは話しながら、幼子の状態を確認している。
「前に会ったのは、いつだったかパウ坊は覚えておるかい?」
「……んと、赤いリンゴ取ったとき?」
半年ほど前の秋に、三人でウネビ家で庭のリンゴを取ったことを、パウパウは覚えていた。
ミっちゃんが、そのリンゴでケーキを作ってくれたことも。
「おぉ、そうじゃ、よぅ覚えておったの」
パウパウは顔を上げて、グーリシェダを見る。
「グー姉たま、ここ、ミっちゃんのお家?」
「そう、雑貨屋の2階じゃな」
「パウ初めて来た!じゃ、あっち、グー姉たまのお部屋?」
先ほどグーリシェダが出てきた扉を指差す。
「うむ、今は繋げてあるからな。おぉ、そうだ。パウパウに良いものを見せてやろう」
パウパウを抱き上げ、何やら鳥にゲシゲシと羽根で頭を叩かれている孫に
「ほれ、遊んでないで、お主も付いてこい。その魔法袋も忘れるでないぞ」
「誰のせいだと……ところで、ばぁちゃん。私の拡張空間に、自分の空間を繋ぐって非常識だと思うんだが」
パウパウがソファーに置いたナイナイ袋を手に、ボヤキながら付いていく。
「ホホ…色々と便利だぞ、色々と。お主もやればよかろうよ」
「普通のハイエルフには無理な芸当です」
頭の上にお遣い鳥を鎮座させたまま、ウンザリした顔で言った。
「まだまだじゃの」と言いながら、グーリシェダは自分が入ってきた扉を開く。
「わぁっ」
パウパウの目に飛び込んできたのは、斜め格子の白い枠に囲まれた、円い空間だった。
枠の菱形の隙間から見えるのは、ひたすらに白い地と、真っ青な空。
まるで、白と青のタイル張りのように見えてくる。
壁際には、いくつか白い衣装箱が置かれている。
上に華やかな刺繍のクッションや毛皮が敷いてあるので、ベンチにも使うのだろう。
床には細かい模様のツヤツヤした円い絨毯。
上を見れば、円い天窓と、キノコのヒダのように中心へ向かって垂木が渡された天井。
天井部分には深い青色の屋根替わりの布が、被せられている。
「ゲル?」パウパウは湧いた言葉を小さく呟く。
「ん?どうしたパウ坊。驚いたかの」
「グー姉たま。ここ、ど…こ……」
尋ねつつも幼子の目は壁の際に置かれた、一つの大きな衣装箱に釘付けとなった。
寝台に使えそうに大きな箱の上。
そこだけ、クッションではない事に気づいたのだ。
毛皮が敷いてあるのではない。
なにか居る。
白茶色の毛、それに金茶の縞がところどころに見えている。
グーリシェダはパウパウの目が一点から動かないのを見て、微笑みながら抱き下ろすと、手を繋ぐ。
「寝てるからな、そっと静かに近寄るんじゃぞ」
「うん」
パウパウはグーリシェダの手を、ぎゅっと握りしめて、そうっと近づいていく。
近づくうちに、白い衣装箱は恐ろしく細かい模様が彫られていることが見て取れた。
そして、その上の白茶色の毛皮が上下に動いていることも。
じっと見ていると気配に気づいたのか、それが身じろいだ。
「う…」声を上げそうになり、パウパウは慌てて口をふさぐ。
グーリシェダと手を繋いでいたので、その手も一緒に口元に持って行った。
「んふ」
「ふふふ」
二人のエルフが声を潜めて笑っているが、パウパウはそれどころではない。
白茶色の獣だ。
三角の大きな耳の見たこともない大きい獣、いや。
パウパウは、ハッとしてミっちゃんを見た。
「これ、ネコ?」前に借りた図鑑に載っていたのを思い出した。
二人が頷く。
「これ、赤ちゃん?」
ネコの腹には、パウパウの頭ほどの大きさの毛玉が3つ、顔を埋めるようにして眠っていた。
「可愛かろ?この前、生まれての」
「砂漠オオネコと言うんだよ」
「名前を呼んでみよ、パウ坊になら返事をするやもしれんぞ」
「名前、なぁに?」
「マアガじゃ」
パウパウは前に一歩だけ近づいて
「マアガ」と小さく呼んでみた。
母ネコは、ピクリと耳を立てて、薄っすらと目を開ける。
「パウパウだよ。こんにちは」
「ナ゛」
返事した!パウパウは嬉しくてヘラリと笑う。
「マアガも赤ちゃんも、可愛いねぇ」
すると、まるで理解したかのように、三匹の仔らがふにゃふにゃと動いて頭を上げて、
「ニ゛ィ」「ミィ」と鳴き、あと一匹は大きく口を開けてアクビをした。
フワフワと可愛らしい姿に、パウパウはフニャリと顔を緩めていたが、どのオオネコの前足にも2本の縞があるのを見て
「シマナガシ?」湧いた言葉がこぼれた。
明るい声でミっちゃんは言いながら、そっとパウパウを不安げに見る。
早くグーリシェダを呼ぼうと思いながら、幼子をソファーに座らせた。
「ミっちゃん、ミっちゃん。さっきパウ、音なくなったの!」
「え、今は、どう?」
「いま、だいじょぶ!」
「そっかぁ。じゃあ、それも診てもらおうね」
コクリと頷いたパウパウが、興味深げに室内をキョロキョロ見回している合間に、グーリシェダにお遣い鳥を飛ばし、パウパウ用の薄い緑色のガラスコップにライリの果汁水を入れ、焼き菓子を添えて出したところで、何も無かったはずの壁の扉が開きグーリシェダが入ってきた。
「パウパウ~、グー姉さまが来たぞ」
言いながらパウパウの隣にボスンッと音をたてて勢いよく座った。
「……お早いお着きで、って、手!手!ばぁちゃん、アマツ離して!」
お遣いの鳥が握りしめられて、グッタリしてる!
やめて~、うちの可愛いチャンだから!転移できる仔だからっ!
まるで何処ぞのエセ美人のように、心の中で悲鳴を上げた。
「お、おぅ。忘れてた。すまなんだな」
くったりした鳥をグーリシェダが手渡す。
白目をむいてる、ひどい。
首、カックンしてる。あんまりだ。
「わぁぁぁ、アマツぅ」回復、回復、霊薬、霊薬と、バタついている孫に構わず、グーリシェダはパウパウを膝の上に抱き上げた。
初めて慌てふためくミっちゃんを見たパウパウは目を丸くしていたが、グーリシェダが
「元気にしてたかの」と、声をかけると
「グー姉たま、こんにちは」
くったりしていた鳥が首をプルプル振ったのを見て、ホッとしたパウパウが挨拶をかえす。
「うむ、挨拶が出来てパウ坊は偉いの。久しぶりじゃ、大きゅうなったわ」
グーリシェダは話しながら、幼子の状態を確認している。
「前に会ったのは、いつだったかパウ坊は覚えておるかい?」
「……んと、赤いリンゴ取ったとき?」
半年ほど前の秋に、三人でウネビ家で庭のリンゴを取ったことを、パウパウは覚えていた。
ミっちゃんが、そのリンゴでケーキを作ってくれたことも。
「おぉ、そうじゃ、よぅ覚えておったの」
パウパウは顔を上げて、グーリシェダを見る。
「グー姉たま、ここ、ミっちゃんのお家?」
「そう、雑貨屋の2階じゃな」
「パウ初めて来た!じゃ、あっち、グー姉たまのお部屋?」
先ほどグーリシェダが出てきた扉を指差す。
「うむ、今は繋げてあるからな。おぉ、そうだ。パウパウに良いものを見せてやろう」
パウパウを抱き上げ、何やら鳥にゲシゲシと羽根で頭を叩かれている孫に
「ほれ、遊んでないで、お主も付いてこい。その魔法袋も忘れるでないぞ」
「誰のせいだと……ところで、ばぁちゃん。私の拡張空間に、自分の空間を繋ぐって非常識だと思うんだが」
パウパウがソファーに置いたナイナイ袋を手に、ボヤキながら付いていく。
「ホホ…色々と便利だぞ、色々と。お主もやればよかろうよ」
「普通のハイエルフには無理な芸当です」
頭の上にお遣い鳥を鎮座させたまま、ウンザリした顔で言った。
「まだまだじゃの」と言いながら、グーリシェダは自分が入ってきた扉を開く。
「わぁっ」
パウパウの目に飛び込んできたのは、斜め格子の白い枠に囲まれた、円い空間だった。
枠の菱形の隙間から見えるのは、ひたすらに白い地と、真っ青な空。
まるで、白と青のタイル張りのように見えてくる。
壁際には、いくつか白い衣装箱が置かれている。
上に華やかな刺繍のクッションや毛皮が敷いてあるので、ベンチにも使うのだろう。
床には細かい模様のツヤツヤした円い絨毯。
上を見れば、円い天窓と、キノコのヒダのように中心へ向かって垂木が渡された天井。
天井部分には深い青色の屋根替わりの布が、被せられている。
「ゲル?」パウパウは湧いた言葉を小さく呟く。
「ん?どうしたパウ坊。驚いたかの」
「グー姉たま。ここ、ど…こ……」
尋ねつつも幼子の目は壁の際に置かれた、一つの大きな衣装箱に釘付けとなった。
寝台に使えそうに大きな箱の上。
そこだけ、クッションではない事に気づいたのだ。
毛皮が敷いてあるのではない。
なにか居る。
白茶色の毛、それに金茶の縞がところどころに見えている。
グーリシェダはパウパウの目が一点から動かないのを見て、微笑みながら抱き下ろすと、手を繋ぐ。
「寝てるからな、そっと静かに近寄るんじゃぞ」
「うん」
パウパウはグーリシェダの手を、ぎゅっと握りしめて、そうっと近づいていく。
近づくうちに、白い衣装箱は恐ろしく細かい模様が彫られていることが見て取れた。
そして、その上の白茶色の毛皮が上下に動いていることも。
じっと見ていると気配に気づいたのか、それが身じろいだ。
「う…」声を上げそうになり、パウパウは慌てて口をふさぐ。
グーリシェダと手を繋いでいたので、その手も一緒に口元に持って行った。
「んふ」
「ふふふ」
二人のエルフが声を潜めて笑っているが、パウパウはそれどころではない。
白茶色の獣だ。
三角の大きな耳の見たこともない大きい獣、いや。
パウパウは、ハッとしてミっちゃんを見た。
「これ、ネコ?」前に借りた図鑑に載っていたのを思い出した。
二人が頷く。
「これ、赤ちゃん?」
ネコの腹には、パウパウの頭ほどの大きさの毛玉が3つ、顔を埋めるようにして眠っていた。
「可愛かろ?この前、生まれての」
「砂漠オオネコと言うんだよ」
「名前を呼んでみよ、パウ坊になら返事をするやもしれんぞ」
「名前、なぁに?」
「マアガじゃ」
パウパウは前に一歩だけ近づいて
「マアガ」と小さく呼んでみた。
母ネコは、ピクリと耳を立てて、薄っすらと目を開ける。
「パウパウだよ。こんにちは」
「ナ゛」
返事した!パウパウは嬉しくてヘラリと笑う。
「マアガも赤ちゃんも、可愛いねぇ」
すると、まるで理解したかのように、三匹の仔らがふにゃふにゃと動いて頭を上げて、
「ニ゛ィ」「ミィ」と鳴き、あと一匹は大きく口を開けてアクビをした。
フワフワと可愛らしい姿に、パウパウはフニャリと顔を緩めていたが、どのオオネコの前足にも2本の縞があるのを見て
「シマナガシ?」湧いた言葉がこぼれた。
15
あなたにおすすめの小説
始まりの、バレンタイン
茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて……
他サイトにも公開しています
拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる