運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
279 / 322

145 バレンタイン・ナイト


 自分の話はどうでもいいのだけど、霧咲の話を聞いてなるほどな、と榛名は思った。

「蓉子さんは身内にチョコをあげる習慣がもともとなかったから、亜衣乃ちゃんとお菓子作りをしようとしなかったのかな……」
「え?」
「昨日の夜、亜衣乃ちゃんが言ったんです。クラスの女の子たちみたく、ずっとママとお菓子作りをしてみたかったんだって」
「そうか……でも、蓉子は」

 霧咲は本当のことを言いかけたが、榛名はそれを遮った。

「いいんです、ごめんなさい。俺がそうだったらいいなあって思っただけなんで。……情けない話ですけど、俺、昨日すごく泣いちゃったんです、亜衣乃ちゃんの前で」
「え!?」

 霧咲の持っていたコーヒーカップの中身が軽く波打つ。

「亜衣乃ちゃんが俺に、まこおじさんの恋人になってくれてありがとうって泣かすようなことを言うもんだから……他にも色々」

 榛名は恥ずかしそうに笑いながら言った。
 そんな榛名の表情を見て、霧咲はわかりやすく安堵した表情をしてみせた。

「はあ、まったく、亜衣乃のやつ」
「それと亜衣乃ちゃん、誠人さんがずっと自分とどうやって接していいか分からないって思ってたこともちゃんと気付いてましたよ」
「えっ?」
「それで、感謝されたんです。誠人さんが前より明るくなって良かったって言ってました、まるで大人みたいに。……理由はわからなくても、誠人さんがずっと何かに苦しんでいたこと、亜衣乃ちゃんは気付いていたんですね。子どもってほんとに大人をよく見てるんだなぁって感心しちゃいました」
「……」

    榛名はコーヒーを持ったまま、ぽすんと霧咲の肩に頭を預けた。

「俺も伝えたかったです。君の伯父さんに出会えて、俺のほうこそ幸せだって。こんな可愛い女の子と一緒にお菓子作りができるなんて、本当に嬉しいって。でも泣いてたから、なにひとつ言えませんでした。まったくもってダメな大人ですよね……」

   霧咲はコーヒーカップを置くと、榛名の肩に手を回して抱き寄せた。

「……ダメなんかじゃないさ。亜衣乃はきっと分かってるよ、俺だけじゃなくてきみのこともよく見てるからね」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
「そうならいいですけど、いつかちゃんと伝えたいなぁ……」
「いつでも伝えられるさ。だって俺達はこれから家族になるんだからね」
「……はい」

    榛名と霧咲は目を合わせると、にっこりと笑いあった。

「じゃ、そろそろ俺達も寝ようか」
「そうですね。あ、寝る前にシャワー借りますね。仕事終わってそのまま来ちゃったんで……ちなみに珍しく残業してました、帰りに緊急透析が入ったんで」
「なにー!?   どうしてそれを早く言わないんだ!   知ってたらあんな作業手伝わす前に勧めてたのに!   ……もしかしてきみ、夕飯も食べてないんじゃないか!?」
「さっきケーキたくさん食べたのでいちおう腹は膨れましたよ?」

    榛名は満腹とばかりにお腹を軽くさすってみせた。

「ええ……でも物足りないだろう。いまから俺、コンビニでおにぎりか何か買ってこようか?」
「いりませんよ、こんな時間に炭水化物食べたら太りますし……大人しくシャワー浴びて寝ます」
「そう?   本当に大丈夫?」

   霧咲は心配そうな顔をしているが、いざ空腹で眠れないということがあったとしても、目の前の大量のチョコレートを食べればいい、と榛名は考えているのだった。
   榛名がシャワーを浴びて寝室に行くと、霧咲はまだ起きていた。
   ベッドに入ってはいるが、身体を起こして何やら難しい顔で携帯と睨めっこをしている。

「……?   誠人さん、まだ寝てなかったんですか、夜勤明けでしょう?」
「ああ、帰ってがっつり昼寝したからそこまで眠くないんだ。せっかくきみが来てくれてるのに、先に寝るなんて勿体ないことしないよ」
「なにが勿体ないのか全然わかんないですけど、待っててくれてありがとうございます」
「うん」

   ちなみにもう何度も来ているので、榛名のパジャマや下着、着替えもいくつか霧咲宅に置いてある。
   部屋の電気を消して霧咲のいるベッドに潜り込んだあと、榛名はぼそっと言った。

「……誠人さん、あのね」
「なんだい?」
「今回は亜衣乃ちゃんと共同なんですけど……俺、好きな人に本命チョコをあげたのって生まれて初めてです」
「……」
「男は普通無いと思いますけど。なんとなく、初めてだなーって」

   そう言って、榛名はくふふと笑った。

「……暁哉、抱きたくなるようなことを言うんじゃないよ。抱いていい?」
「だめ。俺、今日は結構疲れてるので……」
「ちょっとだけ」
「だめです」
「先っぽだけ」
「何のギャグですか。おやすみなさーい」
「あ、暁哉……」

   霧咲が情けない声を出すのを笑って聞き流しながら、榛名は目を閉じた。
   榛名が本当に寝てしまったので、霧咲は諦めて寝ることにした。
   疲れている恋人に無理強いはしたくないし、自分だって一応夜勤明けで疲れてはいる。
   そして、先程自分の携帯に来た不思議なメールについてしばし考えた。
   差出人は、T病院の臨床工学技士の二宮。
   タイトルはなく、要件は『新宿周辺で男同士で入れるラブホ教えてください』だった。

(何で二宮さんが、男同士で入れるラブホを探してるんだ……?)

 二宮と連絡先を交換したことを榛名にはまだ言っていない。
 自分たちの間で何かあったとき、榛名は自分たちの関係を知っている二宮に頼るだろうな、と予想し前もって聞いておいたのだ。
   それ以外で連絡することなんてないだろうと思っていたのに、先に連絡してきたのが二宮の方だったので驚いた。
 その内容にも。

(前もって行く予定なら自分で調べるだろうし、ストレートの二宮さんがいきなり男とそんな関係になるわけない……と思うし)

   なんとなく切羽詰まっているような雰囲気を感じて何も聞かずに教えたのだが、今度ゆっくり詳細を聞いてみよう、と霧咲は思った。
感想 7

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

溺愛じゃおさまらない

すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。 どろどろに愛されているけれど―――。 〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳 〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳