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〃
『そんなこと思っていません、俺は大丈夫です』と、平気な顔で言えたらいいのに。
心の中で思ったり、口で言うだけというのはなんて簡単なのだろう。
榛名は恥ずかしがらずに堂々と自分の性的趣向を言えるような性格ではないし、周囲の偏見の目に耐えれるほど強くもないと自分で分かっていた。
どんなに霧咲や亜衣乃を愛していても……。
「……俺って、臆病ですよね」
榛名は、霧咲の胸に頭をあずけてしがみついた。
再び涙がこぼれてきたのを悟られないように。
「そんなことはないよ、こんな世の中だし、それが普通なんだから。……俺は、わざわざ君に辛い思いをさせたくない。君を安心させようとして結婚を迫ってたのもあるんだけど、それで逆に不安にさせてしまったことは謝るよ……ごめん」
「俺、指輪もプロポーズもすごく嬉しかったですよ……それは本当の本当に、です」
「うん。俺も、君からもプロポーズしてくれたことは凄く嬉しかった。君はムカつくかもしれないけど、君が不安のあまり泣いてしまうのも正直俺には嬉しくてたまらないんだ」
すると榛名は、腕を緩めて霧咲から離れてムッとした表情をした。
「俺が去年のクリスマスにどんだけ泣いたか教えてあげましょうか?」
「それは是非とも教えて欲しいね。でも、怒りながらはちょっと嫌かな」
「じゃあ、やめといてあげます」
そう言って、榛名はニッコリと笑った。ど
うせ言ったらまた二宮が絡んでくるので、面倒臭く嫉妬されるのは目に見えているのだ。
でも嫉妬されるのは自分も嬉しいな、と榛名は密かに思った。
霧咲は、またほんのりと赤くなっている榛名の目元を優しく撫でながら言う。
「たった紙切れ1枚の提出とはいえ、籍を入れるのは重要なことだけど……まあ、その気になれば結婚なんて365日いつだってできるさ」
「まあ、それはそうですね」
「うん。だから別に急ぐ必要もなくて……暫くはこのままでも構わないかな。君が俺の傍に居てくれることが重要なんだから。それに近い将来に同性婚が認められるかもしれないしね。そしたら君は俺の息子なんて肩書きにならないで、堂々とパートナーと名乗れるよ」
「それも、そうですね……。あ、でも一応すぐ提出できるように書類に記入はしておきましょうね。どっちかが事故にあったりしたら、すぐ家族になれるように」
「うん、そうだね」
「それと、俺……」
「ん?」
榛名は、ゆっくりと言った。
「両親と姉夫婦には、予定通りに誠人さんと亜衣乃ちゃんを紹介するつもりでいます。家族にだけは、ちゃんと教えておきたいから……俺の、大事な人たちのことを」
「暁哉、それは……」
「軽くですけど、母には一応カミングアウトは済んでますしね。……会って貰えますか?」
榛名の意志は固いらしく、心配そうな顔で見つめてくる霧咲を前にしても、その目は揺るがなかった。
なので霧咲も観念した。
「……それは、勿論だよ」
「亜衣乃ちゃんも来てくれるかな。まあ、子ども相手に嫌味なことを言ってくるとは思ってませんけどね」
「そんな心配はしてないよ。君を育てたご両親なんだからね」
「でもうちの母が口うるさいの、知ってるでしょう?」
霧咲には以前、母との電話越しの会話を思いっきり聞かれている。
「方言が可愛いよね、きみのお母さん」
「ええ? 可愛くないですよ」
「俺には新鮮なんだよ。……さて、そろそろ上がろうか。逆上せてしまうからね」
もうずっと湯に浸かっているため、二人揃って指先までふやけきっていた。
「そうですね、そろそろ寝ましょうか。明日もきっと亜衣乃ちゃん朝早いでしょうし……観光の続きもありますしね」
「明日は完璧な家族サービスが出来ればいいんだけど。トラブルがありませんように」
「大丈夫ですよ、たぶん」
「そうだね、多分……ね」
「ふふっ」
そして2人は露天風呂を後にすると、亜衣乃を真ん中にして敷かれている布団に入り、そのままろくに会話も交わさずにぐっすりと寝入ったのだった。
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