パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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69.パウパウの夏とタガメ探し 7

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  薬師ギルドへ行くために一行は中央広場へと入った。
 案の定、広場沿いを兵士達が囲んでおり、中央付近の丸い舞台には位の高い貴族や王族と思われる人達が待っていた。どう見ても、歓待の宴ではない。
 舞台の下に立つ、ちょっと派手な服装の人族達はヒトが多いようで、ドワーフ族らしき人達は居ない。 
(うん。みんな耳が尖っていて金髪だ……あれがエルフかぁ)
 
 言ってしまえば、ビミョー。
 それがパウパウのエルフ族を見た感想だ。

 他の道へ行こうにも、来た道以外の全てが兵によって塞がれている。
 今、来た道も付いてきた騎馬兵によって閉じられたのだろう。
(ここまで、やるのかぁ……)パウパウは、しょっぱい顔をする。

「王よ、ハイエルフの皆様をお連れいたしましたが、これは何事でございましょう?」
(あれ?宰相は知らなかったのかな?)

 宰相が舞台上の貴族達に声を掛けるのを後目に、ミッちゃんはグーリシェダに尋ねる。

「ばぁちゃん。薬師ギルドは、どの建物だ?」
「うぅむ…」
 円形の空間に立つ建物だ。しかも随分と昔の記憶しか持っていないグーリシェダには、分からなかった。
 何故だか、店の上に、店前に兵が建っているため何の建物なのかが判断出来ないのだ。用意周到である。
「ミッちゃん、ミッちゃん。もしかしたら嘘つかれたかも……」
「嘘……?」

「まさか、母上をここに来させるために?」
「エルフが、誓約を悪意で捻じ曲げたのか?」
「はっ、な」
 黙っていたガルデンが歯を食いしばりながら言った。

 広場の舞台上にいた豪華な装いのエルフが、
「ハイエルフよ、よくぞ我が国へ参られた」
 パウパウは首を傾げる。
 子供の自分でも分かる、さっきの宰相とは違う、上から目線の俺様な挨拶だったからだ。

 グーリシェダ達は返事をしない。
 下位の者から声を掛けられるいわれは無いし、会話をするつもりも無かった。

 エルフは構わずに話を続ける。
「余が、リヨスアルヴァの王、ファトゥス=リヨスアルヴァじゃ」

 ババーン!と効果音が付きそうな風にマント姿の両手を広げた。

(小物臭がする…)
 多分、パウパウの中の記憶には、こういった娯楽が沢山入っているのだろう。
 この男の立ち振る舞いが、感じられて仕方ない。

 エルフの王を名乗った男は、まぁ、そこそこ美しい容姿をしていた。
 頭に派手な輪っかを付けているから、へぇ~王様なんだ~と思う程度にはだ。
 見た目は壮年だが、長命種なので本当の年齢はパウパウには分からない。

 ハイエルフの誰かが声を上げてくるのを待っていたのか、しばらく無言が続く。
 気まずそうに、コホンと咳払いをしてエルフの王が話し出した。
「余の戴冠式に、ハイエルフが来なかったのは、何かの行き違いであろうから、

 いや、お前らの戴冠なんぞ認める気がないから来なかったんだが、とグーリシェダは呆れ。
 ドワーフ達にしといて、ふざけるな!とマールジェドは怒り。
 いや、知らん、とウルジェドは思った。

 ちなみに、この王の戴冠は30年程前の事だ。
 この男の前の王の戴冠にもハイエルフは、誰も来ていない。
 もっと言えば、ここ400年近く、ハイエルフ達はリヨスアルヴァの王を認めていないのだ。

「そこで、エルフとハイエルフ族の、新たな友好の証として、我がを輿入れさせようと思うのだ。よい考えであろう?たった一人の娘をですぞ。この幸運を喜んでいただきたい。そして、これを機に今までのことを水に流して、これから新たな歴史を刻もうではないか!」

 何が、そこでなのか、良い考えなのか、喜んでいただきたいなのか、パウパウには全然分からず、ポカンとエルフ王の俺様劇場を見つめていた。
 ミッちゃんは「いや、お前が水に流れろよ」と呟いている。

 王は自分の言葉に酔っているのか、手を振り上げ”刻もうではないか!”の所で握りこぶしを作った。
 周りのエルフは拍手喝采だ。
「なにを言うのですか、王よ。ハイエルフとの縁を繋ぐなど、恐れ多いことを」

「さあ、可愛いスケレスタ=リヨスアルヴァ。エルフの花、王国の光よ。折角、来てくれたハイエルフに、御挨拶を!ハイエルフの方々も、エルフの王女をご覧あれ!」
 宰相の悲鳴のような叫びを一瞬、壇上から睨みつけた王が愛娘とやらを呼ぶ。

「はい。お父様」
 薄紅の裾の長いブリオーに金の帯を締めた、金色の髪の女性が前に出た。青い眼で耳が尖っている。
(うん、に奇麗な人だ。マールちゃんの方が1000倍は奇麗だけど)

「……どうしよう、叔父上」
 少し馬を寄せて、ミッちゃんはマールジェドに声を掛けた。
「どうした、ウルジェド」

「一周まわって、この茶番が面白くなってきたんだが」
「お前、何て言う事を!まったく……私もだがな」
「…緊張感が無さすぎじゃ」

 スケレスタ姫は静々しずしずと壇上を歩き、侍女の手を借りて、静々しずしずと階段を降りた。
 遅い。静々しずしずしすぎだ。
 あまりの静々っぷりにパウパウはイライラする。

「スケレスタ様、お辞めください。かの方々はハイエルフ様に御座います。このような愚かな真似での婚姻などを」
 下馬をした宰相は静々姫の前に駆け寄ってすがりつくような顔で訴えた。

 バシーンッと音が響き、ぎゃっと声がした。
「宰相、めでたき日に不快です。口を閉じなさい」

 マールジェドが馬上から転移をし、宰相を回収して、また転移で戻って来た。
「あの女、躊躇いもなく雷を打ったわねぇ」
 手早く収納から薬の瓶を出して、宰相の口に充て少しずつ飲ませていく。
「めでてぇのは、あいつらの頭だろうよ」 
 吐き捨てるように言ったガルデンが馬から降りて、手当てを手伝い始めた。

 壇上の貴族達は、両手を叩いて喜んでいる。エルフ王と一緒に笑っている。
 静々姫も自慢げに微笑みを浮かべながら、静々と歩く。
 
 なにも、なかったように近づいてくる。
 (なにが、面白いんだろう?なんで笑えるんだろう?)
 パウパウには全く分からない。
 エルフとヒトの違いなのだろうか。

「如何です!我が娘は魔法が得意でしてな。雷の魔法ですら、操れるのですぞ」
 なんだか、自慢気に目を見開き叫ぶ王が気持ち悪い。

 姫はようやくグーリシェダの馬の傍まで来てお辞儀をし、顔を上げてミッちゃんを見た。

 ハイエルフの美貌に息を吞み、頬を染めた。

「スケレスタ=リヨスアルヴァにございます」
 ミッちゃんをじっと見上げて、パチパチと瞬きをしている。
 付けマツゲなのか、分からないが
(ハエトリ草みたいだなぁ)
 食虫植物を思い出したパウパウだ。

 名乗りを返さないミッちゃんとの、話の糸口を求めてだったのか、エルフのお姫様はパウパウを見て、言葉を続けた。
 認識阻害の術を施してあるパウパウを認識できる程度の魔力はあるのだろう。

「あの…ハイエルフの一族では、ヒト族の愛玩ペットが流行しておりますの?」

「あ゛?」
 一言を口にして、エルフ姫を見下すミッちゃん。

「あ、あら?違いますの?それにしてもハイエルフ族は素晴らしいのですね。にも立派な馬に与えられるなんて、お優しいのね」

「あ゛あ゛~ン?」
 宰相の介抱をしていたマールジェドが、ならず者のような濁った声で威嚇した。

「いま、聞き捨てならん事を言ったな、娘。とは、どういうことだ」
 ガルデンが立ち上がり、静々姫に声を掛ける。

「ぶ、無礼な。ドワーフの分際で私に声を…
「彼は帝国の大匠たいしょうです。小国の姫あなたより社会的な身分は上になりますよ。無礼は貴女です」
 マールジェドが冷たい声でエルフ姫の声をさえぎる。
 その美貌に見とれながら、一瞬、眉をひそめたのをパウパウは見た。
(うん。奇麗さが全然違うものね…)
 
 エルフ姫は侍女に手を引かれて、数歩後ろに下がった。
 今にもきびすを返して逃げたいという形相だ。
 引きつった顔でガルデンを睨みつけている。
「さっきの、しょぼい雷を打つか?帝国の大匠たいしょうに。まぁ、俺には効かんがな」

「ぶ、ぶ無礼な、不敬、不敬です。一国の姫に対して、その態度、不敬ですよ!」
「生憎と、俺はエルダードワーフだ。お前らの法に従う義理はないな」
 ガルデンが一歩、静々姫へ足を踏み出した。

「それとな、不敬というのは敬うべきを損なった時に使うのだ。お前の何処に敬える部分があるのか、無学なエルダードワーフに教えてくれ」
 ガルデンがもう一歩近付いたとき、
「ヒィ」と息を吞むような悲鳴を上げて、静々姫は侍女を置いて走って逃げた。

 思ったよりも早い!全然、静々しずしずじゃなくて、パウパウは驚いた。

 そして、辺りを見渡す。
 公園を取り囲んでいるヒト属の兵士、その顔を見る。
 今の王族とガルデンのやり取りを、彼らがどう感じているのかを見るのだ。
 遠い所は、こっそりと””だ。
 おまじない、便利である。


(うん。そうだよねぇ…よかった)
 エルフ族ではないヒト達は、無表情を装いつつも眉間に皺があったり、奥歯を噛み締めるようにしていたり、両方のこぶしを握りしめているのが殆ど。
 もしやと、貴族たちを見ると、下級貴族らしいヒト族の貴族は作り笑いを浮かべているように見えた。
 上級貴族の何人かも、面白くなさそうな顔をしているエルフが居る。

 パウパウは両手を組んで、それらリヨスアルヴァの大人達を見つめた。

 エルフ姫の奴隷発言を聞いたミッちゃんは、すぐに眷属を呼び出した。
 サブロとアオメの2羽に小声で何かを指示をすると、2羽はパっと空に舞う。

「かつて、のおり、難民となったドワーフがリヨスアルヴァを頼った際に、お前達エルフが何をしたか、俺達は覚えているぞ」
「ぶ、無礼なっ、誰か、このドワーフを取り……お…

 兵士を呼ぼうとした貴族が周りを見渡して、声を小さくしていく。

  円形の中央広場を封鎖するために動員した兵士が、膝から崩れ落ちるようにバタバタ倒れて行くのを見たからだ。
 軽鎧を付けているようだが、ガジャガシャと結構な音がして、五月蠅い。
「な、なにが…」
「ど、毒か⁈」
 壇上の貴族たちが慌てだす。エルフ王も混ざって右往左往している。


「ミッちゃん、ミッちゃん」
 自分を呼ぶ声にミッちゃんはパウパウを見た。
「もしかして、あれ、パウパウかい?」
「うん。みんな””ってお願いした!」

 パウパウがニッコリと笑いながら、とんでもない事をヘラっと言う。
「最高だよパウパウ。ばぁちゃん!」

 店前を塞いでいた兵士が倒れたことで、店舗が見えるようになったグーリシェダは薬師ギルドを見つける事が出来た。
 なにやら大事になりつつあるが、ハイエルフのだ。

 呼び出した小さな小さな精霊猫に何かを申し付けると、こちらはこちらで金色の蜜蜂をブンブン飛ばしていたマールジェドに声を掛ける。
「マール、行くぞ。例え嘘の依頼だったとしても、約束は果たさねばならぬ」
「ウルシェド、ここは任せたよ」
 マールジェドとグーリシェダは頷いて転移をした。

 ミッちゃんは、少し考えて魔道人形からくりを召喚し、その場で宰相の介抱を任せた。
 貴族が魔道人形からくりを指差して騒いでいるが無視だ。

「リヨスアルヴァの王よ、難民のドワーフを甘言で騙し、誓約を偽った者の末裔よ。ドワーフ達のに住む気分はどうだ?」

「帝国は奴隷制度を、とっくに廃止している。かなり前から同盟国に対しても同じように働きかけていた。まさか未だにリヨスアルヴァには、内実では奴隷制度が残っているのか?」

 ミッちゃんの言葉は、誰かに話した物ではない。
 あくまで独り言の体を取っている。

 ハイエルフだから、愚かなエルフと話をする口は持たないのだ。
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