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81.断罪 2
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魔物、魔獣は体内に石を持っている。
魔力や体の組織を動かす役割をする、俗に魔石と呼ばれる物だ。
角ウサギのような弱い生き物でも、砂粒ほどの石5つと少し大きな小指の先ほどの魔石を1つ持っている──スライムは魔石1つのみだが──と、いうのは常識だ。
そして、人族に括られる者たちや、普通の動物は代わりに魔臓腑を6つ持つと考えられている。
それが、魔物と他の生き物の違いだと、この世界では広く信じられていた。
体内に魔石を持つ生き物は魔物である。
そして6つ以上の石を持つ魔物は、人に害をなす邪な獣であると、広く伝えられていた。
今まで打ち取られた、記録に残る凶暴な魔獣らの多くが7つ魔石を持っていたからだ。
どの国でも7つ石、邪獣という言葉は忌み言葉だ。
それ故、ハイエルフのグーリシェダが言った
「そうじゃ、シャステルの魔獣は七つの魔石を持つ生き物。そしてな、我らハイエルフも同じく、七つ石を持つ生き物なのだよ」
この言葉を、誰も理解が出来なかった。
「話してしまって、よかったのかね?グーリシェダ殿」
「べつに、秘密というわけでもない。聞かれないから話していないだけじゃ」
「まぁ、ヘソが2つ有りますと、見せびらかすのも変な話だからねぇ」
前帝陛下の言葉に対して、グーリシェダは眉を下げて
「例えが変じゃぞ、陛下……さて、話を戻そ「だ、騙したのねっ!
「おぞましい邪獣がっ!なにが至高の存在よっ!よくも私達エルフを騙したわね」
意外なことに、腑抜けたエルフ達の中で気丈にも声を上げたのはスケレスタだった。ただの感情の高ぶりでしかないが、彼女の足元で、気が触れたように蹲っている父親よりはマシだろう。
現に、その声に鼓舞されたように他のエルフ達から小さくだが声が上がる。
「7つの魔石……」「…石もち」「魔物じゃないか!」「ハイエルフじゃない?」
スケレスタが自慢の魔力を練り上げて、雷撃の魔法を放つ!
失う物の無い今、たとえ開戦になっても構わない。
あの邪獣を何とかしなければ!
手を振り下ろす
パシン
小さな音がして魔力が霧散した。
「……え?」
守護者から伸びた尻尾のようなワイヤーが円形舞台に触れている。
たった、これだけで、この舞台上の魔法を無効化しているのだとはエルフ達の誰にも分からない。
前帝は手にした杖を、地面にトンッと突いた。
「さて、話の続きを
「陛下ッ!陛下‼危険です、その女は邪獣にございます。お逃げください‼」
スケレスタが悲鳴のような声を上げた。
覚えを良くしようという打算という訳では無さそうなので、これが彼女の本心だと思うと、なかなか惜しいと前帝は思う。
「あぁ、静かに。ハイエルフの族長から、話の続きを聞こうか」
「ですが、陛下、この者は‼」
「グーリシェダ殿、続きを」
促されたグーリシェダは、話を続ける
「さて、三人目は7つの石を持つハイエルフに、造り替えられた。そして、この国に戻されたのだろうよ」
「二千年ほど前にした約束から、300年?、随分と間が空いているようだけれど?」
「造り替えに時間がかかったのか、この者が飼われていたのかは流石に分からないのう」
あっさりと、悍ましい言葉を口にするハイエルフに、エルフ達は引きつった顔をする。
「だが、魔獣の被害はリヨスアルヴァではなく、シャステルから始まっているのは何故だろうね」
「多分、自分の国に迷惑を掛けたくなかったのだろうよ……娘御、その後ろの方に魔獣の吠え声の記録があろう?読み上げてみよ」
邪獣に命令されたスケレスタが、キッ睨みつけながらも、前帝が頷いたのを見て渋々と読み上げ始める。
「魔獣は鉄の大鎖に幾重にも巻かれながら、何かしらの言葉に聞こえる恐ろしい唸りや叫び声を繰り返しており、それは【避難帰還滅帰滅滅滅滅滅滅滅滅】と聞こえた」
「……これは古いエルフ言語かな?」
「逃げろ、帰りたい、殺してくれ、殺してくれ…かの、分かりにくいが」
「さ、最後の一太刀で首が落とされる瞬間、魔獣は【謝】と一声、鳴いた」
スケレスタがグーリシェダを見た。
「ありがとう、もしくは、すまない。じゃな」
スケレスタが首を振り、獣皮紙を胸に抱きしめた。
涙をホロホロと流す、その顔が今までで一番に美しいとグーリシェダは思った。
「約束は果たされていた?でも、こんな、こんな形でなんて……」
「ハイエルフに進化?改造…かな?は、している。が、生きてとも、まともな姿でとも、約束はしていない。という事なのだろうね」
「多分、死した子供二人にも石があったのであろうな」
残酷なことを事も無げに話す二人に、エルフ達は信じられないという眼差しを向けたが、当人たちは何とも思わない。
夏の日差しは徐々に弱まり、陽が西に傾きつつあった。
静かに、リヨスアルヴァのエルフ達の幻想が終わる。
砂漠の蜃気楼を追い求め力尽きた旅人のように、伝説の空中都市を探し求めて果てた冒険家のように、一族が見た夢が終わった瞬間だった。
「さて、まず一つ目の案件は御終いだね」
「お、お待ちくださいませ。我らは、これなるハイエルフ族に騙されておりました。それについては……」
スケレスタが縋るような声をあげる。
「騙されたほうが悪い。とは、言わないがね。帝国としては、選んだのは君たちだ、としか言えないなぁ」
優し気な、おっとりとした声で前帝が告げる。
「その判断をしたのは、勿論、君たちではなく、ずっと前の祖先だけれどねぇ。でも、エルフを捨てる夢を追っていたのは今の君たちだ」
スケレスタも、他のエルフ達も何も言えずに俯いた。
前帝は、周りを見渡す。
心配そうに見守る民と、帯剣を外して帝国軍に下った兵士達を見やった。
「この国は良い国だ。民も兵士も誠実に思う。土地も豊かな実りを付ける、良い国だ…なのに、君たちは、これ以上の何が欲しかったのかなぁ。そして、分からないのはドワーフ族への扱いだ。ワシは不思議でならない」
前帝の言葉に、エルフ達は何も言わずに俯くままだ。
「350年くらい前の騒乱の後始末の時に、この国のドワーフへの扱いが露呈したわけだが、その後も君たち一族のドワーフ族への気持ちは変わっていなかったのは、何故なのかなぁ」
心底、不思議そうに尋ねながら、前帝は杖で地面をトントンと小刻みに叩く。
インテゲル宰相が、エ・グーシェ前帝の傍に戻り、兵士達の静かなる投降を報告した。
「そう。メリウス殿、それから後ろのエルフ達、こちらに来てくれるかな」
「はっ」
一瞬の怪訝そうな表情を隠したメリウス元公爵と後ろに控えたスリクタ元宰相を含めたエルフ達は、前帝の近くまで歩み寄り、また膝を付いた。
いつでも首を刎ねてもらうように、柄頭を差し出した形で改めて地面に置く。
それを見て、この男の声は、皆に届けるべきだと感じたグーリシェダは結界を解除する。
「メリウス殿、なぜに、ここのエルフ達がドワーフに無体な真似をしていたのか、分かるかね?」
「ち、力及ばずドワーフ族には申…」
「うん、君たちの一門だけが、それで冷遇されていたのは知っているが、何故なのかが分からないんだよ。彼らは答えてくれないしねぇ」
前帝は壇上のエルフ達を見上げる。その目には何の感情も浮かんではいない。
「その…」
気まずそうに、メリウス元公爵が口を開く。
「エルダードワーフが生まれる為かと思われます」
「……え?」
前帝が聞き返した。
聞こえたガルデンも、目を見開いた。
「エルフ族から上位種族であるハイエルフが生まれないのにと、その……」
隣の芝生が青く見えすぎて、除草剤巻いたぁぁぁ!パウパウが居たなら、心の中で叫んでいただろう。
「はぁ……まさか、そんな下らない事で、ドワーフ族に無体を働いていたのかねぇ。だいたいハイエルフ達は、自分達とエルフは違う種族と、昔から声を挙げていたのに、耳を貸さなかったうえに愚かな嫉妬か。ふむ……どうする?ガルデン卿」
話を振られたガルデンは立ち上がりかけて「あぁ、そのままで。座ったままでよい」と言われ、目を閉じたマールジェドを寄りかからせたままで答える。
「俺ら帝国に居を成すドワーフ族は、帝国の民として陛下の御心と、帝国の法に従う。今回、囚われていたドワーフ達はこの国の民に恨みを持ってはいない。ただ、ドワーフ狩りをした貴族は外道だそうだ」
「ふむ……」少し顎を上にして考えていた前帝に、パチリと目を開けたマールジェドが
「前帝陛下、ツァフォンの治安維持部隊がリヨスアルヴァの城壁に到着、周囲に展開をしています」と声を上げた。
「ふふ、ありがとう。では急ごうか。グーリシェダ殿、わしの声を全域に届かせることは可能かな?ツァフォンの軍にも聞かせたい」
グーリシェダは上空の精霊猫に思念を送ると、今度は『違うご褒美を寄こせ』と要求されたので、出来る範囲か尋ねると『あの黒い頭の子供と遊ぶ』と言ってきた。
パウパウが遊んでいいと承諾をしたら、遊ばせると告げると、それでいいそうだ。この報酬が高いのか安いのか精霊の感覚が、グーリシェダには分からない。
「とりあえず、了承をしてくれたようじゃ」
「ありがとう、では…」
トンっと杖を打ち鳴らすと前帝は声をあげた。
「聞け、ウィカリアス帝国前帝、エ・グーシェ・ネシーン=ウィカリアスである。これより非国リヨスアルヴァの今後と、前エルフ王侯貴族に対する処罰についてを申し渡す。なお、この件について、我の言葉はマルカー・ハキーマー・マグ=ウィカリアス皇帝陛下の権限の代理をもっての物であり、皇帝陛下の言葉であると知れ。
一つ、リヨスアルヴァは帝国直轄領とし、その管理に領主を置く。ターヴ・ミン=メリウスを初代領主とする。後の人事は、メリウス新領主が定めよ」
首を狩られる覚悟だったメリウスが、思わず頭を上げて見たのに目を合わせて、前帝は頷く。
「二つ、ドワーフへの不当な行為を行った前リヨスアルヴァの王侯貴族について、次のように言い渡す。いま、壇上に居る全ての者について、身分は既に流民であるゆえ財産を没収。断耳に処す」
呆然としていた元上級貴族達から獣のような悲鳴が上がる。
「エルフの耳を切ると⁈」「いやだいやだ、お助け下さい前帝陛下」「あぁぁなんで、何でだぁ!」
舞台の上にパチン、パシンと音がするのは、魔術が解除される音だろう。
余りにも助命の嘆願が五月蠅いため、グーリシェは断罪者に思念で命じる。
(誰か一人、片耳でよい、傷が塞がらぬようにの)
黒い魔道騎士が音もなく走り、檀上の前側に居たエルフが突然、悲鳴を上げて左耳を抑えた。
「ぎゃがぁぁぁぁぁ!」
鮮血が流れ出る左耳を懸命に抑えながら、「耳が、ミミが……」と呻いているのを見た他の貴族達が慄きながらも、男の耳を探す。
(無駄なことよ……)
断罪者には傷が塞がらぬように断てと命じてある。
たとえ、切れ端が見つかっても繋がらないだろう。
「三つ、断耳された者の家人については、治安維持部隊の調べを持って判断を下すが、現状の身分は流人とする。
四つ、エルフ族以外の下級貴族のヒト族については治安維持部隊の調べの後、身柄をターヴ・ミン=メリウス領主預かりとする」
ざわりと下級貴族の一団が動いた。
「え?」「私達は……」
真面目に働いていた者達、ドワーフの扱いを知らなかった者達を処罰するつもりは無い。今まで通りに生きればいいのだ。と、前帝は彼らの方に目を向けて頷いた。
まぁ、今後の調査によっては後ろ暗い者たちも出てくるかもしれないが、そこはメリウスが何とかするだろう。
「五つ、前リヨスアルヴァの兵士については、帝国軍としリヨスアルヴァ駐屯部隊とする。なお、現時点で帝国に仇を無そうとしていた者達については、後程、治安維持部隊の調べを持って、帝国法に基づく処罰を申し付ける」
「以上を勅令となす」
コツンと前帝は杖を打ちつけた。
魔力や体の組織を動かす役割をする、俗に魔石と呼ばれる物だ。
角ウサギのような弱い生き物でも、砂粒ほどの石5つと少し大きな小指の先ほどの魔石を1つ持っている──スライムは魔石1つのみだが──と、いうのは常識だ。
そして、人族に括られる者たちや、普通の動物は代わりに魔臓腑を6つ持つと考えられている。
それが、魔物と他の生き物の違いだと、この世界では広く信じられていた。
体内に魔石を持つ生き物は魔物である。
そして6つ以上の石を持つ魔物は、人に害をなす邪な獣であると、広く伝えられていた。
今まで打ち取られた、記録に残る凶暴な魔獣らの多くが7つ魔石を持っていたからだ。
どの国でも7つ石、邪獣という言葉は忌み言葉だ。
それ故、ハイエルフのグーリシェダが言った
「そうじゃ、シャステルの魔獣は七つの魔石を持つ生き物。そしてな、我らハイエルフも同じく、七つ石を持つ生き物なのだよ」
この言葉を、誰も理解が出来なかった。
「話してしまって、よかったのかね?グーリシェダ殿」
「べつに、秘密というわけでもない。聞かれないから話していないだけじゃ」
「まぁ、ヘソが2つ有りますと、見せびらかすのも変な話だからねぇ」
前帝陛下の言葉に対して、グーリシェダは眉を下げて
「例えが変じゃぞ、陛下……さて、話を戻そ「だ、騙したのねっ!
「おぞましい邪獣がっ!なにが至高の存在よっ!よくも私達エルフを騙したわね」
意外なことに、腑抜けたエルフ達の中で気丈にも声を上げたのはスケレスタだった。ただの感情の高ぶりでしかないが、彼女の足元で、気が触れたように蹲っている父親よりはマシだろう。
現に、その声に鼓舞されたように他のエルフ達から小さくだが声が上がる。
「7つの魔石……」「…石もち」「魔物じゃないか!」「ハイエルフじゃない?」
スケレスタが自慢の魔力を練り上げて、雷撃の魔法を放つ!
失う物の無い今、たとえ開戦になっても構わない。
あの邪獣を何とかしなければ!
手を振り下ろす
パシン
小さな音がして魔力が霧散した。
「……え?」
守護者から伸びた尻尾のようなワイヤーが円形舞台に触れている。
たった、これだけで、この舞台上の魔法を無効化しているのだとはエルフ達の誰にも分からない。
前帝は手にした杖を、地面にトンッと突いた。
「さて、話の続きを
「陛下ッ!陛下‼危険です、その女は邪獣にございます。お逃げください‼」
スケレスタが悲鳴のような声を上げた。
覚えを良くしようという打算という訳では無さそうなので、これが彼女の本心だと思うと、なかなか惜しいと前帝は思う。
「あぁ、静かに。ハイエルフの族長から、話の続きを聞こうか」
「ですが、陛下、この者は‼」
「グーリシェダ殿、続きを」
促されたグーリシェダは、話を続ける
「さて、三人目は7つの石を持つハイエルフに、造り替えられた。そして、この国に戻されたのだろうよ」
「二千年ほど前にした約束から、300年?、随分と間が空いているようだけれど?」
「造り替えに時間がかかったのか、この者が飼われていたのかは流石に分からないのう」
あっさりと、悍ましい言葉を口にするハイエルフに、エルフ達は引きつった顔をする。
「だが、魔獣の被害はリヨスアルヴァではなく、シャステルから始まっているのは何故だろうね」
「多分、自分の国に迷惑を掛けたくなかったのだろうよ……娘御、その後ろの方に魔獣の吠え声の記録があろう?読み上げてみよ」
邪獣に命令されたスケレスタが、キッ睨みつけながらも、前帝が頷いたのを見て渋々と読み上げ始める。
「魔獣は鉄の大鎖に幾重にも巻かれながら、何かしらの言葉に聞こえる恐ろしい唸りや叫び声を繰り返しており、それは【避難帰還滅帰滅滅滅滅滅滅滅滅】と聞こえた」
「……これは古いエルフ言語かな?」
「逃げろ、帰りたい、殺してくれ、殺してくれ…かの、分かりにくいが」
「さ、最後の一太刀で首が落とされる瞬間、魔獣は【謝】と一声、鳴いた」
スケレスタがグーリシェダを見た。
「ありがとう、もしくは、すまない。じゃな」
スケレスタが首を振り、獣皮紙を胸に抱きしめた。
涙をホロホロと流す、その顔が今までで一番に美しいとグーリシェダは思った。
「約束は果たされていた?でも、こんな、こんな形でなんて……」
「ハイエルフに進化?改造…かな?は、している。が、生きてとも、まともな姿でとも、約束はしていない。という事なのだろうね」
「多分、死した子供二人にも石があったのであろうな」
残酷なことを事も無げに話す二人に、エルフ達は信じられないという眼差しを向けたが、当人たちは何とも思わない。
夏の日差しは徐々に弱まり、陽が西に傾きつつあった。
静かに、リヨスアルヴァのエルフ達の幻想が終わる。
砂漠の蜃気楼を追い求め力尽きた旅人のように、伝説の空中都市を探し求めて果てた冒険家のように、一族が見た夢が終わった瞬間だった。
「さて、まず一つ目の案件は御終いだね」
「お、お待ちくださいませ。我らは、これなるハイエルフ族に騙されておりました。それについては……」
スケレスタが縋るような声をあげる。
「騙されたほうが悪い。とは、言わないがね。帝国としては、選んだのは君たちだ、としか言えないなぁ」
優し気な、おっとりとした声で前帝が告げる。
「その判断をしたのは、勿論、君たちではなく、ずっと前の祖先だけれどねぇ。でも、エルフを捨てる夢を追っていたのは今の君たちだ」
スケレスタも、他のエルフ達も何も言えずに俯いた。
前帝は、周りを見渡す。
心配そうに見守る民と、帯剣を外して帝国軍に下った兵士達を見やった。
「この国は良い国だ。民も兵士も誠実に思う。土地も豊かな実りを付ける、良い国だ…なのに、君たちは、これ以上の何が欲しかったのかなぁ。そして、分からないのはドワーフ族への扱いだ。ワシは不思議でならない」
前帝の言葉に、エルフ達は何も言わずに俯くままだ。
「350年くらい前の騒乱の後始末の時に、この国のドワーフへの扱いが露呈したわけだが、その後も君たち一族のドワーフ族への気持ちは変わっていなかったのは、何故なのかなぁ」
心底、不思議そうに尋ねながら、前帝は杖で地面をトントンと小刻みに叩く。
インテゲル宰相が、エ・グーシェ前帝の傍に戻り、兵士達の静かなる投降を報告した。
「そう。メリウス殿、それから後ろのエルフ達、こちらに来てくれるかな」
「はっ」
一瞬の怪訝そうな表情を隠したメリウス元公爵と後ろに控えたスリクタ元宰相を含めたエルフ達は、前帝の近くまで歩み寄り、また膝を付いた。
いつでも首を刎ねてもらうように、柄頭を差し出した形で改めて地面に置く。
それを見て、この男の声は、皆に届けるべきだと感じたグーリシェダは結界を解除する。
「メリウス殿、なぜに、ここのエルフ達がドワーフに無体な真似をしていたのか、分かるかね?」
「ち、力及ばずドワーフ族には申…」
「うん、君たちの一門だけが、それで冷遇されていたのは知っているが、何故なのかが分からないんだよ。彼らは答えてくれないしねぇ」
前帝は壇上のエルフ達を見上げる。その目には何の感情も浮かんではいない。
「その…」
気まずそうに、メリウス元公爵が口を開く。
「エルダードワーフが生まれる為かと思われます」
「……え?」
前帝が聞き返した。
聞こえたガルデンも、目を見開いた。
「エルフ族から上位種族であるハイエルフが生まれないのにと、その……」
隣の芝生が青く見えすぎて、除草剤巻いたぁぁぁ!パウパウが居たなら、心の中で叫んでいただろう。
「はぁ……まさか、そんな下らない事で、ドワーフ族に無体を働いていたのかねぇ。だいたいハイエルフ達は、自分達とエルフは違う種族と、昔から声を挙げていたのに、耳を貸さなかったうえに愚かな嫉妬か。ふむ……どうする?ガルデン卿」
話を振られたガルデンは立ち上がりかけて「あぁ、そのままで。座ったままでよい」と言われ、目を閉じたマールジェドを寄りかからせたままで答える。
「俺ら帝国に居を成すドワーフ族は、帝国の民として陛下の御心と、帝国の法に従う。今回、囚われていたドワーフ達はこの国の民に恨みを持ってはいない。ただ、ドワーフ狩りをした貴族は外道だそうだ」
「ふむ……」少し顎を上にして考えていた前帝に、パチリと目を開けたマールジェドが
「前帝陛下、ツァフォンの治安維持部隊がリヨスアルヴァの城壁に到着、周囲に展開をしています」と声を上げた。
「ふふ、ありがとう。では急ごうか。グーリシェダ殿、わしの声を全域に届かせることは可能かな?ツァフォンの軍にも聞かせたい」
グーリシェダは上空の精霊猫に思念を送ると、今度は『違うご褒美を寄こせ』と要求されたので、出来る範囲か尋ねると『あの黒い頭の子供と遊ぶ』と言ってきた。
パウパウが遊んでいいと承諾をしたら、遊ばせると告げると、それでいいそうだ。この報酬が高いのか安いのか精霊の感覚が、グーリシェダには分からない。
「とりあえず、了承をしてくれたようじゃ」
「ありがとう、では…」
トンっと杖を打ち鳴らすと前帝は声をあげた。
「聞け、ウィカリアス帝国前帝、エ・グーシェ・ネシーン=ウィカリアスである。これより非国リヨスアルヴァの今後と、前エルフ王侯貴族に対する処罰についてを申し渡す。なお、この件について、我の言葉はマルカー・ハキーマー・マグ=ウィカリアス皇帝陛下の権限の代理をもっての物であり、皇帝陛下の言葉であると知れ。
一つ、リヨスアルヴァは帝国直轄領とし、その管理に領主を置く。ターヴ・ミン=メリウスを初代領主とする。後の人事は、メリウス新領主が定めよ」
首を狩られる覚悟だったメリウスが、思わず頭を上げて見たのに目を合わせて、前帝は頷く。
「二つ、ドワーフへの不当な行為を行った前リヨスアルヴァの王侯貴族について、次のように言い渡す。いま、壇上に居る全ての者について、身分は既に流民であるゆえ財産を没収。断耳に処す」
呆然としていた元上級貴族達から獣のような悲鳴が上がる。
「エルフの耳を切ると⁈」「いやだいやだ、お助け下さい前帝陛下」「あぁぁなんで、何でだぁ!」
舞台の上にパチン、パシンと音がするのは、魔術が解除される音だろう。
余りにも助命の嘆願が五月蠅いため、グーリシェは断罪者に思念で命じる。
(誰か一人、片耳でよい、傷が塞がらぬようにの)
黒い魔道騎士が音もなく走り、檀上の前側に居たエルフが突然、悲鳴を上げて左耳を抑えた。
「ぎゃがぁぁぁぁぁ!」
鮮血が流れ出る左耳を懸命に抑えながら、「耳が、ミミが……」と呻いているのを見た他の貴族達が慄きながらも、男の耳を探す。
(無駄なことよ……)
断罪者には傷が塞がらぬように断てと命じてある。
たとえ、切れ端が見つかっても繋がらないだろう。
「三つ、断耳された者の家人については、治安維持部隊の調べを持って判断を下すが、現状の身分は流人とする。
四つ、エルフ族以外の下級貴族のヒト族については治安維持部隊の調べの後、身柄をターヴ・ミン=メリウス領主預かりとする」
ざわりと下級貴族の一団が動いた。
「え?」「私達は……」
真面目に働いていた者達、ドワーフの扱いを知らなかった者達を処罰するつもりは無い。今まで通りに生きればいいのだ。と、前帝は彼らの方に目を向けて頷いた。
まぁ、今後の調査によっては後ろ暗い者たちも出てくるかもしれないが、そこはメリウスが何とかするだろう。
「五つ、前リヨスアルヴァの兵士については、帝国軍としリヨスアルヴァ駐屯部隊とする。なお、現時点で帝国に仇を無そうとしていた者達については、後程、治安維持部隊の調べを持って、帝国法に基づく処罰を申し付ける」
「以上を勅令となす」
コツンと前帝は杖を打ちつけた。
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