運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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149 親族顔合わせ


 そこはレストランというよりも、まるで料亭のような佇まいだった。

 榛名一行は赴きのある和室の個室に通されて、上座から榛名の父、母、義兄、姉が座り、その向かいに奥から霧咲、榛名、亜衣乃の順に座った。
 部屋の雰囲気を見て、亜衣乃が榛名にヒソヒソと話しかける。

「ねえねえアキちゃん、亜衣乃お着物でも着てきたほうが良かったような雰囲気だね……? 着れないし持ってないけど」
「亜衣乃ちゃんはお気に入りのワンピースで可愛いじゃん、俺なんて本当に本気の普段着なんだよ……」

 霧咲も普段着だが、美形なので何を着ても様になっているというか――一応紺色のジャケットを羽織っているし、普段から綺麗めの服装なのでこういった格式が高そうな場所でも差程違和感を感じない。
 姉と義兄も普段より小洒落た格好をしているし、両親に至ってはまるで参観日のときのようなよそ行きのいでたちだ。
 その中で自分だけ、チノパンにシャツとマウンテンパーカーというかなりカジュアルな格好の榛名は、恥ずかしくて下を向いてしまうのだった。

「ちょっと、あー君てば何恥ずかしがっちょっと? 家族なんやから格好なんてどうでもいいやろ、個室やっちゃし!」
「そうやけど……」

 桜は居心地が悪そうな顔をしている弟に向かって軽くため息をついたあと、その隣にいる霧咲に質問した。

「えっと、霧咲さんはお酒飲める人でしたっけ?」
「はい、嗜む程度ですが」
「いやいやめっちゃ飲むよ、このひと」
「コラ暁哉」
「あはは、じゃあいっぱい飲んでくださいね! あたしと高志は運転手やから飲みませんけど」
「桜、帰りはお母さんが運転しよか?」
「いーといーと、てかあたし、あー君たちの運転手やし」
「あ、そっか」
「俺がペーパーなばっかりに……ごめん、お姉ちゃん」

   霧咲の方は運転できるのだが、土地勘がないので色々と不安だった。
   申し訳なさそうな顔で謝る榛名に、桜がもう、と言った。

「あー君は今日の主役やっちゃから飲まんといけんやろぉ! 運転なんてせんでいいと!」
「べ、別にいけんことないと思うけど……」
「いいからいいから。さ、ビールついだげるからコップ寄越しない! 亜衣乃ちゃんは何がいい? ウーロン茶?」
「あ、はい」
「お姉ちゃん、亜衣乃ちゃんはオレンジジュースにしてあげて」

   榛名が横からさっと言った。
 さすがの亜衣乃でも、榛名の身内に対しては積極的に要望は言えないらしい。

「アキちゃん、いいの?」
「そりゃあね。俺たちはお酒飲むんだし……あ、ぶどうジュースもあるよ」
「じゃあオレンジジュースのあと、ぶどうジュースにしようかな」
「オッケー。いいですよね? 誠人さん」
「ああ、君がいいって言うのに俺がダメとは言えないだろう」

    一応食事のときはお茶を飲む、という家庭内ルールがあるのだが、今日は大人組も酒を飲むので特別ルール発動だ。
    そんな榛名たちのやりとりをじっと見ていた桜が、ポツリと言った。

「なんか……あんたたち、本当に仲良しやっちゃねぇ」
「え!?」
「うん、男同士って最初はどんなんかと思ってたけど、凄くお似合いやわ……亜衣乃ちゃんもセットでね」

    榛名と亜衣乃は黙って赤くなり、霧咲は「いやあそんな……」と照れ笑いをした。
    両親と義兄も、桜同様にウンウンと納得したように頷いている。
    そして父が軽く挨拶と乾杯の音頭を取って、両家の顔合わせという名の食事会が始まった。

「改めまして、霧咲誠人と申します。専門は腎臓外科です。初めて暁哉くんと会ったのは去年の夏の終わり頃で……そのときはお互い医師と看護師ということは知りませんでした」
「あとからうちの透析室に誠人さんが偶然助っ人に来てくれて、そこで再会したとよね」
「うん」
「え~!? 何それ、ドラマみたいやっちゃけど!」
「亜衣乃も初めて聞いた! まこおじさんたち、そうだったんだぁ~」

   桜と亜衣乃に似たような反応をされて、榛名はまた恥ずかしくて俯いてしまった。
   やはりなれ初めを身内に話すには、まだまだ酒が足りないらしい。

「んで、どっちから告白したとや?」
「えっ……どっちから、でしたっけ」
「君だよ」
「ええ!?そうでしたか!?」
「絶対に君だよ」
「ちょっと待ってください、思い出すから……んんん……」

 榛名は思い出そうとしたが、どうにもアルコールが邪魔をして思い出せない。
 さっきは足りないと思ったのに、意外と足りているのかもしれない。

「亜衣乃ちゃんって、あー君にてげ(とても)懐いちょるよね。最初から仲良かったと?」

 桜が今度は矛先を変えて、亜衣乃に質問した。

「ううん……あ、いいえ。最初はまこおじさんの恋人が男の人って知ってびっくりしたけど、今は違和感もなくなっちゃった。それに、変にケバいお姉ちゃんがママにならなくてよかったなあって思います」
「え、ママ?」
「アキちゃんは亜衣乃の新しいママなの。ね、アキちゃん」
「う、うん。そうだけど、ちょっと待って亜衣乃ちゃん……!」

 榛名一家は、亜衣乃の発言に少し混乱していた。
 亜衣乃は今ココに、霧咲が面倒を見ている姪という立場で来ているのだ。

「すみません、亜衣乃は妹の子で正真正銘私の姪なんですが、養子縁組をして今は私の娘ということになってるんです。後でキチンと説明するつもりだったんですが……」

 霧咲が慌てて説明した。
 榛名は霧咲が亜衣乃のことをどこまで話すのかを事前に聞いていなかったので、少しハラハラした。
   否、亜衣乃が自分のことをママと言ったときから十分ハラハラしているのだが……しかし、亜衣乃は再びその口を開いた。

「亜衣乃の本当のママと亜衣乃は、一緒にいたらどっちも不幸になっちゃうから離れるしかなかったの。でも、今わたしは新しいママもできてとっても幸せなんです。まこおじさんは小さいころからお世話してくれてたから、もう本当のパパって感じだし」
「え、と、亜衣乃ちゃんの本当のママは……?」

 桜が訊きにくそうに尋ねた。
 伯父の霧咲が面倒を見ているということなので、実の母親は既に他界していると思っていたのだ。
   桜はその辺りの事情まで先に弟に聞いておくべきだったと反省し、榛名も先に姉に話しておけばよかったと反省した。
 本人に実の母親のことを聞くべきではないのかもしれないが、亜衣乃の発言を今更無視することもできないのだった。
 
「ちゃんと生きてます。だけど会えないの。もう会わない方がいいの」
「亜衣乃ちゃん、あとで俺達が説明するから無理には……!」
「亜衣乃、自分のことは自分で説明できるよ、小さい子じゃないんだから。――亜衣乃はママが産みたくて産んだ子じゃないから、捨てられても仕方なかったの。でも全然恨んだりはしてません。亜衣乃はアキちゃんと会えて幸せだし、ママも今はきっと幸せだろうから!」
「っ、亜衣乃ちゃん……」

 亜衣乃は大人を全員置いてけぼりにしたような、あっけらかんとした態度でまとめたのだが、榛名はたまらず隣に座る亜衣乃をぎゅっと抱き締めた。
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