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111.ミッちゃんのレトケレス探し7
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「──ふむ、で、そのレトケレスを、どうするつもりじゃウルジェド」
小ガニがハサミを動かすとグーリシェダの声が聞こえてきた。
ウルジェドとしては、こちらにチョッカイを掛けて来なければ、それでいいと思っている。
フィリを含む子供たちが怖い目に遭わなければ、それでいいのだ。
「プタフォタンに迷惑を掛けなければ、それでいい。私としてはな、……ベネ殿が、どう思うかは別口だ」
ベネ・ウオレオ=プールヴァ自身の存在と力は別として、ミズラウの国での身分は一領主に過ぎない。
いくら足元が不安定であっても、他国を預かる者の配偶者に物を申すのは、差しさわりがあるだろう。
「おぉ、ご機嫌さまの白龍一族か!ふふ、懐かしいの」
「……釘を刺しに行こうかと思ってはいた。最悪の時は、まぁ……」
今夜、狩ってしまおうかと思っていたのだ。
「まぁ、待て。明日…いや、もう今日か、わしからターヴ・ミン殿に問うてみよう。お前も来るが良かろう」
物語のように都合よく、誰かを公衆の面前で断罪する等という事はない。
リヨスアルヴァの一件は、たまたま、そうなっただけで、後始末を考えれば、そうっと消えてもらうのが本来は面倒が少ないからだ。
「今日は、ダンジョンにパウパウ達と行くんだ。だから、そっちに顔を出せるとしても夕刻だと思うよ」
「うむ、それで良かろう。では、その時にダイーナァを返そう」
「もういいのかい?」
「粗方な。全部はやらぬ。エ・グーシェは甘えすぎじゃ、あとは第三宰相が、頑張ればよいのじゃ」
そう文句を言いながらも昔の教え子に手を貸していたのはグーリシェダだろうに、とニヤニヤしながらウルジェドは通信を切った。
なお、マールとガルデンの事が話題に出たのだが、吐き捨てるように「放っておくがよい」と言われたので、それもそうかと思い、余計な首を突っ込むのは無しとした。
早朝、認識阻害をしてある魔道騎士の前を元気に三人が歩いてくるのを、サブロの目を通して確認したハイエルフは朝食の支度のために寝台から抜け出した。
パウパウは爆睡中である。
昨夜、就寝が遅かったので、このままにしておこうとアオメを呼んで、ヘッドボードの上に止まらせておく。
階段のところでフッバーに出会った。
「おはよう、昨日は叔父が済まなかった」
「いや、パウパウの言ってたとおり、確かに、なんかスゴイ人だったな」
あそこまで造詣が整っていると、もはや暴力だとフッバーは思う。
厨房で作業をしている魔導人形に挨拶をして、ダイニングテーブルに座ったときにウルジェドは思い出して、収納空間から一振りの剣を取り出した。
「そうだ、フッバー、今日のダンジョンだが、これはどうだ」
そう言って、机に置いたのは細身の曲剣だ。
途中が革で出来た鞘に入っている。
「これは……」
フッバーは鞘から剣を抜いた。
柄にガードが無い、ゆったりとしたS字の曲剣だ。
見ていると、何故か胸がムズムズしてくるような気持ちになる、絶妙な曲線の片刃剣だ。
「キリジヤタガンかな、収納空間を漁ったら出てきたんでな、使えるなら使ってくれ」
「いいのか?その、結構な業物のように見えるのだが」
「構わん、私は使わんのでな」
フッバーは立ち上がると、早速、腰の剣を収納ポーチに仕舞い、剣帯に片刃曲剣を佩いた。
柄を手で触り、少し嬉しそうに微笑んだ。
「すまん。ウルジェド、感謝する。できれば、譲ってもらえないか」
「あぁ……そうだな、ではフィリの護衛代金としてどうだ?」
それでは、割に合わないだろうとフッバーが言うと、ウルジェドは、どうせ使わない物だからなと笑った。
アオメの目を通してパウパウが目覚めた事を知ったウルジェドは、フッバーに断って席を外す。
「パウパウ、おはよう」
「ミッちゃん!おはよう。今日、ダンジョンに行く?」
「そうだね、ダンジョンに行くよ」
パウパウの身支度を手伝ってから、二人で手を繋いで廊下を歩く。
余程に嬉しいらしくパウパウの足取りは、ピョンピョンと弾むようだ。
「おはようウルジェド、パウちゃん」
塔の方からマールジェドがやって来た。どうやら、朝風呂に入って来たらしい。
「おはようございますマールちゃん!」
「今日も元気ねぇパウちゃん」
階下に降りていくと、丁度、サリレの三人が屋敷に入って来たところだった。
「あ、おは……」
マールジェドを見て、固まるダグラス達に、ウルジェドが声を掛けて、厨房のダイニングテーブルに座らせる。
「初めまして、マールジェドよ。よろしくね」
「あ。あの僕らはサリレって冒険者パーティで……
マルトフが真っ赤な顔で、代表して挨拶をする。
ここまできたら、やはり美は暴力だとフッバーは傍らで思った。
朝食は、好評だった自分で好きに作って食べるサンドイッチを魔導人形が用意した。
タマゴサラダ、ローストビーフとロック鳥のハム、甘辛く炊いた豚肉。レタス、チコリ、きゅうり、トマトの野菜と、水牛のチーズに赤いチェダーチーズ。
篭に山盛りの白パンと平パンとピタパン。
豆のペーストと、ハーブバター。
今日のプレザーブはペルシカとマルスナ、バキヌムだ。
冷やした柑橘の果実水。乳で煮出した薬茶。
スープは野菜とベーコンが入ったコンソメスープ。
「わぁ!これって面白いわねぇ、ウルジェド」
真っ先に声を上げて、楽し気に白パンに具材を挟んだマールジェドが笑う。
始めてサンドイッチパーティに参加できたダグラスも、楽しそうに具材を積み重ねている。
「ねぇ?マルトフお兄ちゃん、舟なんだけどね?」
パウパウも食欲旺盛に、モツモツと食べながらマルトフに問いかけた。
「んん……なに?パウパウ」ゴックンと飲み込んでからマルトフが返事をする。
「他の錬金符とかを使ったらダメなの?」
スープを啜っていたフィリが首を振る。
「いいや、自分達で考えて工夫するなら反則じゃあないよ、どうしたのパウパウ」
「ん~っとねぇ……」
パウパウは説明をし始める。
レトケレスを見に行ったときに、使わなかった防水、防汚の錬金符だ。
あれを船底に貼るのはどうか?
前世の記憶だと、確か水の抵抗を減らすために船底のコーティングなどをしていた筈だ。
「……舟底に防水かぁ」
「滑りがよくなったら、早くならないかなぁって思うの」
「レトケレスのときの錬金符って、まだ有るか、フィリ」
「うん、あるよ。あと、自分でも作ってみたんだ」
いつも下げている布カバンから、自作の錬金符を取り出してテーブルに置いた。
「おぉ、すごいな、フィリ。昨日、帰ってから作ったのか?」
「うん、夜更かしして母さんに叱られちゃったよ」
ヘヘヘと、フィリは笑う。
きっと、昨日、ペルナに教わった事を試したのだろう。
「はいはい、君たち、御飯を食べてからにしようか」
「あ、すみません」
「はぁーい」
パウパウも含めて四人は、朝食の続きを始める。
マールジェドは、机の上にフィリが置きっぱなしにした錬金符を手にして、「ふうん」と眺めた。
マールジェドは、魔道具師なので、本職ほどではないが錬金術も使える。
錬金墨の定着は仕込みが甘いけど、なかなか良く書けている。あぁ、この辺りとか惜しいけど、この年齢なら大したモノだわねぇ……
「あ、あの……」
自作の符をマールジェドに見られているのに気づいて、フィリが恥ずかしそうに声を上げた。
「これ、フィリくん?が、作ったの?とても良く出来ているね」
「え、あ、ありがとうございます」
「墨の定着が甘いけれど、自分で作ったの?」
「はい!昨日、ペルナさんって錬金の……
ゲッホゲホゴホっ
スープが変な所に入ったらしいフッバーが、いきなり咳込み始めた。
「フッバーさん、だいじょぶ?」
「おぉ、ゴホッ、驚いただけだ……すまんな」
朝食を終えたところで、ミッちゃんがサリレの子供たちを見て
「今日は、君たちさえ良ければ、ダンジョンに行こうと思っているんだよ」
「え、ダンジョン……ですか?」
「で、でも、俺たち何の支度もしていないし」
「あぁ、君たちは見学だ。本当にダンジョンを体験するだけだからね、支度は不要だ。結界を張るから危険は無いよ、どうだい?」
断るわけがない。
新人を対象に行われるダンジョン研修とは言っても強制ではない。
ましてプタフォタン周辺にはダンジョンが無い事になっているため、他領のダンジョンへ遠征をする必要がある。
まだ10歳の少年たちでは、研修を受けることは難しいのだ。
「はいっ!お願いします」
大きな声で三人が返事をした。
屋敷の玄関先で、魔道騎士1機と子供たち、そしてフッバーを連れてハイエルフはダンジョンへ転移をした。
マールジェドを一応、誘ってはみたが
「ん~?行かないわ」と言うので、無理強いはしない。
ミッちゃんが皆を転移させたのは、ダンジョンに降りていく階段の踊り場である。
子供たちに場所が特定されないように、念には念を入れて、この場所へ転移をした。
「わっ」足の感触が硬い石畳みに変わったことで、マルトフが声を上げる。
この踊り場で、もう1機の魔道騎士が待っていた。
多分、山を巡回している魔道具なのだろうとフッバーは推察する。
「おはよう!魔道騎士さん!」パウパウの挨拶に合わせて、少年たちも頭を下げて挨拶をする。
「よろしくお願いします」と、真剣に魔道具に言うのを見て、ミッちゃんとフッバーは初々しさに少し口角が上がるのを堪える。
「さて、この階段を降りると、野原と大きな池があるんだ。出てくるのはカーカルデと、ネウラドかな。あとは小型の蟲系だね。君たちには、魔道騎士を護衛に付けるから危険はない。ただし、何があっても勝手に動かないように、守る事が出来なくなるからね」
「はいっ!」
緊張気味に子供たち四人が、元気に返事をする。
パウパウは、斜めがけにしているナイナイ袋から、武器になりそうな物を取り出して、右手に握った。
小さな子供には、丁度いい長さの獲物である。
「ん?パウパウ、そりゃあ何だ?」
フッバーが気付いて声を掛ける。
「昨日、網元のオッチャン達がくれたの。すっごい硬いから、武器になると思うの」
パウパウの手に握りしめられていたのは、歪な灰色の棒状の物だ。
カッサカサの尻尾が付いている。
「……パウパウ。これって……」
「昨日ね、これ、皆で齧ってたんだ!」
「あ~、そっかぁ……」
ミッちゃんは、昨夜のパウパウの言葉を思い出して、握られている棒状の物体をしげしげと見た。
武器、棒鱈。
冬の間に外で干して、カッチカチに固くなった魚の寒干しだった。
小ガニがハサミを動かすとグーリシェダの声が聞こえてきた。
ウルジェドとしては、こちらにチョッカイを掛けて来なければ、それでいいと思っている。
フィリを含む子供たちが怖い目に遭わなければ、それでいいのだ。
「プタフォタンに迷惑を掛けなければ、それでいい。私としてはな、……ベネ殿が、どう思うかは別口だ」
ベネ・ウオレオ=プールヴァ自身の存在と力は別として、ミズラウの国での身分は一領主に過ぎない。
いくら足元が不安定であっても、他国を預かる者の配偶者に物を申すのは、差しさわりがあるだろう。
「おぉ、ご機嫌さまの白龍一族か!ふふ、懐かしいの」
「……釘を刺しに行こうかと思ってはいた。最悪の時は、まぁ……」
今夜、狩ってしまおうかと思っていたのだ。
「まぁ、待て。明日…いや、もう今日か、わしからターヴ・ミン殿に問うてみよう。お前も来るが良かろう」
物語のように都合よく、誰かを公衆の面前で断罪する等という事はない。
リヨスアルヴァの一件は、たまたま、そうなっただけで、後始末を考えれば、そうっと消えてもらうのが本来は面倒が少ないからだ。
「今日は、ダンジョンにパウパウ達と行くんだ。だから、そっちに顔を出せるとしても夕刻だと思うよ」
「うむ、それで良かろう。では、その時にダイーナァを返そう」
「もういいのかい?」
「粗方な。全部はやらぬ。エ・グーシェは甘えすぎじゃ、あとは第三宰相が、頑張ればよいのじゃ」
そう文句を言いながらも昔の教え子に手を貸していたのはグーリシェダだろうに、とニヤニヤしながらウルジェドは通信を切った。
なお、マールとガルデンの事が話題に出たのだが、吐き捨てるように「放っておくがよい」と言われたので、それもそうかと思い、余計な首を突っ込むのは無しとした。
早朝、認識阻害をしてある魔道騎士の前を元気に三人が歩いてくるのを、サブロの目を通して確認したハイエルフは朝食の支度のために寝台から抜け出した。
パウパウは爆睡中である。
昨夜、就寝が遅かったので、このままにしておこうとアオメを呼んで、ヘッドボードの上に止まらせておく。
階段のところでフッバーに出会った。
「おはよう、昨日は叔父が済まなかった」
「いや、パウパウの言ってたとおり、確かに、なんかスゴイ人だったな」
あそこまで造詣が整っていると、もはや暴力だとフッバーは思う。
厨房で作業をしている魔導人形に挨拶をして、ダイニングテーブルに座ったときにウルジェドは思い出して、収納空間から一振りの剣を取り出した。
「そうだ、フッバー、今日のダンジョンだが、これはどうだ」
そう言って、机に置いたのは細身の曲剣だ。
途中が革で出来た鞘に入っている。
「これは……」
フッバーは鞘から剣を抜いた。
柄にガードが無い、ゆったりとしたS字の曲剣だ。
見ていると、何故か胸がムズムズしてくるような気持ちになる、絶妙な曲線の片刃剣だ。
「キリジヤタガンかな、収納空間を漁ったら出てきたんでな、使えるなら使ってくれ」
「いいのか?その、結構な業物のように見えるのだが」
「構わん、私は使わんのでな」
フッバーは立ち上がると、早速、腰の剣を収納ポーチに仕舞い、剣帯に片刃曲剣を佩いた。
柄を手で触り、少し嬉しそうに微笑んだ。
「すまん。ウルジェド、感謝する。できれば、譲ってもらえないか」
「あぁ……そうだな、ではフィリの護衛代金としてどうだ?」
それでは、割に合わないだろうとフッバーが言うと、ウルジェドは、どうせ使わない物だからなと笑った。
アオメの目を通してパウパウが目覚めた事を知ったウルジェドは、フッバーに断って席を外す。
「パウパウ、おはよう」
「ミッちゃん!おはよう。今日、ダンジョンに行く?」
「そうだね、ダンジョンに行くよ」
パウパウの身支度を手伝ってから、二人で手を繋いで廊下を歩く。
余程に嬉しいらしくパウパウの足取りは、ピョンピョンと弾むようだ。
「おはようウルジェド、パウちゃん」
塔の方からマールジェドがやって来た。どうやら、朝風呂に入って来たらしい。
「おはようございますマールちゃん!」
「今日も元気ねぇパウちゃん」
階下に降りていくと、丁度、サリレの三人が屋敷に入って来たところだった。
「あ、おは……」
マールジェドを見て、固まるダグラス達に、ウルジェドが声を掛けて、厨房のダイニングテーブルに座らせる。
「初めまして、マールジェドよ。よろしくね」
「あ。あの僕らはサリレって冒険者パーティで……
マルトフが真っ赤な顔で、代表して挨拶をする。
ここまできたら、やはり美は暴力だとフッバーは傍らで思った。
朝食は、好評だった自分で好きに作って食べるサンドイッチを魔導人形が用意した。
タマゴサラダ、ローストビーフとロック鳥のハム、甘辛く炊いた豚肉。レタス、チコリ、きゅうり、トマトの野菜と、水牛のチーズに赤いチェダーチーズ。
篭に山盛りの白パンと平パンとピタパン。
豆のペーストと、ハーブバター。
今日のプレザーブはペルシカとマルスナ、バキヌムだ。
冷やした柑橘の果実水。乳で煮出した薬茶。
スープは野菜とベーコンが入ったコンソメスープ。
「わぁ!これって面白いわねぇ、ウルジェド」
真っ先に声を上げて、楽し気に白パンに具材を挟んだマールジェドが笑う。
始めてサンドイッチパーティに参加できたダグラスも、楽しそうに具材を積み重ねている。
「ねぇ?マルトフお兄ちゃん、舟なんだけどね?」
パウパウも食欲旺盛に、モツモツと食べながらマルトフに問いかけた。
「んん……なに?パウパウ」ゴックンと飲み込んでからマルトフが返事をする。
「他の錬金符とかを使ったらダメなの?」
スープを啜っていたフィリが首を振る。
「いいや、自分達で考えて工夫するなら反則じゃあないよ、どうしたのパウパウ」
「ん~っとねぇ……」
パウパウは説明をし始める。
レトケレスを見に行ったときに、使わなかった防水、防汚の錬金符だ。
あれを船底に貼るのはどうか?
前世の記憶だと、確か水の抵抗を減らすために船底のコーティングなどをしていた筈だ。
「……舟底に防水かぁ」
「滑りがよくなったら、早くならないかなぁって思うの」
「レトケレスのときの錬金符って、まだ有るか、フィリ」
「うん、あるよ。あと、自分でも作ってみたんだ」
いつも下げている布カバンから、自作の錬金符を取り出してテーブルに置いた。
「おぉ、すごいな、フィリ。昨日、帰ってから作ったのか?」
「うん、夜更かしして母さんに叱られちゃったよ」
ヘヘヘと、フィリは笑う。
きっと、昨日、ペルナに教わった事を試したのだろう。
「はいはい、君たち、御飯を食べてからにしようか」
「あ、すみません」
「はぁーい」
パウパウも含めて四人は、朝食の続きを始める。
マールジェドは、机の上にフィリが置きっぱなしにした錬金符を手にして、「ふうん」と眺めた。
マールジェドは、魔道具師なので、本職ほどではないが錬金術も使える。
錬金墨の定着は仕込みが甘いけど、なかなか良く書けている。あぁ、この辺りとか惜しいけど、この年齢なら大したモノだわねぇ……
「あ、あの……」
自作の符をマールジェドに見られているのに気づいて、フィリが恥ずかしそうに声を上げた。
「これ、フィリくん?が、作ったの?とても良く出来ているね」
「え、あ、ありがとうございます」
「墨の定着が甘いけれど、自分で作ったの?」
「はい!昨日、ペルナさんって錬金の……
ゲッホゲホゴホっ
スープが変な所に入ったらしいフッバーが、いきなり咳込み始めた。
「フッバーさん、だいじょぶ?」
「おぉ、ゴホッ、驚いただけだ……すまんな」
朝食を終えたところで、ミッちゃんがサリレの子供たちを見て
「今日は、君たちさえ良ければ、ダンジョンに行こうと思っているんだよ」
「え、ダンジョン……ですか?」
「で、でも、俺たち何の支度もしていないし」
「あぁ、君たちは見学だ。本当にダンジョンを体験するだけだからね、支度は不要だ。結界を張るから危険は無いよ、どうだい?」
断るわけがない。
新人を対象に行われるダンジョン研修とは言っても強制ではない。
ましてプタフォタン周辺にはダンジョンが無い事になっているため、他領のダンジョンへ遠征をする必要がある。
まだ10歳の少年たちでは、研修を受けることは難しいのだ。
「はいっ!お願いします」
大きな声で三人が返事をした。
屋敷の玄関先で、魔道騎士1機と子供たち、そしてフッバーを連れてハイエルフはダンジョンへ転移をした。
マールジェドを一応、誘ってはみたが
「ん~?行かないわ」と言うので、無理強いはしない。
ミッちゃんが皆を転移させたのは、ダンジョンに降りていく階段の踊り場である。
子供たちに場所が特定されないように、念には念を入れて、この場所へ転移をした。
「わっ」足の感触が硬い石畳みに変わったことで、マルトフが声を上げる。
この踊り場で、もう1機の魔道騎士が待っていた。
多分、山を巡回している魔道具なのだろうとフッバーは推察する。
「おはよう!魔道騎士さん!」パウパウの挨拶に合わせて、少年たちも頭を下げて挨拶をする。
「よろしくお願いします」と、真剣に魔道具に言うのを見て、ミッちゃんとフッバーは初々しさに少し口角が上がるのを堪える。
「さて、この階段を降りると、野原と大きな池があるんだ。出てくるのはカーカルデと、ネウラドかな。あとは小型の蟲系だね。君たちには、魔道騎士を護衛に付けるから危険はない。ただし、何があっても勝手に動かないように、守る事が出来なくなるからね」
「はいっ!」
緊張気味に子供たち四人が、元気に返事をする。
パウパウは、斜めがけにしているナイナイ袋から、武器になりそうな物を取り出して、右手に握った。
小さな子供には、丁度いい長さの獲物である。
「ん?パウパウ、そりゃあ何だ?」
フッバーが気付いて声を掛ける。
「昨日、網元のオッチャン達がくれたの。すっごい硬いから、武器になると思うの」
パウパウの手に握りしめられていたのは、歪な灰色の棒状の物だ。
カッサカサの尻尾が付いている。
「……パウパウ。これって……」
「昨日ね、これ、皆で齧ってたんだ!」
「あ~、そっかぁ……」
ミッちゃんは、昨夜のパウパウの言葉を思い出して、握られている棒状の物体をしげしげと見た。
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