パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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80.断罪 1

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  ダイーナァの黒い姿がグーリシェダの左右に音もなく控えたのを見た前帝は
「これは、また、怖いのを出してきたねぇ」
 流石に笑みを消して真顔になって呟いた。

 守護者7機と騎馬が2機。
 そして追加の2機。
 これだけで国を落とせるだろう。

「母上、お待たせしました」
「どうじゃった?」

 マールジェドは収納空間から、獣皮紙と筆記具を取り出すと、もの凄い勢いで書きつけ始める。
 付けペンではない筆記具は、インクも無しに紙上を滑る。
 それを珍しそうに、そして羨ましそうにインテゲル宰相が見ていた。

「そうね、ここの王が5代目、1700年くらい前に事件がリヨスアルヴァの西、当時マーグルと呼ばれていた地方であったの。今のパシュチャ国のシャステル村辺りでね、何年かにわたって周辺の村人に、かなりの被害が出たわ」

「ほう、何が起きていたのかな?」興味深そうに前帝が尋ねた。
「正体不明の魔獣により多数の人族が殺害されましたの。その数200とも300とも」と、答えながらもグーリシェダの机に中腰で書き続けている。

「パシュチャ国の獣?……なんだか聞いた覚えがある気がするねぇ」
 腕を組んで前帝は少し考えた。

「【シャステルの魔獣】と言われています。今では御伽噺や伝説ですが、実際にあった事件ね。始めは、獣による被害が数名。その後は周辺にも被害が及びマーグル国では軍まで出動する騒ぎになった。3年ほど後にようやく、一人の騎士が獣を打ち取ったわ。その騎士はその働きにより叙勲され、その後、叙爵されて子……
 話ながらも手は止まらず、過去の記録を書き連ねる。

「で~、その打たれた魔獣の姿について書かれたのが、これ。画像は流石に無いんだけどね」
 マールジェドが手渡した獣皮紙を──結局、2枚半に及んだ──素早く読んだグーリシェダは、それを前帝に手渡す。
「無理をさせたの」
「ん~、帝都で甘味の食べ放題をしたい所です」
 かなり頭を使ったからなのか、口調が安定しないマールジェドはフニャっと笑った。
 確かに、頼まれた調べものと同時に魔道具50機の操作もしている。
 気の抜けたような笑顔が、子どものようになるはずだ。

「うむ。ならば後程あとで、ガルデン殿と行くがよい」

 腰を伸ばして一礼をしたマールジェドは、自分の席に、珍しくドスンと座るとガルデンに体を預けるように寄りかかった。余程に疲れたらしい。


「さて、この国を直轄領とするにも、彼らをどうするかねぇ」
 辺りの兵士達は、ひたすらに膝を付いたままで居る。
「とりあえず、今後の生活を気にしている民もおりましょうから、一度、役を解く旨を申しましょう」
「ふむ。反対の声があっても、魔道騎士が居るからね、甘えても?」
 グーリシェダが頷いたのを見て、インテゲル宰相は立ち上がり、広場の周囲の兵士達に向けて声を上げた。

「諸君。リヨスアルヴァの兵士達よ。私はウィカリアス帝国第三宰相、インテゲルだ。前帝陛下よりのお言葉を伝えるが、楽にして話を聞くがよい」
 そう言われて、だらける事は出来ずに兵士たちは同じ体勢のままで帝国の宰相を見つめた。

「この地が非国となったのは諸君らが今まで見たとおりだ。そして、この地の今後についてターヴ・ミン=メリウス公爵より提案があった。それは、この地を暫定的に帝国直轄領とすることである」

 黙って話を聞いていた兵士達が左右の同僚と顔を見合わせる。サワサワとした呟きや動きが、やがて大きくなっていった所で、インテゲル宰相は右手を挙げた。
「尋ねたい者は、挙手をせよ。名乗った後に話すように」
 魔道騎士ナーターラァが1機、宰相の斜め後ろに音もなく付く。

「お、お願いします!」一般兵の一人が声を裏返しながら、手を挙げた。
「歩兵、第五部隊のテメラ=リウスと申します。直轄領となれば、町の人達や城壁外の人々の安全は約束されますでしょうか!」
「当然、君たちを含めた民は全てが帝国民として、生命、生活を保護することを約束する。基本、上が変わるだけで今までの生活となる」

「お願いします」隊長クラスの兵士が手を挙げたのに、宰相は頷く。
「警備隊第1班、隊長のイル=ルエラと申します。直轄領となれば、我々が仰ぐのはウィカリアス帝国皇帝陛下となりますが、それを是としない場合は、どうなるのかを伺いたい」
「隊長?」「え、そんな」
 小さな声が男の周りから上がるのを、隊長は手で制した。

「君たちは一度、全員が役を解かれたうえで、帝国軍に組み込まれるだろう。その際に、リヨスアルヴァの王朝に忠義を尽くすと思う者があれば、それは帝国軍に入らなければ良い。それを不敬だと思う程、帝国は狭量ではないからな」
「はっ、ありがとうございます」
「ただ、一つ。私、個人から言わせてもらえば、イル=ルエラ隊長には、帝国軍に居て欲しいとは思うがね」
 次々と上がる質問に宰相は淀みなく答えていく。

 その間にも、マールジェドは蜂を飛ばして城の監視と、逃げ出したり、妙な動きをする者が居ないかを
 ウルジェドが居たら楽なのだが、パウパウのことを思えば仕方がない。

「おぃ、マール、大丈夫か。辛そうなんだが」
 ガルデンが身を寄せるマールジェドに声をかける。
「んふふ、幸せだから、だいじょぶ」パウパウの口調で答える余裕があるらしく、そう言いながら、手を振ると

「タフティータの壱、タフティータの弐は王城へ向かい、武装をしている者達の武装を解除、拘束。ただし、殺生は望まない。怪我程度で制圧せよ。なお、民に害を及ぼす者については、それに及ばぬ。位置情報は蜂から得るように許可をする。行け」

 指示された守護者タフティータは魔道馬に跨り、少し顎を挙げて、何かを見るようにした後に、尖塔の立つ方向に走り去る。
 王達が来場するための道に留めてあった馬車を軽々と跳び越えて走り去る様に、様子を伺っていた人々から思わず歓声が上がった。

「ナーターラァの壱は壇上のエルフを代わって監視。生かしておくように。ナーターラァの弐、ナーターラァの参は前帝陛下の護衛を。ナーターラァの肆は魔道人形からくりと組んで、街の治安維持。蜂を3匹使ってよい。魔道人形からくりさん、お茶煎れて。あと甘い物も」

 矢継ぎ早に指示を出すマールジェドを見ていたガルデンは
「こりゃ、すげぇなぁ」と小声で言った。
「すみません、私、気持ち悪いでしょ」
「いや、最高にカッコイイ嫁だなぁと、あ~その、な」思わずポロリと溢した言葉に赤くなったガルデンは、俯いた。
「はい。最高にカッコイイ、ガルデンに似合うように頑張りますから」
 いま、この二人をパウパウが見たら、謎の呪文を唱えていたに違いない。


 グーリシェダは辺りの様子を見たうえで、前帝に声を掛けた。
「治安維持部隊は、そろそろかの?」
「おぉ、北のツァフォンから出したようなので、間もなくだろうから来る前に、かたを付けたほうが良いね。部隊長が曲者なんだよ」
「では、帝国の威容を貸してもらうとしよう。わしはグリフォンの名を借りるネコなのでの」
「ドラゴンを倒せるのをネコと呼ぶのかねぇ」
 グーリシェダは上空で、顔を洗っている精霊猫に【今、これから暫くは音を響かせなくていい】と指示する。『ご褒美、増やすならやってもいい』と返って来たのは想定内だ。

 二人は壇上のエルフの元に向かう。その際に、念のためグーリシェダは円形舞台周辺に防音の結界を張った。
「ファトゥスよ、調べた結果、分かった事があるが聞くかや?」
「なにを…だ」

 ファトゥスは疲弊した顔を上げた、何とか此処ここから逃げられないかと魔法を使おうとしてみては、何故か魔力は霧散する。階段を降りることも化け物じみた魔道具のために出来ず、どうしていいか分からなくなっていた。

「リヨスアルヴァの昔の王が、ハイエルフとしたについてじゃ」

「分かったのか!ハイエルフになる方法が⁉」勢いよく顔を上げると、ギラギラした目を向けてきた。

「まず、約束をしたというハイエルフの名を知りたいのだが、なんと名乗ったか、記録に残してあろう?」
「名前……それは、あ……」
 やはりな、とグーリシェダは眉をひそめる。
「ハイエルフの名は記録に残されておらぬのか?」

「いや、記録されていた。書いてあっただ……」ファトゥスは両手を擦り合わせながら、ぶつぶつと言い出した。

「お父様⁈」
 後ろでベソベソと泣いていたエルフ女が声を上げた。
 喚いたり、泣いたりと起伏が激しい姫様じゃ、まぁ、現状では仕方ないかとグーリシェダはチラリと目を向けた。

「うるさい、いま、いま思い出しているから、だだだ黙れ!」
 ファトゥスはブツブツと記憶を辿たどっているのだが、多分、いくら探しても出てくることは無いだろう。

(あやつは、ほんに悪辣あくらつなことをする……)
 もし、書面を取り交わしていたならば、あの男は読めない文字を書くだろう。そして、読めた錯覚を起こす細工を平気でする。
 ましてや、口頭での約束ならば、騙し放題だ。
(あの男は、ハイエルフの約束など、全く重要だと思っていなかったからの……)

「ファトゥスよ、ハイエルフが約束や誓約を成す時は、必ず名乗りをする。互いの名乗りをしなければ約束とは見なされない。それは知っておるな?」

「それは、それは承知しております!本当に、王家の記録に残っております。そこに名前も、本当です本当ですほんと…
 グーリシェダは手を小さく挙げて、エルフを黙らせる。

「ふむ。では、約束を交わした相手については後にして、ハイエルフにしてやると言った約束についてじゃが」
「はいっ!ハイエルフ様は、そう仰ったそうです」
 ギラギラした目で嬉し気に、こちらを見る顔は、正気を失いかけているように見えて、グーリシェダはますます憐れに思った。

「ふむ。確か、魔力の高い子供を差し出せばハイエルフに進化させてやるという、約束をしたのだな?」
「そうです!それゆえ……」

「その約束は、。リヨスアルヴァの王よ」
「は?」「なんと……」「どういぅ……」
 唖然としたファトスの声と、理解が出来ないエルフ達の声。

「何人をだ?」
「え?」
 ファトゥスは、何を言われたのか理解できないという顔でグーリシェダを見た。

「確認しよう。その男はエルフを進化させると言ったそうだが、のだ?」
 固唾を吞んで見守っていた上級貴族が、ヒッと息を吸った。その音が、妙にファトスの耳に残る。
 呆然とするファトゥスと、何も言葉が出てこないエルフ達に冷たい声が届く。

が差し出され、がハイエルフにのだよ」
 声と違って、グーリシェダの瞳は悲し気な光を帯びていた。

「説明をしてくれるかな、グーリシェダ殿」そこに前帝陛下が声をかける。
 
 頷いたグーリシェダは話を進めた。
「まず二人は、生まれて直ぐに逝去された若子わこと死産の子であろう。胎児のうちに何らかの術を施したのか、母御に何かをしたかは分からぬがの」

「そして、三人目がこれじゃ」
 獣皮紙を階段脇に立つ魔道騎士ナーターラァが受け取ると、ファトゥスに差し出した。

 奪うようにして、それを手にしてむさぼるように読み進めるうちに、ファトゥスの口から引付を起こしたような声が漏れ始めた。
「ひ、ひ、ひ……」
 何度も、何度も繰り返して読んでいた獣皮紙が手から滑り落ちたのを、娘のスケレスタが奪い取るようにして手に取り、文字を目で追い始めた。

「な…なによ、これ」獣皮紙を握りしめる手がブルブルと震えた。
 誰かに助けを求めるように辺りを見回すが、頼りになる筈の父親は腑抜けたように、呻きか、笑っているのか分からない声をあげているだけだ。
 結果、スケレスタはグーリシェダを見降して、怒りの叫びを上げる。

「こ、これが何だっていうのよっ!」
 そうしないと、立っていられなかったのだ。

「そこにあるのは過去の記録じゃ。ただの事実よ」
 グーリシェダは初めて、エルフの娘に声を掛けた。

「どうしてが、忌まわしいの事がここに出てくるのよっ!今は王族の子供がハイエルフになったという証拠の話でしょう!」
 手にした獣皮紙を、もう一方の手でパシパシと叩きながら、スケレスタは叫ぶ。

 グーリシェダは覚えの悪い生徒に言い聞かせるように答えた。

「そうじゃ、シャステルの魔獣はを持つ生き物。そしてな、我らハイエルフも同じく、
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