28 / 178
28.パウパウのキラキラとお友達 14
しおりを挟む
脱衣室に戻ったパウパウとガルデンは、隠し扉に入っていた温風の出る魔道具で髪を乾かした。
「ドライヤー?」
「ん?なんか言ったか。おぉ、こりゃ魔法で乾燥させるより、髪の毛がサラサラになるぞパウパウ」
そう言いながら、丁寧にパウパウの髪の毛を乾かしてくれるガルデンの髪の毛は、やっぱりモジャモジャだ。
ただ、魔道具で乾燥させたからか、ツヤツヤになっている。
(……ステンレススチールタワシ)何やら言葉が湧いたが、黙っておく。
すっかり奇麗になっていた服を身に着けた。
パウパウの護符も奇麗にしてくれたらしい。
ガルデンが見て「上手いこと洗浄してくれてんな」と呟いた。
そうして、お風呂に行くときには無かった筈の、石のベンチに腰かけた。
温まった体に、石が冷たくて気持ちがいい。
「黒硅石か?なるほどなぁ」
とガルデンが言ったのに首を傾げると
「これはな、温熱の性質を持っている石だ。湯冷めしないように、これを選んで使ってるんだろうよ」
よく分からなかったパウパウは、ふぅんと頷いた。
揃いの石のテーブルにナイナイ袋から飲み物を出して、パウパウはガルデンに振舞う。
「リンゴのと~、ライリと~、ブドウ~。どれが好き?」
「んじゃ、パウ坊の好きなやつだな」
「ぼくね、ライリが好き」
「そうか。じゃ、それを御馳走してくれや」
ミっちゃんがナイナイ袋に入れてくれたコップに果汁水を注ぎ、ガルデンの前に置く。
礼を言って小さなコップで飲むのを、パウパウが嬉しそうに見ている。
まるで、ままごと遊びだが、ガルデンはパウパウが当たり前のことをしているのが嬉しい。
歩く、話す、物を掴む、笑う。何気ない日常の普通の動き。その一つ一つ。
さっきの風呂場で見る限り、小柄だが、ちゃんと筋肉も付いて健康そうだ。
ウルジェドが死に物狂いで守る、誓約の子供。
ハイエルフの誓約がなければ、ここまで生きては居なかった子供。
多すぎる魔力で四肢が歪むこともなく、血液が沸騰することも、気道が塞がって息が出来なくなることもない。
(ここまで来た。)
あの時の力なく項垂れたウルジェドの姿が、心のどこかに焼き付いていた。
一瞬だけ見せた、自分の無力さに折れそうになっていた姿が悔しかった。
(もう少しだな、ササ耳)
……ガルデンは息をつく。
「ミっちゃん、遅いねぇ」
足をブラブラさせながらパウパウが言う。
「髪が長いからなぁ……」
「ぼく、呼んでくる!」
ポンとベンチから降りて、浴場へとトトトと小走りで向かった。
独りでに左右に開いた板水晶の戸から
「ミっちゃぁ~ん。まだぁ?」と大きな声で呼ぶ。
子供の高い声は響く。
しばらくして
「いま、行くよ。ごめんねー」の声と共に、キンッキンッという金属音も響いてきた。
「なんの音だ?」
ガルデンも心配になったのか、パウパウの横に来て怪訝そうな顔をしている。
防音効果も付いた戸を開かなければ、気が付かなかっただろう。
少しして、奥のアルコーブの陰から、いつもの割烹着姿のミっちゃんが出てきた。
「ごめんね、パウパウ。待たせたね」
「おい、チュンスケは?」
「あぁ、ちょっとお遣いに行ってもらった」
ミっちゃんは、濡れた足元を魔法で乾燥させながら答える。
「ちっせぇから、排水口から流れていったかと思ったわ」
「……排水口から?まさかぁ~」
あはははと笑うミっちゃんの笑いが、なぜか固い。
「ミっちゃん?」
なんだか妙な気配を感じたパウパウが問うが、ミっちゃんは、パウパウを抱き上げて
「さぁ、遅くなって、ごめんね。そろそろ、お休みの時間だね」
はぐらかす様に言われたので、それ以上の話をせずに元のゲルへと戻った。
パウパウが二人とゲルの扉を潜ったら、マールちゃんが蟹に集られていた。
……なに、これ?
三人のうちパウパウとガルデンは、訳が分からずに立ちすくむ。
「は、母上、人の魔道具を乗っ取るなんて失礼ですぅ」
「風呂を覗くような、アホウが礼儀を語るな!」
赤いハサミの蟹はパウパウが両手を広げたくらいの大きさで、ワシャワシャ、カシャカシャと音を立てながらマールちゃんの体を這いずっている。
ご丁寧に”拘束”か何かの魔法が使われているのか、マールは絨毯に横倒しになったままだ。
ガルデンを見つけたチュンスケが、「チュチュン」と鳴きながら、ガルデンの頭の上に鎮座した。
「チュンスケ、お遣い有難うね、助かったよ」
ミっちゃんがお礼を言うと、小さな鳥は「チュンっ!」と羽根を広げた。
どうやら胸を張ったらしい。
「ばぁちゃん、そろそろ休むね」
いまの状況を全て無視して、ミっちゃんが出て行こうとするのをパウパウが止めた。
「あ!ミっちゃん、ハヤツ、どうしよう」
パウパウは、マールのことが気にはなるが、自分の大切なことを優先した。
マールちゃんは奇麗だけど、どちらが大事かと言えば、ハヤツだ。
「大丈夫だよ、心配ならマアガにお願いしておいで」
ミっちゃんの目線をたどると、マアガが四匹の仔ネコを、お腹のところで寝せている。
床に降ろしてもらったパウパウは、そっと近づいて
「マアガ、ありがと」と、頭を撫ぜた。
マアガは尻尾を、ゆっくりパターン、パターンと揺らして「ミ゛ア」と小さく鳴く。
伸ばした前足の下には、パウパウの宝物の丸い石があった。
「お休み、また明日ね」
仔ネコが起きたら困るので、触らないでパウパウは頷く。
明日も会える、約束だ。嬉しくて口元がモニュモニュしてしまう。
「じゃぁ、ガルデンは私の家の客間でいいな」
「う、う、ウル、ウルジェドぉ」
なにやら涙声がするが、ミっちゃんは無視だ。
「おぃ、ササ耳、あれ……」
戸惑っているガルデンを横目に、ミっちゃんは完全に無視だ。
カシャカシャワシャワシャと集られているマールを冷たい目で見ているグーリシェダに、パウパウは近寄って
「グー姉さま、お休みなさい」と挨拶した。
「おぉ、おやすみ、パウ坊」
頬を緩めてグーリシェダが答える。
「ねぇ、グー姉さま、あれ……」
「大人でも子供でも、悪いことをしたなら、罰を受けねばならんのだよ」
「うん」
やっぱりマールちゃんは何かやったのだと、幼児なりに感じ取ってパウパウは
「じゃぁ、お休みなさい」と改めて言った。
ゲルの入り口の扉を抜けて、雑貨屋へ戻る三人の背中に
「ガ、ガルデンさまぁぁぁ」
まるで、身を千切られたように悲痛な声が追いかけてきた。
「いやいや……」
ミっちゃんは、げんなりして呟く。
「あ゛ー」
ガルデンは、髭面でも判るくらいに顔を歪めた。
「…ヤンデ…レ?」
パウパウは頭に浮かんだ言葉を呟いた。
そして、なんだか怖くなって頭をぶんぶん振ってから、ぎゅっとミっちゃんの首にしがみ付いた。
「ドライヤー?」
「ん?なんか言ったか。おぉ、こりゃ魔法で乾燥させるより、髪の毛がサラサラになるぞパウパウ」
そう言いながら、丁寧にパウパウの髪の毛を乾かしてくれるガルデンの髪の毛は、やっぱりモジャモジャだ。
ただ、魔道具で乾燥させたからか、ツヤツヤになっている。
(……ステンレススチールタワシ)何やら言葉が湧いたが、黙っておく。
すっかり奇麗になっていた服を身に着けた。
パウパウの護符も奇麗にしてくれたらしい。
ガルデンが見て「上手いこと洗浄してくれてんな」と呟いた。
そうして、お風呂に行くときには無かった筈の、石のベンチに腰かけた。
温まった体に、石が冷たくて気持ちがいい。
「黒硅石か?なるほどなぁ」
とガルデンが言ったのに首を傾げると
「これはな、温熱の性質を持っている石だ。湯冷めしないように、これを選んで使ってるんだろうよ」
よく分からなかったパウパウは、ふぅんと頷いた。
揃いの石のテーブルにナイナイ袋から飲み物を出して、パウパウはガルデンに振舞う。
「リンゴのと~、ライリと~、ブドウ~。どれが好き?」
「んじゃ、パウ坊の好きなやつだな」
「ぼくね、ライリが好き」
「そうか。じゃ、それを御馳走してくれや」
ミっちゃんがナイナイ袋に入れてくれたコップに果汁水を注ぎ、ガルデンの前に置く。
礼を言って小さなコップで飲むのを、パウパウが嬉しそうに見ている。
まるで、ままごと遊びだが、ガルデンはパウパウが当たり前のことをしているのが嬉しい。
歩く、話す、物を掴む、笑う。何気ない日常の普通の動き。その一つ一つ。
さっきの風呂場で見る限り、小柄だが、ちゃんと筋肉も付いて健康そうだ。
ウルジェドが死に物狂いで守る、誓約の子供。
ハイエルフの誓約がなければ、ここまで生きては居なかった子供。
多すぎる魔力で四肢が歪むこともなく、血液が沸騰することも、気道が塞がって息が出来なくなることもない。
(ここまで来た。)
あの時の力なく項垂れたウルジェドの姿が、心のどこかに焼き付いていた。
一瞬だけ見せた、自分の無力さに折れそうになっていた姿が悔しかった。
(もう少しだな、ササ耳)
……ガルデンは息をつく。
「ミっちゃん、遅いねぇ」
足をブラブラさせながらパウパウが言う。
「髪が長いからなぁ……」
「ぼく、呼んでくる!」
ポンとベンチから降りて、浴場へとトトトと小走りで向かった。
独りでに左右に開いた板水晶の戸から
「ミっちゃぁ~ん。まだぁ?」と大きな声で呼ぶ。
子供の高い声は響く。
しばらくして
「いま、行くよ。ごめんねー」の声と共に、キンッキンッという金属音も響いてきた。
「なんの音だ?」
ガルデンも心配になったのか、パウパウの横に来て怪訝そうな顔をしている。
防音効果も付いた戸を開かなければ、気が付かなかっただろう。
少しして、奥のアルコーブの陰から、いつもの割烹着姿のミっちゃんが出てきた。
「ごめんね、パウパウ。待たせたね」
「おい、チュンスケは?」
「あぁ、ちょっとお遣いに行ってもらった」
ミっちゃんは、濡れた足元を魔法で乾燥させながら答える。
「ちっせぇから、排水口から流れていったかと思ったわ」
「……排水口から?まさかぁ~」
あはははと笑うミっちゃんの笑いが、なぜか固い。
「ミっちゃん?」
なんだか妙な気配を感じたパウパウが問うが、ミっちゃんは、パウパウを抱き上げて
「さぁ、遅くなって、ごめんね。そろそろ、お休みの時間だね」
はぐらかす様に言われたので、それ以上の話をせずに元のゲルへと戻った。
パウパウが二人とゲルの扉を潜ったら、マールちゃんが蟹に集られていた。
……なに、これ?
三人のうちパウパウとガルデンは、訳が分からずに立ちすくむ。
「は、母上、人の魔道具を乗っ取るなんて失礼ですぅ」
「風呂を覗くような、アホウが礼儀を語るな!」
赤いハサミの蟹はパウパウが両手を広げたくらいの大きさで、ワシャワシャ、カシャカシャと音を立てながらマールちゃんの体を這いずっている。
ご丁寧に”拘束”か何かの魔法が使われているのか、マールは絨毯に横倒しになったままだ。
ガルデンを見つけたチュンスケが、「チュチュン」と鳴きながら、ガルデンの頭の上に鎮座した。
「チュンスケ、お遣い有難うね、助かったよ」
ミっちゃんがお礼を言うと、小さな鳥は「チュンっ!」と羽根を広げた。
どうやら胸を張ったらしい。
「ばぁちゃん、そろそろ休むね」
いまの状況を全て無視して、ミっちゃんが出て行こうとするのをパウパウが止めた。
「あ!ミっちゃん、ハヤツ、どうしよう」
パウパウは、マールのことが気にはなるが、自分の大切なことを優先した。
マールちゃんは奇麗だけど、どちらが大事かと言えば、ハヤツだ。
「大丈夫だよ、心配ならマアガにお願いしておいで」
ミっちゃんの目線をたどると、マアガが四匹の仔ネコを、お腹のところで寝せている。
床に降ろしてもらったパウパウは、そっと近づいて
「マアガ、ありがと」と、頭を撫ぜた。
マアガは尻尾を、ゆっくりパターン、パターンと揺らして「ミ゛ア」と小さく鳴く。
伸ばした前足の下には、パウパウの宝物の丸い石があった。
「お休み、また明日ね」
仔ネコが起きたら困るので、触らないでパウパウは頷く。
明日も会える、約束だ。嬉しくて口元がモニュモニュしてしまう。
「じゃぁ、ガルデンは私の家の客間でいいな」
「う、う、ウル、ウルジェドぉ」
なにやら涙声がするが、ミっちゃんは無視だ。
「おぃ、ササ耳、あれ……」
戸惑っているガルデンを横目に、ミっちゃんは完全に無視だ。
カシャカシャワシャワシャと集られているマールを冷たい目で見ているグーリシェダに、パウパウは近寄って
「グー姉さま、お休みなさい」と挨拶した。
「おぉ、おやすみ、パウ坊」
頬を緩めてグーリシェダが答える。
「ねぇ、グー姉さま、あれ……」
「大人でも子供でも、悪いことをしたなら、罰を受けねばならんのだよ」
「うん」
やっぱりマールちゃんは何かやったのだと、幼児なりに感じ取ってパウパウは
「じゃぁ、お休みなさい」と改めて言った。
ゲルの入り口の扉を抜けて、雑貨屋へ戻る三人の背中に
「ガ、ガルデンさまぁぁぁ」
まるで、身を千切られたように悲痛な声が追いかけてきた。
「いやいや……」
ミっちゃんは、げんなりして呟く。
「あ゛ー」
ガルデンは、髭面でも判るくらいに顔を歪めた。
「…ヤンデ…レ?」
パウパウは頭に浮かんだ言葉を呟いた。
そして、なんだか怖くなって頭をぶんぶん振ってから、ぎゅっとミっちゃんの首にしがみ付いた。
25
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?
gacchi(がっち)
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる