パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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132.ミッちゃんのレトケレス探し28

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 パティオル=アストルは朝から恐縮していた。

 突然、途轍もない美貌のハイエルフが「パウパウちゃんの家族です!」とやってきて、そこから魔道具や錬金術の話が始まり、意気投合をして気が付けば町の外の丘に建つレンガの屋敷である。
 息子のフィリともども、昨夜も泊めてもらっている。
 魔蜂に刺された息子がお世話になったのを皮切りに、なんだか随分とハイエルフと近しくなってしまった。
 そして今朝も、貴族もかくやという朝食を頂いてしまっている。

 厨房の普段は作業台にしている大きなテーブルで、子供達が楽しそうに朝食を摂っているのを眺める。
 フィリもマルトフもダグラスも楽し気に笑っている。
 パウパウはハイエルフに口を拭って貰っていた。
「パウパウ、口に詰めすぎ。お行儀が悪いよ」
「早食いで俺に勝とうなんて無理だかんな!」
「ダグのお行儀も悪いよ」
「そうそう、パウパウに悪い事を教えないの」

 今日のピタパンにはち切れそうな程の具材を詰め込んで、2つ目を食べるダグラスが健啖家っぷりを見せている。
 パン一つすら、食べきれていないパウパウでは勝ち目は無さそうだ。

「ねぇ、パティオル先生、今日は何をする?」
 朝の光が射すダイニングテーブルに肘をついて、マールジェドが尋ねてきた。
 こちらを見てくるハイエルフは最高級の魔道具のようだ。
 稀代の魔道具技師アルジャザリの伝説の宝石人形とは、こうだったのではないかと、パティオルは思わず見とれてしまう。

「先生?」
「あ、そうですね。ウルジェドさんに依頼をされている飾り物の仕上げをしようと思っていたのですが……」
 そう言うと、マールジェドは微笑んだ。
「あ!あれね。クリサオラクラゲの奇麗な飾り物!」
「はい。それで、道具も材料もないので家に戻ろうかと……」
「あ、あのね」

 マールジェドは、なにやら伏目がちに言葉を被せてきた。
「はい」
「あの……作るところ、見てもいいかしら
「え?」と、パティオルは思わず呟くと
「あ、いえ、め、迷惑だったら勿論、断ってくれていいのよ。一人で集中したい人って居るし、工房に他人を入れないって人も居るから、でも、その」
「いえ、構いませんが、マールさんみたいな凄い技師にお見せできるような」
「もう!パティオル先生は天才なの。そう思えないならガルデンも、私も言うから!」
 まるで子供みたいに真っすぐな目で、断言されてパティオルは、思わず「ありがとうございます」と呟いた。

「あぁ、では子供達の支度が出来たら、一緒に先生の家に行こうか。私達は、そこからウェスさんのお宅に行くから」
 魔道人形からくりに子供達の支度を指示すると、ミッちゃんは書斎へ行き、窓から鍛錬中のフッバーを見た。


 出力を落としているとはいえ、魔道騎士ナーターラァ2機と渡り合えているフッバーに目を細める。
 片刃曲剣キリジャタガンが生き物のように翻る。

 プラエド=ピラタの山賊剣が特殊なのは足運びだ。
 己を円の中心として、滑るように、模様を描くように足を進め曲剣を振るう。
 その足運びの一つ一つには意味があり、全てを会得した先で剣神と相見える事が出来るのだと言う。

 流石に、それは眉唾物だろうが、それでもフッバーの動きは美しかった。
 やはり噂など当てにならないと、ウルジェドは思う。

 円上に足運びで幾何学模様を描き、わずかの隙をついて攻撃をする。
 魔道騎士ナーターラァだから反応が可能だが、生身であれば虚を突かれるだろう。
 最後に魔道騎士ナーターラァの突剣を円の動きで巻き落とし、もう1機に肘を突かれたのを後ろに下がって躱した処でウルジェドが声を掛けた。

「フッバー、そろそろ出かけるぞ」
「おぉ、すまん。夢中になっていた」

 相手の魔道騎士に対して礼をしてから、フッバーは表玄関に回って戻って来た。
「凄かったな、プラエド=ピラタ派が山賊などと言われる意味が分からん」
「平民から出た剣だし、少数派だからな、極めるには時間がかかり過ぎるのだろうよ。俺だって、完全には習得出来てない」
 あとは開祖が山に籠って曲剣を振るい続けた隠者だったのも、良い印象を与えなかったのだろうと、フッバーは笑う。

 ホールで待っていた子供達を見てフッバーが目を細めた。
 ウェスに貰った鮮やかな大漁旗を、自慢げに頭に巻いて、嬉しそうな笑みを隠し切れないでいる。
「おぉ!これはいいなっ、祭りらしいじゃないか」

 ダグラスは鮮やかな朱赤。
 マルトフは深い黄色に青い小魚が散っている。
 フィリは自分の目に合わせた青緑がメインだ。
 そしてパウパウは柔らかい青紫のラ・ベルの花の色が、額の石と合っている。
「今日は、午後から他の村の船が来るんだろう?きっと皆、欲しがるぞ!」

 近隣からの船は朝の漁を終えてから、プタフォタンに向かって来るのだと言う。
 その時は舟競争に出る子供達の小舟を曳船して来るのだそうだ。

「じゃぁ、転移するからね」
 ホールに集まった皆にミッちゃんが言い、いつものように足をトンっと鳴らした。

 転移をしたのはパティオル家の前だ。
 店の看板の下のクリサレスクラゲ飾りも、ぶら下っている。
「じゃあ、私達は港の方へ行くよ。フッバーは、どうする?」
「あ!フッバーさんは私と一緒にパティオル先生んトコで見学するの」
 マールジェドが気を利かせたのか、そう言ってきた。
 日中の住宅地だから、大丈夫とは思うが護衛が居てくれた方が心強い。

「じゃあ、帰る時は叔父上に任せていいかな」
「大丈夫よ、行ってらっしゃい」

 フッバーとパティオルの都合などは聞かずにマールジェドはひらひらと手を振って送り出した。
「え、お、おい」
「はいはい。じゃぁ、パティオル先生のお仕事見学会~」
 そう言いながら、ウッキウキで二人の背中を押して、玄関へ入って行った。


「マールちゃん、楽しそうだったねぇ」
「うん。あんなに話が合う友人は、なかなか居ないんだろうね」
「そっかぁ」
 友達が出来るのは嬉しいことだ、とパウパウは頷く。
 パウパウだってサリレの皆と一緒だと、本当に楽しいから。
 マールちゃんも楽しいなら、パウパウは嬉しい。

「町のほうにさ、出店が出ているんだぜ!」
「出店って、なぁに?」
 記憶の中の出店は、何となく覚えているが、きっとここで焼きそばやチョコバナナとかフルーツ飴は無いと思う。
 だとしたら、一体どんなジャンクフードがあるのだろう。
 ヨーヨー釣りとか、スーパーボール掬いとか、射的にお面はあるのだろうか……
 お祭りを見たことがないので、パウパウには想像がつかない。

「うん、屋台っての?今年も出てると思うよ」
 パウパウは、ミッちゃんを見上げる。
「じゃあ、ウェスさんのお家の後は、町のお祭り屋台を回ろうか」
 やった!
 子供達が嬉しそうに笑った。


「おはようございまぁっす!」
 ウェスの家先に元気な子供の声が響く。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん。おはようございます」

「やぁやあ、おはようさん。よう来たねぇ」
 ペルナが笑いながら扉を開けて、出迎えてくれた。
「おはようございます。お言葉に甘えて伺いました」
 ミッちゃんの声に頷くと、奥へと招く。

 入って直ぐの店舗部分には数は減ったが、見本の大漁旗などが飾られている。
 やはり、それを見た子供達は歓声を上げた。
「すげぇ!」
「うん……凄い奇麗だねぇ」
「今日、こっちサ入る船の分が、何枚か残っていンダワ、さ、上がってくれ」
「オォ、キタカホレハイレヤ」
 ウェスは相変わらず、石のように、ぶっきらぼうだ。
 それでも子供達が自分の大漁旗で頭を飾っているのを見て、思わず小さく口角が上がる。

「おはようございます!お邪魔します」
「ね、ウェスお爺ちゃん、皆に画帳を見せてあげてよっ」
「わぁ!うん、見たいです!見せて、見せて」
 パウパウはすっかりウェスさんの大漁旗のファンになっている。

 それはサリレの子供達だって変わらない。
 ワクワクと目を輝かせてウェスを見つめる、圧がすごい。
「オ、オゥ……」
 圧に押し負けたウェスは、今まで家人以外を入れたことが無い2階の作業部屋へと子供達を案内する羽目になった。


 奥の厨房ではペルナが申し訳なさそうな顔でウルジェドを見つめていた。
「すまねぇな、ほら魚料理ってもココんとこ、獲れてねぇからさ……」
 そして、水桶に漬けてある物を見せた。

「ンでな、これ使った料理サ、しようと思って」
「……棒鱈ストッカですか?」
「うんうん、これ、旨味がギュウってなっててナ、タマンネェのよ」
 一晩、水に漬けて戻した棒鱈ストッカの料理だという。

「んじゃ、野菜サ切ってくれっかな?」
「はい、先生」
「ヤダよぉ、ハイエルフん人に先生だなんて」
 あははと声を上げて笑うペルナさんの顔は、不思議とフィリの面影がある。

「ウルジェドさんは、なシテ、料理サしてんのかね」
 棒鱈ストッカの身を、せっせと解しながらペルナが、ふと尋ねた。
「私ですか?う~ん、パウパウにね、体に良い物を食べさせたくって、ですかねぇ?」
「……そうなのかぃ」
「えぇ、一緒に美味しい物を食べるって、なんだか大事だと思って……ですかねぇ」

 ウルジェドを見つめて、何かを考えていたペルナは、
「よっし、ンジャついでに米もトマトと合わせて炊き込みサすっか」と、笑って話を打ち切った。

 結局、ウルジェドが貰った青魚で煮付にして、他には油漬けの保存食を教えてもらった。

 きっと今日の料理と似た物を、パウパウがどこかで食べた時には、思い出してくれるだろう。
 プタフォタンの友達の事、大漁旗の鮮やかな色と海の匂いを。
 
 柄にもなく、ウルジェドはそんな事を考えながら、ウェスの家の作業場に料理を並べて行った。

「一緒に美味しい物食べるッてェ……」
 ペルナが、少し眉を下げて困ったような顔でウルジェドを見た。

「これからだって、一緒……出来ますよ。きっと」
「……そっかぁ、そだねぇ。ふふ……あ、お昼サ呼んできて貰えるケ?」
 
 ペルナの眼が潤んだことには気づかない振りをして、ウルジェドは階段口から上へ声を掛けた。
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