パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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106.ミッちゃんのレトケレス探し2

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「ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです」
 パウパウが言うと、パルレスが嬉しそうに笑った。
「ありがとう。また、来てね、今度は新鮮な魚料理を食べて欲しいな」
「うん!」
「あぁ、また寄らせてもらおう。そうだな……フッバーの稼ぎで」
「あっはっは、それならテュンノス本マグロを仕入れとくなっ!気張れヤ、フッバー」
「おう、分かった。任せとけ」
 フッバーが拳を作って笑った。

 三人で笑いながら店を出て、町の賑やかな方へと足を向ける。
 その時、ミッちゃんはサブロとアオメの二羽を、空に放った。
「眷属か?」
「あぁ、空の散歩だな」
 そんな長閑のどかな事の言ったくせに、ハイエルフは口角を片方だけ上げて笑った。

「あっちのが商業ギルド支部。で、あれが町役場だ。まぁ、この辺りが中心部ってやつだな」
 冒険者(兼漁業)ギルドと同じような、深い灰褐色の石造りの建物は町の主要拠点なのだろう。
 他には石の土台に木造と漆喰の建物の店が並んでいる。

 リヨスアルヴァほど大きくはないが、広場を取り囲むような配置だ。
 その一角では、仮設の出店の設置が始まっていた。

 買い物客のような人出も多い。
 お陰でハイエルフを見る視線も増えるが、ミッちゃんは自分の事は気にしない。
 だが、パウパウには認識阻害をしてある。
 これで見たことがない人には、子供が居るとは分かっても、その姿形を知る事はない。

「山側のほうにも集会場所の広場があってな、そこにも祭りの店が並ぶ。あとは、街道沿いにもモグリの店が出るぞ」
 その家で作った海の加工品を、見物客相手に道沿いで売ったりするらしい。
「そっちの店は正規の出店か?」
「おぅ、ちゃんと商業ギルドを通した店だ、自分の家の前は見ないふりだな……ところでウルジェド、わざとに姿をさらしているのか」

 ミッちゃんは足を止めた。
「ん?まあな、ただの人さらいならエルフをと思わないか?」
「いやぁ……そうかぁ?」
 パウパウも聞いていてフッバーと同じ気持ちだ。

 ミッちゃんは一見、華奢そうに見えるし、とても強いとは見えない。
 でも、立ち姿からして、だと素人目にも感じさせる空気があるのだ。
「あれだ。釣りでもあるだろ?ほら、疑似餌ルアー釣りってヤツだな」
 なんだか得意したり顔をして言うが
「無理だと思うなぁ」
「無理だなぁ」
 思わずフッバーとパウパウの声が重なった。

「え、そう?」
「だって、ミッちゃんは凄そうだもん」
「攫われるには、太々ふてぶてしいよな」
 二人仲良く「ね~」と言うと、ハイエルフが
「酷いっ!……いっそ叔父上を呼ぶか」と、言い出した。

 確かにマールちゃんなら、すぐに悪い人が湧きそうではあるが、悪くない人まで人攫いに堕ちそうな気がするから、止めた方がいいとパウパウは思う。

「……いや、そう。犯罪者が増える気がする」
 ミッちゃんの言葉にコクコクと頷くパウパウ。
「それ、どんな叔父さんだよ」フッバーが首を傾げたので、
「なんかスゴイ」とだけ、パウパウは答えておいた。


「……ミッちゃんなんてさらわれる筈がない、と思った時もありました」
「あ~、俺も」
「ふっふ~ん」
 まさかと思ったら釣れた。
 池に落としたスプーンにマスが喰い付いた程の驚きである。

 ミッちゃんは上から警戒をしているアオメの目を使って、それらしい人数を確認する。
 四人……判断が難しい人数だが、白昼の町中だとしたら、多いのかもしれない。
 後ろには気づかれないように、胸の上で冒険者のハンドサインを出すとフッバーは「おう、それじゃ、また明日なっ!」と脇道にれた。

 別に作戦を立てているではないが、彼なら回り込むなりして相手の後ろを取るだろう。
 全く心配はしていない。

 ミッちゃんはパウパウと手を繋いで、町の中通り、小路へと人気の少ない方へと進んで行く。
「ねぇ!そこの、エルフのおにぃ~さん」
 ミッちゃんが止まらなかったのは、と躊躇をしたためだ。

 ①最近、引っ越して来たエルフの地元民
 ②(元)冒険者のウルジェド
 ③祭り見物に来た観光客のエルフ
 ④……

 考えている間も無くなったので、とりあえず、
「はい、なにか御用ですか?」様子見でミッちゃんは男達に振り向いた。
 三人だ。
 もう一人は何処だとアオメに指示を出す。

「うぉぉ、大当たりじゃん!」連れの男が興奮したように騒ぐ。
 もう一人も、ヒョッヒョッと息を吸いながら笑っていて気色が悪い。
「ここ、俺らの地元なんだけどさぁ、よかったら案内するよ~、一緒に遊びに行かない?」

「……ウソだよね」
 ポツリと呟いたパウパウの声を拾ったのは、最初に声を掛けた男だ。
 チャラ1としよう。と、パウパウは内心で思った。

「な、なにがだい?ボク……」
「だって、ミッちゃんの事を知らない地元の人なんて居ないよ。皆で3日前に肉祭りしたもん」

 肉祭り、消費した水魔天牛は2頭分である。喜んでいただいて何よりだ。
 まだまだ在庫はあるが、あまり放出すると【牛エルフ】とか言われそうなので躊躇している。
「そうだねぇ……それに、そんな聞き取りやすい言葉の地元民は、客商売でもないかぎり、ここらじゃ居ないねぇ」


 パウパウは頭の中で、チャラ1に狙いを定めて”動くな”と”おまじない”をする。
 ミッちゃんは、チャラ2とチャラ3に麻痺を掛けたようだ。
 きびすを返そうとしたチャラ1は、地面に貼り付いた自分に慌てて「ひぇ、なんで?なんでだよぉ」と言っている。
 チャラ2と3は、地面に倒れ込んでうめいている。

 さて、隠れているのかチャラ4は何処だと思っていたら、フッバーが肩に男を担いで合流した。
「そいつが主犯かな?」
 ドサリと道に投げ捨てられた男を見降して、ミッちゃんが言う。

「さて、エルフを何処に連れて行ってくれる予定だったのかな?案内してくれるんだろう?」
 収納から取り出した、低級の回復薬をジョボジョボと男に掛けながら話す。
 鼻に入ろうが、口に入ろうが、お構いなしでジョボジョボだ。

 正解は④行き当たりばったりの脳筋ハイエルフである。
 通常営業だ。

 ゲホッと苦し気に咳き込んで男が呻きながら目を開けた。
「やぁ、こんにちは。通りすがりのハイエルフです。なんでも、楽しい所に案内して頂けるそうなので、楽しみです」
「うわっ怖っ、本気で笑ってるわ」
「ミッちゃん、楽しそうだねぇ」
 平気でそう言うパウパウに、いや、この子も怖いとフッバーは内心で思った。

「で、どうするよ?こいつら衛兵の詰め所に運ぶか」
「いや……」
「だって……ベネ様は、知らなかったって事は、誰かが教えてなかったんだよね?」
「そうなんだよね」
 困った顔をしてミッちゃんはフッバーを見つめた。
「あぁ、そうか。じゃ、ギルマスいや、港の倉庫に詰めるか」
 最悪、ギルドにも内通者が居ないとも限らない。

 ミッちゃんは人さらい四人も連れて港の倉庫前に転移をした。

 ─────────────────────────────────────

 大漁旗の錬金染をしている店から出てきた老人は、少し目を開くと、防潮堤越しに空を眺めて
「ヒトアメクッカラヘェレ」と、フィリを招き入れてくれた。

「わぁっ!」
 パウパウ達と同じように、フィリもまた色の洪水に迎え入れられて弾んだ声をあげる。
「凄い!すごい。これが錬金染めかぁ、鮮やかで、海風に耐えている染料なのかぁ」

 船上でひるがえっているのは、いつでも見ているが、こうやって飾られている物を見るのは初めてだ。
 大分、納品を済ませてしまって数は減っているが、見本として飾られている物もある。

「こんなに奇麗なんだぁ……」
 魅入られたようにフィリは眺め続けた。

「あ、ごめんなさい。夢中になってしまって。これ、お爺さんが染められたんですか?」
「オリャ、ウェスッテンダ」
「あ、はい。ウェスさんが染められたんですか?」
「ンダ」

 武骨で、ぶっきらぼうな応対のウェス老人にフィリは気後れすることなく、話を続ける。
「ぼく、今度の舟競争に出るんですけど、どうしても錬金符の染料が安定しなくて、あの、ぼくの染料の何処が悪いかを見ていただけないでしょうか」

 フィリは頭のシェブロンターバンを外して、頭を深く下げた。

 コツンコツンコツンとウェス老人が杖で床を叩く音だけが、工房に響いた。
「……センリョォハペルナガツクトォ、モスコシシタラケェッテクルカラハイッテマッテレ」

 そう言って貰えて、フィリは「ありがとうございます!」と顔を上げた。

 ウェス老人は四角い顔で、何故だかそっぽを向きながら、顔をごしごしと擦っていた。
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