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149.パウパウと大漁祈願祭2
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全ての討伐船が出て行っても人々の熱狂と興奮は冷めていない。騒ついた群衆は、ただ只管に沖を見つめている。
その合間を「こぉり~、冷たい果実水はぁいかがぁ~」「ギルド特製~美味しい氷ぃ~」と商売っ気が強い者が売り歩く。
夏の暑さもあって、なかなかに盛況のようだ。
「あ~、あの氷さぁ、僕の母さんがギルドで出してるやつ」
討伐船の一斉スタートで熱狂していたマルトフが、我に返ったように風魔法に乗る氷売りの声に反応した。
「ん?あ、そうなの?」
「うん。うち二人ともギルドの職員でさぁ。母さんは漁業ギルドの魔法部で、父さんは商業ギルドで働いてるんだ」
お祭りだというのに、今日も働いているという。
「へぇ~……あ!それよりマル兄。皆が大騒ぎしてるのって、なんで?」
いくら自分の町の船だとしても、熱狂っぷりが凄い。
さっきなど、港全部が揺れたのではないか?と、思えるほどの歓声だった。
「え?あ、ごめん。教えてなかったっけ。これさ、三女神の御座所船を決める競争なんだよ」
三女神って、さっきの歌に出てきた姫神ってのかな?と、パウパウは思いを巡らせた。なるほど、神事……前世の記憶の福男みたいな物なのかな?
「一番になれた船は、次の祭りまで姫神様の御座所船ってなって、加護を頂けるんだよ」
「へぇ~」
それは何となく分かったが、なぜに見物人までが熱狂しているのかが、判らないと聞くと、
「はっはっは。それはのう、社で籤を売っておるのじゃ。まぁ、籤と言う名の懸札じゃの」そう説明をしてくれたのはベネ様だ。
「かけふだ?」パウパウは首を傾げる。
「そうじゃ。まずのう社で御籤を引く。それに書かれた町の名の船が一等になったなら、抽選がされて神酒や小麦、反物などが貰えてのう。もしも、負けた船の町の名でも、その籤札は社のお守りとなっておるのよ」
まさかの公営ギャンブルだった。
「へぇ~、それで皆、応援しているんだぁ」
「まぁ、俺らは子供だから、祭りの御籤は買えないけどなぁ」
「自分の町の船だから応援するよね」
なるほど、それは熱狂もするだろうなと納得していると、目の良いダグラスが「来たベヤ!」と声を上げた。
沖にある小島を回って入り江に帰って来るまでの真剣勝負。
海の駆けっこだ。
遠見の魔法で誰もが沖の船を見る。パウパウも”遠くが見えますように!”だ。
(うん。ちょっと見えるようになった!体感3.0×くらい?)
相変わらず前世の記憶は大したことに使えていない。
レンズ倍率なんて、どうでもいいのだ。
「グリモブ?いや、プタフォタンが追い上げてきた!ウッシャア!」
元々の視力が良いダグラスが叫び、密かに故郷を応援しているロードンが小さく足踏みをして喜んでいる。
「おぉ、届きそうだ」
珍しくミッちゃんが弾んだ声で呟いた。
多分、海鳥の目を借りたんだろう。ハイエルフ、ズルイとパウパウは口を尖らせた。
だいたい、パウパウは小さくて目線が低いから、沖の船だって見えにくいのだ。
ペチペチとミッちゃんの腰を叩いて、目線を下げたハイエルフに向けて無言で両手を広げる。
ダッコなんて言葉は恥ずかしいから言わない。
もうすぐ五歳になるので!
「ふふ、ごめん。見えにくかったかな」
抱き上げられると少し沖が見えやすくなった。
頷いてミッちゃんに抱き着き、顔を沖へと向ける。
討伐船が水平線を切るように舳先をこちらに進んでくる。
隣に居たベネにロードンが旗を差し出した。
「おぉ、今年も早いのぅ。見入っている場合じゃあ無かったわ」
戻って来た船を見る見物人達も、徐々に声を上げ始める。
「プタフォタン~」「グリモブ!グリモブ!」「レカベットぉ!俺、サコッタの出だけンどぉ~!」「俺もサコッタさぁ~」「おぉ~」
その人々の声は裸眼で船がはっきりと見えるようになると、ますます大きくなった。
そこにフィーフィーと風のような高い音とドッドドッドドと響く重音が混ざる。
どうやら先頭で白波を立てている船は下半分が深緑色に塗られているようだ。
「うぉぉぉ!今年もグリモブだぁぁ」
「親父ぃ~!キバレヤァァ!プタフォタン~!」
ダグラスが絶叫。
その時、ダグラスの声に答えたわけでは無いだろうが、ミ゛ィィィっと震えのような音が風に混じり始めた。
「え?」と、溢した声は誰のものだったのか。
グリモブの後を追うプタフォタンの船の舳先が浮いた。
それは夏空号の船底と同じように深く青い。
「え?アッコっから加速?」
「余力アッタンカァ?プタフォタンの表船⁉」
見物客から戸惑う騒めきが上がる。
プタフォタンやサコッタの船は岩礁地帯の多い海域で操業するため舟底が厚い作りをしている。
ダグラス達の磯船、夏空号と同じに横波にも強く頑丈な分、重たい。
その船の舳先が浮くほどの船速!
プタフォタンの表船の一番大旗が真っすぐピーンと張っている。
真横からならウェスの描いた、空へと弾ける魚たちが岸を目掛けて泳いでいるのが見えただろう。
夏空を画廊にした大漁旗が、入り江目指して突き進む。
浅瀬が続くサコッタやレカベットの速度重視の船と、頑丈さが売りの船が鬩ぎ合う。
自らの船体を鼓舞するように各船から打ち鳴らされる銅鑼の音が沖の空気を震わせる。
波音を消す程の、入り江や護岸、港の防波堤の上から見守る人々の歓声。
防潮堤から空に向かって伸びるのはパティオルの錬金障壁が作る虹光のオーロラだ。
ザンザンと白波を切りながら進むグリモブの討伐船の横を、プタフォタンの表船が波を後残しにするように走る。
大きくなった魔導機関のドドッドドドドという音に混じるミ゛ィィィーと震えるような音を置き去りに、グリモブ船の横を走り抜ける。
ガジャーンガジャーンどーんどーんと銅鑼も競う。
「サヤーダァ!テメ、隠シ櫂カヨォ!」
隣の舳先から怒鳴るグリモブの討伐船に「二年モ、エェ思イサセネェッテナァ!」と怒鳴り返してプタフォタンの表討伐船が去って行く。
「ウラア!オメーラ、魔力出力アゲレェ!」グリモブの船長が怒鳴る。
「親父さん、船サ止まんなくナルッテ」
「バッカ、オメ姫神サンノ御座所サ、持ッテカレッベヤ……
グリモブのそんな声が聞こえることもない、表討伐船の船上でサヤーダは櫂を上に上げて「錬金符サァ止メェ」と補助機関の停止を指示した。
「さぁ、コッカラ一仕事スッゾォ。オメラ気張レヤ!」
「オイサァ!」
このまま入り江に突っ込めば絶対に止まれない。
実はこの船を止まらせるのが一番の大仕事なのだ。
「……ハハハ、荒いなぁサヤーダ。ズナシのラキップより荒いわ」
カウダ=タンニナの声に、
「ダグラスサァニヤレテ、オラニ出来ネェッテワケニハ、イカネェベヤ」
息子に良く似た顔を横に向けて、船長が呟いた声は一際大きく鳴らされた銅鑼の音に掻き消された。
「ホッタラ行クドォ!気ィ張レヤァ!」
先に見える赤いブイがゴールだ。
その先には入り江が広がり、右側の防潮堤は未だに虹色に輝く光の壁を青空に伸ばしている。
左には漁港の外防波堤、先端に立つ領主様の姿とダグラス達の姿が小さく見える。
「風サ使ウドォ前ニ来ォ!」
「オイサァ」船員たちが、船を止める魔法のために舳先の左右に並ぶ。
プタフォタンの表討伐船の船首が赤いブイを抜けた瞬間に、プールヴァの領主が旗を大きく振った。
その瞬間、ドォッと見物客からの音が響いた。
プタフォタンの船が一番船。
今年の御座所船に決まった瞬間だった。
勝旗が振られた瞬間に魔道動力を素早く遮断、惰性ながらも進み続ける船の先端でサヤーダが声を張る。
一番大旗の魚が空を泳ぐ。
漁師達の法被が風に踊る。
先端のサヤーダの法被が風を孕んで、花のように開いた。
「合ワセレヤァ!銅鑼ナラセェ‼」
「オイッサァ!」
乗員が舳先の左右に展開し、銅鑼の音を合図に船の前方、斜め下の水面に風の魔法を叩きつけた。
魔風が海を削ぎ、白波が泡立ち潮が飛沫となって飛び散ると目に見えて船足が大人しくなり始める。
「逆波タテッゾォ!」サヤーダが声を張る。
「オイッサァ!」
ジャーンと金属音を銅鑼が響かせる中、舳先に立った船長は、船首が切り裂くその直下の海面を睨みつけ、水の魔法を打ち付けた。
凝縮した水の楔だ。
魔力を帯びた巨大な水の塊に押され、行き場を無くした海水が逃げ込むように船底へ潜り込んで、自然と船首を押し上げる。
漁師達の魔風で産まれた波とサヤーダの水の楔を受けたプタフォタンの船は、純白の飛沫を船首から翼のように広げドォーンと音を海に突き立てて船首を戻し停船した。
刹那、世界が音を無くす。
砕けた飛沫が霧になり、夏の熱と光で虹を作った。
パティオルの錬金防御壁と同じ色の光を表討伐船が纏う。
船が立てた波が堤防に当たって、縁を白く飾っては岸側へ走って行く。
あの船足で止まれるのかと思っていた見物客も多かっただろう。
そして……
「止まった!停まったぞぉ!」
「ギャァ!信ジラレネェ!」
「うぉぉ!プタフォタン!プタフォタン!」
嵐のような声がワーンと入り江に木霊する。
防波堤の先端から、それを見ていた子供達は呼吸も忘れたように動きを止めていた。
パウパウはギュっとハイエルフの首に縋りついて、その船を見つめている。
「か……かっこいい……」とフィリが溜息を吐く。
「親父……」ダグラスは呟き。
「快速艇神の牙」うっとりとした目のマルトフは、厨二の病が治っていなかった。
パティオルの虹光を後ろに、海の三女神の新たな御座所船を称える歓声が東海に響き続けた。
その合間を「こぉり~、冷たい果実水はぁいかがぁ~」「ギルド特製~美味しい氷ぃ~」と商売っ気が強い者が売り歩く。
夏の暑さもあって、なかなかに盛況のようだ。
「あ~、あの氷さぁ、僕の母さんがギルドで出してるやつ」
討伐船の一斉スタートで熱狂していたマルトフが、我に返ったように風魔法に乗る氷売りの声に反応した。
「ん?あ、そうなの?」
「うん。うち二人ともギルドの職員でさぁ。母さんは漁業ギルドの魔法部で、父さんは商業ギルドで働いてるんだ」
お祭りだというのに、今日も働いているという。
「へぇ~……あ!それよりマル兄。皆が大騒ぎしてるのって、なんで?」
いくら自分の町の船だとしても、熱狂っぷりが凄い。
さっきなど、港全部が揺れたのではないか?と、思えるほどの歓声だった。
「え?あ、ごめん。教えてなかったっけ。これさ、三女神の御座所船を決める競争なんだよ」
三女神って、さっきの歌に出てきた姫神ってのかな?と、パウパウは思いを巡らせた。なるほど、神事……前世の記憶の福男みたいな物なのかな?
「一番になれた船は、次の祭りまで姫神様の御座所船ってなって、加護を頂けるんだよ」
「へぇ~」
それは何となく分かったが、なぜに見物人までが熱狂しているのかが、判らないと聞くと、
「はっはっは。それはのう、社で籤を売っておるのじゃ。まぁ、籤と言う名の懸札じゃの」そう説明をしてくれたのはベネ様だ。
「かけふだ?」パウパウは首を傾げる。
「そうじゃ。まずのう社で御籤を引く。それに書かれた町の名の船が一等になったなら、抽選がされて神酒や小麦、反物などが貰えてのう。もしも、負けた船の町の名でも、その籤札は社のお守りとなっておるのよ」
まさかの公営ギャンブルだった。
「へぇ~、それで皆、応援しているんだぁ」
「まぁ、俺らは子供だから、祭りの御籤は買えないけどなぁ」
「自分の町の船だから応援するよね」
なるほど、それは熱狂もするだろうなと納得していると、目の良いダグラスが「来たベヤ!」と声を上げた。
沖にある小島を回って入り江に帰って来るまでの真剣勝負。
海の駆けっこだ。
遠見の魔法で誰もが沖の船を見る。パウパウも”遠くが見えますように!”だ。
(うん。ちょっと見えるようになった!体感3.0×くらい?)
相変わらず前世の記憶は大したことに使えていない。
レンズ倍率なんて、どうでもいいのだ。
「グリモブ?いや、プタフォタンが追い上げてきた!ウッシャア!」
元々の視力が良いダグラスが叫び、密かに故郷を応援しているロードンが小さく足踏みをして喜んでいる。
「おぉ、届きそうだ」
珍しくミッちゃんが弾んだ声で呟いた。
多分、海鳥の目を借りたんだろう。ハイエルフ、ズルイとパウパウは口を尖らせた。
だいたい、パウパウは小さくて目線が低いから、沖の船だって見えにくいのだ。
ペチペチとミッちゃんの腰を叩いて、目線を下げたハイエルフに向けて無言で両手を広げる。
ダッコなんて言葉は恥ずかしいから言わない。
もうすぐ五歳になるので!
「ふふ、ごめん。見えにくかったかな」
抱き上げられると少し沖が見えやすくなった。
頷いてミッちゃんに抱き着き、顔を沖へと向ける。
討伐船が水平線を切るように舳先をこちらに進んでくる。
隣に居たベネにロードンが旗を差し出した。
「おぉ、今年も早いのぅ。見入っている場合じゃあ無かったわ」
戻って来た船を見る見物人達も、徐々に声を上げ始める。
「プタフォタン~」「グリモブ!グリモブ!」「レカベットぉ!俺、サコッタの出だけンどぉ~!」「俺もサコッタさぁ~」「おぉ~」
その人々の声は裸眼で船がはっきりと見えるようになると、ますます大きくなった。
そこにフィーフィーと風のような高い音とドッドドッドドと響く重音が混ざる。
どうやら先頭で白波を立てている船は下半分が深緑色に塗られているようだ。
「うぉぉぉ!今年もグリモブだぁぁ」
「親父ぃ~!キバレヤァァ!プタフォタン~!」
ダグラスが絶叫。
その時、ダグラスの声に答えたわけでは無いだろうが、ミ゛ィィィっと震えのような音が風に混じり始めた。
「え?」と、溢した声は誰のものだったのか。
グリモブの後を追うプタフォタンの船の舳先が浮いた。
それは夏空号の船底と同じように深く青い。
「え?アッコっから加速?」
「余力アッタンカァ?プタフォタンの表船⁉」
見物客から戸惑う騒めきが上がる。
プタフォタンやサコッタの船は岩礁地帯の多い海域で操業するため舟底が厚い作りをしている。
ダグラス達の磯船、夏空号と同じに横波にも強く頑丈な分、重たい。
その船の舳先が浮くほどの船速!
プタフォタンの表船の一番大旗が真っすぐピーンと張っている。
真横からならウェスの描いた、空へと弾ける魚たちが岸を目掛けて泳いでいるのが見えただろう。
夏空を画廊にした大漁旗が、入り江目指して突き進む。
浅瀬が続くサコッタやレカベットの速度重視の船と、頑丈さが売りの船が鬩ぎ合う。
自らの船体を鼓舞するように各船から打ち鳴らされる銅鑼の音が沖の空気を震わせる。
波音を消す程の、入り江や護岸、港の防波堤の上から見守る人々の歓声。
防潮堤から空に向かって伸びるのはパティオルの錬金障壁が作る虹光のオーロラだ。
ザンザンと白波を切りながら進むグリモブの討伐船の横を、プタフォタンの表船が波を後残しにするように走る。
大きくなった魔導機関のドドッドドドドという音に混じるミ゛ィィィーと震えるような音を置き去りに、グリモブ船の横を走り抜ける。
ガジャーンガジャーンどーんどーんと銅鑼も競う。
「サヤーダァ!テメ、隠シ櫂カヨォ!」
隣の舳先から怒鳴るグリモブの討伐船に「二年モ、エェ思イサセネェッテナァ!」と怒鳴り返してプタフォタンの表討伐船が去って行く。
「ウラア!オメーラ、魔力出力アゲレェ!」グリモブの船長が怒鳴る。
「親父さん、船サ止まんなくナルッテ」
「バッカ、オメ姫神サンノ御座所サ、持ッテカレッベヤ……
グリモブのそんな声が聞こえることもない、表討伐船の船上でサヤーダは櫂を上に上げて「錬金符サァ止メェ」と補助機関の停止を指示した。
「さぁ、コッカラ一仕事スッゾォ。オメラ気張レヤ!」
「オイサァ!」
このまま入り江に突っ込めば絶対に止まれない。
実はこの船を止まらせるのが一番の大仕事なのだ。
「……ハハハ、荒いなぁサヤーダ。ズナシのラキップより荒いわ」
カウダ=タンニナの声に、
「ダグラスサァニヤレテ、オラニ出来ネェッテワケニハ、イカネェベヤ」
息子に良く似た顔を横に向けて、船長が呟いた声は一際大きく鳴らされた銅鑼の音に掻き消された。
「ホッタラ行クドォ!気ィ張レヤァ!」
先に見える赤いブイがゴールだ。
その先には入り江が広がり、右側の防潮堤は未だに虹色に輝く光の壁を青空に伸ばしている。
左には漁港の外防波堤、先端に立つ領主様の姿とダグラス達の姿が小さく見える。
「風サ使ウドォ前ニ来ォ!」
「オイサァ」船員たちが、船を止める魔法のために舳先の左右に並ぶ。
プタフォタンの表討伐船の船首が赤いブイを抜けた瞬間に、プールヴァの領主が旗を大きく振った。
その瞬間、ドォッと見物客からの音が響いた。
プタフォタンの船が一番船。
今年の御座所船に決まった瞬間だった。
勝旗が振られた瞬間に魔道動力を素早く遮断、惰性ながらも進み続ける船の先端でサヤーダが声を張る。
一番大旗の魚が空を泳ぐ。
漁師達の法被が風に踊る。
先端のサヤーダの法被が風を孕んで、花のように開いた。
「合ワセレヤァ!銅鑼ナラセェ‼」
「オイッサァ!」
乗員が舳先の左右に展開し、銅鑼の音を合図に船の前方、斜め下の水面に風の魔法を叩きつけた。
魔風が海を削ぎ、白波が泡立ち潮が飛沫となって飛び散ると目に見えて船足が大人しくなり始める。
「逆波タテッゾォ!」サヤーダが声を張る。
「オイッサァ!」
ジャーンと金属音を銅鑼が響かせる中、舳先に立った船長は、船首が切り裂くその直下の海面を睨みつけ、水の魔法を打ち付けた。
凝縮した水の楔だ。
魔力を帯びた巨大な水の塊に押され、行き場を無くした海水が逃げ込むように船底へ潜り込んで、自然と船首を押し上げる。
漁師達の魔風で産まれた波とサヤーダの水の楔を受けたプタフォタンの船は、純白の飛沫を船首から翼のように広げドォーンと音を海に突き立てて船首を戻し停船した。
刹那、世界が音を無くす。
砕けた飛沫が霧になり、夏の熱と光で虹を作った。
パティオルの錬金防御壁と同じ色の光を表討伐船が纏う。
船が立てた波が堤防に当たって、縁を白く飾っては岸側へ走って行く。
あの船足で止まれるのかと思っていた見物客も多かっただろう。
そして……
「止まった!停まったぞぉ!」
「ギャァ!信ジラレネェ!」
「うぉぉ!プタフォタン!プタフォタン!」
嵐のような声がワーンと入り江に木霊する。
防波堤の先端から、それを見ていた子供達は呼吸も忘れたように動きを止めていた。
パウパウはギュっとハイエルフの首に縋りついて、その船を見つめている。
「か……かっこいい……」とフィリが溜息を吐く。
「親父……」ダグラスは呟き。
「快速艇神の牙」うっとりとした目のマルトフは、厨二の病が治っていなかった。
パティオルの虹光を後ろに、海の三女神の新たな御座所船を称える歓声が東海に響き続けた。
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