パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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79.パウパウの夏とタガメ探し 17

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「いつ……」
 そうだ。エルフ達は、を夢見ていたのだ。
 至高の存在、ハイエルフに成れる日を夢見て、夢見て……?

「ねぇ、教えて。どうやって成るの?」
 澄んだ声が追い打ちを掛ける。

 どうやって?そうだ、どうやって成るというのだろう。
「そ、それは、誰かの子がハイエル…フとして生まれて……?」
「いや、ある日、突然……」

(それ、なんてラノベ?)とパウパウは思った事に蓋をする。

「んっと、それならオジサン達はエルフ族のままだよね?もし生まれてきたのがのハイエルフでも、オジサン達には。エルフのままだよね」
「関係ない?」
 誰かが呟いた声が響いた。

「なれない……」「ハイエルフとは関係ない?」

 愕然とした顔をするエルフ達を見たグーリシェダは、どうして、ここまで思い込めたのかと、いっそ憐れに思う。
 情けを掛ける気持ちは全く無いが。

「じゃあ、尊きハイエルフに成れない、ただのエルフ族がドワーフ族を虐めるのはダメじゃない?」
 パウパウが言葉を続けた。
「だって、エルフは偉くないって、ハイエルフが
「黙れ!黙れ!生まれたのだっ!ハイエルフの色を持った赤子が王家に!」

 悲鳴のようなファトゥスの声がパウパウの言葉をさえぎる。

「ふぅん。その赤ちゃんは、どうしたの?」
「な、何代か前の王子だったが、銀髪だったと言われておる!……すぐにご逝去されたが」

「ホントかなぁ?赤ちゃんの髪の色なんて変わるし……色が近いだけじゃあ……」
 小さな人差し指を、小さな唇に当てて、ちょっと小首を傾げたパウパウが言う。

まことの話だ!その後も一人、銀の髪の子供は生まれておる……そ、それは死産だったそうだが」
「…ふぅん」

 あおってる。
 あおりまくっている。
 この子は、”お呪い”だけでなく、多分、前世の知識や記憶を使いこなしつつある。と、ハイエルフ達は思う。
 通常は、本当に碌な知識が出てこないのを、ハイエルフの面々は当然、知らない。

「もしかしたら、ハイエルフに近いと思わせるためしたのやも知れんのぅ」
 その言葉にエルフの貴族はハッとし、王は、ぶるぶると握った拳を震わせた。
「ちがう、本当に……」小さく動く口元から漏れる言葉が弱弱しい。

 グーリシェダの言葉にコクリとパウパウは頷く。
 事実はどうあれ、そんな事に使われた赤ちゃんが可哀そうだ。と、ギュっと目をつむったら、ミッちゃんが何も言わずに抱き上げてくれた。
「ミッちゃん……」

「うん。頑張ったねパウパウ」耳元で、そう囁かれて、ホウと息を吐く。
 ミッちゃんは、肩に頭を寄せた子供を撫ぜながら、知らずに口角が上がる。
(うん。パウパウを切っ掛けにして、エルフ達の思い込みに揺らぎが出た)

 罪を償うのなら、自分達が行った事が悪い事なのだと、きちんと認識して欲しいと、ハイエルフは思う。

「ぼく、怒ってたから、いっぱい話たの」
「怒ってたの?」
「だってドワーフさん達、何もしてないのに、エルフ達ひどい事したから……」
「……そうか、偉かったよ」


 不信と不安と、足元が崩れそうな予感に狼狽えたエルフの貴族達はファトゥスにすがるような目を向けた。
 元々、王家が上位種族ハイエルフになれると長年、言い続けてきたのだ。

「お、お前達は、我が王家の知るハイエルフでは無いわ!我らの至高の存在は、
「まぁ至高の存在なら、尚の事、他の種族を見下げたりはしねぇだろうよ」

 それまで黙って聞いていたガルデンが、ゆらりと立ち上がる。
「お、お前、誰に向かって」
「誰って、ただの平民?いや、国もないのだからにだぁな」
 
だと?」
 ガルデンはモジャモジャ頭をバリバリする。

「その長耳は飾りか?お前らは流人だよ。帝国は非国としたんだろ?お前たちは、もう王でも貴族でもないな。さっき前帝陛下が読み上げて下さったろうに」

「な、なら、あれらも、あのドワーフ族も流人だ!国を捨てて旅をしていたんだからなっ」
(ハァ……なにが何でも、ドワーフを不遇にしたいってぇのかよ、こいつら、胸糞わりぃな)
 ガルデンは苦虫を嚙み潰したような顔をした。

「エルダードワーフのガルデン大匠たいしょうが保護した時点で、彼らは皆、帝国民と見做みなされますので、ご心配めさるな」
 インテゲル宰相がとても丁寧にファトゥスに告げた。

「ひとつだけ、元リヨスアルヴァの王侯貴族に問いたいのだが……」
 ガルデンは前帝をチラリと見る。
 エ・グーシェ前帝は、頷いた。

何故なにゆえ、ドワーフ族を下に見る?なぜかが、ドワーフ族を卑下する。ずっと昔からだ」
 怒りでも憎しみでもない、静かに知りたいという瞳でガルデンは壇上のエルフ達を見つめた。
「教えてくれないか?何故、お前達がドワーフをいとう」

「確かにの……」グーリシェダが呟いた。
 他の国にもエルフは居る。エルフの集落もある。
 だが、ここまで狂的にハイエルフに幻想を求めたりはしないし、ドワーフを嫌うこともない。
 何故か、この国のエルフだけが、こうなのだ。

「わしも問おう。何故、そうまで我らハイエルフに執着をするのか」
 壇上のエルフ達が、ハイエルフに初めて声を掛けられた事で両膝を付いて拝礼をした。

 たとえ、偽のハイエルフだと口で糾弾しても、目にしてしまえば彼らこそが唯一無二の存在だと思わせる、圧倒的な上位種族の気配の前には膝を付くしかなかったのだ。
 それは異常な振舞にしかグーリシェダには見えない。
 何故、この国のエルフだけが、こうなのだろう。

「何故、我らに執着をするのか」
「何故、俺たちを見下すのだ」
 答えよと立つ二人の上位種に、壇上の王は目を泳がせて、

「おっしゃった……」と、かすれた声を無理やりに出した。
 整っていた筈の顔は酷く歪んで見る影もなく、唇が小さく震えている。

「……仰ったではありませんか!がっ。言う通りにしたならと仰ったのだっ!我々エルフ族の第三代国王に、約束されたではありませんか!」

「……王?」「何を仰って……」「どうなさったのです」周りのエルフ達はオロオロとするばかりだ。

 ファトゥスは充血させた目を見開いて、口から唾を飛ばしながら叫んだ。

「は?」グーリシェダは、訳の分からない事を言い始めたエルフに首を振る。

「王家の記録にも残っております、そのが。ハイエルフとのです。がしたんだ。リヨスアルヴァ王家と!他言無用のだと……仰ったのは貴男様ではないですか!それを我ら王家は守って、守って……」
 ファトゥスは、がくりと両手をついて力なく項垂れた。

「言う通りにするとは、何の事かの?」
 沸き上がる嫌な予感を胸に抱えて、グーリシェダは尋ねる。

「わ、我が王家よりでしょうに!……魔力の多い自慢の子供を差し出せと仰ったのは貴男だ!記録に残っておりますとも!お、お忘れかぁぁぁぁぁぁああ‼」

 まるで、約束をした本人かの口ぶりで、気がれたように、泣き叫ぶ男にグーリシェダは眉を寄せた。

 お忘れも何も、そのような約束はしていないし、ファトゥスの言っているのはハイエルフのだ。

 だが、何故か心苦しそうにグーリシェダはマールジェドに指示をする。
「マールジェド、この周辺での過去の記録を知識庫アーカイブより探せ。検索項目はかの、ここ二千年辺りじゃ」
 そして、前帝の方を向いて会釈した。

「なんだか、きな臭い話になったねぇ。宰相、ここは公式の記録にしては駄目だよ」前帝の言葉にインテゲル宰相は頷く。
「そうなら、お恥ずかしい限りじゃ」
「でも、選んだのは彼らエルフ達だからねぇ」
 グーリシェダを気遣うような眼差しで前帝が言った言葉に息を吐いて
「わしの推察したとおりならば、流石に余りにも憐れでの」


 一方でグーリシェダに命じられたマールジェドは、
「ガルデン…あの、か、肩を借りたいから隣に座ってくれる?」
「お、おぅ。いいぞ」
 こんな時なのに、この二人だけフンワカ空間が広がるから不思議だ。

(リアジューバクハツシロ!)
 頭の中に謎の呪文が現れたので、今度、使とパウパウは思った。

「ウルジェド、ダイーナァを2機、わしの支配下に置く。召喚したら、お主は帰ってよいぞ。パウ坊のお昼が随分と遅うなったからの。お腹が減ったであろ?」
 グーリシェダに微笑まれて、空腹に気付いたパウパウはコクリと頷いた。

「……分かった。ダイーナァ壱と弐でいいんだな」
「何かあったら連絡を入れるので、これを持っていけ」
 手渡されたのはアレである。
 赤い小ガニだ。
 やぁ!と小さいハサミを挙げられて、力が抜ける。
(分かったから、挨拶を返すまで、やぁ!をするの止めてくれないかなぁ)仕方なく、小さな甲羅をチョンチョンすると大人しくなったので収納する。

 ダイーナァ系の魔道具は、呼び出すのにひと手間が必要だ。
 じゃぁ、と、ミッちゃんは、収納空間から承認用の突剣カギを取り出した。
「ミッちゃん?」
「うん。ギュってしていて、危ないからね」
 首にパウパウがしがみ付いたのを確認してからハイエルフは言葉を紡ぐ。

『音声確認。網膜確認。脳波確認。魔道具使用要請。使用機体ダイーナァ壱、ダイーナァ弐。武装全装備。指揮・命令者変更ウルジェド=ミ・チコ・カーンからグーリシェダ=ミ・チコ・オーズへ全権移譲』
(え、これ、ニホンゴだ!)小さな声で紡がれる声の響きが、何故か懐かしくパウパウは首にギュっとすがりついた。

 ミッちゃんは、銀色に黒と金の模様が入った突剣を頭上で掲げて、手首を廻すようにして円を描いた。
 ヒュンという音と共に、白い光の円環が現れたのを確認すると、手にした突剣カギの先を指定の場所に向ける。
 すると、頭上の円環が地面に移動し、ひときわ輝いて光が消えた後に、2機の魔道騎士が片膝を付いて控えていた。

「黒い魔道騎士…?」
「ダイーナァだよ」 
「ダイーナァ……」
 いつもなら、意味を教えてくれるミッちゃんは、微笑んで「そう」と頷くだけだ。

 見た目は魔道騎士ナーターラァの鎧姿に似ているが、兜はバルビュータ型なので、華やかさはない。
 Y字型に開いた空間から見える筈の単眼モノアイは見えずに真っ黒だ。

 一見すると伽藍洞がらんどうなのをパウパウが不思議に思っていると、チラと何かが動いたようなので、なにか特殊な加工で光が反射しないようになっているのかもしれない。

 魔道騎士に刻まれた装飾のような術式や陣も全く見えない。全身が鈍い黒一色。
 背には腰丈の黒のケープをまとい、尻尾のようなワイヤーが2本出ている。
 腰には黒い突剣と、逆側に短刀を差していた。

「じゃぁ、ばあちゃん。指揮権を渡す」
 ミッちゃんは、突剣カギの向きを変えてグーリシェダに渡すと、ガルデンとマールジェドに目をやる。
 ガルデンにもたれたマールジェドは、古い記録を片っ端から脳内で漁っているのだろう。
 少し眉間に皺が寄っていた。

 前帝に頭を小さく下げて、転移をする前にインテゲル宰相にドワーフ達への聞き取りを早めにして、休ませてほしいと頼んでから転移をした。

 
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