運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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 ――その途端。

「ぅっ……」

 酷い嘔気に襲われ、思わず口を押さえそうになったがグッとこらえて代わりに目を泳がせた。

(やばい、呑みすぎた……)

 けど、ここで気分が悪いなんてことを言ったり、そんな仕草を見せたら場がシラケる……と思い、榛名は必死に吐くのを我慢した。
 どうやら誰にも気付かれていないらしい。
 少しホッとしながら、作り笑顔で言った。

「ちょ、トイレから戻ったら先生のとこ行くんで、席開けといてください」

 榛名はフラつきながらトイレへ向かった。
 トイレ内は広く個室が二つあり、榛名はその一つに飛び込むと鍵を閉める前に便器に嘔吐した。

「おえっ……! はぁ……げほっげほっ」

 吐くまで酒を飲むなんて学生の時以来だろうか。
 それとも、酒が弱くなったのだろうか。

(情けない……)

 霧咲が女性陣に囲まれているのを見て、つい嫉妬してしまった。
 単にちやほやされているだけで、本気で霧咲を狙っているスタッフは透析室にはいない。
 それなのに、男の自分が自ら同じような真似をするわけにはいかないのがなんだか悔しくて、半分自棄で酒を煽ったのだ。
 氷を入れるのが面倒くさかったのは本当だ。
 他人に迷惑をかけるレベルまでは酔いたくなかったが、嫉妬心を感じなくなるまでは酔ってしまいたかった。
 でも、吐いて酒を抜いてしまったのでまた仕切り直しだ。
 酒がもったいないので、もうあまり呑まないようにするつもりだが……。

 突然、榛名の背中をさすってくれる手があった。
 榛名はそれを霧咲だと思った。

「あ、すいません霧咲せ……」

 言葉はそこで、止まってしまった。

「――霧咲先生じゃなくてごめんね? 榛名君」

 榛名の背中を優しくさすってくれていたのは、堂島だった。
 言い間違いに気付いて、思わず顔が青ざめる。

「ど、堂島君? なんで……」
「ほら、もう吐かねぇの? 大丈夫かよ榛名君、真っ青だよ」

 青くなったのは堂島のせいなのだが、そんなことを言えるはずもなく。

「う、うん……ありがとう」

 全部吐ききったのか、嘔気はもう無くなっていた。
 堂島はそれを確認すると、榛名の代わりにトイレのレバーを引いて吐物を流してくれた。
 そして榛名の腕と腰に手をやると、そのまま引っ張り上げて便座に座らせてくれた。
 なんだか介抱しなれた手つきだ。

「さすがに、無茶な呑み方しすぎっしょ。榛名君てヤケになると酒ガンガン呑むタイプだったんだな」
「べ、別にヤケになってたわけじゃないよ……。二宮さんと飲むのが楽しかっただけだし」
「へえ? その割にはチラチラ霧咲先生の方見てたね。先生が有坂ちゃんたちに囲まれてんのが面白くなかったんじゃねぇの?」
「それは、どっちかっていうと君でしょう……」

 俯いたままで榛名は答える。
 榛名の声は落ち着いていたが、内心はどうしようと焦っていた。
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