パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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71.パウパウの夏とタガメ探し 9

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 薬師ギルドでは、ガルデンも交えてのギルド長との話が続いていた。

「近年、グーリシェダ様が薬師の仕事を再開されたと噂で聞き及んでおりました。もし、もし運があれば、この国に来ていただけるかと、一縷の望みに賭けての依頼の千夜茸でございました。」
 
 ハイエルフなら、エルフの専横を諫めることが出来ると思ったのだという。
 穢れた誓約ではなかった事が、せめてもの救いだと、グーリシェダは胸をなでおろした。

 どうやらハイエルフがリヨスアルヴァを訪れることを漏らしたのは、帝都の薬師ギルドの独断だったらしく、失礼のないようにと、余計な気遣いでエルフの王宮に連絡を入れたらしい。

 (あとで絞めてやる)とグーリシェダは思った。

「では、そのドワーフ達は10人近くが囚われているのだな」
 ガルデンは確認のためにギルド長に声を掛ける。

 20年ほど前に旅の若いドワーフの一行が、この国に立ち寄った。
 かつての、リヨスアルヴァの事を詳しくは知らなかったらしい。

「……だから、何故、長耳どもの恥ずべき行いを知らんのか、それが分からん!昔ごとだからか?それとも余程の田舎者なのか⁈」
 ガルデンは、整えていた髪をガシガシして、マールジェドが「あぁ~」と声を上げた。チュンスケは肩に避難だ。

 近隣諸国のドワーフは、リヨスアルヴァに立ち寄らない。
 今でも、近づくのも嫌だという程に嫌う者も居る。リヨスアルヴァ産の穀物は買わない者が居るため、帝国の商家では、ドワーフのために産地を表示する事を始めた。 
 それだけ、あれはドワーフにとって大事件だったのだ。

 かつての古竜騒乱時にリヨスアルヴァに逃げ込んだドワーフ達は、この国の下級貴族達からの、食と住を保証すると言うに感謝をしてを結んだ。
 これは、出先の職人仕事などでは良く有る話で、賃金以外にも住み込みで働く際の食事と寝床を雇用主が保証するという事だ。
 そして、石の契約とはを、必ず仕上げるというドワーフの矜持を明文化した物だ。
 
 その頃のヒト族の下級貴族とドワーフ達は、良好な関係であったらしい。
 
 農業が主産業であるリヨスアルヴァの夫々それぞれの領地や集落に散ったドワーフ達は農機具を開発したり、水車を作ったりして、この国の暮らしに馴染んでいたという。
 
 だが、難民のドワーフ100名ほどは、乞われてエルフの王都で生活をすることとなった。
 契約をした下流貴族が法衣貴族で、領地を持っていなかったのである。

 そこから王都のドワーフにとっての地獄が始まった。
 
 雇用主の貴族達が、エルフの王族に命じられ、王城の工事などをドワーフに任せ始めたのだ。

 例えば、王命で下級貴族に城の改修工事を依頼する。
 下級貴族は、それをドワーフ達に命令する。
 これは、まだいい。
 あくまでも、ドワーフ達は雇用主を下級貴族と見なして、細かく意見を交換し、詳しい指示を求めた。

 だが、そのうちドワーフの言い分を聞くのが面倒になった下級貴族は、効率化や時間の短縮と言いながら、ドワーフ達を王宮に貸し出した。
 いや、それは表向きで、実際は扱いだったのかもしれない。
 貸し出しの期間は無期限。
 事実上のである。

 ドワーフ達は、石の契約に反すると声を上げ、抗議をし……


「何人もの腕のいい職人が見せしめに、そうだ」

 外の領地で暮らしていたドワーフ達が異常に気付き、帝都の職人ギルドへ助けを求めたことから、発覚した事件だ。
 帝国内からも問題視する声が上がり、職人ギルドと帝国からの合同視察団が秘密裡に派遣され、全てが白日のもとさらされたときには、騙されたドワーフで生き残っていたのは半分程度だったという。


 その当時のエルフの王族は、口をそろえて
 
 『自分達はヒトとドワーフの契約については、何も知らない』
 『エルフ族はドワーフとの契約をしてはいないので、責任は全て雇用主にある』

 しまいには、
 『契約を絶対視するハイエルフにならう、自分達エルフは、そのようなはしない』

 そう帝国から派遣された視察団のエルダードワーフとハイエルフ、人族に対して言い放った厚顔無恥っぷりに視察団の面々はあきれ果て、あたわずとしてとなった経緯がある。
 何故か、リヨスアルヴァ側は『エルフの自由が』と喜んでいたらしいが、思い違いも甚だしい。
 帝国がリヨスアルヴァ国のエルフの王侯貴族達を、いつでも切り捨てられる物と判断した結果にすぎない。


「よしっ!潰そう。いま、潰そう!はいっ、国ごと粉砕あるのみっ‼」
 話としては知っていたが現地で聞いて益々、怒りが込み上げてきたマールジェドは立ち上がり、それはそれは美しい顔で言い放った。
(生き生きしているわ、コイツ)とガルデンは思う。

 ウルジェドの大事なパウちゃんを愛玩品ペット呼ばわりし、自分の大切な、尊敬する、ガルデンを奴隷と言った、あの小娘を一ぱ…い、殴らないと気が済まない。

 一発じゃない、全発だっ!

 マールジェドは女に優しくなんて事は、これっぽっちも思わない。
 女だから優遇されるべきだと言う女も
 女だからと有難がる男も
 滅べばいいと思っているし、実際のとこ滅ぼせる。

 叱られるだろうから、やらないだけだ。

「おいおい、待て待て」
 ガルデンは、その手を掴んで引き留める。

「では、千夜茸で作るのは、ドワーフの体の状態によってだな。それまでは預かっておくということで、よろしいだろうか」
「はい。ご迷惑をおかけいたしますが……」
 ギルド長が立ち上がり、深く礼をした。

「案ずるな。千夜茸の代金も、何なら調剤の料金も、ドワーフの賃金と慰謝料も、全部、この国に支払ってもらうからのう」
 マールジェドに負けず劣らぬの微笑みを浮かべたグーリシェダは、ギルド長に軽く会釈をして、元の広場へと転移をした。


「喫緊の問題でございましたので、整えましてございます」
 魔道人形からくりさんが、グーリシェダにシレっと言うのを聞きながら、パウパウはオヤツのプリンとリンゴの果実水を口にする。

 グーリシェダ達が転移で戻った中央広場の一部分だけが、花の園になっていたのだ。
「おやまぁ……」
「グーねぇ様、マールちゃん、ガルデンおじちゃん!おかえりなさい」
 涼し気な白木のテーブルに着いていたパウパウが笑顔で迎えた。

「おぅ、なんか……差が凄いな」
 ガルデンは円形の壇上に、事実上、閉じ込められた状態のエルフ貴族を見る。
「声が煩いかと思いまして、結界を施してございます」

 ちょっとウキウキしたように魔道人形からくりの緑の単眼モノアイが上下した。
 こちら側を結界で覆うなら分かるが、わざわざ、あちらに結界だ。
 しかも物理結界。伏せたガラスのカップの中に閉じ込められたも同然の状態だ。
 多分、嫌がらせだ。
 遮光の術もないようで、暑いだろうと思うが同情はしない。

 魔法が得意な、お姫様に結界解除なり、遮光なりしてもらえばいい。

 パウパウの周りには、一面に夏の花が咲いていた。
 ラ・ベルの小さくて可憐な青紫色。白や黄色の雛罌粟パパウェルが紙のように薄い花びらを風に揺らしている。
 低い垣根のように植えられたロザルゴサが華やかな赤い花を付けていた。
「カウラジェドの庭か?」
「はい。改良版の早咲き種を頂いておりましたので」
「ふむ、パウ坊が喜んでいるならば良い。感謝するぞ」
 すっと奇麗に礼をして、魔道人形からくりは皆の前に冷茶を置く。

 席について、グィっと酒でも煽るように、お茶を飲むとガルデンは
「おい、おい、マールよ。その……な」
 ソワソワとマールジェドを見て、何か言いたそうにしている。
 さっきから我慢をしていたが、限界らしい。

「あぁ、母上、守護者を見せてもいいですか?」
「なにを今更じゃ、好きにするがいい」
「おぉ、有難い」
 ガルデンは立ち上がって、パウパウの後ろに立つナーターラァに近づいた。

「これは、素案を我々の祖王と言われる───……機能としては……」
「すげぇなラメラアーマーの素材が……」

 なにやら後ろの楽しそうな声を聞きながら、ミッちゃんの帰りを待っているパウパウにグーリシェダが微笑みながら声をかけた。
「留守番、偉かったの。付いて行かなんだか」
「ミッちゃん、忙しそうだから……ぼく、早く大きくなりたい……そしたら、ミッちゃんのお手伝い、出来るでしょ?」
「お手伝いかえ?なにを手伝うのじゃ」

 パウパウは腕を組んで、悩み始めた。
「う~ん。ミッちゃんって、なんでも出来るでしょ?御飯も上手だし、魔法も上手で、魔物もプイプイって強いんでしょ?どうしよ……ぼく、出来ること無いかも」
「パウ坊は、これから色々な事が出来るようになる。それから、ウルジェドの手伝いも考えて行けばよい」

 しょんと、肩を落とすパウパウの頭を撫ぜながら、グーリシェダは続けて言う。
「ウルジェドの秘密を教えてやろうか、パウ坊」
「ミッちゃんの秘密?」
「そうじゃ、あやつはな、実は……
 ゴクリとパウパウは唾を飲み込んだ。
 ミッちゃんの秘密って……
「ただいま、すごいね花畑じゃないか」

「わぁ!」

 ミッちゃんがナーターラァや宰相と転移で戻って来て、驚いたパウパウの声に、ミッちゃんも慌てる。
「わぁって、なに?ごめんね。驚かせて」
「な、なんでもないよ、まだ、ぼくなにもきいてないし」
 挙動不審になりながら、狼狽うろたえるパウパウと、ニヤニヤするグーリシェダを見て、ウルジェドは何かを感じとる。
「ばぁちゃん。なにをパウパウに吹き込んだ」
「まだ、なにも。それより、どうだったか報告をはよう」

 胡麻化された!という目をしながらも、ウルジェドは見てきたことを伝える。
「西の門側に新しい城を作っている最中だった。そこに、ドワーフが12名……その、捕まっているが、今は、まだ軽い回復薬しか与えられなかった。すまんガルデン」
「いや、他国だからな。仕方ない。外圧を掛けている間にその……されても、困るし」

 小さな子供に聞かせられない事が多いので、歯切れが悪い報告になるのは仕方がない。

「兵士達については、私達が脅されたからという言い訳が出来るとしても、私達への婚姻云々とドワーフは別件だからねぇ。どうする?母上、別に擂り潰してもいいと思うのよ、私」

「い、いえ、ハイエルフ様、恐れながら、擂り潰すのは御勘弁ください」
 宰相が土下座して泣いた。
「マールちゃん、この国、いい国よ?市場に食べ物いっぱいあったし、みんな元気だったよ?」
「……そうよねぇ……じゃあ、擂り潰すのはでいっか!」
 、マールジェドが言い切る。
 怖いから、パウパウは擂り潰す攻撃から離れてほしいと思う。

「まぁ、待て。それより簡単な方法を取ろう」
 グーリシェダが、笑いながらマールジェドをいさめた。
「なんだい。ばぁちゃん」
「ほら、来るぞ」

 夏空の中、小さな点が現れたと思いきや、
 その黒い点がブワリっと膨れ上がり、はじけ飛んだ。

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