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72.パウパウの夏とタガメ探し 10
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夏空にポツンと現れた黒い点は、ブワリと膨れ上がったかと思うと、音もなく弾け飛んだ。
弾け飛んで、小さな黒い点が大量に現れる。
地上から見上げる目には、鳥か蝙蝠の大群が、渦を巻いているように見える。
声も、羽ばたきの音もしないのが不思議だが。
「ほら、精霊猫だよ」ミッちゃんがパウパウに声を掛けた。
「え?ネコ?あのツブツブ、全部ネコなの?」
芥子粒の一つ一つがネコなのか。空を飛べるのは精霊だからなのか。
想像だにしない出来事に、パウパウは口を半開きで上を眺めるばかりだ。
(あ!そうだ)口を開けて見ている場合じゃなかったと、パウパウは思い出して ”兵士たちの意識が戻るよう”にお願いをした。
「おや、パウパウ、起こすのかい?」
「うん。こんな凄いのを見たら、兵隊さん、戦う気が無くなるかもって思うの」
あとは、ヘルメットを被った人が多いので、お水を飲まないとダメだと思ったのだ。
(ネッチューショータイサク)
妙なところで、異世界の知識が出てくるのである。
「からくりさん、兵隊さん達に、お水、飲ませてあげて欲しいの」
(ケーコーホスイエキ……)
本当は、塩とか柑橘の果汁を混ぜたほうがいいのだろうが、詳しい事はパウパウには分からないから、とりあえず水だ。
「魔道人形、パウ坊の望むように。回復薬を混ぜてやればよい」
「畏まりました。ナーターラァ2機に、手伝わせても?」
「好きにせよ、ナーターラァ壱と伍、魔道人形の手伝いをするように」
魔道人形さんは一礼をすると、収納から出した大きな水瓶をナーターラァに2つずつ持たせた。
自分も両手に1本ずつ水瓶を持って給水するべく、広場の縁でざわざわしている兵士の元を周り始める。
空には黒いツブツブが渦を巻いており、自分達は意識を刈り取られていた為に経緯が理解できず、訳が分からない兵士達だ。
「う、う……なんで、俺、こんな所で寝てるんだ」
「あっつい……頭痛い」
「うぅ。なんか吐き気がする……」
「首、いてぇ。寝違えた」
「おぃ、空、空見ろよ、なんだアレ!」
「って、なんか変なのが水瓶持って、歩いているんだけど!」
「うわっ、こっち来た!え。あ、はい……すみません、御馳走になります」
「あのっ、お替り、頂いてもよろしいですか!あ、ありがとうございます」
地上は、そんな状態の中、上空の黒い螺旋は中央のほうから獣の形になり始めた。
水分を補給して、一息をつけた兵士達が悲鳴のような声を上げる。
中央の舞台上で、暑さにやられて、へたり込んでいた貴族達も恐怖で後退りして、後ろとぶつかったりしている。
「ネコだ!」
「うわっ黒猫?」
「でっかい!魔物か?」
「おぉ、可愛いニャァ~ン」そう言った一人の兵士は自分の隠しから小魚の干物を取り出して、空に向かって振る。
「……おい、お前なんだそれ」
「俺のオヤツニャァ、チチチ」一瞥もされていないが、兵士は嬉しそうだ。
同僚は「隊長!こいつ、暑さで頭やられてますっ!」と報告し、隊長が「通常どおりである!」と上空を見たままで答えている。
「おぉ~、おっきい!」パウパウは黒猫の顔に向けて手を振った。
「うにゃぁぁぁん」
黒い粒はズルリと首に前足に体にと纏っていき、最後にスルンと長い2本の尾が出来た。
空中であることを感じさせない動きで、前足を伸ばして、の~んと背中を伸ばしながら、クワリとアクビをし、後足を片方ずつピッ、ピッとした。
しなやかな、細身の体をした金目の黒猫だ。三角耳が大きい。
二俣尻尾を、ゆら~んゆら~んとさせている。
「うにゃぁぁぁん!──ウィカリアス帝国より、リヨスアルヴァ国への通──」
大きい黒猫は、エルフ貴族達が結界で覆われているのに気づいて、「うにゃっ!」と前足を振った。
パシャッン と音を立てて魔道人形さんが施した結界が破壊される。
「うにゃぁぁぁん!──ウィカリアス帝国より、リヨスアルヴァ国への通告である、拝聴せよ──」大事なことなので、ちゃんと言い直した。
賢い猫である。
「て、帝国が、我が国に何の用だというのだ」
汗だくのエルフ王が首元を緩めた姿で上空の猫に問う。
他の貴族と違って、それ位の度胸はあるらしい。
「にゃぁぁあおぅ──今をもって、ウィカリアス帝国はリヨスアルヴァ国との同盟を暫定的に破棄する。これは口頭通達であり、後程あらためて正式な同盟破棄通告書を使者が届けるものとする──」
「ハァ?馬鹿なことを言うなっ。そんな一方的な話、承諾できるかっ!」
「にゃぁっ──帝国はファトゥス=リヨスアルヴァが王である限り、リヨスアルヴァ国との同盟を破棄する。帝国はファトゥスを王と認めない──」
大黒猫の声は、ワァンと響き、空気を震わせて全体に届く。
もしかしたら、城壁都市内いっぱいに聞こえたかもしれなかった。
「ニャァ~ァァァ──よって帝国法に則り、今より、ウィカリアス帝国はリヨスアルヴァを国とは見なさぬ事とする──」
「お待ちください。使者様!帝国の慈悲を願います。民には何の罪咎はございません。どうか、民はお助けを願いします」
花畑のお茶会に遠慮がちに参加していたスリクタ宰相が、慌てたように立ち上がって、両ひざを付いて空に叫んだ。
「ミャアォウ~──リヨスアルヴァは国に非ず。そこに帝国の慈悲は届かない──」
最終通告が下された。
お仕事が終わったはずの黒猫は、なぜか空でコロンコロンと転がってみたり、腹天してみたりと猫度全開だ。
エルフ王は愕然とし、上級貴族達は縋りついて
「王よ、いかがしましょう?」
「どういう事ですか、王よ!」
「我らは、ハイエルフに名を連ねるのではなかったのですか、ファトゥス王よ!」
口々に騒ぎ、
「ふざけないでぇ!私の結婚はどうなるのよぉ!私はハイエルフの姫になって、全ての美の中心となるのにぃ‼」
静々姫は汗でドロドロに化粧が流れた顔で、いや、今、それどころじゃない的な事を叫ぶ。
「国にあらず……お、おい」
「なんでだよっ!なんで帝国が」
「俺たち、どうすればいいんだ……」
広場に動員されていた兵士達も、突然の帝国の通知に動揺を隠せない。
騒めきが、どんどん大きくなっていく。
兵士達は壇上の王達を見た。
皮肉なことに、今、王と上級貴族を守る形になっているのは、ハイエルフが遣わした魔道騎士だ。
広場の周りの建物に閉じこもっていた──もしかしたら、外出を禁止されていた──住民たちが声と騒ぎに我慢できなくなったようで、恐る恐ると窓や店の戸板を開けて外を覗きだす。
「帝国が、同盟国と認めないだけでなく、非国とされるとは……」
スリクタ宰相は顔色を無くして、震える声で呟いた。
【国に非ず】と帝国にみなされた地域は、誰の支配圏でもないとされる。
いくら住んでいる者達が自分の国だと声を上げても、帝国の法律では切り取り次第。
つまり、攻め込んだ者が好きに領地と出来るという、乱暴で迷惑で一方的な決まりなのだ。
今にも倒れそうな宰相と違って、ハイエルフとエルダードワーフは笑顔だ。
「よしっ、流石ばぁちゃん。ガルデン、ドワーフを助けに行けるぞ」
「グーリシェダ様、感謝をする」
ミッちゃんは、パウパウを見て小さく手を振った。
パウパウも行ってらっしゃいと手を振る。
「母上、ナーターラァの壱を護衛に置いて行きます。宰相、助けに行くから手伝って」
「いや、私は……」と、言い淀んだスリクタ宰相にグーリシェダが笑って言う。
「悪いようにはせぬ。我らに手を貸しておくれ」
貴人に言われたスリクタ宰相に断る術はなく、言われるままにマールジェド達と一緒に転移でドワーフの救出に向かった。
「ねぇ、グー姉様?どうしてエルフは、ドワーフを嫌いなのかな?」
パウパウは帝都の温室で、ガルデンの工房のドワーフ達にも会ったことがある。
みんな、働き者で、カッコイイ物を作ったり治したり出来る、心根の真っすぐな職人達だった。
彼らの何処に嫌われる要素があるのか、パウパウには分からない。
「あれらはのぅ」
グーリシェダは、眉を顰めて舞台上のエルフ達を見た。
「多分、自分達だけが大好きなのじゃ。だが、ハイエルフになりたいらしいから、エルフを嫌いなのかもしれんの」
ん?、よく分からなくてパウパウは首を傾げた。
「これは、わしの勝手な想像じゃがな……ドワーフ族には上位種族として、ガルデン殿のようなエルダードワーフがおるじゃろ?彼らは、何か事があったときには、今回のように導き手となる者なのだよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃぁガルデンって偉い人なの?」
「偉いというより、ドワーフ族の責任を負う立場の男じゃな」
ふぅん……、それとエルフのドワーフ嫌いは、どう繋がるんだろう?と思っていると、溜息を吐いたグーリシェダが言葉を継いだ。
「わしらハイエルフはのぅ、エルフとは全く関係のない一族なのだ。ドワーフとエルダードワーフの成り立ちとは違う。」
「え!そうなの?」一応、耳が長いので種族的には近いのかと思っていたパウパウは驚いた。
ミッちゃんが、『全然違う』とか『見たら分かる』って言っていたのを思い出す。
「うむ。昔からエルフ族には伝えていたのだがな。頑なに信じようとはせんでな。仕舞にはハイエルフは、エルダードワーフのように導く者であるべきだ、などと言い出す始末よ。何かに祈ろうと、何をしようと、ハイエルフになんぞ成れないのにの……」
グーリシェダは、心底ゲンナリした顔でお茶を口にする。
「耳が長いだけで、血脈だと言われてものぅ。それならウサギも親戚じゃ。うむ、ウサギの方がマシじゃな。我らをダシに使わないだけ」
「でも、それって嫉妬と、八つ当たりってヤツだよね?ドワーフさん達、関係ないよね」
「何故か、あやつらは自分が一番偉いと思っておるからの。我らからすれば大して魔法も上手くない、耳が長いだけの長命種の人族なのだがのぅ」
グーリシェダは、本当に理解不能だというように首を振った。
……もしかしたら、ハイエルフとは関係がないと信じたくなかったんじゃないか、とパウパウは思う。
美しく優れた種族の血脈だと、思っていたかったから、思い込んだ。
ハイエルフが華々しければ、華々しいほど、同じ血脈の自分達も素晴らしいと考える。
(なんだっけ……推してるうちに、自分が本人になっちゃうの……ギジシャカイテキカンケー?)
パウパウはテーブルに肘を付けて、頬杖をついた。
長い年月、思い込みを土台にして立った選民思想の塔、それがエルフの矜持だとしたら……
「ねぇ、グー姉様、あんまり、可哀そうなことにならないといいなぁ」
パウパウの呟きにグーリシェダは微笑んで
「出来るだけ、そうならんようにするからの」と、頭を撫ぜてくれた。
「あのね、グー姉様、エルフの王様たちってね──」
もしかしたらの前世の事例をパウパウが語ったところ、グーリシェダは難しい顔をして、しばし黙り込んだ。
弾け飛んで、小さな黒い点が大量に現れる。
地上から見上げる目には、鳥か蝙蝠の大群が、渦を巻いているように見える。
声も、羽ばたきの音もしないのが不思議だが。
「ほら、精霊猫だよ」ミッちゃんがパウパウに声を掛けた。
「え?ネコ?あのツブツブ、全部ネコなの?」
芥子粒の一つ一つがネコなのか。空を飛べるのは精霊だからなのか。
想像だにしない出来事に、パウパウは口を半開きで上を眺めるばかりだ。
(あ!そうだ)口を開けて見ている場合じゃなかったと、パウパウは思い出して ”兵士たちの意識が戻るよう”にお願いをした。
「おや、パウパウ、起こすのかい?」
「うん。こんな凄いのを見たら、兵隊さん、戦う気が無くなるかもって思うの」
あとは、ヘルメットを被った人が多いので、お水を飲まないとダメだと思ったのだ。
(ネッチューショータイサク)
妙なところで、異世界の知識が出てくるのである。
「からくりさん、兵隊さん達に、お水、飲ませてあげて欲しいの」
(ケーコーホスイエキ……)
本当は、塩とか柑橘の果汁を混ぜたほうがいいのだろうが、詳しい事はパウパウには分からないから、とりあえず水だ。
「魔道人形、パウ坊の望むように。回復薬を混ぜてやればよい」
「畏まりました。ナーターラァ2機に、手伝わせても?」
「好きにせよ、ナーターラァ壱と伍、魔道人形の手伝いをするように」
魔道人形さんは一礼をすると、収納から出した大きな水瓶をナーターラァに2つずつ持たせた。
自分も両手に1本ずつ水瓶を持って給水するべく、広場の縁でざわざわしている兵士の元を周り始める。
空には黒いツブツブが渦を巻いており、自分達は意識を刈り取られていた為に経緯が理解できず、訳が分からない兵士達だ。
「う、う……なんで、俺、こんな所で寝てるんだ」
「あっつい……頭痛い」
「うぅ。なんか吐き気がする……」
「首、いてぇ。寝違えた」
「おぃ、空、空見ろよ、なんだアレ!」
「って、なんか変なのが水瓶持って、歩いているんだけど!」
「うわっ、こっち来た!え。あ、はい……すみません、御馳走になります」
「あのっ、お替り、頂いてもよろしいですか!あ、ありがとうございます」
地上は、そんな状態の中、上空の黒い螺旋は中央のほうから獣の形になり始めた。
水分を補給して、一息をつけた兵士達が悲鳴のような声を上げる。
中央の舞台上で、暑さにやられて、へたり込んでいた貴族達も恐怖で後退りして、後ろとぶつかったりしている。
「ネコだ!」
「うわっ黒猫?」
「でっかい!魔物か?」
「おぉ、可愛いニャァ~ン」そう言った一人の兵士は自分の隠しから小魚の干物を取り出して、空に向かって振る。
「……おい、お前なんだそれ」
「俺のオヤツニャァ、チチチ」一瞥もされていないが、兵士は嬉しそうだ。
同僚は「隊長!こいつ、暑さで頭やられてますっ!」と報告し、隊長が「通常どおりである!」と上空を見たままで答えている。
「おぉ~、おっきい!」パウパウは黒猫の顔に向けて手を振った。
「うにゃぁぁぁん」
黒い粒はズルリと首に前足に体にと纏っていき、最後にスルンと長い2本の尾が出来た。
空中であることを感じさせない動きで、前足を伸ばして、の~んと背中を伸ばしながら、クワリとアクビをし、後足を片方ずつピッ、ピッとした。
しなやかな、細身の体をした金目の黒猫だ。三角耳が大きい。
二俣尻尾を、ゆら~んゆら~んとさせている。
「うにゃぁぁぁん!──ウィカリアス帝国より、リヨスアルヴァ国への通──」
大きい黒猫は、エルフ貴族達が結界で覆われているのに気づいて、「うにゃっ!」と前足を振った。
パシャッン と音を立てて魔道人形さんが施した結界が破壊される。
「うにゃぁぁぁん!──ウィカリアス帝国より、リヨスアルヴァ国への通告である、拝聴せよ──」大事なことなので、ちゃんと言い直した。
賢い猫である。
「て、帝国が、我が国に何の用だというのだ」
汗だくのエルフ王が首元を緩めた姿で上空の猫に問う。
他の貴族と違って、それ位の度胸はあるらしい。
「にゃぁぁあおぅ──今をもって、ウィカリアス帝国はリヨスアルヴァ国との同盟を暫定的に破棄する。これは口頭通達であり、後程あらためて正式な同盟破棄通告書を使者が届けるものとする──」
「ハァ?馬鹿なことを言うなっ。そんな一方的な話、承諾できるかっ!」
「にゃぁっ──帝国はファトゥス=リヨスアルヴァが王である限り、リヨスアルヴァ国との同盟を破棄する。帝国はファトゥスを王と認めない──」
大黒猫の声は、ワァンと響き、空気を震わせて全体に届く。
もしかしたら、城壁都市内いっぱいに聞こえたかもしれなかった。
「ニャァ~ァァァ──よって帝国法に則り、今より、ウィカリアス帝国はリヨスアルヴァを国とは見なさぬ事とする──」
「お待ちください。使者様!帝国の慈悲を願います。民には何の罪咎はございません。どうか、民はお助けを願いします」
花畑のお茶会に遠慮がちに参加していたスリクタ宰相が、慌てたように立ち上がって、両ひざを付いて空に叫んだ。
「ミャアォウ~──リヨスアルヴァは国に非ず。そこに帝国の慈悲は届かない──」
最終通告が下された。
お仕事が終わったはずの黒猫は、なぜか空でコロンコロンと転がってみたり、腹天してみたりと猫度全開だ。
エルフ王は愕然とし、上級貴族達は縋りついて
「王よ、いかがしましょう?」
「どういう事ですか、王よ!」
「我らは、ハイエルフに名を連ねるのではなかったのですか、ファトゥス王よ!」
口々に騒ぎ、
「ふざけないでぇ!私の結婚はどうなるのよぉ!私はハイエルフの姫になって、全ての美の中心となるのにぃ‼」
静々姫は汗でドロドロに化粧が流れた顔で、いや、今、それどころじゃない的な事を叫ぶ。
「国にあらず……お、おい」
「なんでだよっ!なんで帝国が」
「俺たち、どうすればいいんだ……」
広場に動員されていた兵士達も、突然の帝国の通知に動揺を隠せない。
騒めきが、どんどん大きくなっていく。
兵士達は壇上の王達を見た。
皮肉なことに、今、王と上級貴族を守る形になっているのは、ハイエルフが遣わした魔道騎士だ。
広場の周りの建物に閉じこもっていた──もしかしたら、外出を禁止されていた──住民たちが声と騒ぎに我慢できなくなったようで、恐る恐ると窓や店の戸板を開けて外を覗きだす。
「帝国が、同盟国と認めないだけでなく、非国とされるとは……」
スリクタ宰相は顔色を無くして、震える声で呟いた。
【国に非ず】と帝国にみなされた地域は、誰の支配圏でもないとされる。
いくら住んでいる者達が自分の国だと声を上げても、帝国の法律では切り取り次第。
つまり、攻め込んだ者が好きに領地と出来るという、乱暴で迷惑で一方的な決まりなのだ。
今にも倒れそうな宰相と違って、ハイエルフとエルダードワーフは笑顔だ。
「よしっ、流石ばぁちゃん。ガルデン、ドワーフを助けに行けるぞ」
「グーリシェダ様、感謝をする」
ミッちゃんは、パウパウを見て小さく手を振った。
パウパウも行ってらっしゃいと手を振る。
「母上、ナーターラァの壱を護衛に置いて行きます。宰相、助けに行くから手伝って」
「いや、私は……」と、言い淀んだスリクタ宰相にグーリシェダが笑って言う。
「悪いようにはせぬ。我らに手を貸しておくれ」
貴人に言われたスリクタ宰相に断る術はなく、言われるままにマールジェド達と一緒に転移でドワーフの救出に向かった。
「ねぇ、グー姉様?どうしてエルフは、ドワーフを嫌いなのかな?」
パウパウは帝都の温室で、ガルデンの工房のドワーフ達にも会ったことがある。
みんな、働き者で、カッコイイ物を作ったり治したり出来る、心根の真っすぐな職人達だった。
彼らの何処に嫌われる要素があるのか、パウパウには分からない。
「あれらはのぅ」
グーリシェダは、眉を顰めて舞台上のエルフ達を見た。
「多分、自分達だけが大好きなのじゃ。だが、ハイエルフになりたいらしいから、エルフを嫌いなのかもしれんの」
ん?、よく分からなくてパウパウは首を傾げた。
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「へぇ、そうなんだ。じゃぁガルデンって偉い人なの?」
「偉いというより、ドワーフ族の責任を負う立場の男じゃな」
ふぅん……、それとエルフのドワーフ嫌いは、どう繋がるんだろう?と思っていると、溜息を吐いたグーリシェダが言葉を継いだ。
「わしらハイエルフはのぅ、エルフとは全く関係のない一族なのだ。ドワーフとエルダードワーフの成り立ちとは違う。」
「え!そうなの?」一応、耳が長いので種族的には近いのかと思っていたパウパウは驚いた。
ミッちゃんが、『全然違う』とか『見たら分かる』って言っていたのを思い出す。
「うむ。昔からエルフ族には伝えていたのだがな。頑なに信じようとはせんでな。仕舞にはハイエルフは、エルダードワーフのように導く者であるべきだ、などと言い出す始末よ。何かに祈ろうと、何をしようと、ハイエルフになんぞ成れないのにの……」
グーリシェダは、心底ゲンナリした顔でお茶を口にする。
「耳が長いだけで、血脈だと言われてものぅ。それならウサギも親戚じゃ。うむ、ウサギの方がマシじゃな。我らをダシに使わないだけ」
「でも、それって嫉妬と、八つ当たりってヤツだよね?ドワーフさん達、関係ないよね」
「何故か、あやつらは自分が一番偉いと思っておるからの。我らからすれば大して魔法も上手くない、耳が長いだけの長命種の人族なのだがのぅ」
グーリシェダは、本当に理解不能だというように首を振った。
……もしかしたら、ハイエルフとは関係がないと信じたくなかったんじゃないか、とパウパウは思う。
美しく優れた種族の血脈だと、思っていたかったから、思い込んだ。
ハイエルフが華々しければ、華々しいほど、同じ血脈の自分達も素晴らしいと考える。
(なんだっけ……推してるうちに、自分が本人になっちゃうの……ギジシャカイテキカンケー?)
パウパウはテーブルに肘を付けて、頬杖をついた。
長い年月、思い込みを土台にして立った選民思想の塔、それがエルフの矜持だとしたら……
「ねぇ、グー姉様、あんまり、可哀そうなことにならないといいなぁ」
パウパウの呟きにグーリシェダは微笑んで
「出来るだけ、そうならんようにするからの」と、頭を撫ぜてくれた。
「あのね、グー姉様、エルフの王様たちってね──」
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