パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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76.パウパウの夏とタガメ探し 14

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  ガルデンは、すっかり元に戻ってしまったモジャモジャ頭をバリバリやって
「あ~!なんで先に言われちまうかな!」
 そうブツブツ言いながら腰の収納袋を、ゴソゴソして飾り気のない荒い織の小さな袋を取り出した。

「……作りたいモンがあってよ……だが、出来上がるのは、まだ先なんだわ」
 ぶっきらぼうに言う顔が、赤くなっている。
 髭のせいで、目立たないけれど。

「開けても?」

 頷いたガルデンを見て、マールジェドは袋の中身を手のひらに開けた。
 コロリ、コロリと見事な蒼玉そうぎょくが2つ。

「あ~、マールの眼に似た良い石が見つからなくて、まだ、これだけだ」
 赤らんだ顔に苦笑を浮かべてガルデンが呟いた。
「……うん」
 グソクムシバティノムの魔道具が消えた。

「ちゃんと出来上がったら、俺から言おうと思ってた」
「うん」
 銀色の蜘蛛が消えた。

「あ~その、ちゃんと腕輪が出来たら……貰ってくれるか?」
 マールジェドがコクコクと頷く。
 走り回るムカデロプレウが消えた。

 固唾をのんで見守っていたドワーフ達は大型魔道具が消えて残念そうに溜息を吐いた。


 だが、まだカニのマスゲームが続いている。
 一糸乱れぬ隊列はハサミを上下させて、縦横斜めに動き幾何学模様を描いている。
 きっと上の猫なら、奇麗な模様の変化を見られるだろう。

「いいから、ともかく、あのカニどもを片付けよ、猫が飛び掛かる気まんまんじゃ!」
「ばぁちゃん、精霊猫の帰還は出来ないのか⁈」
「まだ、仕事を果たしておらんから無理じゃ。あ奴らは、仕事終わりの御褒美をもらうまで帰らん」
(なんで、そこだけネコの性格してないの?……精霊猫)パウパウは首を傾げる。

 本当にマズイ状態なのだ。
 だが、ガルデンに早くしろ!と急かすわけにも行かない。ヒトの恋路の邪魔はできない。ミッちゃんはヤキモキする。
(叔父上、なぜ最初にカニ軍団を帰さないんだっ!)


「……あのな、マールよ、俺は色々あって 身一つで生きてきた。エルダードワーフってもよ、ハイエルフみてぇに立派な財産も持っていないし、何も継いでない男だ……でもな」
 マールジェドは頷いた。

  ガルデンが古竜騒乱の後始末で、名も何もかも全てを捨てて国を飛び出したことを──甥を庇っての行動を──マールジェドもハイエルフ達も知っている。

 カニの三分の一がパッと消えて、ネコは頭を上げて、不思議そうに首を傾げた。
 よし!時間は稼げた。

(なんで分割収納してるの叔父上~!)

「それでも、マール。……俺と、俺と一緒に居てくれるか」
 照れ臭そうに顔を赤くして、マールジェドの顔を見られないで横を向いたガルデンが呟く。
 
 また、カニが三分の一、消えた。
 ネコは前足をゾリゾリ舐めている。よしよし、何とかなりそうだと、ミッちゃんもグーリシェダも息を吐いた。

「俺は、お前が……
 ネコがカッと目を見開いた。
「ウニャァっ!

「今かぁ!」「こらネコ、空気読めよ」「ネコめ!良いところを邪魔すんなぁ」
 ドワーフ達が空に向かって文句を言う。
 救い主、エルダードワーフの、多分、一世一代の告白だってぇのに!
 ミッちゃんも、ドワーフ達と気持ちは同じなのは内緒だ。
 実はパウパウもドキドキしながら見守っていたので、良いところでCMが入った!と思い、CM?と内心で首を傾げていたのは内緒だ。

「にゃぁぁぁぁぁぁ──ウィカリアス帝国より、非国リヨスアルヴァへこれより使者が渡る。ウィカリアス帝国より、非国リヨスアルヴァへこれより使者が渡る」

「ミッちゃん、ミッちゃん。あのね、あっちで倒れてるヒトたち、助けてあげて」
「あ、あぁ、そうだね」
 傍に居た魔道人形からくりさんが、もう一機ひとりを連れて、脇道へと入って行く。
 先ほどの阿鼻叫喚で、転んだり将棋倒しになった怪我人を救助しに行ってくれたのだ。
 パウパウは(なにか、探査とかで怪我した人が分かるのかな?)と思ったら

「どなたか、怪我をされた方は おられますか」と魔道人形からくりさんが声を上げていた。
 意外とアナログだった。

「ありがと、ミッちゃん」
「いや、私こそ気配り出来なかったから、助かったよ。ありがとうパウパウ」
 実はパウパウも、ガルデンとマールのやり取りに目を奪われていたので、怪我を負った人たちに少しゴメンなさいの気持ちである。

「さて、来るようじゃ」
 グーリシェダが広場の一点を指差す。

 何故かカニ達が一か所に集まると円を描いた。
(ピッチャーマウンドみたい?……ピッチャー?マウンド??)

 丁度、パウパウの花畑とエルフ達が倒れ込んでいる舞台の間だ。
 その円が光る。
 まるでアギーさんの転移のようだ。

 周りのカニ達がグルグルとダンスを踊るように回っている。
 ひときわ明るく輝いた光が徐々に収まると、そこには一人の老人が立っていた。

 足元のカニがハサミを上下にさせている。
 バンザーイ!バンザーイ!と聞こえる気がしてくるから不思議だ。

「ニャオォン!──傾注せよ、ウィカリアス帝国  エ・グーシェ・ネシーン=ウィカリアスである──」

 櫨染はじぞめ色のコットに深い瑠璃紺るりこんのジレを合わせている。頭のシェブロンターバンは漆黒だ。
 手にした飾りのないゴツゴツした瘤のある大きな杖が、魔法使いの杖のようだ。
 一見すると、優し気な表情の老人である。

 誰も声を出すことは出来ずにいた。
 先ほどまでの阿鼻叫喚が嘘のように、広場は静まり返った。
 前帝の足元でハサミをバンザイ!バンザイ!し続けるカニだけが、動いている。
 マールちゃんはカニを止めるべきだとパウパウは思う。

 他国とはいえども帝国の前帝であるので、皆が膝を付いて頭を下げた。
 ドワーフ達も投げ出した足を精一杯に曲げて礼を取る。

 その中で、拝礼をせずに立っていたのはハイエルフとエルダードワーフだけだった。
「お、おぃ、マール」
 流石のガルデンも不味いと思い、膝を付こうとするがマールジェドが腕を掴んで離さない。

 ミッちゃんはパウパウを抱き上げたままで、立っており、グーリシェダに至っては席に着いたままだ。

 前帝はハイエルフ達にちらりと目をやり、舞台の上で倒れ伏した王達を見やる。
 上級貴族の数人が、前帝に対して膝を付いたのに頷くと、
「この見苦しいエルフ達を起こしてはくれぬか」と誰にともなく告げた。

「ミッちゃん。あのエルフさん達ねぇ」
 出来るだけ小さな声でパウパウが、ハイエルフの耳元で話しかける。

「うん?あの意識があった上級貴族かい?」
「うん。あの人たちだけ、壇の上で宰相さんのこと、笑ってなかったよ」
「そっかぁ……」
 
 呟いたミッちゃんが、舞台の登り口で待機している魔道騎士タフティータに指示した。
「タフティータの壱、檀上で拝礼しているエルフの方々を、壇より降ろして差し上げろ、タフティータの弐は合図をしたら残りを起こせ」

「ほぅ、そうなのかえ?……マールよ」
 グーリシェダの声に頷いたマールジェドが、人差し指を掲げると金色の蜂が集まって来る。

「ガルデン、これから私、少し無防備になりますので、支えていて下さい」
 何がどうなるのか想像もつかないが、言われた通りにガルデンはマールジェドの腰に手を廻して、抱き寄せた。
「うう……気が散ってしまいそうです……」
 赤い顔をしながらも、マールジェドは8の字に飛び回る魔道具に目を向ける。

「ミッちゃん、マールちゃんは何しているの?」
「うん?調して、拾ってきた画像や情報をんだ」
「へ?」
 飛び回る魔道具は50機ほど。
 その情報を同時に処理していると、こともなげに言うミッちゃんにも、それが出来るマールジェドにも驚くしかない。

(それって、ヒトが出来ることなの?)

 ガルデンに寄りかかり、虚ろな目をしたマールジェドを見つめる。

 やがてマールジェドの青い瞳に意志の光が戻り、うん、と頷いた。
「パウちゃんの言ったとおりね。下級貴族と、あの四人は王達の愚行に顔をしかめていたわ」

「そうか、ウルジェド。取りこぼしはない。よいぞ」
「タフティータの弐、エルフを起こせ」

 ミッちゃんの指示を受けた魔道騎士が長く伸びたワイヤーの先端から舞台全体にパシリと雷撃を浴びせた。
「う……」「ああ?……」小さく声がして、数人が目を覚ましたようだ。

 またパシンッと、先ほどよりも強めの雷撃が舞台上全体に伝わった。
「ぎゃ!」「う゛っ!」「いだっ‼」「キャァ!」
 目を覚ましたエルフ達の声が、どんどん大きくなっていく。

 下馬をした魔道騎士タフティータの壱は四人の上級貴族を壇上から降ろすと、下級貴族達の一団へと案内していた。
 駆け寄って行く下級貴族や頭を下げる者などが多く居るので、人望があるのかもしれない。と、パウパウは思った。

「こ、これは、何事だっ!そ、そなたは何者じゃっ」
 貴方あなた、魔道具を見て泡を吹いて倒れてましたよと、誰か伝えてやれ。
 いや、それよりも、国の命運が掛かっている事を分かっていないのか。
 ファトゥス王の、余りの残念っぷりにハイエルフ達は失笑するしかない。

「この色をまとえる者が、どういう身分かも分からないとは、困ったものだね……さて」
 エ・グーシェ前帝が通達書を出そうとした時に、魔道騎士タフティータ達が警護するように左右に立った。
「ありがとう、守護者。では、始めようか」

 手にした大きな杖から、引き出す様に獣皮紙を取り出して、それを壇上のエルフ王に見えるように前に突き出す。
 とはいっても、あちらは壇上なので実際は形だけの儀式である。

「これより私が読み上げるは、ウィカリアス帝国とリヨスアルヴァ国の同盟を破棄するという通達文書である。すでに精霊猫を通じて伝えているが、帝国法にのっとり正式に書面にて伝えるとともに、この取り決めを保存するものである。」

 そう言って、前帝は公式の通達書を読み上げ始めた。
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