パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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28.パウパウのキラキラとお友達 14

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 脱衣室に戻ったパウパウとガルデンは、隠し扉に入っていた温風の出る魔道具で髪を乾かした。
「ドライヤー?」
「ん?なんか言ったか。おぉ、こりゃ魔法で乾燥させるより、髪の毛がサラサラになるぞパウパウ」
そう言いながら、丁寧にパウパウの髪の毛を乾かしてくれるガルデンの髪の毛は、やっぱりモジャモジャだ。
 ただ、魔道具で乾燥させたからか、ツヤツヤになっている。

(……ステンレススチールタワシ)何やら言葉が湧いたが、黙っておく。

 すっかり奇麗になっていた服を身に着けた。
パウパウの護符も奇麗にしてくれたらしい。
ガルデンが見て「上手いこと洗浄してくれてんな」と呟いた。

 そうして、お風呂に行くときにはの、石のベンチに腰かけた。

温まった体に、石が冷たくて気持ちがいい。

黒硅石カクネシリか?なるほどなぁ」
とガルデンが言ったのに首を傾げると
「これはな、温熱の性質を持っている石だ。湯冷めしないように、これを選んで使ってるんだろうよ」
よく分からなかったパウパウは、ふぅんと頷いた。

 揃いの石のテーブルにナイナイ袋から飲み物を出して、パウパウはガルデンに振舞う。
「リンゴのと~、ライリと~、ブドウ~。どれが好き?」
「んじゃ、パウ坊の好きなやつだな」
「ぼくね、ライリが好き」
「そうか。じゃ、それを御馳走してくれや」

 ミっちゃんがナイナイ袋に入れてくれたコップに果汁水を注ぎ、ガルデンの前に置く。
礼を言って小さなコップで飲むのを、パウパウが嬉しそうに見ている。

まるで、ままごと遊びだが、ガルデンはパウパウがのが嬉しい。

 歩く、話す、物を掴む、笑う。何気ない日常の普通の動き。その一つ一つ。
さっきの風呂場で見る限り、小柄だが、ちゃんと筋肉も付いて健康そうだ。

 ウルジェドが死に物狂いで守る、
 
 ハイエルフの誓約がなければ、ここまで生きては居なかった子供。
多すぎる魔力で四肢が歪むこともなく、血液が沸騰することも、気道が塞がって息が出来なくなることもない。

 (ここまで来た。)

 あの時の力なく項垂れたウルジェドの姿が、心のどこかに焼き付いていた。
一瞬だけ見せた、自分の無力さに折れそうになっていた姿が悔しかった。
 
 (もう少しだな、ササ耳)
……ガルデンは息をつく。

「ミっちゃん、遅いねぇ」
足をブラブラさせながらパウパウが言う。
「髪が長いからなぁ……」

「ぼく、呼んでくる!」
ポンとベンチから降りて、浴場へとトトトと小走りで向かった。
ひとりでに左右に開いた板水晶の戸から
「ミっちゃぁ~ん。まだぁ?」と大きな声で呼ぶ。
子供の高い声は響く。
しばらくして
「いま、行くよ。ごめんねー」の声と共に、キンッキンッという金属音も響いてきた。

「なんの音だ?」
ガルデンも心配になったのか、パウパウの横に来て怪訝そうな顔をしている。
 防音効果も付いた戸を開かなければ、気が付かなかっただろう。

 少しして、奥のアルコーブの陰から、いつもの割烹着姿のミっちゃんが出てきた。
「ごめんね、パウパウ。待たせたね」
「おい、チュンスケは?」
「あぁ、ちょっとに行ってもらった」
ミっちゃんは、濡れた足元を魔法で乾燥させながら答える。

「ちっせぇから、排水口から流れていったかと思ったわ」
「……?まさかぁ~」
あはははと笑うミっちゃんの笑いが、なぜか固い。

「ミっちゃん?」
なんだか妙な気配を感じたパウパウが問うが、ミっちゃんは、パウパウを抱き上げて
「さぁ、遅くなって、ごめんね。そろそろ、お休みの時間だね」
はぐらかす様に言われたので、それ以上の話をせずに元のゲルへと戻った。


 パウパウが二人とゲルの扉をくぐったら、マールちゃんがカニたかられていた。
 ……なに、これ?
三人のうちパウパウとガルデンは、訳が分からずに立ちすくむ。

「は、母上、人の魔道具を乗っ取るなんて失礼ですぅ」
「風呂を覗くような、アホウが礼儀を語るな!」

 赤いハサミの蟹はパウパウが両手を広げたくらいの大きさで、ワシャワシャ、カシャカシャと音を立てながらマールちゃんの体を
 
 ご丁寧に”拘束”か何かの魔法が使われているのか、マールは絨毯に横倒しになったままだ。

 ガルデンを見つけたチュンスケが、「チュチュン」と鳴きながら、ガルデンの頭の上に鎮座した。
「チュンスケ、有難うね、助かったよ」
ミっちゃんがお礼を言うと、小さな鳥は「チュンっ!」と羽根を広げた。
どうやら胸を張ったらしい。

「ばぁちゃん、そろそろ休むね」
いまの状況を全て無視して、ミっちゃんが出て行こうとするのをパウパウが止めた。

「あ!ミっちゃん、ハヤツ、どうしよう」
パウパウは、マールのことが気にはなるが、自分の大切なことを優先した。
 
 マールちゃんは奇麗だけど、どちらが大事かと言えば、ハヤツだ。
  
「大丈夫だよ、心配ならマアガにお願いしておいで」
 ミっちゃんの目線をたどると、マアガが四匹の仔ネコを、お腹のところで寝せている。
床に降ろしてもらったパウパウは、そっと近づいて
「マアガ、ありがと」と、頭を撫ぜた。

 マアガは尻尾を、ゆっくりパターン、パターンと揺らして「ミ゛ア」と小さく鳴く。
伸ばした前足の下には、パウパウの宝物の丸い石があった。

「お休み、また明日ね」
仔ネコが起きたら困るので、触らないでパウパウは頷く。
明日も会える、約束だ。嬉しくて口元がモニュモニュしてしまう。

「じゃぁ、ガルデンは私の家の客間でいいな」
「う、う、ウル、ウルジェドぉ」
 なにやら涙声がするが、ミっちゃんは無視だ。

「おぃ、ササ耳、あれ……」
 戸惑っているガルデンを横目に、ミっちゃんは完全に無視だ。

 カシャカシャワシャワシャとたかられているマールを冷たい目で見ているグーリシェダに、パウパウは近寄って
「グーねぇさま、お休みなさい」と挨拶した。
「おぉ、おやすみ、パウ坊」
頬を緩めてグーリシェダが答える。
「ねぇ、グー姉さま、あれ……」
「大人でも子供でも、悪いことをしたなら、罰を受けねばならんのだよ」
「うん」
やっぱりマールちゃんはのだと、幼児なりに感じ取ってパウパウは
「じゃぁ、お休みなさい」と改めて言った。

 ゲルの入り口の扉を抜けて、雑貨屋へ戻る三人の背中に
「ガ、ガルデンさまぁぁぁ」
まるで、身を千切ちぎられたように悲痛な声が追いかけてきた。

「いやいや……」
ミっちゃんは、げんなりして呟く。
「あ゛ー」
ガルデンは、髭面でも判るくらいに顔を歪めた。

「…ヤンデ…レ?」
パウパウは頭に浮かんだ言葉を呟いた。
そして、なんだか怖くなって頭をぶんぶん振ってから、ぎゅっとミっちゃんの首にしがみ付いた。
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