パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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119.ミッちゃんのレトケレス探し15

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「メリウス卿には、私がこれから行う事に目を瞑っていただく」
 ウルジェドはクリサリスクラゲ飾りを収納に仕舞いながら、この領地の為政者に向かって、そう言った。

 メリウスは不満の光を目に宿してウルジェドを見た。
 ここの所の激務で隈が出来た顔が、ますます壮絶な陰りを帯びた。

 確かに、今回の件ではハイエルフ族に迷惑をかけ、それ以上に治安の維持やドワーフ達への治療などに尽力をして貰っている。
 だが、今の言葉は嘆願ではなく、為政者への要請、いや命令に近い。
「いくら世話になったハイエルフ族だとしても、そのような……」

 でしょうねぇ……と思いながら、出したくなかった物を収納から取り出すと、メリウス卿の前に置いた。

 精霊銀アルタヴァンが放つ光に、ウルジェドの膝の上で寛いでいた黒猫がピクリと反応をする。

 色々な所で、辞めたとか言っておいて、自分も大概、中途半端だと思いつつも、これが一番に早い。
 精霊銀アルタヴァン儀礼短剣アキナケス
 鞘の象嵌は獅子と鷲の帝国紋。
 柄頭ポンメルには多層球細工を施した翡翠色の魔石が飾られている。

「……これは…」
 メリウス卿は息を吞んだ。
 帝国紋の儀礼短剣アキナケス、しかも精霊銀アルタヴァン製を持てるのは直系、もしくは…

 皇帝陛下から拝領された、である。

 精霊猫がポンとウルジェドの膝を蹴って、机に飛び乗ると短剣をフンフンしだす。
 そしてゴロンと寝そべって腹を見せながらクネクネと背中を摺りつけ始めた。
「あ、こら。あぁ、いや」
 精霊猫を払いのける事など、恐ろしくて出来ない。
 かといって、儀礼短剣アキナケスに触れることも出来ずに、メリウス卿はオロオロするばかりだ。

精霊銀アルタヴァンなので、仕方がない」
 マタタビタヌブを貰った猫状態になった精霊猫を挟んで、話を続けることとなった。
 お陰で緊迫感の欠片も無い絵面になっている。

「……何をされるつもりか、伺っても?」
「リヨスアルヴァの後ろ暗い稼業を潰す」

 事も無げに、とんでもないことをサラッと言ったウルジェドを、メリウス卿は目を開いて見た。
「……申し訳ない」
 
「何がだ?私は庇護対象トゥテラの友人を守りたいだけだ。卿に関係はないぞ」
「先の件、かしこまりました」
 メリウスは会えぬ我が子を守ろうとしてくれるハイエルフに頭を下げた。

 精霊猫の御機嫌な喉声だけがあった部屋に、しばらくして
「待たせたの、この者じゃ」
 そう言って転移で戻って来たグーリシェダは、軍人を伴っていた。
 ウルジェドが黒猫を抱き上げて短剣を収納に放り込むと、「に゛ゃぁん」と不服そうな声で鳴かれた。

「ツァフォン駐留軍、第五治安維持部隊、隊長補佐サピヤー=スパサカであります」

 ウルジェドは立ち上がって、サピヤーを迎えた。
 サピヤーは、まさか新領主が同席しているとは思わなかったらしいが、サッと胸に拳を置く敬礼をする。

 亜麻色の髪の一見すると優し気なヒト族だ。
 だが、スパサカを名乗っているということは、と、ウルジェドが見つめると、サピヤーは人懐っこい顔で口角を上げた。
(帝国の王の目の一族か……)
 どうにも一癖も二癖もありそうな人物だ。

 ターヴ・ミンに伝えるべきではないだろうとウルジェドは
「忙しいところ、すまない。私はウルジェドという。早速だが相談に乗って欲しい」と、椅子を勧めて話を始める。

 別国の子供が毎年この時期、リヨスアルヴァの者から狙われる事、今までは誘拐未遂であったが、今年は殺害を目的としていると判明したことを説明した。
「それは、賊を捕らえ、尋問の上での情報ですか?」
「そうだ。依頼の受託時期によっては既に貴族では無い可能性もある。何にせよ、未だに賊が動いているならば止めたい」
「止めるといいますと」
「治安維持部隊が持っている、裏ギルド的なリヨスアルヴァの後ろ暗い組織を、教えてもらいたい」

 マールジェドに頼んで事も考えたが、今はパティオル親子に力を注いでほしい。
 それでなくても、叔父は蜂と蜘蛛を稼動させているのだ。
 我が叔父ながら、化け物じみている。

「それは、……我が部隊の行動方針に介入。つまり手柄を横取りするという事でしょうか」
 サピヤーが物騒に目を光らせて、静かに問うた。
 オルドー部隊長の不利になる事は許せないと、思っているのだ。

 見た目よりも随分と沸点が低いのか、少し怒りを孕んだ口調だ。
 スパサカの一門としては”王の目”の役目も担うが、サピヤー自身は己を軍人だと思っている。
 直の上司である─皇帝陛下─の命でなければ、王の目として掴んだ情報は話さないし、軍務で得た機密は、部隊長のオルドーが許可しなければを漏らすわけにはいかないと思っている。

 ウルジェドは雑貨屋仕込みの営業用の微笑みを貼り付けたままで答える。
「我々ハイエルフは、随分とそちらの仕事に手を貸したと思うけれどねぇ、しかも無償だ」
「それは、貴方たちは……

 何かを言おうとするサピヤーを遮るように、ウルジェドは黒猫の両手を持って、フリフリした。
 ハヤツは嫌そうだったが、精霊猫は嬉しそうに尻尾をゆら~んとさせている。

「まさか、リヨスアルヴァの前貴族達が言ったように、ハイエルフは精霊のように高邁であれと?帝国の仕事を手伝って当然だとでも?」

「ッ、そのような事を申してはおりません」
「私もね、別に手柄を横取りなんて思ってはいない。だが」

 ヒヤリと室内の温度が下がった。
 ハイエルフが営業用に貼り付けていた微笑みを収めて、静かに軍人を見つめただけだ。

「だがな……」

 じわじわと悪寒がしてくる。
 周りの空気が、チリチリと肌を刺す。
 殺意……紛れもない殺気を部屋の者達は感じる。

 平気な顔をしているのは黙って成り行きを見守るグーリシェダとウルジェドの腕の中の黒猫だけだ。
 
 ターヴ・ミン=メリウスも小さく震えている。
 止めたくても、体の震えが止まらないのだ。

(やっぱり、この方、じゃないかぁ!)内心でサピヤーは軍規に死ぬことになるのかと、涙目になる。

「子供の命とお前らの手柄、どちらを選ぶかというだけの話だ」

(いや、俺らの手柄ってか、俺の命の間違いじゃないかなぁ……)
 サピヤー、──部隊長オルドー=シャティ・ガィルィと馬で飛んだ男は、遠い目をする。

「その…サピヤー殿、私からもお願いする。ウルジェド様に協力をして頂きたい」
 メリウス卿も白い顔で口を聞いてくれた。
 だが、

「メリウス閣下、これは帝国軍の問題です。治安維持部隊内部の事ですので、ご了承いただきたい」
(うわぁ~ん!死にたくねぇけど、隊長のこと裏切れないぃ)
 内心の動揺を隠して、血の気の引いた顔でサピヤーは答えた。

「うん、そうか。分かった。君は優秀な軍人だね。私が、隊長命令を遵守するという事か」
 ハイエルフの威圧が緩む。
 
「はっ、ご理解いただけて幸いです」
(い・き・の・び・た)
 サピヤーは、ハァっと息を吐く。
 背中が汗で気持ち悪い。

「では、私はおおむねで掴んでいるリストの、上から順番に今夜、強襲することにしよう」
「は?」
「うん、実はね、組織の拠点か、絞り切れていない怪しい場所が8か所あるんだ。、間違った場所でもかもねぇ」

 ──それ、同時多発テロぉ!──
 もし、この場にパウパウが居たら、そう叫んでいただろう。

「いや、流石にそれは無理でしょう」
 引きつった笑い顔でサピヤーが縋るような目をウルジェドに向けた。

「そうか?私と人型魔道具で十分に可能だ。あ、ばぁちゃん、ダィーナァを返してくれるかい?」
 ウルジェドは黙って見守っているグーリシェダに声を掛けた。
「おぉ、そうじゃの。そろそろ、リヨスアルヴァの件も終わるからの」

 グーリシェダは立ち上がり、収納から銀色に黒と金の模様が入った突剣カギを取り出すと、腕を前に出して手首を回して円を描いた。
 白い光の円が出来上がったところで
『指揮・命令者変更グーリシェダ=ミ・チコ・オーズからウルジェド=ミ・チコ・カーンへ全権移譲』と、サピヤーには分からない言葉を呟いた後で、その光の円環を斜めに切るように突剣を走らせた。

「これで良いな」そう言うと、突剣の柄頭ポンメルを向けてウルジェドに差し出す。
「ありがとう、これで、ダィーナァを使える。やはり蛇には影だからね」


「あ~!もぅ‼ウルジェド様がお持ちの8か所のリストを見せて下さいっ」
 サピヤーは椅子から立ち上がると、叫ぶように言った。
「私は情報を話すことはしません!がっ!見せて下さい」

 風向きがどうやら変わったらしいと、ウルジェドはマールジェドから渡されていた、暫定版の裏組織リストを取り出してサピヤーの前に置いた。

「誘拐、暗殺、人身売買について、うちが掴んでいるのは3か所です。どことは言えません」
 そう言いながら、リストのうちの2つをトン、トンと指で叩いた。

「2か所じゃの?」
 グーリシェダの声にサピヤーは溜息を吐いた。

「あと一か所は、顧客ですよ…だから極秘だったんです。内偵中でしたんで…」
 恨めしそうな顔でウルジェドを見る。

「私が部隊長に嫌われたら、どうしてくれるんですかぁ……」

「そしたら、ほら、本業に戻ればいいのさ」
「私はっ、こっちが本業で、あれは副業のつもりですぅ」

 そう涙目で愚痴りながらサピヤーは、ターヴ・ミン=メリウスを指差した。

 メリウスは、驚きの余り椅子から腰を浮かせて「はっ?」と声に出した。
 何のことだか、心当たりが全くないからだ。

「まったく…都を人質に取るって、貴方、悪者ですか……賢者のくせに」
 そう言ってウルジェドを睨んだ後、がっくりと肩を落としてサピヤーは、

「奥方の御実家です」と、呟いた。
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