121 / 178
121.ミッちゃんのレトケレス探し17
しおりを挟む
王の目が四の五のと言っていたのを無視して、プタフォタンの丘の上の赤いレンガの屋敷にガルデンと転移をした。
サピヤーには、深夜にあの民家に行くと伝えてあるので、もしかしたら、また会うかもしれない。
彼が自分の強襲を、軍の隊長に報告するのか、しないのか、正直それはどちらでも構わないとウルジェドは思っている。
リヨスアルヴァの為政者には話を通した。
もしも、軍が先回りをして裏の組織を何とかするのならば、それでもいい。
誰が事をなそうと、要はフィリに被害がなければ、それでいい。
レンガ造りの建物を見ながら、ガルデンが
「あのよぅウルジェド、お前、その精霊猫、連れて来ていいのか?」
「え⁈」
重みも大したことが無かった為か、すっかり肩の猫を忘れていた。
チラっと見ると
「にゃぁん」と鳴いて、帰る気は毛頭なさそうだ。
「まぁ、遊び飽きたら帰るだろうから、いいさ」
精霊猫なんて、そんなものである。
あのグーリシェダすら、使役は出来ても名付けをすることが出来ない。
自由気ままな存在なのだ。
「うちにはパウパウっていう子供がいるんだよ。仲良くしてあげてくれ」
肩の猫を撫ぜながら言うとゴロゴロと喉を鳴らしたので、多分、了承してくれたのだろう。
魔道人形が開けた玄関を扉を抜けて入って行くと、ダイニングから賑やかな声がしてきた。
「そう!それで、ここに段階式の制御機能を組み込みたいんだけれど…
「それでしたら、以前、帝都の学府で論文が……」
「でも、あれを発表したウェルボールムって、ウムブラエ派の教授だよねぇ…口ばっかりで稼動の実績が…
廊下を挟んだ向かいの書斎の扉も開きっぱなしで、子供達の声が響いている。
「じゃあさ、スタートの時の位置取りが問題じゃない?」
「う~ん、けどよぉ、ダーって行ってガァーって曲がれば…
「ダグ、そんなんじゃあ、他の子の舟に衝突するって」
「ねぇねぇフッバーさん、干潮時間って判る?」
「なんだか随分と賑やかだな」ガルデンがホールで驚いたように立ち止まった。
肩から飛び降りた精霊猫は、二股しっぽをピンっと立てて廊下を奥に歩いて行く。
どうやら、子供達を避けてパトロールに行くようだ。
「あぁ、叔父上が町の錬金術師を招いてくれたようだ。パウパウの友達も一緒だな」
これで守りやすくなった。
いや、鉄壁だろう。
まず、この山を巡回している魔道騎士が1機。
この屋敷前に辿り着いたとしても、結界が張ってあるので、許可のない者は入れない。
万が一、それが破れたとしても、魔道人形4機と魔道騎士1機が居る。
ミッちゃんは厨房の開け放たれている扉をノックして、マールジェドとパティオル先生に帰宅を伝えた。
ガルデンも若干、強張った顔で後に続く。
こんな緊張したガルデンを見るのは、久しぶりの気がするなとミッちゃんは思った。
「ただいま、叔父上。ガルデンを連れて来た。いらっしゃいパティオル先生」
「あ、こんばんはウルジェドさん、マールジェド様にお招き……
「ガルデン!」
パティオル先生の挨拶を遮って、マールジェドは大きな声でガルデンを呼ぶ。
「マール…」
「ガルデン!早く、早く!パティオル先生、凄いのよっ。も、天才。錬金符の天才よ!」
立ち上がって、諍いなど無かったようにガルデンの腕をとり、自分の隣の椅子を勧め、
「パティオル先生。こちら、ガルデン、魔道具師で大匠。ガルデン、こちらパティオル先生、天才錬金術師!」
生き生きと心底楽しそうなマールジェドを見て、俺の苦悩は一体……という思いを飲み込んだガルデンは、パティオルに挨拶をした。
ミッちゃんは、彼らのテーブルに軽めの酒とツマミになる軽食を、ガルデンには火酒と夕食を用意するように魔道人形さんに伝えると、向かいの書斎に向かった。
案の定、サリレの子供達とパウパウ、子守りなのか、同じ部屋でフッバーが読書をしていた。
「ただいま」
夢中で舟競争のコース取りの作戦会議をしているパウパウに声をかける。
「あ!ミッちゃん。お帰りなさい!」
床の絨毯に転がって話していた子供は、立ち上がってハイエルフに抱き着いて来た。
「うん、ただいま。今日はサリレの皆、お泊りになったのかい?」
「うん!マールちゃんがね、皆が居たほうが楽しいからって、誘ってくれたの、皆で御飯たべて、お風呂も一緒に入った!」
サリレの子供達も立ち上がって、挨拶をする。
「お邪魔しますウルジェドさん」「オバンデス、今日、泊まらせてもらいます」「こんばんは!今日はダンジョンもありがとうございました」
「うん、いらっしゃい。ところで作戦会議もいいが、そろそろ寝る時間じゃないかな?」
三人は、今、気が付いたように「あっ!」と、言ってから
「明日、舟に錬金符を貼るのに朝から港へ行く予定です」マルトフがウルジェドに告げた。
「うん。そうか、フッバーも連れて行ってあげてね」
「なんだよ、それ」と、フッバーが笑う。
魔道人形さんに案内されて子供達は、客間に行く前に厨房の大人にも就寝の挨拶をして行った。
子供三人が楽に眠れるくらいに寝台は広いので、一部屋に眠るのだという。
「じゃぁ、パウパウもお休みの時間だから、布団に行こうか」
「うん」
ミッちゃんはパウパウを抱き上げてから、気付かれぬようにフッバーへと手のひらを向けて、それから拳を握った。
【待機】のハンドサインにフッバーは頷いて、また読書に戻る。
「うん、おやすみなさい、フッバーさん」
「おぅ、おやすみパウパウ」
奥の広間から階段を上がり、寝室へと行く間、パウパウは今日のマールちゃんとの行動を、とつとつと話してくれた。
「えっとね、マールちゃん、フッバーさんの後ろに転移したよ」
「え?そ、そうなの」
「うん、サルティちゃん?が居るからって言ってた」
いつの間にかフッバーにマーカー代わりに蜘蛛型魔道具を付けていたらしい。
(やりたい放題だな、叔父上……)
寝室に入って寝台にパウパウを抱いたままで座ると、パウパウが
「ねぇミッちゃん。また、お仕事に行くの?」と聞いてきた。
「うん、もう少しだけ。ごめんね」
「そっかぁ…」
少し寂しそうな顔をした子供に額に口付けを落とす。
「さ、布団に入って。明日はもっと楽しいからね」
「うん。おやすみなさい」
パウパウに柔らかい寝具を掛けると、もう一度、おやすみのキスを落として、眠りの魔法を掛けた。
「にゃぁ」
何処からともなく黒猫がパウパウの枕元にやって来て、丸くなったので
「パウパウを守ってくれると嬉しいよ」と、声を掛けて、フッバーの待つ書斎に転移をする。
書斎に転移で戻って来たウルジェドは、扉を閉めると遮音の魔法を掛ける。
「すまなかったな。フッバー」
「おぅ、いいさ。皆が一か所の方が守りやすいからよ。いきなり後ろにマールジェドさんが来たときは、驚いたけどなぁ」と、笑った。
「リヨスアルヴァの貴族が判った。そっちは、国の偉いさんに任せるが、実行犯の根元は抑えるつもりだ」
「……そうか。俺の手は必要か」
「いや、フッバーはここの守りを頼む。そういえば、ここに来るまでに怪しい者とかは、どうだった?」
美貌のハイエルフと子供達を引き連れているのだから、目立ったことだろう。
「いや、これといって感じなかったな、ベネ様の騎兵が、かなり出てくれていたしよ」
「そうか。では行く」
ウルジェドは転移でリヨスアルヴァの民家に戻った。
それを見送ったフッバーは、本を閉じると厨房に向かった。
鉄壁の防御であるのは重々理解しているが、それでも守りたいと思う人の近くに居ようと思ったからだ。
────────────────────────────────────
リヨスアルヴァの城壁都市は夜の静けさに沈み込んでいた。
流石に、この時間になると国の都といっても人は出歩いていないし、高価な魔道灯は、ポツポツと数える程しか設置がされていない。
殆ど真円に近い青い月の光以外に光源が無いような住宅街の古民家。
その一階にウルジェドは転移で戻って来た。
先ほどまでの赤いレンガの屋敷の明るさと喧噪を、恋しく思う気持ちに蓋をしたウルジェドは、収納から召喚をするべく突剣を出そうとして、その手を止めた。
「そこで見ているのは、狭くないか?」
奥の階段で蹲っている男達に声をかける。
「認識阻害と結界を施していたのだが」そうボヤキながら、黒い塊が立ち上がった。
「ハイエルフは魔法の申し子だからな」
そう言いながらウルジェドは柔らかい光の魔法を部屋の天井に向けて飛ばす。
埃っぽい一階に、燈火程度の光が広がった。
「……そうなのか、初耳だ」
黒い軍服姿の痩身の男が、眩しさに目を眇めながら呟く。
「あぁ、私も初めて言った。こんばんは、ウルジェドと言う」
「オルドー=シャティ・ガィルィ。治安維持部隊長だ。俺の副官、サピヤーが世話になった」
名乗ったオルドーは、後ろに向けて少しだけ顎を上げた。
2段ほど上で蹲っていたサピヤーが、決まり悪そうな顔で立ち上がり会釈する。
ウルジェドは、痩せた猟犬のような男を見た。
体格に恵まれた者の多い軍の中で、この痩身で部隊長を張っているのだから、何かしらの能力を持った者なのだろうと思いながら
「いいや、こちらこそ祖母が無理を言って、サピヤー殿に迷惑をかけたので、叱らないで欲しい。……で、私はこれから、出かけるのだが」
「それなのだが、現在この都市には戒厳令が発せられている。ゆえに夜間外出を控えていただこう」
オルドーは、きちんと閉めていた襟元を、緩めながら言う。
「なに、少し散歩に出かけるだけだ」
ウルジェドは改めて収納空間から銀に黒と金の装飾が入った突剣を取り出すと、形式通りの認証をして、空中に向かって円を描いた。
「ダイーナァ壱、弐、参、肆、伍、陸」
床を六ケ所、指し示して黒い魔道騎士を召喚する。
「チッ」
それを見たオルドーが小さく舌打ちした。
噂のハイエルフの黒い魔道騎士。
前帝陛下と宰相の手足として、随分と暗躍をしてくれたようだが、それが6機。
燈火すら受け付けないとばかりに、黒い甲冑が光を飲み込んで、ただの影のように静かに佇む。
「一緒に散歩をしないか?それを見越して二人できたのだろう?」
物騒に赤味が強い茶色の目を光らせるオルドー隊長を覗き込むように見て、ハイエルフは口角を上げて笑った。
「散歩は少人数のほうがいい……だろう?」
「チッ」
オルドーが、また舌打ちをした。
サピヤーには、深夜にあの民家に行くと伝えてあるので、もしかしたら、また会うかもしれない。
彼が自分の強襲を、軍の隊長に報告するのか、しないのか、正直それはどちらでも構わないとウルジェドは思っている。
リヨスアルヴァの為政者には話を通した。
もしも、軍が先回りをして裏の組織を何とかするのならば、それでもいい。
誰が事をなそうと、要はフィリに被害がなければ、それでいい。
レンガ造りの建物を見ながら、ガルデンが
「あのよぅウルジェド、お前、その精霊猫、連れて来ていいのか?」
「え⁈」
重みも大したことが無かった為か、すっかり肩の猫を忘れていた。
チラっと見ると
「にゃぁん」と鳴いて、帰る気は毛頭なさそうだ。
「まぁ、遊び飽きたら帰るだろうから、いいさ」
精霊猫なんて、そんなものである。
あのグーリシェダすら、使役は出来ても名付けをすることが出来ない。
自由気ままな存在なのだ。
「うちにはパウパウっていう子供がいるんだよ。仲良くしてあげてくれ」
肩の猫を撫ぜながら言うとゴロゴロと喉を鳴らしたので、多分、了承してくれたのだろう。
魔道人形が開けた玄関を扉を抜けて入って行くと、ダイニングから賑やかな声がしてきた。
「そう!それで、ここに段階式の制御機能を組み込みたいんだけれど…
「それでしたら、以前、帝都の学府で論文が……」
「でも、あれを発表したウェルボールムって、ウムブラエ派の教授だよねぇ…口ばっかりで稼動の実績が…
廊下を挟んだ向かいの書斎の扉も開きっぱなしで、子供達の声が響いている。
「じゃあさ、スタートの時の位置取りが問題じゃない?」
「う~ん、けどよぉ、ダーって行ってガァーって曲がれば…
「ダグ、そんなんじゃあ、他の子の舟に衝突するって」
「ねぇねぇフッバーさん、干潮時間って判る?」
「なんだか随分と賑やかだな」ガルデンがホールで驚いたように立ち止まった。
肩から飛び降りた精霊猫は、二股しっぽをピンっと立てて廊下を奥に歩いて行く。
どうやら、子供達を避けてパトロールに行くようだ。
「あぁ、叔父上が町の錬金術師を招いてくれたようだ。パウパウの友達も一緒だな」
これで守りやすくなった。
いや、鉄壁だろう。
まず、この山を巡回している魔道騎士が1機。
この屋敷前に辿り着いたとしても、結界が張ってあるので、許可のない者は入れない。
万が一、それが破れたとしても、魔道人形4機と魔道騎士1機が居る。
ミッちゃんは厨房の開け放たれている扉をノックして、マールジェドとパティオル先生に帰宅を伝えた。
ガルデンも若干、強張った顔で後に続く。
こんな緊張したガルデンを見るのは、久しぶりの気がするなとミッちゃんは思った。
「ただいま、叔父上。ガルデンを連れて来た。いらっしゃいパティオル先生」
「あ、こんばんはウルジェドさん、マールジェド様にお招き……
「ガルデン!」
パティオル先生の挨拶を遮って、マールジェドは大きな声でガルデンを呼ぶ。
「マール…」
「ガルデン!早く、早く!パティオル先生、凄いのよっ。も、天才。錬金符の天才よ!」
立ち上がって、諍いなど無かったようにガルデンの腕をとり、自分の隣の椅子を勧め、
「パティオル先生。こちら、ガルデン、魔道具師で大匠。ガルデン、こちらパティオル先生、天才錬金術師!」
生き生きと心底楽しそうなマールジェドを見て、俺の苦悩は一体……という思いを飲み込んだガルデンは、パティオルに挨拶をした。
ミッちゃんは、彼らのテーブルに軽めの酒とツマミになる軽食を、ガルデンには火酒と夕食を用意するように魔道人形さんに伝えると、向かいの書斎に向かった。
案の定、サリレの子供達とパウパウ、子守りなのか、同じ部屋でフッバーが読書をしていた。
「ただいま」
夢中で舟競争のコース取りの作戦会議をしているパウパウに声をかける。
「あ!ミッちゃん。お帰りなさい!」
床の絨毯に転がって話していた子供は、立ち上がってハイエルフに抱き着いて来た。
「うん、ただいま。今日はサリレの皆、お泊りになったのかい?」
「うん!マールちゃんがね、皆が居たほうが楽しいからって、誘ってくれたの、皆で御飯たべて、お風呂も一緒に入った!」
サリレの子供達も立ち上がって、挨拶をする。
「お邪魔しますウルジェドさん」「オバンデス、今日、泊まらせてもらいます」「こんばんは!今日はダンジョンもありがとうございました」
「うん、いらっしゃい。ところで作戦会議もいいが、そろそろ寝る時間じゃないかな?」
三人は、今、気が付いたように「あっ!」と、言ってから
「明日、舟に錬金符を貼るのに朝から港へ行く予定です」マルトフがウルジェドに告げた。
「うん。そうか、フッバーも連れて行ってあげてね」
「なんだよ、それ」と、フッバーが笑う。
魔道人形さんに案内されて子供達は、客間に行く前に厨房の大人にも就寝の挨拶をして行った。
子供三人が楽に眠れるくらいに寝台は広いので、一部屋に眠るのだという。
「じゃぁ、パウパウもお休みの時間だから、布団に行こうか」
「うん」
ミッちゃんはパウパウを抱き上げてから、気付かれぬようにフッバーへと手のひらを向けて、それから拳を握った。
【待機】のハンドサインにフッバーは頷いて、また読書に戻る。
「うん、おやすみなさい、フッバーさん」
「おぅ、おやすみパウパウ」
奥の広間から階段を上がり、寝室へと行く間、パウパウは今日のマールちゃんとの行動を、とつとつと話してくれた。
「えっとね、マールちゃん、フッバーさんの後ろに転移したよ」
「え?そ、そうなの」
「うん、サルティちゃん?が居るからって言ってた」
いつの間にかフッバーにマーカー代わりに蜘蛛型魔道具を付けていたらしい。
(やりたい放題だな、叔父上……)
寝室に入って寝台にパウパウを抱いたままで座ると、パウパウが
「ねぇミッちゃん。また、お仕事に行くの?」と聞いてきた。
「うん、もう少しだけ。ごめんね」
「そっかぁ…」
少し寂しそうな顔をした子供に額に口付けを落とす。
「さ、布団に入って。明日はもっと楽しいからね」
「うん。おやすみなさい」
パウパウに柔らかい寝具を掛けると、もう一度、おやすみのキスを落として、眠りの魔法を掛けた。
「にゃぁ」
何処からともなく黒猫がパウパウの枕元にやって来て、丸くなったので
「パウパウを守ってくれると嬉しいよ」と、声を掛けて、フッバーの待つ書斎に転移をする。
書斎に転移で戻って来たウルジェドは、扉を閉めると遮音の魔法を掛ける。
「すまなかったな。フッバー」
「おぅ、いいさ。皆が一か所の方が守りやすいからよ。いきなり後ろにマールジェドさんが来たときは、驚いたけどなぁ」と、笑った。
「リヨスアルヴァの貴族が判った。そっちは、国の偉いさんに任せるが、実行犯の根元は抑えるつもりだ」
「……そうか。俺の手は必要か」
「いや、フッバーはここの守りを頼む。そういえば、ここに来るまでに怪しい者とかは、どうだった?」
美貌のハイエルフと子供達を引き連れているのだから、目立ったことだろう。
「いや、これといって感じなかったな、ベネ様の騎兵が、かなり出てくれていたしよ」
「そうか。では行く」
ウルジェドは転移でリヨスアルヴァの民家に戻った。
それを見送ったフッバーは、本を閉じると厨房に向かった。
鉄壁の防御であるのは重々理解しているが、それでも守りたいと思う人の近くに居ようと思ったからだ。
────────────────────────────────────
リヨスアルヴァの城壁都市は夜の静けさに沈み込んでいた。
流石に、この時間になると国の都といっても人は出歩いていないし、高価な魔道灯は、ポツポツと数える程しか設置がされていない。
殆ど真円に近い青い月の光以外に光源が無いような住宅街の古民家。
その一階にウルジェドは転移で戻って来た。
先ほどまでの赤いレンガの屋敷の明るさと喧噪を、恋しく思う気持ちに蓋をしたウルジェドは、収納から召喚をするべく突剣を出そうとして、その手を止めた。
「そこで見ているのは、狭くないか?」
奥の階段で蹲っている男達に声をかける。
「認識阻害と結界を施していたのだが」そうボヤキながら、黒い塊が立ち上がった。
「ハイエルフは魔法の申し子だからな」
そう言いながらウルジェドは柔らかい光の魔法を部屋の天井に向けて飛ばす。
埃っぽい一階に、燈火程度の光が広がった。
「……そうなのか、初耳だ」
黒い軍服姿の痩身の男が、眩しさに目を眇めながら呟く。
「あぁ、私も初めて言った。こんばんは、ウルジェドと言う」
「オルドー=シャティ・ガィルィ。治安維持部隊長だ。俺の副官、サピヤーが世話になった」
名乗ったオルドーは、後ろに向けて少しだけ顎を上げた。
2段ほど上で蹲っていたサピヤーが、決まり悪そうな顔で立ち上がり会釈する。
ウルジェドは、痩せた猟犬のような男を見た。
体格に恵まれた者の多い軍の中で、この痩身で部隊長を張っているのだから、何かしらの能力を持った者なのだろうと思いながら
「いいや、こちらこそ祖母が無理を言って、サピヤー殿に迷惑をかけたので、叱らないで欲しい。……で、私はこれから、出かけるのだが」
「それなのだが、現在この都市には戒厳令が発せられている。ゆえに夜間外出を控えていただこう」
オルドーは、きちんと閉めていた襟元を、緩めながら言う。
「なに、少し散歩に出かけるだけだ」
ウルジェドは改めて収納空間から銀に黒と金の装飾が入った突剣を取り出すと、形式通りの認証をして、空中に向かって円を描いた。
「ダイーナァ壱、弐、参、肆、伍、陸」
床を六ケ所、指し示して黒い魔道騎士を召喚する。
「チッ」
それを見たオルドーが小さく舌打ちした。
噂のハイエルフの黒い魔道騎士。
前帝陛下と宰相の手足として、随分と暗躍をしてくれたようだが、それが6機。
燈火すら受け付けないとばかりに、黒い甲冑が光を飲み込んで、ただの影のように静かに佇む。
「一緒に散歩をしないか?それを見越して二人できたのだろう?」
物騒に赤味が強い茶色の目を光らせるオルドー隊長を覗き込むように見て、ハイエルフは口角を上げて笑った。
「散歩は少人数のほうがいい……だろう?」
「チッ」
オルドーが、また舌打ちをした。
35
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?
gacchi(がっち)
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる