パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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131.ミッちゃんのレトケレス探し27

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 幸せそうにベネがタマレチマキを頬張ると、小さな目がキュウっと絞るように閉じられた。
「はぁ…美味いのぅ。ライルティオ学長がわざわざ自慢してくるのも分かるわ、のぅカウダ=タンニナ」
 二人の竜人族に合わせて大きめに作ったつもりなのだが、二口ほどで消える。
 だが優雅に見えるから不思議だ。

「ここまでの美食は、帝都でも難しいかもしれませんな。誘ってもらって幸運だ」
「……そういえば、水揚げが無いと聞いたが」
「近隣の港では、夏枯れとはいえ魚は揚がっておりますが、何故かプタフォタンで今年は獲れておらんです」
「ふむ……」
 少し困った顔でベネが黙った。
 一番に深場が近く大きい町がプタフォタンだ。ここの水揚げが無いのは領の収入としても、大きな問題だろう。

「パティオル=アストルよ、この町の問題は何だと思う?」
 いきなり話を振られたパティオルは、口にしていた肉を喉に詰まらせて、隣のフッバーからミードを貰って慌てて吞み込んだ。
「も、問題ですか……」
 少し考えてから、
「距離かと思います」と、答えた。

「うむ、うむ。それよ」
 ベネが嬉しそうに頷くと顎の肉もタプンと揺れる。
「折角、良い物が獲れても、作られても、早馬車2日の距離が邪魔をしておる。空間を繋ぐ転移門などは高くて手が出せん」
 そう言うとベネはウルジェドと、素知らぬ顔で行儀悪く赤のワインウイノスを啜るマールジェドを見た。

 ギルド所属の職員が毎度、せっせと氷を作成してくれるお陰で、余り鮮度を落とさずにプタフォタンの海の物が領都へ運ばれている。
 あとは干物か塩漬け、油漬けの加工品として売られるのだ。
 領都プールヴァは内陸にあり、しかも海側は砂の遠浅で港には適さない。
 どうしても輸送は陸路となる。

「こんな美味い物を馳走になっている席で話すのも…とは思うのだがの、錬金師として何か良い考えは無いかの?」
「え……」
 空間を繋ぐ魔法や時間が停止した魔法収納は、一般には開示されていない特殊魔法とされている。
 ダンジョンで使用される転移のスクロールはあるが、あれも元々は迷宮出土品ダンジョンドロップを模倣した物で、人族がゼロから作った訳ではない。
 あっさりと帝都の温室と大秘境をハイエルフが繋いだ転移門に至っては、帝国魔道庁が管理しており、設置にも運用にも莫大な資金が必要だ。
 魚を運ぶために、簡単に設置などが出来る物ではない。

「プタフォタンと領都を繋ぐ…ですか」
 そんな大それたことを考えた事も無かったパティオルは、少し呆然としながら思いを馳せた。
 一度、思考を始めると周りが見えなくなるフィリの性質は、パティオル譲りのようだ。

「ベネ様……」
 末席に座っていた従者のロードンがベネに声をかける。
 普通なら有り得ないのかもしれないが、ここの主が同席を勧めたならばロードンも夕餐に招かれた客である。
 それ以前として、ウルジェドらハイエルフに身分を振りかざしても、意味はない。

「突然、そのような話をされてもアストル様も戸惑いましょう」
「おぉ、そうよな。皆、すまぬ。ワシの夢みたいな話じゃ。パティオル=アストルも済まなんだ」
 カラカラとベネは笑いながら、
「ただ、考えてみて欲しいのは、本当じゃ」
 パティオルにそう言った。
 それを受けて、パティオルも頷く。

「確かに、物流が早くなるのは喜ばしいことですからな」
「うむ。美味い海の物が領都の皆に分かってもらえるからの」
 ふっふっふとベネが笑う。

 二人の長命種は諦めてはいないのだ。
 今の代でなくても良いのだ。
 次か、まだ先かに、少しでも暮らしが良くなっていけばいいと、思っているのだろう。
 この地に根を下ろした長命種だから出来る考え方だ。

「そうじゃ、今度、隣領と一緒に羊を放牧しようと考えておっての。もしかしたら、皆にも安い肉が回るようになるかもしれん」
「羊か……毛も使えるし、肉も使える。それはいいな」
「うむ。羊を運ぶのに手間がかかるがの。こちらは冬の潮風が冷たいからの、毛織物なども発展して行けばよいと思っておるのよ」
「あぁ、それとチーズも作れるな」
「あっはっは、そうそう、羊のチーズも美味いからの。いや、良いな。楽しみが増えるわ」

「ベネ殿は、本当に自領が好きなのねぇ」
「おぉ、勿論じゃ。ワシの仕事はの、ワシが幸せになる事よ」
「うふふ、それは素敵。相変わらずに御機嫌でよかったわ」
「ふっふっふ、ワシが不機嫌になっては、海が大荒れになるそうじゃからな」
「それでは本当に海神ではないか」
 ウルジェドが喉で笑いながら言う。

 どうやら、いつも笑っている印象のベネ・ウオレオを、そう領民は噂しているのだそうだ。
「いやいや、ワシとてのぅ、不機嫌になったりはするぞ?のぅロードンよ」
「はて?そうですかな……とんと印象にありませんが」
 とぼけたロードンの答えに、皆が笑った。

 デザートのアイスクリームとほろ苦い金柑フォーチュネラのコンフィチュールに舌鼓を打ち、大満足のベネとギルマスを連れてウルジェドはギルドへと転移で送る。

「うむ、今日は馳走になったの。ワシは学長に自慢返しをするぞ!」
「ほどほどに願いたい。私の家に突撃されそうだからな。……ところで、ベネ殿。祖母より伝言がある」
 先ほどの場所ではパティオルが居たために、話すことが出来なかったリヨスアルヴァの事を、ウルジェドは伝えた。

「ふむ。治安維持部隊……ツァフォンの猟犬オルドーが動いているとは、確かにきな臭いの。それに、ここも今年は人攫いが多いのも気になる」
「フィリについては、係わっていそうな商人を突っついたので、新手は来ないとは思うが、もっと大がかりな事が動いているかもしれん」

 グーリシェダが感じた異様な魔力の持ち主を思い出して、ウルジェドは眉をひそめた。
「ふむ。これは、早速ミズラウのレハブア王へ進言をしよう。感謝するぞウルジェド殿」
 頷くとウルジェドは別れを告げて、床をつま先でトンと蹴って転移をした。

 転移をした先は、ウネビ領の雑貨屋だ。
 ウルジェドはソファーに腰を下ろすと、収納から小ガニを取り出した。
 グーリシェダへは直ぐに繋がった。
「こちらから連絡を入れようかと思って居ったところじゃ」

「なにがあった?ばぁちゃん」
「お主がオルドー殿たちと一緒に捕らえた、リヨスアルヴァの商人の倉庫な」
「うん?」
「焼かれたわ」

 最初にオルドーに案内をされ、中のネブローごろつき十八人を麻痺させて閉じ込めておいた倉庫だ。間違いなく部隊長補佐のサピヤーが帝国軍の施錠魔法を展開していた筈だ。

「サピヤー君の施錠は、かなり強固だったけれど?」
「扉は閉っておったが、そうだ」
 ウルジェドが思い出しても、あの倉庫は石造りで、燃やせる物など無かったはずだ。

 密室での失火。と、見なされるだろうが
「転移ならば、倉庫の中に入れるのぅ」
 グーリシェダはウルジェドと同じことを考えていたらしい。

 転移で倉庫に直接に飛び、炎の魔法で燃やす。
 燃える物が無いならば、を燃やせばいい。
 あとは麻痺して動けない者達が、密閉された倉庫で蒸し焼きになるだけの、簡単な作業。

 心が無ければ簡単な作業だ。

「ばぁちゃん。ベネ殿の話では、こちらも今年は女衒レノーキが多く入り込んでいるそうだ。ミズラウの王にも伝えてくれると言っていた」
「そうか。それにしても……」
 
 女子供を攫う者達が増えているのも不気味だが、何よりも転移で消えて、倉庫の十八人を燃やした人物が不気味だ。
「多分、焼かれた者達の中に、知られたくない情報を持っていた者がったのだろうな」
「ばぁちゃん、どうするつもりだ」

 リヨスアルヴァの件は、ハイエルフが切っ掛けではあるが、既に治安維持部隊が入り、手を離れていると見なして良い状態だ。
 あとは、ドワーフ達の経過が良好であれば終わりの筈だった。
「……ウルジェド。あの異様な魔力が気にかかる」
「……」
「私達以外に転移が出来る者が居る。そして、それは人を平気で傷つけられる者じゃ」
 その者は、ハイエルフと治安維持部隊を覗き見て、その捜査の手が自分に伸びるのを嫌って、転移をした。
 そして、平気で十八人を口封じで処分した。

「フラウド商会の者達の取り調べは?」
「これからじゃな、オルドー部隊長はリヨスアルヴァの商会の方もあって大忙しじゃ。宰相が前帝陛下の目と耳を借りると言って居ったわ」

 そこまで聞いているのならば、グーリシェダは、もう少しリヨスアルヴァに係るつもりなのだろう。
「そうか、手伝えることがあるなら言ってくれ」
「うむ。だが、手を広げるには人が足りぬ、マールジェドの負担も大きいゆえな……誰か里から呼ぶやもしれん」

 ウルジェドは思わず天井を仰いだ。
 それ程に、グーリシェダは異様な魔力の人物を警戒しているという事だ。

「……できればだが、父上と母上は避けてくれると有難い」
「そうじゃのぅ、また山脈が崩れることになっては、胡麻化せぬ」

 互いの溜め息とともに、通信は終了した。
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