パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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121.ミッちゃんのレトケレス探し17

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 王の目が四の五のと言っていたのを無視して、プタフォタンの丘の上の赤いレンガの屋敷にガルデンと転移をした。
 サピヤーには、深夜にあの民家に行くと伝えてあるので、もしかしたら、また会うかもしれない。
 彼が自分の強襲を、軍の隊長に報告するのか、しないのか、正直それはどちらでも構わないとウルジェドは思っている。

 リヨスアルヴァの為政者には話を通した。
 もしも、軍が先回りをして裏の組織を何とかするのならば、それでもいい。

 誰が事をなそうと、要はフィリに被害がなければ、それでいい。

 レンガ造りの建物を見ながら、ガルデンが
「あのよぅウルジェド、お前、その精霊猫、連れて来ていいのか?」
「え⁈」
 重みも大したことが無かった為か、すっかり肩の猫を忘れていた。
 チラっと見ると
「にゃぁん」と鳴いて、帰る気は毛頭なさそうだ。

「まぁ、遊び飽きたら帰るだろうから、いいさ」
 精霊猫なんて、そんなものである。
 あのグーリシェダすら、使役は出来ても名付けをすることが出来ない。
 自由気ままな存在なのだ。

「うちにはパウパウっていう子供がいるんだよ。仲良くしてあげてくれ」
 肩の猫を撫ぜながら言うとゴロゴロと喉を鳴らしたので、多分、了承してくれたのだろう。


 魔道人形からくりが開けた玄関を扉を抜けて入って行くと、ダイニングから賑やかな声がしてきた。

「そう!それで、ここに段階式の制御機能を組み込みたいんだけれど…
「それでしたら、以前、帝都の学府で論文が……」
「でも、あれを発表したウェルボールムって、ウムブラエ派の教授だよねぇ…口ばっかりで稼動の実績が…

 廊下を挟んだ向かいの書斎の扉も開きっぱなしで、子供達の声が響いている。

「じゃあさ、スタートの時の位置取りが問題じゃない?」
「う~ん、けどよぉ、ダーって行ってガァーって曲がれば…
「ダグ、そんなんじゃあ、他の子の舟に衝突するって」
「ねぇねぇフッバーさん、干潮時間って判る?」

「なんだか随分と賑やかだな」ガルデンがホールで驚いたように立ち止まった。
 肩から飛び降りた精霊猫は、二股しっぽをピンっと立てて廊下を奥に歩いて行く。
 どうやら、子供達を避けてパトロールに行くようだ。

「あぁ、叔父上が町の錬金術師を招いてくれたようだ。パウパウの友達も一緒だな」
 これで守りやすくなった。

 いや、鉄壁だろう。
 まず、この山を巡回している魔道騎士ナーターラァが1機。
 この屋敷前に辿り着いたとしても、結界が張ってあるので、許可のない者は入れない。
 万が一、それが破れたとしても、魔道人形からくり4機と魔道騎士ナーターラァ1機が居る。

 ミッちゃんは厨房の開け放たれている扉をノックして、マールジェドとパティオル先生に帰宅を伝えた。
 ガルデンも若干、強張った顔で後に続く。
 こんな緊張したガルデンを見るのは、久しぶりの気がするなとミッちゃんは思った。

「ただいま、叔父上。ガルデンを連れて来た。いらっしゃいパティオル先生」
「あ、こんばんはウルジェドさん、マールジェド様にお招き……
「ガルデン!」
 パティオル先生の挨拶を遮って、マールジェドは大きな声でガルデンを呼ぶ。
「マール…」

「ガルデン!早く、早く!パティオル先生、凄いのよっ。も、天才。錬金符の天才よ!」
 立ち上がって、いさかいなど無かったようにガルデンの腕をとり、自分の隣の椅子を勧め、
「パティオル先生。こちら、ガルデン、魔道具師で大匠たいしょう。ガルデン、こちらパティオル先生、天才錬金術師!」

 生き生きと心底楽しそうなマールジェドを見て、俺の苦悩は一体……という思いを飲み込んだガルデンは、パティオルに挨拶をした。

 ミッちゃんは、彼らのテーブルに軽めの酒とツマミになる軽食を、ガルデンには火酒と夕食を用意するように魔道人形からくりさんに伝えると、向かいの書斎に向かった。

 案の定、サリレの子供達とパウパウ、子守りなのか、同じ部屋でフッバーが読書をしていた。
「ただいま」
 夢中で舟競争のコース取りの作戦会議をしているパウパウに声をかける。

「あ!ミッちゃん。お帰りなさい!」
 床の絨毯に転がって話していた子供は、立ち上がってハイエルフに抱き着いて来た。
「うん、ただいま。今日はサリレの皆、お泊りになったのかい?」
「うん!マールちゃんがね、皆が居たほうが楽しいからって、誘ってくれたの、皆で御飯たべて、お風呂も一緒に入った!」

 サリレの子供達も立ち上がって、挨拶をする。
「お邪魔しますウルジェドさん」「オバンデス、今日、泊まらせてもらいます」「こんばんは!今日はダンジョンもありがとうございました」
「うん、いらっしゃい。ところで作戦会議もいいが、そろそろ寝る時間じゃないかな?」

 三人は、今、気が付いたように「あっ!」と、言ってから
「明日、舟に錬金符を貼るのに朝から港へ行く予定です」マルトフがウルジェドに告げた。
「うん。そうか、フッバーも連れて行ってあげてね」
「なんだよ、それ」と、フッバーが笑う。

 魔道人形からくりさんに案内されて子供達は、客間に行く前に厨房の大人にも就寝の挨拶をして行った。
 子供三人が楽に眠れるくらいに寝台は広いので、一部屋に眠るのだという。
「じゃぁ、パウパウもお休みの時間だから、布団に行こうか」
「うん」

 ミッちゃんはパウパウを抱き上げてから、気付かれぬようにフッバーへと手のひらを向けて、それから拳を握った。
【待機】のハンドサインにフッバーは頷いて、また読書に戻る。

「うん、おやすみなさい、フッバーさん」
「おぅ、おやすみパウパウ」

 奥の広間から階段を上がり、寝室へと行く間、パウパウは今日のマールちゃんとの行動を、とつとつと話してくれた。
「えっとね、マールちゃん、フッバーさんの後ろに転移したよ」
「え?そ、そうなの」
「うん、サルティちゃん?が居るからって言ってた」
 いつの間にかフッバーにマーカー代わりに蜘蛛型魔道具を付けていたらしい。
(やりたい放題だな、叔父上……)

 寝室に入って寝台にパウパウを抱いたままで座ると、パウパウが
「ねぇミッちゃん。また、お仕事に行くの?」と聞いてきた。
「うん、もう少しだけ。ごめんね」
「そっかぁ…」

 少し寂しそうな顔をした子供に額に口付けを落とす。
「さ、布団に入って。明日はもっと楽しいからね」
「うん。おやすみなさい」
 パウパウに柔らかい寝具を掛けると、もう一度、おやすみのキスを落として、眠りの魔法を掛けた。

「にゃぁ」
 何処からともなく黒猫がパウパウの枕元にやって来て、丸くなったので
「パウパウを守ってくれると嬉しいよ」と、声を掛けて、フッバーの待つ書斎に転移をする。


 書斎に転移で戻って来たウルジェドは、扉を閉めると遮音の魔法を掛ける。
「すまなかったな。フッバー」
「おぅ、いいさ。皆が一か所の方が守りやすいからよ。いきなり後ろにマールジェドさんが来たときは、驚いたけどなぁ」と、笑った。

「リヨスアルヴァの貴族が判った。そっちは、国の偉いさんに任せるが、実行犯の根元は抑えるつもりだ」
「……そうか。俺の手は必要か」
「いや、フッバーはここの守りを頼む。そういえば、ここに来るまでに怪しい者とかは、どうだった?」
 美貌のハイエルフと子供達を引き連れているのだから、目立ったことだろう。

「いや、これといって感じなかったな、ベネ様の騎兵が、かなり出てくれていたしよ」
「そうか。では行く」

 ウルジェドは転移でリヨスアルヴァの民家に戻った。
 
 それを見送ったフッバーは、本を閉じると厨房に向かった。
 鉄壁の防御であるのは重々理解しているが、それでも守りたいと思う人の近くに居ようと思ったからだ。
 
 ────────────────────────────────────
 
 リヨスアルヴァの城壁都市は夜の静けさに沈み込んでいた。

 流石に、この時間になると国の都といっても人は出歩いていないし、高価な魔道灯は、ポツポツと数える程しか設置がされていない。
 殆ど真円に近い青い月の光以外に光源が無いような住宅街の古民家。
 その一階にウルジェドは転移で戻って来た。

 先ほどまでの赤いレンガの屋敷の明るさと喧噪を、恋しく思う気持ちに蓋をしたウルジェドは、収納から召喚をするべく突剣カギを出そうとして、その手を止めた。

「そこで見ているのは、狭くないか?」
 奥の階段でうずくまっている男達に声をかける。

「認識阻害と結界を施していたのだが」そうボヤキながら、黒い塊が立ち上がった。
「ハイエルフは魔法の申し子だからな」
 そう言いながらウルジェドは柔らかい光の魔法を部屋の天井に向けて飛ばす。
 埃っぽい一階に、燈火程度の光が広がった。

「……そうなのか、初耳だ」
 黒い軍服姿の痩身の男が、眩しさに目をすがめながら呟く。
「あぁ、私も初めて言った。こんばんは、ウルジェドと言う」

「オルドー=シャティ・ガィルィ。治安維持部隊長なんでも屋だ。俺の副官、サピヤーが世話になった」
 名乗ったオルドーは、後ろに向けて少しだけ顎を上げた。
 2段ほど上でうずくまっていたサピヤーが、決まり悪そうな顔で立ち上がり会釈する。

 ウルジェドは、痩せた猟犬リカオンのような男を見た。
 体格に恵まれた者の多い軍の中で、この痩身で部隊長を張っているのだから、何かしらの能力を持った者なのだろうと思いながら
「いいや、こちらこそ祖母が無理を言って、サピヤー殿に迷惑をかけたので、叱らないで欲しい。……で、私はこれから、出かけるのだが」

「それなのだが、現在この都市には戒厳令が発せられている。ゆえに夜間外出を控えていただこう」
 オルドーは、きちんと閉めていた襟元を、緩めながら言う。

「なに、少し散歩に出かけるだけだ」
 ウルジェドは改めて収納空間から銀に黒と金の装飾が入った突剣カギを取り出すと、形式通りの認証をして、空中に向かって円を描いた。
「ダイーナァ壱、弐、参、肆、伍、陸」
 床を六ケ所、指し示して黒い魔道騎士を召喚する。

「チッ」
 それを見たオルドーが小さく舌打ちした。

 噂のハイエルフの黒い魔道騎士。
 前帝陛下と宰相の手足として、随分と暗躍をしてくれたようだが、それが6機。
 燈火すら受け付けないとばかりに、黒い甲冑が光を飲み込んで、ただの影のように静かにたたずむ。

「一緒に散歩をしないか?それを見越して二人できたのだろう?」
 物騒に赤味が強い茶色の目を光らせるオルドー隊長を覗き込むように見て、ハイエルフは口角を上げて笑った。

「散歩は少人数のほうがいい……だろう?」
「チッ」
 オルドーが、また舌打ちをした。
 
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