パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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112.ミッちゃんのレトケレス探し8

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棒鱈ストッカじゃないか……フフフ」マルトフが耐えられなくて笑う。
「でも、確かに硬いよ、いいかも?うーん?」
 フィリは真面目に考える。

「おぉ!パウパウ、行ける気がするから、俺にも貸して!」
 ダグラスはパウパウから1本、棒鱈ストッカを渡されてブンブンと振り、パウパウが持っている棒鱈ストッカと合わせてカチンカチンと硬い音をさせてから、「よしっ!」と言った。
 何がよしっ!なのかは不明である。

「あ~、なんだか、剣ってか手にないと不安になるんだよ、なぁ?」
 フィリとマルトフは、そうかなぁと言った顔で小首を傾げた。
 棒鱈ストッカを持つも、無手も変わりがないのではないか?と、いたって冷静に思ったからである。

 仲間のその顔に、ダグラスは「だってオッチャンが若いころに海スライムを、これで倒したって!」
「うん、ダグラス、そうかもしれないけどさぁ」
「フッバーさんとウルジェドさんと、こんな凄い魔道具がいるんだよ。危ない事なんて無いさ!」
 フィリとマルトフに言われたダグラスは、それでも棒鱈ストッカを手に握りしめた。

「まぁ、お前ら。どっちも悪くない考え方だ。何かの時のために武器を得ようとするダグラスの行動も、今日の所はウルジェドに従って、着の身着のままって二人の行動も良いんだ」
 サリレの三人はフッバーの声に耳を傾ける。

「どんな時でも不測の事態に備えておく、向かってきた危険に対処するために何でも武器にするって気持ちは大切だ。そしてパーティでやって行くときや団体で組んだ討伐なんかのときは、リーダーの命令を優先するっていうのも大事なんだ。要は臨機応変ってヤツだな」

 ミッちゃんはフッバーの言葉に、本当に新人ダンジョン研修が始まったと口角を上げた。
 フッバーは面倒見がいいし、なかなか教師向きであるようだ。
 パウパウもサリレのメンバーになったように右手の棒鱈ストッカを握って大人しく聞いているのが、なんとも可愛らしい。

「それ何本、貰ったの?パウパウ」ミッちゃんが尋ねると、
「んっと10本くらい?入ってるよ!ミッちゃんもいる?」ナイナイ袋の緑色の玉が”やる気ありますっ!”とでも言うようにユラっと中から鈍く光る。
「……いや、私は自分の剣を使うから大丈夫だよ、ありがとうね」

 棒鱈ストッカで戦うハイエルフを想像して、フッバーは吹き出しそうになるのを堪える。

 先頭をミッちゃんとフッバー。
 子供たちはパウパウとフィリ、ダグラスとマルトフの二人ずつが列となってダンジョンの階段を下りていく。
 後ろを魔道騎士ナーターラァが付いてきていた。

 階段を下りて何故か岩壁に設置してある鉄の鋲を打った砦の埋門ポスターンのような、がっしりした扉を魔道騎士ナーターラァが開く。
「これは?」
 不思議そうに扉を見たフッバーがウルジェドに尋ねる。

「後付けしておいた扉だ」
「あぁ、成程な。後付けならば納得だ」
 ダンジョンの入り口が扉や門で出来ている場合は、町や通路などの場所から始まる事が殆どだからだ。
 一人が通る幅の扉をくぐってダンジョンに入る。

 扉を潜った瞬間に感じた何かに、パウパウは、あのアギーさんの転移の感触を思い出した。
 何か後味の悪いものが体を抜けていく感触だ。
 フィリも小さく「う゛っ」と声を上げ、後ろの二人も「ゲッ」とか言っている。

「よし、念のため、ここからは静かにな。ダンジョンは別空間って言われている。だから入った時に、何か違和感を感じたと思うが、あれは……なんだろうなぁ?ウルジェド」
「フッバー先生、私に振らないでください。
 まぁ、ダンジョン自体が違う空間に存在しているので、ここに来るための転移魔法的な物が働いている、と一般的には言われている。違和感や不快感を感じるのは、人族が使っている魔力と異なる力が術を形成しているからという話だね」


 ダンジョンの中に入って行くと、確かにミッちゃんの話したとおりの野原だ。
 遠くに林が見えているが、殆どがパウパウの腰位までの高さの草が生えている。
「この辺りには確か薬草が生えているよ。あと危険な蟲系は出ないと思うけど、一応、気を付けてね」

 先頭を魔道騎士ナーターラァに歩かせて、露払いならぬ草払いで道を作って貰いながらミッちゃんが言う。

「ねぇ、ミッちゃん。こういう処って角ウサギとか出ないの?」
「なんだかねぇ、ここには出ないんだよ。出るなら角ウサギの肉とか角を町に卸せるんだけどねぇ」

 草をザカザカされて、驚いたように飛び出して来た巨大なバッタミグラドを、魔道騎士ナーターラァがサクッと剣で突く。
 50㎝はありそうなバッタミグラドが後足をびくびくさせ、腹を震わせている。
 これだけ大きいと、腹の横にある8つの気門の開閉までが、はっきりと見えた。

「あぁ、ちょうどいい。魔道騎士ナーターラァ、それを見せて」
 まだウゴウゴと動いている獲物を草の上に置いて、ミッちゃんがフッバーを見た。

「あ~、こいつはダンジョンでもミグラドバッタって呼ばれているな。ランクは知ってるか?」
「銅の5です」
 マルトフが答えた。

「そうだ。魔石もあるが小さいし、基本は草食なんで気にもしない魔物だ。だが、これを見かけたときに一つだけ注意があるんだ。それは何か知っているか?」
 子供たちが首を傾げたのを見てフッバーは続ける。

「こいつらの体色だ。普段、このような緑色の時は気にしなくてもいい。だが、色が茶系や黒系になったミグラドバッタを見たならば、ギルドへの報告案件になる」
「体色が変わったのはグレクスと呼ばれているね。群生態になるとランクは金の3だ」

「金の3!」フィリとダグラスが声をあげる。
「それってマカタ・デ・カムツァ?」
 マルトフが自信なさげに小さく呟いた言葉に、フッバーがニパっと笑って頷く。

「そうだ。良く知ってるな。だ。こいつらがダンジョンから集団で飛び出してくる時には、黒く色が変わるんだ。そして地上のあらゆる物を喰いつくすとなる」
「飛行もするから駆除の範囲は広大になる。だから、そうなる前にダンジョンで押さえる必要が出てくるんだよ」

「で、どうする、このミグラドバッタ、開いて魔石を取ってみるか?角ウサギよりも小さいがなぁ」
 フッバーが子供たちに聞いた。
 子供たちは首を振る。
「じゃあ、先に進もうか、今日の目的はカーカルデだからね」
「あ、これはどうするんですか?」
 フィリの問いに
「そのままでいいぞ。他の生き物のエサになるからな」フッバーが返答した。

「あれって消えないの?」
 ふとパウパウは前世の記憶にあった、物語などのダンジョンを思い出してミッちゃんに尋ねた。
「よく知っているね。消えて素材だけが残る魔物と、こうして全部が残る物がダンジョンには居るんだよ」
「まぁ、その辺りの事は後で説明してやる。まずは進むぞ。ウルジェド、案内を頼む」

 その後も大きなカマキリマントディアトンボネウラド魔道騎士ナーターラァやフッバーが倒しては、説明をしてくれる。
 マントディアオオカマキリの鎌の部分は、初心者用の刃物になるというので、三人でフッバーの短刀を借りて解体をし、パウパウのナイナイ袋に仕舞った。

ネウラドトンボは、直に危険が有るわけではないけれど、稀にぶつかる人もいるからね。まぁ、飛んでくる場所に刃を置いておけば、勝手に自滅するけれど」
 そう言って、ハイエルフは収納から出した剣を、すっと斜め上に向けた。

 と、羽根を広げると1m近いネウラドトンボが、真っすぐに飛んできて、そのまま剣を摺りぬけて行った。
「切ろうとせずに、刃を立てて沿わせるようにすると……ね」

 子供たちが振り返るとネウラドトンボが縦半分になって、草の上に落ちて行くところだった。
 未だに動いている羽根が草を揺らしている。

「え?」「今の何?」「はぁ?」
 ミッちゃんが何者かを知らないサリレの三人は、今、彼が何をしたのか分からなかった。
 パウパウはといえば、内心で
(おぉ!だぁ!)と、見当違いな感動をしていた。
 落ち着け、あれは槍だろ?と突っ込んでくれる者が脳内には居ないので、パウパウは内心、ウッキウキである。

「はい、ウルジェド先生のやった事は真似しなくていいからな。で、ネウラドトンボにも大した素材はないから、先に進むぞ」
 フッバーが溜息を吐きながら、引率を再開し、しばらく草地を進んだところで、先の方に大きな湖が見えてきた。

「……ウルジェド、これは池じゃあなくて立派な湖だろうよ……」
 こんな場所で、一体どうやってカーカルデを探せと言うのかと、フッバーが思った時、ミッちゃんが
「フィリ君、ほら防水の錬金符を、フッバーに貼ってくれないか?」と言い出した。

「は?」
「いや、フッバー、お前がカーカルデのタマゴを取るんだろ?だったら防水しないと」
「え?魔法で、ウルジェドが、なんかして稼がせてくれるんじゃないのか?」
「あっはっは。何を甘えたことを抜かすかね。君は」

 そう言いながらミッちゃんは、フィリから渡された錬金符を有無を言わさずにフッバーの胸元にペタリと貼りつけて、グイっと後ろを向かせると、背中にも貼り付けた。

「さて、昨日、君たちはレトケレスを見つけたよね?フッバーから聞いたと思うけど、魔物のカーカルデも、殆ど同じ生態をしているんだ。ただ、相手は大きいから、あまり水際には近寄らないで探してごらん」
 そうミッちゃんがサリレとパウパウに言いだした。

「同じ生態ってことは、今時期はタマゴを産んでいるってことだよね?」と、マルトフが言う。
「じゃあ、木とか、草の陰とか、水面から出ている所を探す?」
「おう、でもカーカルデは銀1の魔物だかンナ、特にパウパウは気ィ付けレヤ。アンマ近くヨンナヨ」
 ダグラスは、素になるとなまりが出てしまうようだ。
「うん。分かった」

 パウパウもカーカルデに捕まってチューチュー体液を啜られるのは、絶対に嫌だから緊張気味に答える。
 フッバーはといえば、
「思ってたんと違うぅ……」とボヤキながらトボトボと水辺に近寄って行った。

 さっきまでの頼れる指導者の姿は、その背中からは微塵も伺えなかった。
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