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番外編(後日談)(1)
しおりを挟む「この後、ハンスのことを憎み切れないトーリにリチャードは嫉妬するし、ハンスは手放してしまったことを酷く後悔をする」を深掘りした後日談です。
◆
リチャード王子からの告白を受けてから数ヶ月後、僕は不満そうな顔をしたリチャード王子に図書室で詰め寄られていた。
「あの、リチャード王子…?」
「リチャード」
「リチャード…」
不機嫌そうな様子でも、敬称をつけることへの言及は忘れないらしい。
目前に広がる整った顔は、むすっとした表情をしていても麗しさを保ったままだ。
宝石のような瑠璃色の瞳に見据えられて、思わず距離を取りたくなる。
けれど、本棚に置かれたリチャードの手に行手を阻まれて、逃げられそうにもない。
「なんでトーリはまだあの男のことを気にするの?」
あの男とは、僕の元婚約者のことだ。
手酷く振られたあの日からハンスへの未練はない。
けれど、幼少期から長い間一緒にいて、お互い想い合っていた時間も、ハンスに救われた時もある。
恋心は消えてなくなっても、完全に断ち切れるほど情を失ったわけではない。
「なんでと、言われても…」
どう答えるべきか悩んだ僕は口を閉ざす。
時は数日前に遡る。
◆
ハンスに別れを告げられたあの日から数ヶ月の間にいろんなことがあった。
多数の観衆の中で行われた断罪劇は、瞬く間に学園中に広まった。
"二国の王子がΩを巡って対立した"という見出しは、生徒の興味をひどく掻き立てたらしい。
あの日のリチャードの立ち回りのおかげもあって、Ωの僕を非難したり、揶揄したりする声はほとんどなかった。
その代わり、ハンスとメアリーはもっぱら悪役として噂されることとなった。
メアリー令嬢はあの後すぐに退学した。
メアリーという支えを失い、学園中から後ろ指をさされることとなったハンスは次第にやつれていった。
授業には出席しているようだが、授業が終わればすぐに部屋に引きこもっているそうだ。
逆恨みしたハンスが部屋に殴り込みに来ることも想定していたが、ハンスが僕の部屋を訪れることはなかった。
その代わり、僕に一通の手紙が届いた。
親愛なるトーリへ
まずは君に謝罪がしたい。
本当にすまなかった。
あの時のオレはどうかしていて、今思い返しても何故あれほど非道なことが出来たのかが分からない。
小さい頃からずっとトーリのことが大切で、愛していて、オレが守ってやらなきゃと思っていたはずなのに。
オレのことを許してほしいと請うのはおこがましいことだと分かっている。
すまない、トーリ。本当に申し訳なかった。
ハンス
手紙を読み終えた時、僕はどうするべきか悩んだ。
幼少期から大切な人だった彼は、数ヶ月前僕に別れを告げた。
別れの言葉は酷いもので、彼を想っていた分、悲しかったし、怒れたし、憎いと思った。
けれど、この学園に来るまではハンスの恋人でいられて幸せだったのも、ハンスが僕を助けてくれていたのも本当で、そのことには感謝している。
だから、ハンスの自業自得な部分はあるとはいえ、やつれていくハンスに対して、同情や後ろめたさを感じることもあった。
僕はペンを取り、返答を綴る。
ハンスへ
ハンスのことを許さないなんて思ってないよ。
幼い頃からこの学園に入学するまで、僕をたくさん助けてくれていたことには感謝してる。
今までありがとう。
トーリ
この学園に来てからの態度や、あの日の罵詈雑言について苦言を呈したくもなったけれど、変に拗れて部屋に殴り込まれると困るのでやめておいた。
過去のことをつらつらと語るのも未練がましく思われるかもしれない。
要点を端的に短く、手紙にしたためたつもりだった。
まさかこの行動が後に新たなトラブルを呼ぶとも知らずに。
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