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68.パウパウの夏とタガメ探し 6
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城壁に近づくうちに、そこが深い灰色の石で出来た壁だと分かった。幾つもの見張りの塔を繋ぐような壁だ。
アーチ状の門前で、槍を真っすぐに立てて人形のように動かない門兵の横を抜けながらパウパウは思う。
やっぱり、諸国漫遊記的なほうが簡単じゃなかったかなぁと、
「ねぇ、グー姉様……」
「そうじゃな、言いたいことは分かるぞ。ワシも同じ気持ちじゃ」
結局、一行は10騎の騎馬兵を引き連れて、リヨスアルヴァの王都へ入る事になったのだ。
「ここは帝国じゃなくて、同盟国扱いだからね。一応は別の国だから、ちゃんと入国をしたって事実が必要なんだよ」
なんとなく、語尾に”メンドクサイ”な響きを含ませながらミッちゃんがパウパウの耳元で囁いた。
同盟国扱いと、まるで神様みたいに遜る貴族。何か関係があるんだろうか?
頭を上げて後ろのミッちゃんを目で伺うと
「後でね」
また耳元で言われて、くすぐったい。
その貴族はといえば、こちらに声を掛けたいのだろうが、後ろを守護神のように守るのは見事な青毛の巨馬に跨るガルデンだ。
声を掛ける隙がなく、並ぶことも出来ずに、少し離れて付いてくる。
当然、馬速は戻らず並足のままだ。
ちょっと可哀そうな人である。
(そうだ、忘れていた!)パウパウは、グーリシェダに声を掛ける。
「ねぇ、グー姉様、馬さんが怒られたら困るから、お呪い、無くしてもいい?」
「おぉ、そうじゃな、もう良かろう。助かったぞパウ坊」
放っておいても半日程度で、お呪いは消えそうだが、馬達が叱られるのは可哀そうだ。
パウパウは頭の中で”普通に戻って”とお願いしておいた。そのうち、気付くだろう。
直ぐに王都の街並みを見られるのかと思ったが、ここは一の門といった感じらしく、まだ先には異なる色の壁が見える。
一度、馬を停めたグーリシェダが左右を見ていると、意を決したかのように緊張した顔でエルフ貴族が、徒歩でミッちゃんの斜め後ろで片膝を付く。
「御前、失礼いたします。これから先、道が入り組んでおりますので、ご案内をさせて頂きたく存じます」
「許す。名は?」
感情を殺したミッちゃんの声が響く。
「スリクタ=アルヴァ、この国の宰相にございます」
「騎馬にての案内をせよ」
「はっ」
カコカコと石畳を踏んで歩く宰相の馬を先頭にして、両後ろをミッちゃんとマールジェド。その二人の中後ろにグーリシェダ。その後ろにガルデンの配列に変えて、一行は進む。
「これより先は、民の市が開かれる場所でございます」
少し声を張って、後ろを向いた宰相が言う。
「市場!」
市場を見たことがないパウパウが嬉しそうに声を上げたら、何故か宰相が驚いたような顔をした。
やがて一行の前に、この国の市場が見えてきた。
バザールというより露店市場か、門前市というべきだろうか。
簡単な木材を立てて上に布を被せただけの簡易の天幕を張った露店が軒を並べていた。
人々が沢山、買い物に出て賑わっているはずだ。
いまは、物音ひとつもしていない。
「あぁ、これはダメだわ。ウルジェド」
マールジェドが眉を顰めてミッちゃんに声を掛けた。
ミッちゃんは頷くと、馬を進めて宰相の横に並び声を掛ける。
「宰相、民たちの平伏を辞めさせよ。我らは唯の旅人。かような扱いは不要だ」
「お、お言葉ながら、この国に安寧を齎されたのは……
「ならば尚の事、民の暮らしを止めるを望まぬ」
「し、しかし…」
宰相は動かない。いや、動けないのか。
貴族のエルフでは埒が明かないのを見てとったミッちゃんは馬を返して後ろの騎兵の元に行き声を掛けた。
「そこの騎兵、疾く静かに市の再開を。拝礼、平伏は無用であると告げよ」
「はっ」
命を受けた騎兵から指示された5人が下馬し、平伏している人達に声を掛けていくと、皆が恐る恐るといった様子で立ち上がり、こちらを伺うように見ている。
「迷惑をかけぬうちに、立ち去ったほうが良いようじゃな」
グーリシェダの呟きに、宰相は馬上で頭を下げた。
ミッちゃんは轡を返してガルデンの横へ並び、話しかけた。
「どうだ」
「おぅ、面白れぇな。この外壁、途中で様式が変わっているだろ、ドワーフの早積みって技法でな。こうやって実物が見られるとは思わなんだ」
まったく面白くなさそうに、ガルデンが言う。
「そうか、なにかあったら言えよ。あ、念のため、これ羽織っておけ」
ミッちゃんは収納から取り出した布をガルデンに腕を伸ばして差し上げた。ガルデンの馬のほうが背が高いのだ。
「その何かがあったら、まぁ、帝国との外交問題ってぇ奴だからなぁ。なんだこれ?」
ガルデンは帝国で大匠の身分を持つ職人だ。
爵位ではないので政治的な力は持たないが、帝国の宝の一人なのだ。
たとえエルフが種族としてドワーフ族を嫌っていたとしても、帝国の大匠に失礼を働けば、間違いなく問題になる。
「……外交問題は帝国とだけでは無かろう。そのマント、私の紋が入っているから、臨時ガルデン卿だな」
(まぁ、蜂の紋が入った服を纏っているので、念には念というやつだが)
「おう、分かった」
手慣れた様子で馬上でマントを羽織るのを確認して、ミッちゃんは元の場所へと戻る。
パウパウはといえば、露店の売り物を面白そうに見ていた。
知らない野菜や加工肉がある。
特に青菜は見たこともない物が多かった。
いつもはもっと売り声や話し声がして賑やかなのだろう。
後ろの方からは、少しだけ戻って来た人の騒めきが聞こえてくる。
パウパウと同じ位の年齢に見える子供が、ポカリと口を開けて見ていたり、親の手伝いなのか露店の野菜を手にして、何故か固まったように見ている子供もいる。
思えば、こういった人の営みを見るのは初めてだ。
パウパウは帝都に行っても温室だけだし、ウネビの集落さえも表立って歩いたことはないので、どんなお店があるのかも知らないのだ。
「ヒカゲノミ……」
「なに?パウパウ」
「ミッちゃん、ぼく、ヒカゲノミ?」
ミッちゃんは慌てて他の者に聞こえないように防音を掛ける。これで、身内以外に会話は聞こえない。
「いや、パウパウ。日陰の身って、どこでそんな言葉、覚えたの⁈」
人前でなければ悲鳴を上げるところだった。
「違うぞ、パウ坊は竜の宝玉。それも古竜の宝玉じゃ」
人前でなければ大笑していたグーリシェダが、表情を取り繕ってパウパウに話しかけた。
声は聞こえずとも、姿は見えている。
「ばぁち
「人前であるぞウルジェド」
「…っ、失礼いたしました、グーリシェダ様」
そう畏まった言葉で答えながらも、口を不機嫌そうに尖らせている孫を見て、グーリシェダは少しだけ口角を上げた。
長い間、魔道人形のようになってしまっていた孫が、たった4年で戻って来た。
楽しそうに孫の前に乗る、黒髪の子供に目をやる。
時おりウルジェドが背を丸めて、子供の耳に何かを話しては二人が小さく笑う。
きっと、取り留めもない話だ。
あの野菜は何だとか、今日のオヤツは何にしようとか。
多分そんな、いつもの他愛のない話。
そんな話で微笑むことが出来るようになったウルジェドと、それを齎したパウパウと。
子供の病に対して、支障がある言い方にはなるが、グーリシェダは巡り合わせに感謝をする。
パウパウの魔力過多症にさえ、感謝をしたい程だ。
庶民向けの家や店なのか、木造の建物が犇めく道を一行は抜ける。
広さがあるとしても、城壁内の限られた面積を活用するために、どこの建物も3階建て以上で窮屈そうだ。
馬車が通れるのは、この石畳の道くらいで、あとは縦横無尽に枝道が人のために出来ているみたいだった。
「ギューギューだね」
ドの付くほどの田舎の子から見れば、息苦しいほどの密集具合だ。
「ここを抜けると東の門でございます、お見苦しいのは、しばらくご寛恕ください」
見苦しい?パウパウは首を傾げた。
自分の国の人の暮らしの、何が見苦しいのだろう。そう思うなら何とかすればいいのに。
ちょっと、胸がモヤモヤして尖らせた口を、ミッちゃんが指で摘まむ。
「ムッフンむむむ…」
「ふふ……家鴨の口になってる」
「ふむ…このような外壁なんぞ、あったかのぅ?」
「母上が来られていた後に出来たのでしょう。あの騒乱で」
ちらりと気遣いの目線をウルシェドに向けるが、パウパウの唇を摘まんで遊んでいる。
パウパウがむーむー言っていて甥は随分と楽しそうだ。
(ちょっと、気を遣う意味ないわっ!)
緊張感皆無の二人を見たマールジェドはアホらしくなった。
「こちらが東の門にございます」
宰相が声を掛ける。
先ほど潜り抜けた門よりも、大きな門が一行を迎え入れる。
最初の門と同じように、槍を立てた門兵が10人ほど、微動だにせず立っていた。
(こっちのほうが古いのかな?最初の壁のほうが奇麗だった気がする)パウパウは、そう思いながら分厚い門を潜った。
「……さて、確か、どこの道でも中央広場へ着くはずじゃ」
昔ながらの城下街なので、道が狭い。せいぜい荷車が、すれ違える程度の幅しかなかった。
道の両脇に建つ建物の上階の窓から、移動する一行を見る住民達の視線が感じられて居心地が悪い。
「……母上」
マールジェドが冷たい声でグーリシェダを呼ぶ。
「まさかの、恥知らずが城から御出ましのようですよ」
「……おやまぁ」
一体どうやって知ったのかと思えば、マールジェドの指先に金色の蜜蜂が止まっていた。
魔道具らしいが、大人しく胸元に止まったなら宝飾品にしか見えない美しさだ。
大きな複眼は蒼玉に輝き、透き通った羽根は板水晶だろうか。
「声も拾ってますがね、大層、頭のよろしい事を垂れ流してますねぇ」
こういう口調のときのマールジェドは怒っている。
いつものマールなら
”ちょっと母上~、エルフたち、すっごい頭が沸いている事、くっちゃべってんだけどぉ。魔道具、けしかけていいよねっ?”と言うはず、
……いや、そこまでバカっぽくはないか……グーリシェダは考えを振り払う。
周りの街並みは、徐々にレンガや石造りの建物に変わり、昔は、その先が中央広場になっていたはずだ。
「中央の広場沿いに、薬師ギルドがあるはずなのだがの」
かなり昔の記憶を引っ張り出して、グーリシェダは片眉を上げた。
道の先に空間が見える。
なにやら人の騒めきも微かに漂ってきた。
「で、どんな事を話しておる?」
「う~ん……エルフの誰かが、私たちの嫁か婿になるつもりみたいですね」
「っ、ばぁちゃん。今すぐ帰るぞ」
ミッちゃんがパウパウの腹に手を廻して、転移をしようとするのをグーリシェダは止めた。
「待てウルジェド。薬師ギルドの依頼は果たさねばならん」
「ウルジェド、これは母上がギルトとした契約だ」
それを聞いたミッちゃんは、大きく溜息を一つ吐いた。
アーチ状の門前で、槍を真っすぐに立てて人形のように動かない門兵の横を抜けながらパウパウは思う。
やっぱり、諸国漫遊記的なほうが簡単じゃなかったかなぁと、
「ねぇ、グー姉様……」
「そうじゃな、言いたいことは分かるぞ。ワシも同じ気持ちじゃ」
結局、一行は10騎の騎馬兵を引き連れて、リヨスアルヴァの王都へ入る事になったのだ。
「ここは帝国じゃなくて、同盟国扱いだからね。一応は別の国だから、ちゃんと入国をしたって事実が必要なんだよ」
なんとなく、語尾に”メンドクサイ”な響きを含ませながらミッちゃんがパウパウの耳元で囁いた。
同盟国扱いと、まるで神様みたいに遜る貴族。何か関係があるんだろうか?
頭を上げて後ろのミッちゃんを目で伺うと
「後でね」
また耳元で言われて、くすぐったい。
その貴族はといえば、こちらに声を掛けたいのだろうが、後ろを守護神のように守るのは見事な青毛の巨馬に跨るガルデンだ。
声を掛ける隙がなく、並ぶことも出来ずに、少し離れて付いてくる。
当然、馬速は戻らず並足のままだ。
ちょっと可哀そうな人である。
(そうだ、忘れていた!)パウパウは、グーリシェダに声を掛ける。
「ねぇ、グー姉様、馬さんが怒られたら困るから、お呪い、無くしてもいい?」
「おぉ、そうじゃな、もう良かろう。助かったぞパウ坊」
放っておいても半日程度で、お呪いは消えそうだが、馬達が叱られるのは可哀そうだ。
パウパウは頭の中で”普通に戻って”とお願いしておいた。そのうち、気付くだろう。
直ぐに王都の街並みを見られるのかと思ったが、ここは一の門といった感じらしく、まだ先には異なる色の壁が見える。
一度、馬を停めたグーリシェダが左右を見ていると、意を決したかのように緊張した顔でエルフ貴族が、徒歩でミッちゃんの斜め後ろで片膝を付く。
「御前、失礼いたします。これから先、道が入り組んでおりますので、ご案内をさせて頂きたく存じます」
「許す。名は?」
感情を殺したミッちゃんの声が響く。
「スリクタ=アルヴァ、この国の宰相にございます」
「騎馬にての案内をせよ」
「はっ」
カコカコと石畳を踏んで歩く宰相の馬を先頭にして、両後ろをミッちゃんとマールジェド。その二人の中後ろにグーリシェダ。その後ろにガルデンの配列に変えて、一行は進む。
「これより先は、民の市が開かれる場所でございます」
少し声を張って、後ろを向いた宰相が言う。
「市場!」
市場を見たことがないパウパウが嬉しそうに声を上げたら、何故か宰相が驚いたような顔をした。
やがて一行の前に、この国の市場が見えてきた。
バザールというより露店市場か、門前市というべきだろうか。
簡単な木材を立てて上に布を被せただけの簡易の天幕を張った露店が軒を並べていた。
人々が沢山、買い物に出て賑わっているはずだ。
いまは、物音ひとつもしていない。
「あぁ、これはダメだわ。ウルジェド」
マールジェドが眉を顰めてミッちゃんに声を掛けた。
ミッちゃんは頷くと、馬を進めて宰相の横に並び声を掛ける。
「宰相、民たちの平伏を辞めさせよ。我らは唯の旅人。かような扱いは不要だ」
「お、お言葉ながら、この国に安寧を齎されたのは……
「ならば尚の事、民の暮らしを止めるを望まぬ」
「し、しかし…」
宰相は動かない。いや、動けないのか。
貴族のエルフでは埒が明かないのを見てとったミッちゃんは馬を返して後ろの騎兵の元に行き声を掛けた。
「そこの騎兵、疾く静かに市の再開を。拝礼、平伏は無用であると告げよ」
「はっ」
命を受けた騎兵から指示された5人が下馬し、平伏している人達に声を掛けていくと、皆が恐る恐るといった様子で立ち上がり、こちらを伺うように見ている。
「迷惑をかけぬうちに、立ち去ったほうが良いようじゃな」
グーリシェダの呟きに、宰相は馬上で頭を下げた。
ミッちゃんは轡を返してガルデンの横へ並び、話しかけた。
「どうだ」
「おぅ、面白れぇな。この外壁、途中で様式が変わっているだろ、ドワーフの早積みって技法でな。こうやって実物が見られるとは思わなんだ」
まったく面白くなさそうに、ガルデンが言う。
「そうか、なにかあったら言えよ。あ、念のため、これ羽織っておけ」
ミッちゃんは収納から取り出した布をガルデンに腕を伸ばして差し上げた。ガルデンの馬のほうが背が高いのだ。
「その何かがあったら、まぁ、帝国との外交問題ってぇ奴だからなぁ。なんだこれ?」
ガルデンは帝国で大匠の身分を持つ職人だ。
爵位ではないので政治的な力は持たないが、帝国の宝の一人なのだ。
たとえエルフが種族としてドワーフ族を嫌っていたとしても、帝国の大匠に失礼を働けば、間違いなく問題になる。
「……外交問題は帝国とだけでは無かろう。そのマント、私の紋が入っているから、臨時ガルデン卿だな」
(まぁ、蜂の紋が入った服を纏っているので、念には念というやつだが)
「おう、分かった」
手慣れた様子で馬上でマントを羽織るのを確認して、ミッちゃんは元の場所へと戻る。
パウパウはといえば、露店の売り物を面白そうに見ていた。
知らない野菜や加工肉がある。
特に青菜は見たこともない物が多かった。
いつもはもっと売り声や話し声がして賑やかなのだろう。
後ろの方からは、少しだけ戻って来た人の騒めきが聞こえてくる。
パウパウと同じ位の年齢に見える子供が、ポカリと口を開けて見ていたり、親の手伝いなのか露店の野菜を手にして、何故か固まったように見ている子供もいる。
思えば、こういった人の営みを見るのは初めてだ。
パウパウは帝都に行っても温室だけだし、ウネビの集落さえも表立って歩いたことはないので、どんなお店があるのかも知らないのだ。
「ヒカゲノミ……」
「なに?パウパウ」
「ミッちゃん、ぼく、ヒカゲノミ?」
ミッちゃんは慌てて他の者に聞こえないように防音を掛ける。これで、身内以外に会話は聞こえない。
「いや、パウパウ。日陰の身って、どこでそんな言葉、覚えたの⁈」
人前でなければ悲鳴を上げるところだった。
「違うぞ、パウ坊は竜の宝玉。それも古竜の宝玉じゃ」
人前でなければ大笑していたグーリシェダが、表情を取り繕ってパウパウに話しかけた。
声は聞こえずとも、姿は見えている。
「ばぁち
「人前であるぞウルジェド」
「…っ、失礼いたしました、グーリシェダ様」
そう畏まった言葉で答えながらも、口を不機嫌そうに尖らせている孫を見て、グーリシェダは少しだけ口角を上げた。
長い間、魔道人形のようになってしまっていた孫が、たった4年で戻って来た。
楽しそうに孫の前に乗る、黒髪の子供に目をやる。
時おりウルジェドが背を丸めて、子供の耳に何かを話しては二人が小さく笑う。
きっと、取り留めもない話だ。
あの野菜は何だとか、今日のオヤツは何にしようとか。
多分そんな、いつもの他愛のない話。
そんな話で微笑むことが出来るようになったウルジェドと、それを齎したパウパウと。
子供の病に対して、支障がある言い方にはなるが、グーリシェダは巡り合わせに感謝をする。
パウパウの魔力過多症にさえ、感謝をしたい程だ。
庶民向けの家や店なのか、木造の建物が犇めく道を一行は抜ける。
広さがあるとしても、城壁内の限られた面積を活用するために、どこの建物も3階建て以上で窮屈そうだ。
馬車が通れるのは、この石畳の道くらいで、あとは縦横無尽に枝道が人のために出来ているみたいだった。
「ギューギューだね」
ドの付くほどの田舎の子から見れば、息苦しいほどの密集具合だ。
「ここを抜けると東の門でございます、お見苦しいのは、しばらくご寛恕ください」
見苦しい?パウパウは首を傾げた。
自分の国の人の暮らしの、何が見苦しいのだろう。そう思うなら何とかすればいいのに。
ちょっと、胸がモヤモヤして尖らせた口を、ミッちゃんが指で摘まむ。
「ムッフンむむむ…」
「ふふ……家鴨の口になってる」
「ふむ…このような外壁なんぞ、あったかのぅ?」
「母上が来られていた後に出来たのでしょう。あの騒乱で」
ちらりと気遣いの目線をウルシェドに向けるが、パウパウの唇を摘まんで遊んでいる。
パウパウがむーむー言っていて甥は随分と楽しそうだ。
(ちょっと、気を遣う意味ないわっ!)
緊張感皆無の二人を見たマールジェドはアホらしくなった。
「こちらが東の門にございます」
宰相が声を掛ける。
先ほど潜り抜けた門よりも、大きな門が一行を迎え入れる。
最初の門と同じように、槍を立てた門兵が10人ほど、微動だにせず立っていた。
(こっちのほうが古いのかな?最初の壁のほうが奇麗だった気がする)パウパウは、そう思いながら分厚い門を潜った。
「……さて、確か、どこの道でも中央広場へ着くはずじゃ」
昔ながらの城下街なので、道が狭い。せいぜい荷車が、すれ違える程度の幅しかなかった。
道の両脇に建つ建物の上階の窓から、移動する一行を見る住民達の視線が感じられて居心地が悪い。
「……母上」
マールジェドが冷たい声でグーリシェダを呼ぶ。
「まさかの、恥知らずが城から御出ましのようですよ」
「……おやまぁ」
一体どうやって知ったのかと思えば、マールジェドの指先に金色の蜜蜂が止まっていた。
魔道具らしいが、大人しく胸元に止まったなら宝飾品にしか見えない美しさだ。
大きな複眼は蒼玉に輝き、透き通った羽根は板水晶だろうか。
「声も拾ってますがね、大層、頭のよろしい事を垂れ流してますねぇ」
こういう口調のときのマールジェドは怒っている。
いつものマールなら
”ちょっと母上~、エルフたち、すっごい頭が沸いている事、くっちゃべってんだけどぉ。魔道具、けしかけていいよねっ?”と言うはず、
……いや、そこまでバカっぽくはないか……グーリシェダは考えを振り払う。
周りの街並みは、徐々にレンガや石造りの建物に変わり、昔は、その先が中央広場になっていたはずだ。
「中央の広場沿いに、薬師ギルドがあるはずなのだがの」
かなり昔の記憶を引っ張り出して、グーリシェダは片眉を上げた。
道の先に空間が見える。
なにやら人の騒めきも微かに漂ってきた。
「で、どんな事を話しておる?」
「う~ん……エルフの誰かが、私たちの嫁か婿になるつもりみたいですね」
「っ、ばぁちゃん。今すぐ帰るぞ」
ミッちゃんがパウパウの腹に手を廻して、転移をしようとするのをグーリシェダは止めた。
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