79 / 178
79.パウパウの夏とタガメ探し 17
しおりを挟む
「いつ……」
そうだ。エルフ達は、いつかを夢見ていたのだ。
至高の存在、ハイエルフに成れる日を夢見て、夢見て……?
「ねぇ、教えて。どうやって成るの?」
澄んだ声が追い打ちを掛ける。
どうやって?そうだ、どうやって成るというのだろう。
「そ、それは、誰かの子がハイエル…フとして生まれて……?」
「いや、ある日、突然……」
(それ、なんてラノベ?)とパウパウは思った事に蓋をする。
「んっと、それならオジサン達はエルフ族のままだよね?もし生まれてきたのが突然変異のハイエルフでも、オジサン達には関係ない。エルフのままだよね」
「関係ない?」
誰かが呟いた声が響いた。
「なれない……」「ハイエルフとは関係ない?」
愕然とした顔をするエルフ達を見たグーリシェダは、どうして、ここまで思い込めたのかと、いっそ憐れに思う。
情けを掛ける気持ちは全く無いが。
「じゃあ、尊きハイエルフに成れない、ただのエルフ族がドワーフ族を虐めるのはダメじゃない?」
パウパウが言葉を続けた。
「だって、エルフは偉くないって、ハイエルフが
「黙れ!黙れ!生まれたのだっ!ハイエルフの色を持った赤子が王家に!」
悲鳴のようなファトゥスの声がパウパウの言葉を遮る。
「ふぅん。その赤ちゃんは、どうしたの?」
「な、何代か前の王子だったが、銀髪だったと言われておる!……すぐにご逝去されたが」
「ホントかなぁ?赤ちゃんの髪の色なんて変わるし……色が近いだけじゃあ……」
小さな人差し指を、小さな唇に当てて、ちょっと小首を傾げたパウパウが言う。
「真の話だ!その後も一人、銀の髪の子供は生まれておる……そ、それは死産だったそうだが」
「…ふぅん」
煽ってる。
煽りまくっている。
この子は、”お呪い”だけでなく、多分、前世の知識や記憶を使いこなしつつある。と、ハイエルフ達は思う。
通常は、本当に碌な知識が出てこないのを、ハイエルフの面々は当然、知らない。
「もしかしたら、ハイエルフに近いと思わせるため王家が捏造したのやも知れんのぅ」
その言葉にエルフの貴族はハッとし、元王は、ぶるぶると握った拳を震わせた。
「ちがう、本当に……」小さく動く口元から漏れる言葉が弱弱しい。
グーリシェダの言葉にコクリとパウパウは頷く。
事実はどうあれ、そんな事に使われた赤ちゃんが可哀そうだ。と、ギュっと目を瞑ったら、ミッちゃんが何も言わずに抱き上げてくれた。
「ミッちゃん……」
「うん。頑張ったねパウパウ」耳元で、そう囁かれて、ホウと息を吐く。
ミッちゃんは、肩に頭を寄せた子供を撫ぜながら、知らずに口角が上がる。
(うん。パウパウを切っ掛けにして、エルフ達の思い込みに揺らぎが出た)
罪を償うのなら、自分達が行った事が悪い事なのだと、きちんと認識して欲しいと、ハイエルフは思う。
「ぼく、怒ってたから、いっぱい話たの」
「怒ってたの?」
「だってドワーフさん達、何もしてないのに、エルフ達ひどい事したから……」
「……そうか、偉かったよ」
不信と不安と、足元が崩れそうな予感に狼狽えたエルフの貴族達はファトゥスに縋るような目を向けた。
元々、王家が上位種族になれると長年、言い続けてきたのだ。
「お、お前達は、我が王家の知るハイエルフでは無いわ!我らの至高の存在は、あの方は
「まぁ至高の存在なら、尚の事、他の種族を見下げたりはしねぇだろうよ」
それまで黙って聞いていたガルデンが、ゆらりと立ち上がる。
「お、お前、誰に向かって」
「誰って、ただの平民?いや、国もないのだから流民のエルフにだぁな」
「るにんだと?」
ガルデンはモジャモジャ頭をバリバリする。
「その長耳は飾りか?お前らは流人だよ。帝国は非国としたんだろ?お前たちは、もう王でも貴族でもないな。さっき前帝陛下が読み上げて下さったろうに」
「な、なら、あれらも、あのドワーフ族も流人だ!国を捨てて旅をしていたんだからなっ」
(ハァ……なにが何でも、ドワーフを不遇にしたいってぇのかよ、こいつら、胸糞わりぃな)
ガルデンは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「エルダードワーフのガルデン大匠が保護した時点で、彼らは皆、帝国民と見做されますので、ご心配めさるな」
インテゲル宰相がとても丁寧にファトゥスに告げた。
「ひとつだけ、元リヨスアルヴァの王侯貴族に問いたいのだが……」
ガルデンは前帝をチラリと見る。
エ・グーシェ前帝は、頷いた。
「何故、ドワーフ族を下に見る?なぜかリヨスアルヴァのエルフ族だけが、ドワーフ族を卑下する。ずっと昔からだ」
怒りでも憎しみでもない、静かに知りたいという瞳でガルデンは壇上のエルフ達を見つめた。
「教えてくれないか?何故、お前達だけがドワーフを厭う」
「確かにの……」グーリシェダが呟いた。
他の国にもエルフは居る。エルフの集落もある。
だが、ここまで狂的にハイエルフに幻想を求めたりはしないし、ドワーフを嫌うこともない。
何故か、この国のエルフだけが、こうなのだ。
「わしも問おう。何故、そうまで我らハイエルフに執着をするのか」
壇上のエルフ達が、ハイエルフに初めて声を掛けられた事で両膝を付いて拝礼をした。
たとえ、偽のハイエルフだと口で糾弾しても、目にしてしまえば彼らこそが唯一無二の存在だと思わせる、圧倒的な上位種族の気配の前には膝を付くしかなかったのだ。
それは異常な振舞にしかグーリシェダには見えない。
何故、この国のエルフだけが、こうなのだろう。
「何故、我らに執着をするのか」
「何故、俺たちを見下すのだ」
答えよと立つ二人の上位種に、壇上の元王は目を泳がせて、
「おっしゃった……」と、かすれた声を無理やりに出した。
整っていた筈の顔は酷く歪んで見る影もなく、唇が小さく震えている。
「……仰ったではありませんか!貴男がっ。言う通りにしたならハイエルフに進化させてやると仰ったのだっ!我々エルフ族の第三代国王に、約束されたではありませんか!」
「……王?」「何を仰って……」「どうなさったのです」周りのエルフ達はオロオロとするばかりだ。
ファトゥスは充血させた目を見開いて、口から唾を飛ばしながらグーリシェダを指差して叫んだ。
「は?」グーリシェダは、訳の分からない事を言い始めたエルフに首を振る。
「王家の記録にも残っております、その約束が。ハイエルフとの約束です。貴男がしたんだ。リヨスアルヴァ王家と!他言無用の極秘の約束だと……仰ったのは貴男様ではないですか!それを我ら王家は守って、守って……」
ファトゥスは、がくりと両手をついて力なく項垂れた。
「言う通りにするとは、何の事かの?」
沸き上がる嫌な予感を胸に抱えて、グーリシェダは尋ねる。
「わ、我が王家より子供を三人、貴男へ差し出したでしょうに!……魔力の多い自慢の子供を差し出せと仰ったのは貴男だ!記録に残っておりますとも!お、お忘れかぁぁぁぁぁぁああ‼」
まるで、約束をした本人かの口ぶりで、気が触れたように、泣き叫ぶ男にグーリシェダは眉を寄せた。
お忘れも何も、そのような約束はしていないし、ファトゥスの言っているのはハイエルフの男性だ。
だが、何故か心苦しそうにグーリシェダはマールジェドに指示をする。
「マールジェド、この周辺での過去の記録を知識庫より探せ。検索項目は銀毛と異形かの、ここ二千年辺りじゃ」
そして、前帝の方を向いて会釈した。
「なんだか、きな臭い話になったねぇ。宰相、ここは公式の記録にしては駄目だよ」前帝の言葉にインテゲル宰相は頷く。
「そうなら、お恥ずかしい限りじゃ」
「でも、選んだのは彼らエルフ達だからねぇ」
グーリシェダを気遣うような眼差しで前帝が言った言葉に息を吐いて
「わしの推察したとおりならば、流石に余りにも憐れでの」
一方でグーリシェダに命じられたマールジェドは、
「ガルデン…あの、か、肩を借りたいから隣に座ってくれる?」
「お、おぅ。いいぞ」
こんな時なのに、この二人だけフンワカ空間が広がるから不思議だ。
(リアジューバクハツシロ!)
頭の中に謎の呪文が現れたので、今度、どこかで使ってみようとパウパウは思った。
「ウルジェド、ダイーナァを2機、わしの支配下に置く。召喚したら、お主は帰ってよいぞ。パウ坊のお昼が随分と遅うなったからの。お腹が減ったであろ?」
グーリシェダに微笑まれて、空腹に気付いたパウパウはコクリと頷いた。
「……分かった。ダイーナァ壱と弐でいいんだな」
「何かあったら連絡を入れるので、これを持っていけ」
手渡されたのはアレである。
赤い小ガニだ。
やぁ!と小さいハサミを挙げられて、力が抜ける。
(分かったから、挨拶を返すまで、やぁ!をするの止めてくれないかなぁ)仕方なく、小さな甲羅をチョンチョンすると大人しくなったので収納する。
ダイーナァ系の魔道具は、呼び出すのにひと手間が必要だ。
じゃぁ、と、ミッちゃんは、収納空間から承認用の突剣を取り出した。
「ミッちゃん?」
「うん。ギュってしていて、危ないからね」
首にパウパウがしがみ付いたのを確認してからハイエルフは言葉を紡ぐ。
『音声確認。網膜確認。脳波確認。魔道具使用要請。使用機体ダイーナァ壱、ダイーナァ弐。武装全装備。指揮・命令者変更ウルジェド=ミ・チコ・カーンからグーリシェダ=ミ・チコ・オーズへ全権移譲』
(え、これ、ニホンゴだ!)小さな声で紡がれる声の響きが、何故か懐かしくパウパウは首にギュっと縋りついた。
ミッちゃんは、銀色に黒と金の模様が入った突剣を頭上で掲げて、手首を廻すようにして円を描いた。
ヒュンという音と共に、白い光の円環が現れたのを確認すると、手にした突剣の先を指定の場所に向ける。
すると、頭上の円環が地面に移動し、ひときわ輝いて光が消えた後に、2機の魔道騎士が片膝を付いて控えていた。
「黒い魔道騎士…?」
「ダイーナァだよ」
「ダイーナァ……」
いつもなら、意味を教えてくれるミッちゃんは、微笑んで「そう」と頷くだけだ。
見た目は魔道騎士の鎧姿に似ているが、兜はバルビュータ型なので、華やかさはない。
Y字型に開いた空間から見える筈の単眼は見えずに真っ黒だ。
一見すると伽藍洞なのをパウパウが不思議に思っていると、チラと何かが動いたようなので、なにか特殊な加工で光が反射しないようになっているのかもしれない。
魔道騎士に刻まれた装飾のような術式や陣も全く見えない。全身が鈍い黒一色。
背には腰丈の黒のケープを纏い、尻尾のようなワイヤーが2本出ている。
腰には黒い突剣と、逆側に短刀を差していた。
「じゃぁ、ばあちゃん。指揮権を渡す」
ミッちゃんは、突剣の向きを変えてグーリシェダに渡すと、ガルデンとマールジェドに目をやる。
ガルデンに凭れたマールジェドは、古い記録を片っ端から脳内で漁っているのだろう。
少し眉間に皺が寄っていた。
前帝に頭を小さく下げて、転移をする前にインテゲル宰相にドワーフ達への聞き取りを早めにして、休ませてほしいと頼んでから転移をした。
これから起こる事をパウパウに見せないために。
そうだ。エルフ達は、いつかを夢見ていたのだ。
至高の存在、ハイエルフに成れる日を夢見て、夢見て……?
「ねぇ、教えて。どうやって成るの?」
澄んだ声が追い打ちを掛ける。
どうやって?そうだ、どうやって成るというのだろう。
「そ、それは、誰かの子がハイエル…フとして生まれて……?」
「いや、ある日、突然……」
(それ、なんてラノベ?)とパウパウは思った事に蓋をする。
「んっと、それならオジサン達はエルフ族のままだよね?もし生まれてきたのが突然変異のハイエルフでも、オジサン達には関係ない。エルフのままだよね」
「関係ない?」
誰かが呟いた声が響いた。
「なれない……」「ハイエルフとは関係ない?」
愕然とした顔をするエルフ達を見たグーリシェダは、どうして、ここまで思い込めたのかと、いっそ憐れに思う。
情けを掛ける気持ちは全く無いが。
「じゃあ、尊きハイエルフに成れない、ただのエルフ族がドワーフ族を虐めるのはダメじゃない?」
パウパウが言葉を続けた。
「だって、エルフは偉くないって、ハイエルフが
「黙れ!黙れ!生まれたのだっ!ハイエルフの色を持った赤子が王家に!」
悲鳴のようなファトゥスの声がパウパウの言葉を遮る。
「ふぅん。その赤ちゃんは、どうしたの?」
「な、何代か前の王子だったが、銀髪だったと言われておる!……すぐにご逝去されたが」
「ホントかなぁ?赤ちゃんの髪の色なんて変わるし……色が近いだけじゃあ……」
小さな人差し指を、小さな唇に当てて、ちょっと小首を傾げたパウパウが言う。
「真の話だ!その後も一人、銀の髪の子供は生まれておる……そ、それは死産だったそうだが」
「…ふぅん」
煽ってる。
煽りまくっている。
この子は、”お呪い”だけでなく、多分、前世の知識や記憶を使いこなしつつある。と、ハイエルフ達は思う。
通常は、本当に碌な知識が出てこないのを、ハイエルフの面々は当然、知らない。
「もしかしたら、ハイエルフに近いと思わせるため王家が捏造したのやも知れんのぅ」
その言葉にエルフの貴族はハッとし、元王は、ぶるぶると握った拳を震わせた。
「ちがう、本当に……」小さく動く口元から漏れる言葉が弱弱しい。
グーリシェダの言葉にコクリとパウパウは頷く。
事実はどうあれ、そんな事に使われた赤ちゃんが可哀そうだ。と、ギュっと目を瞑ったら、ミッちゃんが何も言わずに抱き上げてくれた。
「ミッちゃん……」
「うん。頑張ったねパウパウ」耳元で、そう囁かれて、ホウと息を吐く。
ミッちゃんは、肩に頭を寄せた子供を撫ぜながら、知らずに口角が上がる。
(うん。パウパウを切っ掛けにして、エルフ達の思い込みに揺らぎが出た)
罪を償うのなら、自分達が行った事が悪い事なのだと、きちんと認識して欲しいと、ハイエルフは思う。
「ぼく、怒ってたから、いっぱい話たの」
「怒ってたの?」
「だってドワーフさん達、何もしてないのに、エルフ達ひどい事したから……」
「……そうか、偉かったよ」
不信と不安と、足元が崩れそうな予感に狼狽えたエルフの貴族達はファトゥスに縋るような目を向けた。
元々、王家が上位種族になれると長年、言い続けてきたのだ。
「お、お前達は、我が王家の知るハイエルフでは無いわ!我らの至高の存在は、あの方は
「まぁ至高の存在なら、尚の事、他の種族を見下げたりはしねぇだろうよ」
それまで黙って聞いていたガルデンが、ゆらりと立ち上がる。
「お、お前、誰に向かって」
「誰って、ただの平民?いや、国もないのだから流民のエルフにだぁな」
「るにんだと?」
ガルデンはモジャモジャ頭をバリバリする。
「その長耳は飾りか?お前らは流人だよ。帝国は非国としたんだろ?お前たちは、もう王でも貴族でもないな。さっき前帝陛下が読み上げて下さったろうに」
「な、なら、あれらも、あのドワーフ族も流人だ!国を捨てて旅をしていたんだからなっ」
(ハァ……なにが何でも、ドワーフを不遇にしたいってぇのかよ、こいつら、胸糞わりぃな)
ガルデンは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「エルダードワーフのガルデン大匠が保護した時点で、彼らは皆、帝国民と見做されますので、ご心配めさるな」
インテゲル宰相がとても丁寧にファトゥスに告げた。
「ひとつだけ、元リヨスアルヴァの王侯貴族に問いたいのだが……」
ガルデンは前帝をチラリと見る。
エ・グーシェ前帝は、頷いた。
「何故、ドワーフ族を下に見る?なぜかリヨスアルヴァのエルフ族だけが、ドワーフ族を卑下する。ずっと昔からだ」
怒りでも憎しみでもない、静かに知りたいという瞳でガルデンは壇上のエルフ達を見つめた。
「教えてくれないか?何故、お前達だけがドワーフを厭う」
「確かにの……」グーリシェダが呟いた。
他の国にもエルフは居る。エルフの集落もある。
だが、ここまで狂的にハイエルフに幻想を求めたりはしないし、ドワーフを嫌うこともない。
何故か、この国のエルフだけが、こうなのだ。
「わしも問おう。何故、そうまで我らハイエルフに執着をするのか」
壇上のエルフ達が、ハイエルフに初めて声を掛けられた事で両膝を付いて拝礼をした。
たとえ、偽のハイエルフだと口で糾弾しても、目にしてしまえば彼らこそが唯一無二の存在だと思わせる、圧倒的な上位種族の気配の前には膝を付くしかなかったのだ。
それは異常な振舞にしかグーリシェダには見えない。
何故、この国のエルフだけが、こうなのだろう。
「何故、我らに執着をするのか」
「何故、俺たちを見下すのだ」
答えよと立つ二人の上位種に、壇上の元王は目を泳がせて、
「おっしゃった……」と、かすれた声を無理やりに出した。
整っていた筈の顔は酷く歪んで見る影もなく、唇が小さく震えている。
「……仰ったではありませんか!貴男がっ。言う通りにしたならハイエルフに進化させてやると仰ったのだっ!我々エルフ族の第三代国王に、約束されたではありませんか!」
「……王?」「何を仰って……」「どうなさったのです」周りのエルフ達はオロオロとするばかりだ。
ファトゥスは充血させた目を見開いて、口から唾を飛ばしながらグーリシェダを指差して叫んだ。
「は?」グーリシェダは、訳の分からない事を言い始めたエルフに首を振る。
「王家の記録にも残っております、その約束が。ハイエルフとの約束です。貴男がしたんだ。リヨスアルヴァ王家と!他言無用の極秘の約束だと……仰ったのは貴男様ではないですか!それを我ら王家は守って、守って……」
ファトゥスは、がくりと両手をついて力なく項垂れた。
「言う通りにするとは、何の事かの?」
沸き上がる嫌な予感を胸に抱えて、グーリシェダは尋ねる。
「わ、我が王家より子供を三人、貴男へ差し出したでしょうに!……魔力の多い自慢の子供を差し出せと仰ったのは貴男だ!記録に残っておりますとも!お、お忘れかぁぁぁぁぁぁああ‼」
まるで、約束をした本人かの口ぶりで、気が触れたように、泣き叫ぶ男にグーリシェダは眉を寄せた。
お忘れも何も、そのような約束はしていないし、ファトゥスの言っているのはハイエルフの男性だ。
だが、何故か心苦しそうにグーリシェダはマールジェドに指示をする。
「マールジェド、この周辺での過去の記録を知識庫より探せ。検索項目は銀毛と異形かの、ここ二千年辺りじゃ」
そして、前帝の方を向いて会釈した。
「なんだか、きな臭い話になったねぇ。宰相、ここは公式の記録にしては駄目だよ」前帝の言葉にインテゲル宰相は頷く。
「そうなら、お恥ずかしい限りじゃ」
「でも、選んだのは彼らエルフ達だからねぇ」
グーリシェダを気遣うような眼差しで前帝が言った言葉に息を吐いて
「わしの推察したとおりならば、流石に余りにも憐れでの」
一方でグーリシェダに命じられたマールジェドは、
「ガルデン…あの、か、肩を借りたいから隣に座ってくれる?」
「お、おぅ。いいぞ」
こんな時なのに、この二人だけフンワカ空間が広がるから不思議だ。
(リアジューバクハツシロ!)
頭の中に謎の呪文が現れたので、今度、どこかで使ってみようとパウパウは思った。
「ウルジェド、ダイーナァを2機、わしの支配下に置く。召喚したら、お主は帰ってよいぞ。パウ坊のお昼が随分と遅うなったからの。お腹が減ったであろ?」
グーリシェダに微笑まれて、空腹に気付いたパウパウはコクリと頷いた。
「……分かった。ダイーナァ壱と弐でいいんだな」
「何かあったら連絡を入れるので、これを持っていけ」
手渡されたのはアレである。
赤い小ガニだ。
やぁ!と小さいハサミを挙げられて、力が抜ける。
(分かったから、挨拶を返すまで、やぁ!をするの止めてくれないかなぁ)仕方なく、小さな甲羅をチョンチョンすると大人しくなったので収納する。
ダイーナァ系の魔道具は、呼び出すのにひと手間が必要だ。
じゃぁ、と、ミッちゃんは、収納空間から承認用の突剣を取り出した。
「ミッちゃん?」
「うん。ギュってしていて、危ないからね」
首にパウパウがしがみ付いたのを確認してからハイエルフは言葉を紡ぐ。
『音声確認。網膜確認。脳波確認。魔道具使用要請。使用機体ダイーナァ壱、ダイーナァ弐。武装全装備。指揮・命令者変更ウルジェド=ミ・チコ・カーンからグーリシェダ=ミ・チコ・オーズへ全権移譲』
(え、これ、ニホンゴだ!)小さな声で紡がれる声の響きが、何故か懐かしくパウパウは首にギュっと縋りついた。
ミッちゃんは、銀色に黒と金の模様が入った突剣を頭上で掲げて、手首を廻すようにして円を描いた。
ヒュンという音と共に、白い光の円環が現れたのを確認すると、手にした突剣の先を指定の場所に向ける。
すると、頭上の円環が地面に移動し、ひときわ輝いて光が消えた後に、2機の魔道騎士が片膝を付いて控えていた。
「黒い魔道騎士…?」
「ダイーナァだよ」
「ダイーナァ……」
いつもなら、意味を教えてくれるミッちゃんは、微笑んで「そう」と頷くだけだ。
見た目は魔道騎士の鎧姿に似ているが、兜はバルビュータ型なので、華やかさはない。
Y字型に開いた空間から見える筈の単眼は見えずに真っ黒だ。
一見すると伽藍洞なのをパウパウが不思議に思っていると、チラと何かが動いたようなので、なにか特殊な加工で光が反射しないようになっているのかもしれない。
魔道騎士に刻まれた装飾のような術式や陣も全く見えない。全身が鈍い黒一色。
背には腰丈の黒のケープを纏い、尻尾のようなワイヤーが2本出ている。
腰には黒い突剣と、逆側に短刀を差していた。
「じゃぁ、ばあちゃん。指揮権を渡す」
ミッちゃんは、突剣の向きを変えてグーリシェダに渡すと、ガルデンとマールジェドに目をやる。
ガルデンに凭れたマールジェドは、古い記録を片っ端から脳内で漁っているのだろう。
少し眉間に皺が寄っていた。
前帝に頭を小さく下げて、転移をする前にインテゲル宰相にドワーフ達への聞き取りを早めにして、休ませてほしいと頼んでから転移をした。
これから起こる事をパウパウに見せないために。
35
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?
gacchi(がっち)
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる