164 / 178
164.パウパウとウミワタリ3
しおりを挟む
斎所場は境内を入って右手側に進んだ先にあるのだという。
社を出て──編み上げブーツのハイエルフ達が当然、一番遅くなった──深夜、言葉少なにアーザル神官の聖域を歩いて、左側、社と同じような本漆喰が青白く月光色に染まる四角い建物へと進む。
その幾つかの窓から、魔道カンテラの光が煌々と溢れ、オッチャン達の話し声や笑い声が漏れているのを感じた時、子供達は何故か帰って来たと感じて、肩の力を抜いた。
「……ウルジェド、半分ずらしてあるわよ。ここ」
「これは、……参ったねぇ」
空間拡張を施された建物と、人が誰でも入れるように、だが、悍ましい力からは見つからないようにと存在を半分だけずらしている。
──「アーザル神官長の聖域ではの、流石の帝国の花殿も苦労しようよ」──ベネ・ウオレオの言葉が思い出されて、ハイエルフは成程と納得した。
「聖域では神もかくやという程の力なのだな」
まるで安全な場所に逃げ帰った!という勢いで、靴を脱ぎ蹴り駆け込んで行く少年達を後目に、大きな扉を潜ったハイエルフの二人は、そう話しながら上がり框(かまち)にパウパウを抱き下ろして、小さなブーツを沓脱に置いてから、徐に編み上げブーツを解きにかかった。
通路の先からは、楽し気な声が聞こえてくる。
「パウパウ~!早くおいでよ」と呼ぶのはフィリだ。
「も、ちょっと~!先に行ってて~」とパウパウは答える。
声を普通に出せるのが、こんなにも嬉しい。
「パウパウ、みんなと先に行っていいよ」
「ううん、ミッちゃんと一緒がいい」
「ん、もう、こんななら、違う靴にすればよかったわねぇ」
ミッちゃんはパウパウと手を繋いで、賑やかな大広間のような場所へと向かう。
「ここに来たときにね、時間を潰していた場所だよ」
パウパウ達がマールジェドを押しとどめたり、神官長から逃げたりしていた時間、大人はここで月待ちをしていたのだという。
奥の広間に近づくごとに、どんどんとオッチャン達の声が大きくなってくる。
笑い声、騒めき、何かの食器がぶつかる音。
それを感じ、音が聞こえるごとに、パウパウの顔には微笑みが浮かんでいる。
ミッちゃんが、大きな引き戸を開けると光と声と音が、尚更に大きくなってパウパウを包んだ。
「やぁ、お待たせした」
そう告げるハイエルフの声も、心なしか弾んでいるようだ。
「おぉ!お疲れッシタな」
「オ、来たナ、バッチ子」
「お~い、奇麗ドコが来たベサァ」ドッと笑い声。
思い思いに輪になったオッチャン達が声を掛けてくるけど、バッチ子ってなんだ?とパウパウは首を傾げた。
「パウパウ!ウルジェドさん、マールさん!こっち、こっち」
この世界に上座、下座があるのかをパウパウは知らないが、雰囲気的に上座っぽい人の輪からフィリが手を振った。
見るとゴドー達、サコッタ組も一緒だ。
表討伐船のサヤーダを始め、各船の代表らしき人達と子供達とハイエルフが大きな輪を作っていると、三龍人がやって来た。
なるほど、それでここの玄関扉も入口の戸も、驚く位に大きかったのかとパウパウは納得する。
「お疲れ様でございます」
皆が頭を下げた。
「あっはっは。うむ、皆も御苦労様であったの、今年は見事に釣れたし、愉快、愉快」
ぶぶぶとムニャムニャさせた口から音をさせて、ベネは子供達を見る。
「まったく、ベネ様も人が悪い。いきなり過ぎるでしょう」ギルマスがしかめっ面で言うと
「バッチ子が大きく更新されましたな」と、アーザル神官がパウパウを見てバゴンと口を閉じた。
何のことだか分からずにいるハイエルフ二人とパウパウを置き去りにアーザル神官は
「皆さまのお陰を持ちまして、無事に三姫様の産み渡り、恙(つつが)なく、海を渡られ代替わりとなりまして御座います」
神官長の言葉に、皆が黙礼をした。
ペチャペチャンと神官長が四本指の手を合わせて、情けない音を合図に引き戸が開いて白いローブの神官たちが料理を運び入れ始めた。
「皆さまからの寄進。姫様への捧げ物を頂戴する直会にございます。さぁ、陽待ちの儀を始めましょう」
オッチャン達は頭を下げると、早速、嬉しそうに酒の壺に手を伸ばした。
「ここはさ、集会場所になったり、僕たちの学舎になったりするんだよ」と、マルトフが教えてくれる。
「へぇ~、どんな事をべんきょするの?」
「算術とか、文字とか……あと、国の成り立ちとかかなぁ」
「あ、三姫様や海神様の話とかねっ」フィリが取り分けてくれた料理を渡しながら答えた。
「ア~、俺、算術苦手ダベヤ」
帝国語の発音を勉強すると社で言った傍から、ダグラスは語尾が怪しい。
「ゴドー君たちの所にも、社ってあるの?」
そうパウパウが尋ねると、何かの煮物を競り食いしていたゴドー達は慌てて口の物を呑み込んでから
「オゥ、有ンゾ。小ッセェケンド」
「神官様、一人ナ」と、教えてくれた。
「ゴドー、お前ヨォ、姫様サ今度会った時、ちゃ~んと帝国語サ話せネト叱られッベヤ」
自慢げにダグラスが何故か言い、
「だからダグ、訛ってるって」とマルトフが首を振る。
くすくすと皆が笑う中、パウパウは
「ね?バッチ子ってなぁに?」
「オォ、バッチコってなぁ……「オィ、ヤメレ」オッチャンの一人の言葉をサヤーダが、苦虫を噛んだような顔で止める。
そんなサヤーダを見たことがない子供達は、興味津々だ。
「マァ、諦めレッテ、サヤーダ」
もう一人、プタフォタンの討伐船の船長が止めた。
「今マデは、コイツがバッチ子ヨォ」
あっはっはと笑いながら指を差されるのを、面白くなさそうにサヤーダが睨みつけた。
「たま~にな……あぁやってベネ様が、撒き餌サァスンダ」
笑いを含んだ声で言うのは網元のオッチャン。
サヤーダ船長の兄だ。
撒き餌と言うのは、あの町の広場でベネ様が、わざわざ神事について言った事だろうか……いや、もしかしたら港の倉庫でダグ兄が小耳に挟んだって言うのも、仕込みだったのかもしれない。と、パウパウは怪しむ。
「ンでな、コイツが……アリャ、幾ツントキヨ」
「ヤッツよ!」
「オォ、俺ラン後ろサくっツイテ来テナァ」あっはっは、そうそう!と笑う兄貴分達の中では、サヤーダは御座所船の長ではなく、ただの鼻たれ弟分なのだろう。
ちょっと顔を歪めて聞き流す事にしたようで、黙って料理をダグラス達の方へと押し出した。
それなのに、話は続く。
「イヤ、サヤーダは酷ェノ、スゲェの「オォヨ、連れてケネェったら、ダグ。オ前の親父ナぁ」
「「「「社ン崖サ、登ッタんだぁ!」」」」
笑い声は、既にギャハハに膨れ上がっている。
「オ、オ前……アーザル神官長サマさ、助ケテくんナキャ、姫様サ持っテカレたベサ」
「……オォ、ンダナ」
言葉少なにサヤーダは、仲間と何やら料理を分け合っている息子を見た。
十二歳を過ぎたならプタフォタンの漁師の子は、生まれ月に三姫様へご挨拶をするために社へ詣でる。
それを持って、瘢痕を身に刻み操舵の風と水の術を殆ど無詠唱に近い状態で使えるようになるのだ。
サヤーダは鮮やかな羽織に隠れている二の腕の瘢痕紋字を、知らずに摩った。
「マルトフもフィリも、パウパウも漁師の子では無いがのう」ベネが嬉しそうに言う。
「姫神様に見事、お目通りが叶いましたな。流石は海の町の子です」
ペチョペチョと嬉しそうに両手を合わせてオオサンショウウオの神官が笑う。
「ダグラスは親子二代。パウパウは最年少で特攻だ」ギルマスはやれやれと言うように天井を見上げた。
────
流石に、陽待ち神事と言う名の徹夜宴会に、子供達が付いていける筈もない。
社の神官たちの心づくしの料理を馳走になり、お神酒だと言われて酒を舐めた後、全員が広間の隅で雑魚寝を始めた。
大の字で寝落ちである。
ウルジェドが子供達のために、収納から野営用のマットを取り出すと、サヤーダやゴドーの父親らが子供達をマットの上に運んだ。
「……本当に、お前の収納には何が入っているのよ」マールジェドの声に
「冒険者用の野営マットの試作品ですよ」
そう言いながら、薄手の掛け布を子供達にフワリとかけた。
「今年は大漁であったのぉ」と言うベネの声に
「ヤ、レカベットの子ガナァ、ラキップさ、気の毒ヨナ」「ありゃ、普通に村の社に詣デンだべ。今年デ十二ダ」
そんな話がやがて静まったとき、
「さて、少し生臭い話をせねばならぬ。アーザル神官長には、すまぬがの」ベネがそう言うと、アーザルは子供達の周りに防音結界を張った。
息をするように自然な展開に、ハイエルフすら目を見張る。
「……本祭の前に捕らえた、サコッタのアピズと名乗っておった男についてじゃが」
この座にいる者達は、皆、あの捕り物に参加をしている。
「ウルジェド殿の見込みのとおり、暗人であった」
サコッタの網元、ゴドーの親父はハッと頭を上げて「ジャ、ホンマモンは…アピズは」
それに答えずに、ギルマスが
「入れ替わるために、その父親の方も……な」とだけ告げる。
広間を支配した重たい沈黙を破って、ギルマスが続けた。
「サコッタの舟揚場から、何度か磯舟で東への船に荷を運んだそうだ」
「アイツが、村サ来テ4年ッス……荷…?、荷ッテぇ何スカ」
握った拳を白くして、ゴドーの父親が悔しそうにギルマスに問うた。
偽アピズの捕縛の時に、話には出ている。
だが、はっきりとした確定ではなかったのだ。
「……あやつが吐きおった。荷はの、やはり人よ……リヨスアルヴァを経由して、東の地へ送り込んでいたようじゃ」
珍しく顔を歪めたベネ・ウオレオが吐き捨てるように言った言葉に、ハイエルフは眉を顰める。
リヨスアルヴァ……それは二人にとって拭いきれない汚れ、魂が穢れる気になる存在であった。
社を出て──編み上げブーツのハイエルフ達が当然、一番遅くなった──深夜、言葉少なにアーザル神官の聖域を歩いて、左側、社と同じような本漆喰が青白く月光色に染まる四角い建物へと進む。
その幾つかの窓から、魔道カンテラの光が煌々と溢れ、オッチャン達の話し声や笑い声が漏れているのを感じた時、子供達は何故か帰って来たと感じて、肩の力を抜いた。
「……ウルジェド、半分ずらしてあるわよ。ここ」
「これは、……参ったねぇ」
空間拡張を施された建物と、人が誰でも入れるように、だが、悍ましい力からは見つからないようにと存在を半分だけずらしている。
──「アーザル神官長の聖域ではの、流石の帝国の花殿も苦労しようよ」──ベネ・ウオレオの言葉が思い出されて、ハイエルフは成程と納得した。
「聖域では神もかくやという程の力なのだな」
まるで安全な場所に逃げ帰った!という勢いで、靴を脱ぎ蹴り駆け込んで行く少年達を後目に、大きな扉を潜ったハイエルフの二人は、そう話しながら上がり框(かまち)にパウパウを抱き下ろして、小さなブーツを沓脱に置いてから、徐に編み上げブーツを解きにかかった。
通路の先からは、楽し気な声が聞こえてくる。
「パウパウ~!早くおいでよ」と呼ぶのはフィリだ。
「も、ちょっと~!先に行ってて~」とパウパウは答える。
声を普通に出せるのが、こんなにも嬉しい。
「パウパウ、みんなと先に行っていいよ」
「ううん、ミッちゃんと一緒がいい」
「ん、もう、こんななら、違う靴にすればよかったわねぇ」
ミッちゃんはパウパウと手を繋いで、賑やかな大広間のような場所へと向かう。
「ここに来たときにね、時間を潰していた場所だよ」
パウパウ達がマールジェドを押しとどめたり、神官長から逃げたりしていた時間、大人はここで月待ちをしていたのだという。
奥の広間に近づくごとに、どんどんとオッチャン達の声が大きくなってくる。
笑い声、騒めき、何かの食器がぶつかる音。
それを感じ、音が聞こえるごとに、パウパウの顔には微笑みが浮かんでいる。
ミッちゃんが、大きな引き戸を開けると光と声と音が、尚更に大きくなってパウパウを包んだ。
「やぁ、お待たせした」
そう告げるハイエルフの声も、心なしか弾んでいるようだ。
「おぉ!お疲れッシタな」
「オ、来たナ、バッチ子」
「お~い、奇麗ドコが来たベサァ」ドッと笑い声。
思い思いに輪になったオッチャン達が声を掛けてくるけど、バッチ子ってなんだ?とパウパウは首を傾げた。
「パウパウ!ウルジェドさん、マールさん!こっち、こっち」
この世界に上座、下座があるのかをパウパウは知らないが、雰囲気的に上座っぽい人の輪からフィリが手を振った。
見るとゴドー達、サコッタ組も一緒だ。
表討伐船のサヤーダを始め、各船の代表らしき人達と子供達とハイエルフが大きな輪を作っていると、三龍人がやって来た。
なるほど、それでここの玄関扉も入口の戸も、驚く位に大きかったのかとパウパウは納得する。
「お疲れ様でございます」
皆が頭を下げた。
「あっはっは。うむ、皆も御苦労様であったの、今年は見事に釣れたし、愉快、愉快」
ぶぶぶとムニャムニャさせた口から音をさせて、ベネは子供達を見る。
「まったく、ベネ様も人が悪い。いきなり過ぎるでしょう」ギルマスがしかめっ面で言うと
「バッチ子が大きく更新されましたな」と、アーザル神官がパウパウを見てバゴンと口を閉じた。
何のことだか分からずにいるハイエルフ二人とパウパウを置き去りにアーザル神官は
「皆さまのお陰を持ちまして、無事に三姫様の産み渡り、恙(つつが)なく、海を渡られ代替わりとなりまして御座います」
神官長の言葉に、皆が黙礼をした。
ペチャペチャンと神官長が四本指の手を合わせて、情けない音を合図に引き戸が開いて白いローブの神官たちが料理を運び入れ始めた。
「皆さまからの寄進。姫様への捧げ物を頂戴する直会にございます。さぁ、陽待ちの儀を始めましょう」
オッチャン達は頭を下げると、早速、嬉しそうに酒の壺に手を伸ばした。
「ここはさ、集会場所になったり、僕たちの学舎になったりするんだよ」と、マルトフが教えてくれる。
「へぇ~、どんな事をべんきょするの?」
「算術とか、文字とか……あと、国の成り立ちとかかなぁ」
「あ、三姫様や海神様の話とかねっ」フィリが取り分けてくれた料理を渡しながら答えた。
「ア~、俺、算術苦手ダベヤ」
帝国語の発音を勉強すると社で言った傍から、ダグラスは語尾が怪しい。
「ゴドー君たちの所にも、社ってあるの?」
そうパウパウが尋ねると、何かの煮物を競り食いしていたゴドー達は慌てて口の物を呑み込んでから
「オゥ、有ンゾ。小ッセェケンド」
「神官様、一人ナ」と、教えてくれた。
「ゴドー、お前ヨォ、姫様サ今度会った時、ちゃ~んと帝国語サ話せネト叱られッベヤ」
自慢げにダグラスが何故か言い、
「だからダグ、訛ってるって」とマルトフが首を振る。
くすくすと皆が笑う中、パウパウは
「ね?バッチ子ってなぁに?」
「オォ、バッチコってなぁ……「オィ、ヤメレ」オッチャンの一人の言葉をサヤーダが、苦虫を噛んだような顔で止める。
そんなサヤーダを見たことがない子供達は、興味津々だ。
「マァ、諦めレッテ、サヤーダ」
もう一人、プタフォタンの討伐船の船長が止めた。
「今マデは、コイツがバッチ子ヨォ」
あっはっはと笑いながら指を差されるのを、面白くなさそうにサヤーダが睨みつけた。
「たま~にな……あぁやってベネ様が、撒き餌サァスンダ」
笑いを含んだ声で言うのは網元のオッチャン。
サヤーダ船長の兄だ。
撒き餌と言うのは、あの町の広場でベネ様が、わざわざ神事について言った事だろうか……いや、もしかしたら港の倉庫でダグ兄が小耳に挟んだって言うのも、仕込みだったのかもしれない。と、パウパウは怪しむ。
「ンでな、コイツが……アリャ、幾ツントキヨ」
「ヤッツよ!」
「オォ、俺ラン後ろサくっツイテ来テナァ」あっはっは、そうそう!と笑う兄貴分達の中では、サヤーダは御座所船の長ではなく、ただの鼻たれ弟分なのだろう。
ちょっと顔を歪めて聞き流す事にしたようで、黙って料理をダグラス達の方へと押し出した。
それなのに、話は続く。
「イヤ、サヤーダは酷ェノ、スゲェの「オォヨ、連れてケネェったら、ダグ。オ前の親父ナぁ」
「「「「社ン崖サ、登ッタんだぁ!」」」」
笑い声は、既にギャハハに膨れ上がっている。
「オ、オ前……アーザル神官長サマさ、助ケテくんナキャ、姫様サ持っテカレたベサ」
「……オォ、ンダナ」
言葉少なにサヤーダは、仲間と何やら料理を分け合っている息子を見た。
十二歳を過ぎたならプタフォタンの漁師の子は、生まれ月に三姫様へご挨拶をするために社へ詣でる。
それを持って、瘢痕を身に刻み操舵の風と水の術を殆ど無詠唱に近い状態で使えるようになるのだ。
サヤーダは鮮やかな羽織に隠れている二の腕の瘢痕紋字を、知らずに摩った。
「マルトフもフィリも、パウパウも漁師の子では無いがのう」ベネが嬉しそうに言う。
「姫神様に見事、お目通りが叶いましたな。流石は海の町の子です」
ペチョペチョと嬉しそうに両手を合わせてオオサンショウウオの神官が笑う。
「ダグラスは親子二代。パウパウは最年少で特攻だ」ギルマスはやれやれと言うように天井を見上げた。
────
流石に、陽待ち神事と言う名の徹夜宴会に、子供達が付いていける筈もない。
社の神官たちの心づくしの料理を馳走になり、お神酒だと言われて酒を舐めた後、全員が広間の隅で雑魚寝を始めた。
大の字で寝落ちである。
ウルジェドが子供達のために、収納から野営用のマットを取り出すと、サヤーダやゴドーの父親らが子供達をマットの上に運んだ。
「……本当に、お前の収納には何が入っているのよ」マールジェドの声に
「冒険者用の野営マットの試作品ですよ」
そう言いながら、薄手の掛け布を子供達にフワリとかけた。
「今年は大漁であったのぉ」と言うベネの声に
「ヤ、レカベットの子ガナァ、ラキップさ、気の毒ヨナ」「ありゃ、普通に村の社に詣デンだべ。今年デ十二ダ」
そんな話がやがて静まったとき、
「さて、少し生臭い話をせねばならぬ。アーザル神官長には、すまぬがの」ベネがそう言うと、アーザルは子供達の周りに防音結界を張った。
息をするように自然な展開に、ハイエルフすら目を見張る。
「……本祭の前に捕らえた、サコッタのアピズと名乗っておった男についてじゃが」
この座にいる者達は、皆、あの捕り物に参加をしている。
「ウルジェド殿の見込みのとおり、暗人であった」
サコッタの網元、ゴドーの親父はハッと頭を上げて「ジャ、ホンマモンは…アピズは」
それに答えずに、ギルマスが
「入れ替わるために、その父親の方も……な」とだけ告げる。
広間を支配した重たい沈黙を破って、ギルマスが続けた。
「サコッタの舟揚場から、何度か磯舟で東への船に荷を運んだそうだ」
「アイツが、村サ来テ4年ッス……荷…?、荷ッテぇ何スカ」
握った拳を白くして、ゴドーの父親が悔しそうにギルマスに問うた。
偽アピズの捕縛の時に、話には出ている。
だが、はっきりとした確定ではなかったのだ。
「……あやつが吐きおった。荷はの、やはり人よ……リヨスアルヴァを経由して、東の地へ送り込んでいたようじゃ」
珍しく顔を歪めたベネ・ウオレオが吐き捨てるように言った言葉に、ハイエルフは眉を顰める。
リヨスアルヴァ……それは二人にとって拭いきれない汚れ、魂が穢れる気になる存在であった。
35
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?
gacchi(がっち)
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる