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105.ミッちゃんのレトケレス探し1
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フッバーが連れて行ってくれたのは、住宅街の中道を一本入った所にある小さな店だった。
食堂というよりも小料理屋のようだ。
カウンターがあって、6脚ほどの椅子が並び、その奥に4人ほどが座れる丸テーブルが2つ。
まだ、客は居ない。
「いらっしゃい!フッバー」
カウンターの中から、にっこりと気持ちの良い笑顔で茶色の髪の男が迎えてくれた。
「よぅ、まだ早いがいいか?」
「このとおり祭り前でピョンピョン虫だって来やしねぇんだ。好きに座ってくれ。一人1机でもいいよ~」
「お邪魔する。じゃあ、フッバーはカウンターに座れ、私とパウパウは奥のテーブルだな」
「なんだよ、それ!」
「あはは、初めまして。先だっては肉を御馳走様でした。美味しく頂きましたよ。俺はパルレスっていいます。御贔屓に」
「私はウルジェド、この子はパウパウだ。よろしく」
「こんにちは、ぼくパウパウですっ」
「はい。こんにちは、パウパウくんは何が好きかな?魚は平気かい?」
「ぼく、あまり魚を知らないけど、きっと全部好き」
「そっか、じゃあ、オッチャンがウマイもん拵えるからね」
「うん!」
奥のテーブルに構えると、パルレスが手早く人数分の小皿の料理を出してくれた。
小エビの唐揚げに、小魚のマリネ、あとは炒ったナッツだ。
(オトーシ……この世界にもあるんだ)
帝都のレストランでは無かったサービスだ。
「今日から網を上げちゃったんで、生のは出せないんだ。干物なら焼けるよ」
「じゃあ、適当に頼むわ。ウルジェドもパウパウも、それでいいか?」
「フッバーとウルジェドさんは、エールかな?パウパウくんは、どうしようか、お水くらいしか出せないねぇ」
持ち込みの飲み物を許してもらって、パウパウはナイナイ袋から自分用の果実水を出した。
ミッちゃんは水だ。
「パルレスはサイラの伴侶なんだ」
「いい店だな。なんだか落ち着く」
古い建物だが、大切に使われているのだろう。机も椅子も深い色をしている。
カウンターの奥にあるらしい厨房から鍋を煽る音と、魚が焼ける匂いが漂ってくる。
「フッバーに個人依頼をしたいのだが、相談にのってくれるか?」
雰囲気が変わったハイエルフに、フッバーは思わず居住まいを正し、背筋を伸ばした。
「おう、聞こう、なんだ?」
ミッちゃんは話が聞こえなくなるように遮音をしようとしたのを、フッバーが止める。
「大丈夫だ。サイラもパルレスも信用できる」
フッバーが真っすぐに言った言葉に、ミッちゃんは頷く。
「分かった。フッバーが言うなら信じよう。……で、馬車の中でベネ殿が言っていただろう?フィリくんの事だ」
「あぁ、だが、御領主は手も気も配るって仰っただろうから、大丈夫……じゃないのか?」
フッバーはパウパウをチラっと見た。
このまま、話を進めていいのか案じたらしい。
流石、気遣いの男である。
「うん、パウパウにも聞いて欲しい。もしかしたら一緒の時に何か有るかもしれないから。それでも、サリレの依頼を続けるかい、レトケレスは見たから、依頼は達成したって事にも出来るよ?」
パウパウはミッちゃんを見た。
「うん。ぼく、フィリお兄ちゃん達と一緒にいる、まだ舟にも乗るし、町の案内も終わってないよ」
ナイナイ袋だって居てくれるし、何があっても、絶対にミッちゃんが守ってくれる。
それを信じてパウパウも強く頷く。
「そうか……」
ミッちゃんは頷いて、話を続けた。
「フィリくんの父親は隣国の貴族のようだ。ベネ殿は王が嫌がらせでフィリ君を攫おうとしたと言っていたが、どうにもキナ臭い」
「…お家騒動ってやつか?」
隣国の貴族でエルフとなれば上級貴族だろうと、中りを付けたフッバーが尋ねる。
「そうならずに、ベネ殿の手と気配りで納まればいいのだが……最悪の事態も考えておくべきだと思ってな」
「俺は、知られずに護衛ってところか」
フッバーの言葉にミッちゃんは頷いた。
もし、ファトゥス前王がターヴ・ミンへの嫌がらせの一環としてフィリ少年を攫おうとしていたのなら、身の危険はあれども命の心配は無かった。
人質として生かしておいただろうからだ。
だが、フッバーの言うように跡目争いだとしたら、命の危険がある。
「ねぇ、ミッちゃん?」
お通しの小エビの唐揚げをシャリシャリと飲み込んだパウパウが上目づかいに声を掛けた。
「誰がフィリお兄ちゃんのこと、王様に話したのかな?」
「そうだねぇ……」
パティオルの話を聞く限り、ターヴ・ミンはフィリの存在を知らない可能性が高い。
では、町の錬金術師とエルフの貴族の繋がりを、誰が、どうやって知ったのか。
誰が前王に話をしたのか。
一番の可能性は、内通者だ。
「あのなぁ……フィリは今まで祭りの騒ぎに託けて、何度か攫われかけているんだ」
グビッとエールを煽ったあとで、フッバーが話始めた。
「まぁ、他の子なんかも拐わかされそうになっているから、フィリだけでは無いんだけどな」
奴隷制度を帝国が強く禁止しても、人攫いの事件は絶えない。
特に子供は、狙われる対象になりやすい。
祭り見物で、そういった不届き者も、やってくるのだ。
「おぉい、パルレス」
フッバーが厨房にいる店主を呼んだ。
「なんだい?フィリくんの事なんて聞こえていないよ」
そう言いながら、奥から出てきた店主が料理をテーブルに置く。
ジャコと小エビとナッツが乗った葉物の炒め物と、焼いた干物だ。
炒め物はキラキラと餡がかかっていて、ジャコやエビが香ばしい匂いをさせていた。
「はい、お待たせ。本当は少し辛くするんだけどね。パウパウくんが居るから、あとから辛みは好きに足して」
そう言って、後足し用の辛み香辛料を置く。
干物は平皿からはみ出す程の、大きな魚を腹開きにした物で、パリっと焼かれている。
尻尾の方が黒く焦げているのが、また、何ともいい雰囲気だ。
「魚は塩気が足りなかったら、これを掛けてね」
パルレスは、そう言って小瓶を添えた。
「聞いてるじゃないかよ、で、皆にも話を通してくれるか?」
「もちろん、いいさね。うちの子だって、前にオッカネェ目にあったんだ。他人事じゃないからね、サイラからも話しを通してもらうよ。毎度のことさぁ」
ちょっと呆気にとられたミッちゃんが、気を取り直して礼を言う。
「なんもだよ、ウルジェドさんこそ、うちの港の子らに有難うだわ、パウパウくんも気を付けるんだよ。コッタラ愛ンコちゃんだからさ」
次は麺を出すよと笑ってパルレスが厨房に引っ込んだ。
ハイエルフは、今のパルレスと、ベネの言葉を思い出していた。
──うちの港の子ら──
──んっふっふ……どうよ、ハイエルフ。ヒトは愛ごいものじゃろう?ワシは、この領地が好きでなぁ。皆で笑って暮らしたいのよ──
ミッちゃんの物思いを振り切るようにフッバーが声を掛けた。
「さぁ、暖かいうちに食べようぜ、魚はわざわざ炭で焼いているから美味いぞ、パルレスの拘りなんだ」
「あ、あぁ、美味そうだ。パウパウ、頂こうか」
「うん!いただきま~っす」
炭火でじっくりと焼かれた魚の開きは、ふっくらとしていながら身が締まって、なんとも言えない食感だった。
塩加減がいいのだろう、そのままでも美味だが、小瓶の魚汁を垂らすとまた味が引き締まって美味い。
パウパウは熱々の魚を、ホフホフしながら口に運んだ。
ホロっとした身がホッケに似ているなと思う。
食べ終わった骨を炭でパリパリに焼いて欲しい。
炒め物は、火加減が絶妙なシャキシャキとした歯ごたえの青菜に掛かった餡と小エビとジャコの香ばしさ、ナッツの食感が楽しい。
単なる塩味のはずなのだが、餡の出汁のお陰で深い味わいになっていて美味い。
「これは、出汁が絶品だなぁ」
ミッちゃんが溜息を吐いた。
頬張りながらパウパウが無言でコクコクと頷く。
「こっちの香辛料を掛けると、味が変わるぞ。辛みが嫌じゃなければ試したらいい」
フッバーが自分の分に掛けた香辛料の小さな壺をウルジェドに渡す。
「これはザンティクの粉末か」
「その家々で、独自の調合をするらしい」
「ほぅ…」
小さな匙で上に掛けてみると、ピリピリした辛みが味を変えてくれた。
「あぁ、これも美味いな」
しみじみと味わいながら呟くミッちゃんは、内心で己の失敗を悔やんでいた。
今まで、この町だけでなく、色々な所で、何も知る気にならなかった己をだ。
他人の子を我がことのように心配する者がいる。
それが、この港町では当たり前なのだ。
そして、目の前に座っている、この男もだ。
……あぁ、リヨスアルヴァのドワーフを救おうとした子爵も居たな。
その町、その町に人が暮らして、誰かを思いやったり、笑ったり、食べて、祭って、慕って、悩んで、争って、泣いて、そして眠るのだ。
そんな当たり前を、実感していなかった後悔が、じわじわとザンティクの辛みのように響いてくる。
「はは…うん、美味いなぁ……フッバー、教えてくれて有難う」
「なんだよ、改まって気持ち悪いな。ま、気に入ってくれて良かったわ」
「はい、おまたせ!ルディタの麺料理だよ!」
「わぁ!ボンゴレ・ヴェラーチだぁ!」
パウパウが嬉しそうに弾んだ声で言った。
たっぷりと入った香草、パスタに似た麺の間から、チョコチョコと顔を出しているのは小さなトマトの隠し味。そして、パカっと口を開けた大振りの二枚貝。
アリウムの匂いが食欲をそそる。
「おや、パウパウくんの故郷では、そう呼ぶのかい?」パルレスが、何気なしに尋ねた。
「う、うん」
今の料理名は前世の記憶だ。
パウパウは少し口ごもった。
「そういえば、こちらでは夏の貝に毒は入らないのか?」
助け船で、ミッちゃんは話を変えた。
「あぁ!それそれ、それもパティオル先生の錬金さぁ」
パルレスが嬉しそうに厨房に引っ込み、すぐに戻って来た。
木の桶を手にしている。
「この、錬金符を貼った桶に貝を入れて2日、塩水に入れて置いたら貝毒が中和されるんだよ!すっごいよなぁパティオル先生は」
そう言って桶の中をわざわざフッバーとミッちゃんに見せてくれた。
確かに木の桶には金属製の錬金符が貼ってあった。
5年ほど前にパティオルが作った錬金符のお陰で、夏場でも二枚貝の出荷をすることが出来るようになったのだそうだ。
「そんな事もしてたのか……流石パティオル先生だ」フッバーは、なんだか嬉しそうに笑った。
「本当に、凄い人だな」
「だろ!しかも、砂出しも出来る!」
いや、そこじゃないだろう、とパウパウは思ったけれど、ボンゴレ・ヴェラーチが美味しくて、それどころではなかった。
記憶のアサリ貝よりも、はっきりした溝の付いた貝は、味が濃くて甘みも強い。
めちゃくちゃ美味しいパスタなのだ。
「ふふ、パウパウ美味しいかい?」
「モフモフォムムホフ」コクコク
「……うん、食べ終わってから話をしようね」
食堂というよりも小料理屋のようだ。
カウンターがあって、6脚ほどの椅子が並び、その奥に4人ほどが座れる丸テーブルが2つ。
まだ、客は居ない。
「いらっしゃい!フッバー」
カウンターの中から、にっこりと気持ちの良い笑顔で茶色の髪の男が迎えてくれた。
「よぅ、まだ早いがいいか?」
「このとおり祭り前でピョンピョン虫だって来やしねぇんだ。好きに座ってくれ。一人1机でもいいよ~」
「お邪魔する。じゃあ、フッバーはカウンターに座れ、私とパウパウは奥のテーブルだな」
「なんだよ、それ!」
「あはは、初めまして。先だっては肉を御馳走様でした。美味しく頂きましたよ。俺はパルレスっていいます。御贔屓に」
「私はウルジェド、この子はパウパウだ。よろしく」
「こんにちは、ぼくパウパウですっ」
「はい。こんにちは、パウパウくんは何が好きかな?魚は平気かい?」
「ぼく、あまり魚を知らないけど、きっと全部好き」
「そっか、じゃあ、オッチャンがウマイもん拵えるからね」
「うん!」
奥のテーブルに構えると、パルレスが手早く人数分の小皿の料理を出してくれた。
小エビの唐揚げに、小魚のマリネ、あとは炒ったナッツだ。
(オトーシ……この世界にもあるんだ)
帝都のレストランでは無かったサービスだ。
「今日から網を上げちゃったんで、生のは出せないんだ。干物なら焼けるよ」
「じゃあ、適当に頼むわ。ウルジェドもパウパウも、それでいいか?」
「フッバーとウルジェドさんは、エールかな?パウパウくんは、どうしようか、お水くらいしか出せないねぇ」
持ち込みの飲み物を許してもらって、パウパウはナイナイ袋から自分用の果実水を出した。
ミッちゃんは水だ。
「パルレスはサイラの伴侶なんだ」
「いい店だな。なんだか落ち着く」
古い建物だが、大切に使われているのだろう。机も椅子も深い色をしている。
カウンターの奥にあるらしい厨房から鍋を煽る音と、魚が焼ける匂いが漂ってくる。
「フッバーに個人依頼をしたいのだが、相談にのってくれるか?」
雰囲気が変わったハイエルフに、フッバーは思わず居住まいを正し、背筋を伸ばした。
「おう、聞こう、なんだ?」
ミッちゃんは話が聞こえなくなるように遮音をしようとしたのを、フッバーが止める。
「大丈夫だ。サイラもパルレスも信用できる」
フッバーが真っすぐに言った言葉に、ミッちゃんは頷く。
「分かった。フッバーが言うなら信じよう。……で、馬車の中でベネ殿が言っていただろう?フィリくんの事だ」
「あぁ、だが、御領主は手も気も配るって仰っただろうから、大丈夫……じゃないのか?」
フッバーはパウパウをチラっと見た。
このまま、話を進めていいのか案じたらしい。
流石、気遣いの男である。
「うん、パウパウにも聞いて欲しい。もしかしたら一緒の時に何か有るかもしれないから。それでも、サリレの依頼を続けるかい、レトケレスは見たから、依頼は達成したって事にも出来るよ?」
パウパウはミッちゃんを見た。
「うん。ぼく、フィリお兄ちゃん達と一緒にいる、まだ舟にも乗るし、町の案内も終わってないよ」
ナイナイ袋だって居てくれるし、何があっても、絶対にミッちゃんが守ってくれる。
それを信じてパウパウも強く頷く。
「そうか……」
ミッちゃんは頷いて、話を続けた。
「フィリくんの父親は隣国の貴族のようだ。ベネ殿は王が嫌がらせでフィリ君を攫おうとしたと言っていたが、どうにもキナ臭い」
「…お家騒動ってやつか?」
隣国の貴族でエルフとなれば上級貴族だろうと、中りを付けたフッバーが尋ねる。
「そうならずに、ベネ殿の手と気配りで納まればいいのだが……最悪の事態も考えておくべきだと思ってな」
「俺は、知られずに護衛ってところか」
フッバーの言葉にミッちゃんは頷いた。
もし、ファトゥス前王がターヴ・ミンへの嫌がらせの一環としてフィリ少年を攫おうとしていたのなら、身の危険はあれども命の心配は無かった。
人質として生かしておいただろうからだ。
だが、フッバーの言うように跡目争いだとしたら、命の危険がある。
「ねぇ、ミッちゃん?」
お通しの小エビの唐揚げをシャリシャリと飲み込んだパウパウが上目づかいに声を掛けた。
「誰がフィリお兄ちゃんのこと、王様に話したのかな?」
「そうだねぇ……」
パティオルの話を聞く限り、ターヴ・ミンはフィリの存在を知らない可能性が高い。
では、町の錬金術師とエルフの貴族の繋がりを、誰が、どうやって知ったのか。
誰が前王に話をしたのか。
一番の可能性は、内通者だ。
「あのなぁ……フィリは今まで祭りの騒ぎに託けて、何度か攫われかけているんだ」
グビッとエールを煽ったあとで、フッバーが話始めた。
「まぁ、他の子なんかも拐わかされそうになっているから、フィリだけでは無いんだけどな」
奴隷制度を帝国が強く禁止しても、人攫いの事件は絶えない。
特に子供は、狙われる対象になりやすい。
祭り見物で、そういった不届き者も、やってくるのだ。
「おぉい、パルレス」
フッバーが厨房にいる店主を呼んだ。
「なんだい?フィリくんの事なんて聞こえていないよ」
そう言いながら、奥から出てきた店主が料理をテーブルに置く。
ジャコと小エビとナッツが乗った葉物の炒め物と、焼いた干物だ。
炒め物はキラキラと餡がかかっていて、ジャコやエビが香ばしい匂いをさせていた。
「はい、お待たせ。本当は少し辛くするんだけどね。パウパウくんが居るから、あとから辛みは好きに足して」
そう言って、後足し用の辛み香辛料を置く。
干物は平皿からはみ出す程の、大きな魚を腹開きにした物で、パリっと焼かれている。
尻尾の方が黒く焦げているのが、また、何ともいい雰囲気だ。
「魚は塩気が足りなかったら、これを掛けてね」
パルレスは、そう言って小瓶を添えた。
「聞いてるじゃないかよ、で、皆にも話を通してくれるか?」
「もちろん、いいさね。うちの子だって、前にオッカネェ目にあったんだ。他人事じゃないからね、サイラからも話しを通してもらうよ。毎度のことさぁ」
ちょっと呆気にとられたミッちゃんが、気を取り直して礼を言う。
「なんもだよ、ウルジェドさんこそ、うちの港の子らに有難うだわ、パウパウくんも気を付けるんだよ。コッタラ愛ンコちゃんだからさ」
次は麺を出すよと笑ってパルレスが厨房に引っ込んだ。
ハイエルフは、今のパルレスと、ベネの言葉を思い出していた。
──うちの港の子ら──
──んっふっふ……どうよ、ハイエルフ。ヒトは愛ごいものじゃろう?ワシは、この領地が好きでなぁ。皆で笑って暮らしたいのよ──
ミッちゃんの物思いを振り切るようにフッバーが声を掛けた。
「さぁ、暖かいうちに食べようぜ、魚はわざわざ炭で焼いているから美味いぞ、パルレスの拘りなんだ」
「あ、あぁ、美味そうだ。パウパウ、頂こうか」
「うん!いただきま~っす」
炭火でじっくりと焼かれた魚の開きは、ふっくらとしていながら身が締まって、なんとも言えない食感だった。
塩加減がいいのだろう、そのままでも美味だが、小瓶の魚汁を垂らすとまた味が引き締まって美味い。
パウパウは熱々の魚を、ホフホフしながら口に運んだ。
ホロっとした身がホッケに似ているなと思う。
食べ終わった骨を炭でパリパリに焼いて欲しい。
炒め物は、火加減が絶妙なシャキシャキとした歯ごたえの青菜に掛かった餡と小エビとジャコの香ばしさ、ナッツの食感が楽しい。
単なる塩味のはずなのだが、餡の出汁のお陰で深い味わいになっていて美味い。
「これは、出汁が絶品だなぁ」
ミッちゃんが溜息を吐いた。
頬張りながらパウパウが無言でコクコクと頷く。
「こっちの香辛料を掛けると、味が変わるぞ。辛みが嫌じゃなければ試したらいい」
フッバーが自分の分に掛けた香辛料の小さな壺をウルジェドに渡す。
「これはザンティクの粉末か」
「その家々で、独自の調合をするらしい」
「ほぅ…」
小さな匙で上に掛けてみると、ピリピリした辛みが味を変えてくれた。
「あぁ、これも美味いな」
しみじみと味わいながら呟くミッちゃんは、内心で己の失敗を悔やんでいた。
今まで、この町だけでなく、色々な所で、何も知る気にならなかった己をだ。
他人の子を我がことのように心配する者がいる。
それが、この港町では当たり前なのだ。
そして、目の前に座っている、この男もだ。
……あぁ、リヨスアルヴァのドワーフを救おうとした子爵も居たな。
その町、その町に人が暮らして、誰かを思いやったり、笑ったり、食べて、祭って、慕って、悩んで、争って、泣いて、そして眠るのだ。
そんな当たり前を、実感していなかった後悔が、じわじわとザンティクの辛みのように響いてくる。
「はは…うん、美味いなぁ……フッバー、教えてくれて有難う」
「なんだよ、改まって気持ち悪いな。ま、気に入ってくれて良かったわ」
「はい、おまたせ!ルディタの麺料理だよ!」
「わぁ!ボンゴレ・ヴェラーチだぁ!」
パウパウが嬉しそうに弾んだ声で言った。
たっぷりと入った香草、パスタに似た麺の間から、チョコチョコと顔を出しているのは小さなトマトの隠し味。そして、パカっと口を開けた大振りの二枚貝。
アリウムの匂いが食欲をそそる。
「おや、パウパウくんの故郷では、そう呼ぶのかい?」パルレスが、何気なしに尋ねた。
「う、うん」
今の料理名は前世の記憶だ。
パウパウは少し口ごもった。
「そういえば、こちらでは夏の貝に毒は入らないのか?」
助け船で、ミッちゃんは話を変えた。
「あぁ!それそれ、それもパティオル先生の錬金さぁ」
パルレスが嬉しそうに厨房に引っ込み、すぐに戻って来た。
木の桶を手にしている。
「この、錬金符を貼った桶に貝を入れて2日、塩水に入れて置いたら貝毒が中和されるんだよ!すっごいよなぁパティオル先生は」
そう言って桶の中をわざわざフッバーとミッちゃんに見せてくれた。
確かに木の桶には金属製の錬金符が貼ってあった。
5年ほど前にパティオルが作った錬金符のお陰で、夏場でも二枚貝の出荷をすることが出来るようになったのだそうだ。
「そんな事もしてたのか……流石パティオル先生だ」フッバーは、なんだか嬉しそうに笑った。
「本当に、凄い人だな」
「だろ!しかも、砂出しも出来る!」
いや、そこじゃないだろう、とパウパウは思ったけれど、ボンゴレ・ヴェラーチが美味しくて、それどころではなかった。
記憶のアサリ貝よりも、はっきりした溝の付いた貝は、味が濃くて甘みも強い。
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