パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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86.パウパウの夏とタガメ探し 21

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  ミッちゃんは二人の少年と一緒に、魔道人形からくりと手を繋ぎ庭を探索しているパウパウを見つめていた。
 今は、なにやら野原に座り込んで、マルトフ少年から教わりながら手作業を始めたようだ。
 せっせと花を摘む姿は嬉し気だった。

「……その、ウルジェド様」
「様はいらない。ウルジェドでいい」
 パウパウが言ったような言葉で答える。

「いや、そうは行かないだろう、竜の賢者で白金級の冒険者ったら、伝説だし」
「フッバー殿…もう、どちらも引退したから今は雑貨屋さんなんだ」
「そんな簡単に辞められるもんかねぇ」
「……ならば、休業中だ」

 子供の看護用に付けた魔道人形からくりが、声を掛けた。
「ウルジェド様。こちらの方が目を覚ましそうです」
「あぁ、熱はどう?」
「だいぶ下がりましたが、まだ患部の熱は残っています」

 ウルジェドとフッバーは子供を見守る。

「……うぅ…」
 呻き声とともに形の良い眉が苦し気にひそめられて、長い睫毛のまぶたが開いた。
 ティールブルーの瞳が、やがて、しっかりした光を取り戻す。
「…ここは……」

「ここは私の屋敷だ。君たちはフッバー殿に助けられて、ここに逃げてきたんだ。覚えているかね?」
「……フィリ、助かって良かった」
「あ、ありがとうございます。あの、マルトフとダグラスは…」
「無事だから安心しろ。今は向こうで受けた依頼の最中ってところ…かな?」
 フッバーが、フィリ少年を安心させるように笑いながら言う。

「依頼?」
 今までの経緯を知らない少年は怪訝な顔をする。
「あぁ、うちの子の相手を、君たちにお願いしたんだ。とりあえず、町まで送ろうか。魔道人形からくりさん、パウパウ達を呼んでくれるか」
 スッと礼をした魔道人形からくりが、単眼モノアイを明滅させて、パウパウに付いている別機に連絡を入れる。

「あ…あの、ありがとうございます。ぼく、フィリです」
 少年は恩人の一人であるハイエルフを見つめて、その美貌を焼き付けるように、目をそらさずに礼を言った。

「ウルジェドだ。大丈夫か?顔が赤いが、まだ熱があるからかな」
「…ウルジェドさま」
 覗き込むように顔を見られて、フィリ少年は顔の赤を強くする。
「あ、あの大丈夫です、御心配には…

「ミッちゃん!ただいまっ」
 少年の小さな声は、東屋ガゼボに駆け込んできた足音と声に掻き消された。

「フィリ!目が覚めたか」
「よかったぁ、僕、どうしようかと思ったよ」

 そう言いながら、マルトフは、はい、とフィリに小さな花束を手渡した。
「お見舞いだから、持って帰ってね」
「あ、ありがとう」
 人の庭で積んだ花を お見舞いだと渡す、このマルトフ少年は案外、ちゃっかりした性格なのか、それとも天然なのだろうか?と、ミッちゃんは首を傾げた。

「ミッちゃん、ぼくも!ぼくも、マルトフお兄ちゃんに教わって作ったの」
「へぇ、何を作ったんだい?」
「えっと、手、かして」

 パウパウは楽し気にミッちゃんの左手を取ると、手にぶら下げていた物を手首に巻き付け始めた。
 小さい手だから、なかなか上手くいかない。
 もちゃもちゃと、かなり苦戦をしながらも、ようやっとミッちゃんの左手首に矢車菊キアナスシロツメクサレペンスで作った腕輪を付けられて、パウパウは得意気に笑った。

「これを私に作ってくれたの?」
「うん!ミッちゃんの目の色に似ているから」
 時間がなくて、花冠にはできなかったし、初めてなのでヨレヨレで、すぐにバラバラになってしまいそうな、野の花で出来た腕輪だ。

「……ありがとう。大切にするね」
 花の腕輪を口元に持っていき、香りを楽しむように微笑んだミッちゃんは、そのまま、こっそりと最上級の形状保存の魔法を掛けた。
「壊れたら嫌だから、仕舞っておいてもいいかい?」
 パウパウの了解を得てから、丁寧に手首から外して収納空間に、そっと仕舞う。

「さて、フッバー殿、町まで転移で送ろう。全員ギルドでいいか?それとも子供たちは別の場所がいいのかな?」
「あぁ、じゃあ、町の入り口まで頼みたい。お前らの依頼は、俺が代理人として仮受けしてやるから、今日は家に帰って休むんだ。特にフィリな」
 少し考えて、フッバーはそう答えた。

 確かに、フィリ少年の状態では”やらかして魔蜂に刺されました”と言うのがバレバレだ。
 ギルドに行ったら絶対に怒られるのだろう。
 それをかばおうとフッバーはしているのだ。
 なんとも、面倒見のいい男である。

「君たちは、優しい先輩に、感謝をするんだな、さて、では転移をするぞ」
 パウパウの手を左手で握り、そうミッちゃんが皆に言うと、何故だかフィリが割烹着の裾を、ぎゅっと握って来た。

「あぁ、フィリ君?私の転移は範囲指定だ。触れていなくても転移は出来る」
「……あ、すみません。初めてで不安だったので……」
 そう言うとフィリは手を離しながら、また頬を赤くした。

「ではプタフォタンの町……辺りへ転移する」
 いつものようにミッちゃんは、つま先でトントンと地面を叩いて転移をした。

 何故、町……かというと、このプタフォタンの町は城壁都市のような囲いをしていないからだ。

 不思議と山の魔獣の被害が今まで無いため、ということなのだろう。
 城壁どころか、ドワーフの作る結界石や錬金術で作られる魔物避けの柵すら使われていない。
 精々が畑の獣避け柵がある程度なのだ。

 そんなプタフォタンの町の一角にミッちゃんは、転移をした。
「凄いもんだな。流石は……ぐっ」足を踏まれたフッバーは途中で言葉を飲み込む。

「さて、フッバー殿、子供たちは ここらでいいだろうか?」
「あ、あぁ、ウルジェドさ……十分だ」

「俺、転移魔法、初めて。すげぇ、すげぇなマルトフ!お前、早く使えるようになれよっ‼」
 魔法が不得意なダグラスは、興奮気味にマルトフに言う。
 先ほども転移を使って東屋ガゼボへ移動したのだが、動揺していたので忘れたのかもしれない。

 そんな簡単に使えるわけ無いだろっ!と、どなりたいのを抑えて、
「ダグラス、お礼。お礼、言って!あの、ウルジェド様、いろいろと有難うございました」
 マルトフに釣られるようにフィリもダグラスも頭を下げて、礼を言う。

「うん。3日もすれば腫れも引くだろうから、そうしたら依頼開始で頼む。それから、私の事はウルジェドでいい。様はいらない」
「あ、じゃぁ、ウルジェドさんで お願いします」
 マルトフが頭を下げた。
「うん、それでいい。あぁ、それと……」
 ミッちゃんは、魔道人形からくりに持たされた篭を収納空間から取り出すと、フィリに手渡す。

「塗り薬と解熱薬が入っている。使い方は書いてあるから、熱が上がるようなら使うといい。あとは今日の菓子だな。君だけ食べられなかったからと、魔道人形からくりが詰めた」
 フィリは小さく頭を下げた。 
「ありがとうございます。お世話をかけて、すみません」

「早く元気になって、一緒にレトケレスタガメ探してね」
「うん、ありがとう。よろしくお願いします」
 ニコニコと笑うパウパウにフィリ少年も答えて、三人は夫々それぞれの家路についた。

 それを見送りギルドへと進みながら、ミッちゃんはフッバーに尋ねる。
「そういえば、お化け屋敷の調査だが、銀級の仕事ではないだろう?なんでまた」
「あぁ。何てことはない、もうすぐ祭りがあるんで、そっちの準備で地元の奴らは手が一杯なのさ」

 その口ぶりからすると、町のギルドで活動する冒険者たちは地元民で、兼業というところか、とミッちゃんは推測する。
「フッバー殿は、この町出身ではないのか?」
「あぁ、俺は元々はダグシナ国の出だ。いろんな所を転々として、今はここが気に入っているって感じだな」
 こんな平和な町で銀級の腕がなまるのは、勿体ないな……と、ミッちゃんは自分の事を棚に上げて思った。

 今の話を聞いていたパウパウがフッバーを見た。
「どうしたパウパウ。疲れたなら抱っこしようか?」
「ううん、あのね、お祭りあるの?」
「おぉ、まぁ大きい都の祭りとは違うけどなぁ、なかなか面白いもんだぞ」

 聞けば、獲物が沢山採れるようにと皆、総出で舟を出して沖の精霊に祈りと供物を捧げるのだという。
 色とりどりの旗などで飾り立てた舟が一斉に沖に向かって走るのは、大層、勇壮で奇麗なのだそうだ。

(タイリョーバタ?でホーリョーキガン?)

「ギルド所属の冒険者っても、殆どが漁師と兼業だからな。祭りの舟飾りを作るほうが、お化け屋敷より大事なんだとよ」
 多分、その程度の報酬しか出ないんだろうな……と、ミッちゃんは思った。
「そのような祭りがあるとは、知らなかったな」
 
 
 丘の上の館に転移で来ることはあっても、町には関わりたくなかったミッちゃんは、実はこのプタフォタンの町を歩くことが初めてだ。

「ぼく、お祭り見たいなぁ」
「次の青満月の大潮日だから10日後だぞ、予定が合うなら、絶対に見て行くといい」
 フッバーが笑いながら勧めてくる。

「急ぎの予定はないし、お祭りを見て行こうかパウパウ」
「うん!」
「周りの村から見物人も来るし、露店も出て賑やかになるぞ」

「……いま、既に見物人が出ているようだがな」
 ミッちゃんが辺りを見回した。
「フィリは知られているが…その、ウルジェドはなぁ……いいのか?」

 わざわざ家から出てきたのか、道に結構な数の人がたたずんでいる。
 たたずんでいるが、皆が目をこちらに向けている。
 さすがに、指を指す非礼な人はいないとはいえ、それほど、長耳が珍しいのか、それとも余所者よそものが珍しいのだろうか。

「かまわん、どうせしばらくは滞在するからな。お化けが町に挨拶に来たって処だ」
「……それはそれで、町に噂のタネを提供しそうだがなぁ」

 そんな話をしているうちに三人は、石積みで三階建ての大きな建物に辿り着いた。
 見てきた民家や周りの商店が、石の土台に木と漆喰の建物だったのとは違い、随分と重厚な雰囲気だ。

「ここだ。漁業ギルドと一緒になってるんだ」
「海風に耐えられるように、石で作ってあるのか?」
「おぉ、それもあるのかな……たぶん?」
 フッバーの煮え切らない言葉に、ミッちゃんは首を傾げた。

 ミッちゃんは、何かあった時のためにパウパウを抱き上げる。
「ん?」
「ほら、ギルドに入るから、念のためね」

 おお!そうだった、ギルドだっ!
 パウパウ人生初のギルドである。

 きっと、セイキマツでヒャッハァな人に絡まれるのだ!ミッちゃんが。
 そんで、訓練施設みたいトコで、決闘騒ぎになるのだ!ミッちゃんが。
 
 パウパウ、うっきうき。
 そして脳内ミッちゃんの災難が酷い。

「オレ、ナンカ、ヤッチャイマシタカ?」
 思わず頭に浮かんだ言葉が、口から駄々洩れになった。

「ん?別になにも、やっちゃってないよ、

 ミッちゃんは町の人々の視線を背に、ギルドの扉を開けた。
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