パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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44.パウパウのキラキラとお友達 30

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 お昼ご飯を完食したパウパウは午睡前に諸々を済ませるため、ミッちゃんに転移してもらい雑貨屋に一度戻ってきた。

「ここで、お昼寝してもいいんだよ」
「ん~、ギンちゃんのところ、あっちでお昼寝するの」
そう言いながらも、ソファーに腰かけたミッちゃんの膝の上に、パウパウは自分からにじり寄る。
「あれ、どうしたの」
まるで警戒心の強い仔猫のような動きに、ミッちゃんは口角が上がるのを抑えてパウパウに聞いた。
「ん~、今は、ここがいいの」
「そう?」
ミッちゃんの胸に頭を付けてパウパウは、ふぅっと息を吐く。
「ねぇミッちゃん。グーねぇ様と”からくりさん”、居ないねぇ。あとカニも」
白い壁にあった砂漠のゲルに繋がる扉も、今は消えている。

「お出かけしているのかもね。そうだパウパウ、体が痛いとか、気持ち悪いとかは無いかい?」
「ん~、だいじょぶ」
少し考えてから答えた幼子に
「ふふ、らくちん?」
ミッちゃんは重ねて尋ねた。
「うん、楽ちん…」
答えたパウパウは、ゆっくりと瞼を閉じる。

「パウパウ、寝台に行こうか」
「…いいの、ここで」
「ギンちゃんは?」
「…行く…ギンちゃんトコで寝るの…」

 朝から色々とあったうえ、秘境で大冒険だ。疲れているのか、すぐに寝息を立て始めた。
ミッちゃんは、銀色のメダルを収納空間から取り出して、眠る幼子の額にかざした。
漏れ出る魔力量を簡易測定する魔導具だ。
魔力を制御できる者や、魔力量の少ない人族なら、石の色は殆ど変わらない。

 中央の黒い石は色を徐々に変えて、鮮やかな青色で落ち着く。
「…これは、治まっているのか」
今日パウパウに付けた魔導具が働いていることにホッとしたハイエルフは、パウパウの寝顔を見る。

(…不思議な子供)
シシュム語のエルフ文字を読めたことも、妖精と呼ばれることも、ギンちゃんと意思疎通が出来ることも、時折漏れ出す奇妙な言葉も。

(他にどんな不思議が君の中に詰まっているのかなぁ)
 黒髪を纏めていた革紐を魔法で静かに外し、そっとパウパウをソファーに寝せて、上に柔らかなヒルクス山羊の毛織物を掛ける。
 白い頬に睫毛の影が落ちて、うっすらと開いた薄紅色の小さな唇から漏れる寝息。
安心しきって眠る幼子。
(なにがあっても守るよ)
そっと髪をなでる。

 ハイエルフの一族が定めた誓約だから、というのは既に言い訳になっている。
自分もグーリシェダばぁちゃんも、多分、魔導具の製作に手を貸してくれたマール叔父上も、今はパウパウが成長して行くのを楽しみにしているのだ。
 
 ミッちゃんが飽くることなくパウパウの寝顔を見つめていると、静かな居間の空間が揺らいでチュンスケが送られてきた。
パタタと小さく羽ばたいて、テーブルの上に乗ると、ミッちゃんを見つめた。
「チュン」

鳴いて、ピョンと後ろを向いた背中に何かを乗せている。
「マール叔父上に飛ばしてもらったのかい」
「チチチ」
茶色の小鳥はコクコクとうなづく。

 チュンスケの背中に乗っていた何かが、音もなくテーブルの上に落ちてカサカサと動いたのを見て、ミッちゃんは思わず虚ろな目をした。

(またカニだよ……どうして、こうまで叔父上はカニが気に入っているのだろう……)
 それとも、あの巨大なパウパウが言う処のグソクムシにせよ、最近のマールの頭の中では””が流行しているのかもしれない。

 チュンスケに御褒美の雑穀を出してあげてから
「なんだい?これ」
ミッちゃんは小さなカニを指で摘まむ。
白いハサミで、甲羅の部分は青みがかっている。

小さなカニが白いハサミを上にあげる。
『ウルジェド、聞こえる?』

「なに、これ、お互いに話ができるの?」
小さいカニがハサミを下に下げた。

 パウパウが寝ている所から離れて、ミッちゃんはカニに話しかける。
事情が分からない者がみたら、カニと話す変なハイエルフだ。
絵面が酷い。
出来れば本当に、もう少しマシな形にして貰いたい。

『そう、一回使い切りの試作品なんだけどね。で、ギンちゃんの温室の話だけど、まずは本人…じゃなくて本樹の気持ちが肝心だと思うの』
「で?」
『あのね、パウちゃんを今回のに任命しました』
「は?」
ミッちゃんは一瞬、マールが何を言ったのか理解が出来なかった。
話が飛躍しすぎだろう。

『だって、ギンちゃんの意思が分かるのはパウちゃんだけなのよ?』
「いや、そうだけど、パウパウは四才児だし、だいたい、任命しましたって叔父上が決められることじゃないでしょう」
『それがねぇ、決められるのよ~。ま、とりあえず、パウちゃんが起きたら戻って来て。詳しいことを話すから』
 
 マールジェドからの声が聞こえなくなると、小さなカニ型の魔道具は、本物のカニが死んだように足を力なくダラリとさせた。
 つい今さっきまで元気にハサミを上下させていたのに、突如のダラ~ン。

「うわ、気持ち悪っ。こんな処まで凝らなくてもいいだろう、叔父上」
凄い魔道具のはずなのに、本当に色々と残念過ぎる。

 とりあえず、パウパウが目覚めるまでの時間が空いたので、ミッちゃんは居間の横にある小さな台所で作る事の出来る料理の支度をして時間を潰すことにする。
 とはいっても、厨房のある空間とは設備が違うので精々が飲み物を作ったり、簡単な蒸し物を作ったりする程度だ。

(あぁ、パラディシバナナを取りに行かなくちゃなぁ)
あれを潰してタマレチマキの生地に練り込んだら喜びそうだ。
焼き菓子の生地に入れるのも良いかもしれない。

「チュン」
パウパウが喜ぶ顔を想像して、ミッちゃんが微笑んでいるとチュンスケが肩に飛んできた。
「ガルデンの所に戻るか?」
尋ねたミッちゃんに、ブンブンと首を振る。
「お前もトヒルが怖いかぁ…まぁ、なぁ」

 トヒルと自ら名乗った、毒蛇のなりをしただ。
元は蛇だっただろうが、多分、のだろう。
(あれは精霊級まで進化してる存在圧だよなぁ)

 俗に魔物と呼ばれる生物の中で、時に上位種に変わる個体が居る。
亜種ではない、完全に別な生物に変わるのだ。

それは進化というより””というべき変化かもしれない。
なぜなら、種として変わるのではなく、あくまでも個体が何らかの影響を受けて上位種になるからだ。

 一般的に広く知られているのは魚から水の龍へ変わること。
そこから地の竜か空の龍へ、そして永い年月を経て何かの古代龍となるか、天上の空気エーテルを取り込んで精霊龍になるか……ハイエルフであるウルジェドも、あくまで御伽噺として聞いた程度で、その先を詳しくは知らない。

「ナイナイ袋の魚──双頭竜──を嫌っていたから、パウパウのそばに居れば怖い事は無いと思うよ」
ガルデンに挨拶もしていたから、わきまえているようだし、パウパウも妙に気に入っている。
(まぁ、パウパウは魔蟻だろうが、なんでも気に入るよね……)

何が目的か、はっきりはしていないが、とりあえず、今のところは敵ではない。

味方でもないかも知れないが。

そう考えてハイエルフは溜息をつく。
「パウパウと動物園を楽しむ筈だったのが、何故こんな見当違いおおごとになっちゃうのかなぁ」

どうせ見るなら、普通の蛇が良かったと思いながらミッちゃんは蒸籠セイロを収納した。
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