104 / 178
104.パウパウの夏とタガメ探し 39
しおりを挟む
レトケレスの観察を昼過ぎに終えて、少年たちは転移で港へ送ってもらった。
「これから舟の改造をするんです」マルトフが言う。
「ほら、パウパウが考えてくれた櫓の二つ使いをするだろ?その作戦を隣村に知られるわけに行かないからな」
子供たちの舟レースの前日に、近隣の村から参加する舟と大人達の参加する船が集まって来るのだという。
今日を入れて、あと4日。
ラキップ達、敵?が来るまで3日。それまでに舟の二つ櫓使いを完成させたいのだ。
「なので、すみません。今日の予定は終了としていいですか?」
マルトフがパウパウに尋ねた。
フッバーの薫陶が、どうやら生きているようだ。
「……うん。レトケレス、見れたし。今日はオシマイでいいよっ、ね。ミッちゃん」
本当は舟の改造に付き合いたいが、自分が居た所で何もできないのは、パウパウでも分かる。
せいぜいが、ここぞで櫓を3つにしてターボエンジンにしようぜ!とか、そういう前世の記憶での力押しぐらいしか出てこない。
「あぁ、そうか……で、明日の予定なのだが、皆、屋敷の方に来てくれないかな?ダグラス君は難しいかい?」
「いえ、魚が少ないんで今日から網を掛けないことにしタンデ、早めに行けると思います」
「え、そうなの?ダグラス」
「あぁ、サッパワヤヤワ」
一人前の漁師のような顔をして、ダグラスは首を振った。
「まあ、毎年、この時期は夏枯れってヤツなんで大潮の祭りの後には、魚は戻って来るってオッチャン達も言ってンデ、デェ…大丈夫です」
「そうか。では、また明日、丘の屋敷でな、パウパウ少し歩こうか?フッバー、町の賑やかな界隈を案内してくれないか?」
「おぉ、いいぞ!じゃぁ、また明日な」
「はい。パウパウまた明日」
「うん!また明日ねっ、頑張ってね」
ダグラスが言ったとおり、昼過ぎの港に作業をする者の姿は無かった。
「随分と閑散としたものだな」
「ははっ、こんなもんだぞ。獲れないときは早仕舞いだ……岩礁地帯へ舟を出してハリオやトゥルボなんかを採る人もいるが、自分らのツマミ用だな」
「クックク、それは贅沢だ」
「あぁ、酷いヤツは、その場で酒盛りしているな、で、ウルジェド、前に話した俺の行きつけの店で、昼飯にしないか?」
「それはいいな、パウパウ、お店で御飯を食べようか?」
「うんっ!」
今度こそ、フッバーさんお勧めのお店で御飯だっ!
楽しみにしていたお店だったので、パウパウはニパッと笑った。
「まぁ、ウルジェドの飯より美味いことは無いが、かまわねぇか?パウパウ」
「いいよ!楽しみっジモトメシ!」
ミッちゃんと繋いだ手をぶんぶんして、パウパウなりにずんずん元気に歩く。
「なんか、すごく期待されて、責任重大だなぁ」フッバーの、ぼやき声が聞こえた。
────────────────────────────────────
「うん。悪くないんじゃないか?」マルトフの言葉にダグラスも頷く。
海水に漬けたら使用回数が減ってしまうので船揚場での予行練習だ。
「うん。でもさぁ……」
フィリは浮かない顔で錬金符を眺めた。
部分部分に、滲みが出ているように見えた。
やはり、問題は符を書き足した自作の顔料にあると思う。
符を剥がして、大切そうに布カバンに仕舞うフィリにダグラスが声を掛ける。
「大丈夫ダッテ、フィリが書いたモン悪さなんかシネェッテ」
「ダグ……お前、訛ひどくなったら、ギルマスに怒られるぞ」
「ナンモナマッテネェベヤ!」
「あはっはっは……あ~、でもさぁ、ぼくね、ギルマスに帝国語の発音とか教わっておいて良かったって、今日思ったよ」
「そうだよね、まさか御領主様と馬車に乗るとは思わなかったもんなぁ」
「いいなぁ、お前ら。俺も馬車、乗ってみたかったワ」
フワリと山から冷たい風が吹いて来て、一瞬、辺りの空気が冷えた。
去年の旗が色褪せずにフワっと風に泳ぐ。
自分達の手で、見様見真似の劣化防止術を掛けられた旗は、殆ど新品のようだ。
端の方が解れて糸が出てきているのは、粋や愛嬌という物である。
祭りの前日には新しい旗に代えて、今の旗は船の縁を飾った後で法被や羽織りに仕立てられ、次の年の祭りで漁師たちが纏うことになる。
「ヤマセ風だな」
ダグラスが空を見上げて言った。
「雨になるかな」
「ん~、降るかもナ、ンジャ今日は解散スッカ」
「あ、ぼく、ちょっと寄る処があるから、また明日パウパウのトコでね」
二人に手を振るとフィリは、小走りに港を抜けて、防潮堤に沿った道を歩き出した。
子供たちの舟競争は、あくまでも遊びの緩いルールだ。
もちろん、勝負ごとで勝敗があるが、親は口出しをしない。
フィリも錬金術師の親の道具を使ったりは出来ないし、しない。
これは舟と海についての学習でもあるからだ。
それを身に染みている親たちも、余計な手助けはしない。
仲間と自分で考えて、調べて、工夫して、実践する。
それが出来なければ、海上で何かが有った時に対処できる大人には成れないと、知っているからだ。
防潮堤の上に貼られたパティオルの錬金符が、ときどき空色を弾いて光る。
その光の点に導かれるように、小さな錬金術師は家とは逆方向へと歩む。
小川の所は暗渠になって、地面の下を水が抜けて磯に流れて行く。
その部分の防潮堤の錬金符は二重になっているのが、フィリの目にも見える。
時おり設置された、浜へ出るための扉にも水圧に負けないようにと錬金符が貼ってあった。
フィリの産親が、漁業ギルドに働きかけてコツコツと作り続けた錬金符、この港町を守りたい一心で作って来た光の道だ。
(──ぼくも、こう有りたい)
誇らしい気持ちを胸に、たどり着いたのは左側に曲がるとギルドへ続く道の角。
小さな【錬金染】の看板が下げられた家だった。
フィリは息を大きく吸って、玄関の扉を叩く。
しばらくすると、扉が、ゆっくりと開き、老人が顔を覗かせた。
「初めまして、ぼく、フィリと申します……錬金術について、教えていただきたくお邪魔しました」
一方のマルトフとダグラスは、フィリを見送った後、所在無げにしていた。
「……なぁ、ダグ。ちょっと相談なんだけどさ、今日、ベネ様がフィリのこと、もう心配ないからシェブロン外しても大丈夫って言ってくれたんだよ」
「え?そうなんか?でも、フィリ、外してなかったよな」
「まぁ、髪が痛まないからって言ってたけどさ、本当は怖いんだと思うんだよね」
最初は三年前の祭りの週に、街道沿いの空き地で遊んでいたところで、箱馬車の商人に声を掛けられたのだ。
小遣いをあげるから、道案内をしてくれ。
確か、そんな風に言った商人風の男達は、なんだか嫌な気配を漂わせてフィリに触れようとしてきた。
だいたい、大きな道はこれ一本で、真っすぐ進めば賑やかな場所へ着く。
道案内など不要なのだ。
咄嗟にダグラスが男の一人、フィリを掴もうとしていた奴の脛に銛の柄を叩きつけた。
三人で冒険者ごっこをしていたのだ。
ダグラスは、壊れた銛の柄を剣に見立てた剣士役だった。
ぎゃぁ!と悲鳴をあげて、男が転がった。
「なにしてる、こいつら纏めて捕まえちまえ!」
御者台に居た、もう一人が叫ぶ。
それを聞いたマルトフが、習い始めた風魔法で大声で叫ぶ。
「助けて~!助けて!さらわれるぅ!変な男にさらわれるぅ!」
「くっそ、ガキがぁ!」
もう一人の男が、マルトフを止めようとしたところで、フィリがパティオルに持たされていた護身用の棒を叩きつけた。
バチバチバチと音を立てて、もう一人の男が悲鳴すら上げずに崩れ落ちた。
ちなみにマルトフとフィリは魔法師役である。
パーティとしてはバランスが悪いが、幼馴染の彼らの連携は完璧だった。
「チッ」御者台の男が降りて来たところをフィリは素早く回り込んで、手にした棒で馬車馬の尻を思いっきり叩いた。
「あ、なにを!」
馬車馬は嘶いて、動き出す。
「ガキ、てめぇ!」
御者台の男は、去ってゆく馬車と子供と仲間を交互に見ながら、どうしていいか迷った。
その間も、サイレーンのようにマルトフの悲鳴が響き渡っている。
ダグラスは脛を打ち付けた男を銛の柄でボコボコと追い打ちをかけている。
フィリはふーふーと、気の立った猫のように、一人残った男を睨みつけていた。
手に持った護身用の棒がパチパチと物騒に光る。
「ちっ」
男は仲間を見捨てて、馬車を追うために駆けだした。
しかし、そのとき、彼方此方からオッチャン達が駆け付けた。
「おぅ、どうしたマルトフ!」
「オッチャァン~!」
ワラワラと現れた漁師たちが、御者台の男を易々とぶちのめして、三人組を町の衛兵に突き出してくれたのだ。
ちなみに馬車と馬と積荷は接収されて漁業ギルドの持ち物となり、子供たちの家に等分で金が支払われたのだが、それを彼らは知らない。
「最初はさ、ギルマス達の言うように、ヘンタイ?だっけ、まぁ、フィリ狙いの人攫いってんで納得してたけどさ……変じゃないかって思うんだ」
船揚げ場に上げた、夏空号に寄りかかってマルトフが言うのに、ダグラスも頷いた。
「3回もダモナァ……」
「去年は2回あったから、回数なら4回だよ。全部、フィリを狙ってた」
マルトフ発案で、昨年の祭りからプタフォタンの子供たちは、シェブロン風に髪と耳を隠す様にしたのだ。
そうした処、外部からの商人に声を掛けられる子供が増えた。
乱暴な者とあっては、無理やり頭布を取り上げる暴挙に出た者もいたのだが、それは当番で見回り──つつ飲んでいる──のオッチャンにボコられたようだ。
「ま、今年も俺らで、アイツサマモリャインダワ」
「ダグ、ほんとに訛ってるってば」
「スッタラコトネェってば!」
「お前、わざとやってるだろ!」
ヤマセが強く吹き付けてきて、その冷たさにマルトフは、ぶるっと震えた。
「ヤベェな、こりゃ一雨クッゾ」
「あ、じゃ僕も帰るね。また明日!」
「んじゃな!」
二人は夫々に家路を急ぐように別れた。
「これから舟の改造をするんです」マルトフが言う。
「ほら、パウパウが考えてくれた櫓の二つ使いをするだろ?その作戦を隣村に知られるわけに行かないからな」
子供たちの舟レースの前日に、近隣の村から参加する舟と大人達の参加する船が集まって来るのだという。
今日を入れて、あと4日。
ラキップ達、敵?が来るまで3日。それまでに舟の二つ櫓使いを完成させたいのだ。
「なので、すみません。今日の予定は終了としていいですか?」
マルトフがパウパウに尋ねた。
フッバーの薫陶が、どうやら生きているようだ。
「……うん。レトケレス、見れたし。今日はオシマイでいいよっ、ね。ミッちゃん」
本当は舟の改造に付き合いたいが、自分が居た所で何もできないのは、パウパウでも分かる。
せいぜいが、ここぞで櫓を3つにしてターボエンジンにしようぜ!とか、そういう前世の記憶での力押しぐらいしか出てこない。
「あぁ、そうか……で、明日の予定なのだが、皆、屋敷の方に来てくれないかな?ダグラス君は難しいかい?」
「いえ、魚が少ないんで今日から網を掛けないことにしタンデ、早めに行けると思います」
「え、そうなの?ダグラス」
「あぁ、サッパワヤヤワ」
一人前の漁師のような顔をして、ダグラスは首を振った。
「まあ、毎年、この時期は夏枯れってヤツなんで大潮の祭りの後には、魚は戻って来るってオッチャン達も言ってンデ、デェ…大丈夫です」
「そうか。では、また明日、丘の屋敷でな、パウパウ少し歩こうか?フッバー、町の賑やかな界隈を案内してくれないか?」
「おぉ、いいぞ!じゃぁ、また明日な」
「はい。パウパウまた明日」
「うん!また明日ねっ、頑張ってね」
ダグラスが言ったとおり、昼過ぎの港に作業をする者の姿は無かった。
「随分と閑散としたものだな」
「ははっ、こんなもんだぞ。獲れないときは早仕舞いだ……岩礁地帯へ舟を出してハリオやトゥルボなんかを採る人もいるが、自分らのツマミ用だな」
「クックク、それは贅沢だ」
「あぁ、酷いヤツは、その場で酒盛りしているな、で、ウルジェド、前に話した俺の行きつけの店で、昼飯にしないか?」
「それはいいな、パウパウ、お店で御飯を食べようか?」
「うんっ!」
今度こそ、フッバーさんお勧めのお店で御飯だっ!
楽しみにしていたお店だったので、パウパウはニパッと笑った。
「まぁ、ウルジェドの飯より美味いことは無いが、かまわねぇか?パウパウ」
「いいよ!楽しみっジモトメシ!」
ミッちゃんと繋いだ手をぶんぶんして、パウパウなりにずんずん元気に歩く。
「なんか、すごく期待されて、責任重大だなぁ」フッバーの、ぼやき声が聞こえた。
────────────────────────────────────
「うん。悪くないんじゃないか?」マルトフの言葉にダグラスも頷く。
海水に漬けたら使用回数が減ってしまうので船揚場での予行練習だ。
「うん。でもさぁ……」
フィリは浮かない顔で錬金符を眺めた。
部分部分に、滲みが出ているように見えた。
やはり、問題は符を書き足した自作の顔料にあると思う。
符を剥がして、大切そうに布カバンに仕舞うフィリにダグラスが声を掛ける。
「大丈夫ダッテ、フィリが書いたモン悪さなんかシネェッテ」
「ダグ……お前、訛ひどくなったら、ギルマスに怒られるぞ」
「ナンモナマッテネェベヤ!」
「あはっはっは……あ~、でもさぁ、ぼくね、ギルマスに帝国語の発音とか教わっておいて良かったって、今日思ったよ」
「そうだよね、まさか御領主様と馬車に乗るとは思わなかったもんなぁ」
「いいなぁ、お前ら。俺も馬車、乗ってみたかったワ」
フワリと山から冷たい風が吹いて来て、一瞬、辺りの空気が冷えた。
去年の旗が色褪せずにフワっと風に泳ぐ。
自分達の手で、見様見真似の劣化防止術を掛けられた旗は、殆ど新品のようだ。
端の方が解れて糸が出てきているのは、粋や愛嬌という物である。
祭りの前日には新しい旗に代えて、今の旗は船の縁を飾った後で法被や羽織りに仕立てられ、次の年の祭りで漁師たちが纏うことになる。
「ヤマセ風だな」
ダグラスが空を見上げて言った。
「雨になるかな」
「ん~、降るかもナ、ンジャ今日は解散スッカ」
「あ、ぼく、ちょっと寄る処があるから、また明日パウパウのトコでね」
二人に手を振るとフィリは、小走りに港を抜けて、防潮堤に沿った道を歩き出した。
子供たちの舟競争は、あくまでも遊びの緩いルールだ。
もちろん、勝負ごとで勝敗があるが、親は口出しをしない。
フィリも錬金術師の親の道具を使ったりは出来ないし、しない。
これは舟と海についての学習でもあるからだ。
それを身に染みている親たちも、余計な手助けはしない。
仲間と自分で考えて、調べて、工夫して、実践する。
それが出来なければ、海上で何かが有った時に対処できる大人には成れないと、知っているからだ。
防潮堤の上に貼られたパティオルの錬金符が、ときどき空色を弾いて光る。
その光の点に導かれるように、小さな錬金術師は家とは逆方向へと歩む。
小川の所は暗渠になって、地面の下を水が抜けて磯に流れて行く。
その部分の防潮堤の錬金符は二重になっているのが、フィリの目にも見える。
時おり設置された、浜へ出るための扉にも水圧に負けないようにと錬金符が貼ってあった。
フィリの産親が、漁業ギルドに働きかけてコツコツと作り続けた錬金符、この港町を守りたい一心で作って来た光の道だ。
(──ぼくも、こう有りたい)
誇らしい気持ちを胸に、たどり着いたのは左側に曲がるとギルドへ続く道の角。
小さな【錬金染】の看板が下げられた家だった。
フィリは息を大きく吸って、玄関の扉を叩く。
しばらくすると、扉が、ゆっくりと開き、老人が顔を覗かせた。
「初めまして、ぼく、フィリと申します……錬金術について、教えていただきたくお邪魔しました」
一方のマルトフとダグラスは、フィリを見送った後、所在無げにしていた。
「……なぁ、ダグ。ちょっと相談なんだけどさ、今日、ベネ様がフィリのこと、もう心配ないからシェブロン外しても大丈夫って言ってくれたんだよ」
「え?そうなんか?でも、フィリ、外してなかったよな」
「まぁ、髪が痛まないからって言ってたけどさ、本当は怖いんだと思うんだよね」
最初は三年前の祭りの週に、街道沿いの空き地で遊んでいたところで、箱馬車の商人に声を掛けられたのだ。
小遣いをあげるから、道案内をしてくれ。
確か、そんな風に言った商人風の男達は、なんだか嫌な気配を漂わせてフィリに触れようとしてきた。
だいたい、大きな道はこれ一本で、真っすぐ進めば賑やかな場所へ着く。
道案内など不要なのだ。
咄嗟にダグラスが男の一人、フィリを掴もうとしていた奴の脛に銛の柄を叩きつけた。
三人で冒険者ごっこをしていたのだ。
ダグラスは、壊れた銛の柄を剣に見立てた剣士役だった。
ぎゃぁ!と悲鳴をあげて、男が転がった。
「なにしてる、こいつら纏めて捕まえちまえ!」
御者台に居た、もう一人が叫ぶ。
それを聞いたマルトフが、習い始めた風魔法で大声で叫ぶ。
「助けて~!助けて!さらわれるぅ!変な男にさらわれるぅ!」
「くっそ、ガキがぁ!」
もう一人の男が、マルトフを止めようとしたところで、フィリがパティオルに持たされていた護身用の棒を叩きつけた。
バチバチバチと音を立てて、もう一人の男が悲鳴すら上げずに崩れ落ちた。
ちなみにマルトフとフィリは魔法師役である。
パーティとしてはバランスが悪いが、幼馴染の彼らの連携は完璧だった。
「チッ」御者台の男が降りて来たところをフィリは素早く回り込んで、手にした棒で馬車馬の尻を思いっきり叩いた。
「あ、なにを!」
馬車馬は嘶いて、動き出す。
「ガキ、てめぇ!」
御者台の男は、去ってゆく馬車と子供と仲間を交互に見ながら、どうしていいか迷った。
その間も、サイレーンのようにマルトフの悲鳴が響き渡っている。
ダグラスは脛を打ち付けた男を銛の柄でボコボコと追い打ちをかけている。
フィリはふーふーと、気の立った猫のように、一人残った男を睨みつけていた。
手に持った護身用の棒がパチパチと物騒に光る。
「ちっ」
男は仲間を見捨てて、馬車を追うために駆けだした。
しかし、そのとき、彼方此方からオッチャン達が駆け付けた。
「おぅ、どうしたマルトフ!」
「オッチャァン~!」
ワラワラと現れた漁師たちが、御者台の男を易々とぶちのめして、三人組を町の衛兵に突き出してくれたのだ。
ちなみに馬車と馬と積荷は接収されて漁業ギルドの持ち物となり、子供たちの家に等分で金が支払われたのだが、それを彼らは知らない。
「最初はさ、ギルマス達の言うように、ヘンタイ?だっけ、まぁ、フィリ狙いの人攫いってんで納得してたけどさ……変じゃないかって思うんだ」
船揚げ場に上げた、夏空号に寄りかかってマルトフが言うのに、ダグラスも頷いた。
「3回もダモナァ……」
「去年は2回あったから、回数なら4回だよ。全部、フィリを狙ってた」
マルトフ発案で、昨年の祭りからプタフォタンの子供たちは、シェブロン風に髪と耳を隠す様にしたのだ。
そうした処、外部からの商人に声を掛けられる子供が増えた。
乱暴な者とあっては、無理やり頭布を取り上げる暴挙に出た者もいたのだが、それは当番で見回り──つつ飲んでいる──のオッチャンにボコられたようだ。
「ま、今年も俺らで、アイツサマモリャインダワ」
「ダグ、ほんとに訛ってるってば」
「スッタラコトネェってば!」
「お前、わざとやってるだろ!」
ヤマセが強く吹き付けてきて、その冷たさにマルトフは、ぶるっと震えた。
「ヤベェな、こりゃ一雨クッゾ」
「あ、じゃ僕も帰るね。また明日!」
「んじゃな!」
二人は夫々に家路を急ぐように別れた。
35
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?
gacchi(がっち)
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる