パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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42.パウパウのキラキラとお友達 28

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「ちょっとウルジェド!私、ヘビの美丈夫イケメンって初めて見たわ」

 褒められておおいに毒蛇殿がテレテレになったところで、突然、風が吹き始めて空が黒い雲に覆われたと思ったら、大量の雨が降ってきた。
大粒の雨だ、風の力もあって痛いくらいの雨粒だ。

「ぎゃ~!濡れるぅ」
マールちゃんが温室の空間に逃げ込み、
「毒蛇殿も早く」
パウパウを抱いたミッちゃんと毒蛇が駆け込んで、一旦、空間を閉じた。

 マールはギンちゃんから離れた場所で、空間を繋いだらしい。
ギンちゃんの全容が見えるので3,40mは離れているのだろう。

 遠目にはテーブルが出されていて、黒っぽいローブの人と、数人が座っているのが見えた。
一人だけ髪の毛が無いローブの人物は多分、学長だろう。温室に入る光を受けて光っている。
その奥にも作業か何かをしているように動く人々がいるのが見える。

見上げれば天井の補強は進んでいるようで、アヤミン達は、かなり下の部分をきゅこきゅことしている。

「すご~い!いまの、ごーう?ごーう??」
『うむ、豪雨だ、しばらくしたら止む』
キャラキャラと笑うパウパウに毒蛇が答える。

「念話まで、いい声なのねぇ、改めて初めまして。マールジェドよ」
『ご丁寧に、ありがとう。私は今、毒蛇殿とそこのハイエルフに呼ばれている』

ミッちゃんは、パウパウの髪を魔法で乾かしながら
「なし崩しで動いてたので、名乗りもせずに失礼した。ウルジェドだ。剣を抜いて、すまなかった」
『クックック、今更、なにを言うかと思えば。なに、かまわん』
器用に念話で毒蛇が笑う。
「ぼく、パウパウ、です!」
パウパウは元気に二度目の御挨拶をする。ミッちゃんに乾いた髪を束ね直してもらっているから少し締まらない。

『ありがとう、パウパウ殿にウルジェド殿。マールジェド殿も、私はだ』

毒蛇が

二股に分かれた赤い舌をチロチロと出して、群青色の体をユラユラさせる。時折、見える蛇腹が白い。
ヌラリと蛇体が虹色に光る。

一瞬、沈黙が辺りを支配する。


(名乗っただけで、か。……ウルジェド、お前、連れてきたんだ)
マールは口角を上げて、微笑みを作りながらも冷や汗をかく。

 毒蛇─トヒル─が名乗った瞬間、魔力が重さを持って、かってきたようだった。
呼吸いきがしづらい。

 ミッちゃんは剣を出したくなるのを必死で止めて、笑みを張り付けながら警戒をする。
あの場では龍種並だと思っていたが、やはり、それ以上。精霊級に近い圧だ。
悪意は感じなかったが、だまされていたのか。

(なぜ、ここに来て、名乗った……パウパウ……パウパウは大丈夫か)

ミッちゃんは、己の前に立つ幼子の両肩に手を置く。

眼差まなざしは下げられない、空中に浮かぶ蛇を見据みすえるのみ。

最悪、パウパウを連れて逃げる。
他は、どうでもいい。

そう、腹を括ったとき、

「ねぇ?」
子供の明るい声が響く。

空気が払拭され、重圧が少し軽くなったように感じて、マールはそっと息を吐く。

「ドクジャさんって呼ぶ?トヒルさんがいい?」
『…ふむ、そうだなトヒルでいい』
三角の首をグィっと下に落としてパウパウと目線を合わせた蛇は、どこか面白そうな気配を漂わせながら念話を響かせる。

 重圧が霧散した。

『誰かに呼ばれる事で、その存在は強くなるのだ』
「ふぅん、じゃあ、ぼくがドクジャさんって呼んでたら、もっともっと毒蛇さんになるの?」
『うーむ、もっと毒蛇にはならない。もっともっと毒蛇になっては、あの地に住める生き物が居なくなる』
「ん?」

(もっともっと毒蛇って、どういう毒蛇なんだろう)
ミッちゃんとマールは眼差しで会話する。
それは、すでに蛇ではなく邪龍か何かではないだろうか。

『だが、何かが私を呼ぶほどに、

 子供にするには抽象的な話だ。
パウパウは眉を寄せて、首を傾げながらトヒルの言った事を考えているようだ。
「ん~……。うちのヒヨコさんに名前を付けたら、その子はすご~っく可愛いいヒヨコさんになるんだね、きっと」
『ヒ…ヨコ…?』
「ブッ」
 毒蛇は空中で動きを止め、二人のハイエルフは吹き出した。
二股に分かれた舌が出っ放しになって、力なく垂れ下がる。

「かわいいヒヨコさんに””って名前を付けて毎日呼んだらになる!」
 何やらを思いついた幼児は、目を輝かせて断言した。
凄い事を発見したと、ピョンピョン跳ねる。
「ね⁈」
『お…おう?』
毒蛇さん、押し負ける。

「それなら…筋肉ラケルツゥって付けたらムッキムキ~で、ドラコルって付けたら竜に成る!」
「ブフッ」
ハイエルフは二人同時に揃った動きで口を押えた。
毒蛇が途方にくれているのが感じられるのだ。

『ひ、ヒヨコがムッキムキ~になるかは資質による。そしてドラコルには成らない。種が違うゆえ』
「え~、うちのヒヨコさん、竜に成ったらカッコイイのに~」
ちょっと口を尖らせてパウパウは、「ムキドラ…」「ドラピヨ?」と呟いている。
どうやら、そう名付けようと思ったらしい。
毒蛇殿が否定してくれて、なによりだ。

「……ねぇミっちゃん、ヴィンテって名前だから速くなったのかなぁ」
「あの馬は、最初から風のように速かったからヴィンテと名付けられたんだよ、それこそ”始まりのタマゴを誰が生んだのか”だねぇ。
さぁ、話はここまでにして、お昼を食べようか。トヒル殿も食べることは出来るのだろう?」

 ミっちゃんは、毒蛇殿の名を意識を強くして呼ぶ。
そうしないと、下手をしたならのだ。

「トヒルでもドクジャでも楽な方でいい。食べることは出来る」
赤い舌をあおるようにチロチロさせる毒蛇を見て、ハイエルフはと心に決めた。


 マールがガルデン達を呼びに行った間にミっちゃんは収納空間からテーブルと椅子を出し、出来るだけ平坦な場所──ギンちゃんに荒らされていない、散策路の地面──で昼食の準備を始める。

それを、興味深そうにトヒルが見ている。

 子供用の座面が高い椅子に座ったパウパウは
「トヒルは何の御飯が好き?ぼくね~ミっちゃんの作ってくれるのは、全部好きなの」
『好きなもの…食べる対象か』

 トヒルは毒蛇だ。
当然、食べる対象は、あまり子供に聞かせたくないモノが主となる。

 パウパウの見えないところで、ミっちゃんが一生懸命に首を振る。
両手の人差し指をバッテンにして口に充てる。
(言うな!それは言わないでくれ!)

『クク…私は人間の食べ物を食べたことがない。だから、よく分からない』
「そっかぁ、じゃぁ初めての御飯だね!」
パウパウの笑顔に毒蛇は舌をチロチロさせながら
『妖精の子と食事が出来るのは光栄だ』

 スルリと宙を泳いでハイエルフに近寄り、ミっちゃんだけに聞こえる念話で
『幼いにしても、これほどの無邪気。苦労するなハイエルフ』
またあおるかのように宙に8の字を描きながら、体をくねらせた。
『…小さな子供は、無邪気が仕事だろう。とはいえわかっているなら、余り私らハイエルフをいじめないでくれないかトヒル殿』
ミっちゃんも念話で答える。

『案ずるな、妖精の子に嫌われるような真似はしない』
トヒルはパウパウの横の椅子に身をくねらせて着座し、器用にトグロを巻いた。
すっと鎌首をもたげて

「タマゴがよい」
蜘蛛に似た尻尾をカシャカシャと振って低い美声で、そう告げた。
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