運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
76 / 322

   タクシーから降りると、霧咲が乗車賃を払ってくれた。
 榛名は自分も払うと申し出たのだが、電車が走っている時間帯にタクシーで送ると言ったのは自分だからと断られた。
 医者の霧咲からすれば、タクシー代など痛くもなんともないのだろうけど……エレベーターの中で、榛名は霧咲にお礼を言った。

「すみません、いつもありがとうございます」
「いいから奢られてなさい。こうやってコツコツと君は俺の恋人だよってアピールしたいんだ」

(……アピール?)

「それ、誰に対してですか?」
「勿論、君だよ」
「……?」

   榛名には霧咲の言っていることの意味がよく分からなかった。
 君は俺の恋人だよ、と恋人自身からアピールされるなんて。
 少し恥ずかしいが、ただただ嬉しいことのように思えた。
   部屋の前につき、鍵を出してドアを開ける。

「どうぞ、上がってくださ……っ!?」

   霧咲を振り返って、部屋にあがるよう促そうとしたが、その言葉は途中で遮られた。
 榛名は後ろから霧咲に強く抱きすくめられて、そのまま狭い玄関に押し倒されていた。

「えっ? あ、あの……! ここ玄関っ……」

 靴を履いたまま、仰向けに寝かされている。
 固くて冷たいフローリングの上で、榛名はなんとなく自分が逆さまになったような錯覚がした。
 顔の横に手を付かれて、霧咲の顔が近い。
 その表情は、榛名が知る中でかなり苛ついたものだった。

「君には俺がどれだけアピールしても足りないみたいだ。今日一日だけで一体何度嫉妬させれば気が済むんだ?」
「え? ……嫉妬、って」

 一体霧咲が誰に嫉妬したというのだろう。
 むしろ激しく嫉妬していたのは榛名の方だ。
 そのせいで強い酒を煽り、結果、典型的な酒の失敗――飲み過ぎて吐くという失態――まで犯してしまったのに。

「誰に嫉妬したかだって? 二宮さん、奥本先生、ついでに堂島」
「そんな、あの人たちは嫉妬の対象になんかなんないですよ! 男だし、むしろ貴方の方が女性陣にベタベタされてて俺の方が嫉妬しました」

 正直に言って霧咲から顔を反らした。
 きっと赤くなってるに違いないから。
 しかし霧咲の声は、まだ冷たかった。

「可愛いことを言ってくれるけど、どうして女性に嫉妬する必要がある? 俺も君も、恋愛対象は男なのに!」
「あ……」

(そっ……か。確かに、そうだ……) 

 霧咲は今にも舌打ちをしそうな勢いだ。
 こんなにも霧咲が感情を顕にした顔を見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。

(なんか、霧咲さんが恐い……)

「二宮さんはいい男だよね。誘われて嬉しかった?」
「えっ?」
「堂島にもムカついたけど、彼にはそこまで嫉妬はしない。消毒はさせてもらうけどね」

(しょ、消毒って!?)

 霧咲は、榛名の首筋に噛みつこうとした。
 本当に噛むわけはないのだが、榛名にはそう思えたのだ。
 しかし榛名はとっさに霧咲の頭を抑えつけてそれを阻止した。
 榛名に『消毒』を拒否されて、霧咲はますます苛ついた顔をしてみせた。

「何の真似だ? まさか、堂島にキスされたところを守りたいとでも?」
「ち、違います! でも、ちゃんと洗ってから……!」
「君は汚くないと一体何度言わせるんだ」

 霧咲は無理矢理そこへキスしようとしてきた。
 しかし、榛名も怯まない。
 腕で霧咲を押し返し、身体をよじって拒否した。

「ちょっとダメですってば! やめてください!」
「榛名、いい加減にしろ」
「……っ」

(やっぱり今日の霧咲さん、恐い……!)

 霧咲がふと手を止めたのは、榛名が今にも泣きそうな――悲しみに満ち溢れた表情をしているのに気付いたからだった。
 霧咲は榛名の泣き顔を見るのは好きだが、その理由は大抵自分が喜ばせたりいじめたりしたときに見られるものだった。
 こんな悲しげな顔で泣かせるなんて、それこそ冗談じゃない。

「どうしてだ……?」

 霧咲が溢れ出る嫉妬心をグッと抑えて優しく聞くと、榛名はそっと口を開いた。

「間接、キス……」
「え?」
「今ここにキスしたら、霧咲さん、堂島君と間接キスしたことになるから……ぜったいやだ」
「……」

 それは、榛名の分かりにくい独占欲だった。
 時間が経ったとはいえ、まだ首には堂島の唾液が残っているかもしれない。
 自分の身体とはいえ、堂島が口を付けたところにそのまま霧咲がキスをするのはどうしても嫌だったのだ。
 別にキスをしたところで何かが起こるわけでもないのだが、それでも榛名は嫌だった。
 霧咲が急に黙りこんでしまったので、引かれたと思った。
 自分の強すぎる独占欲に。――しかし。

「暁哉……」

 先程とは打って変わったような甘い声で下の名前を呼ばれ、腕を引っ張って起こされた。
 そのまま抱きよせられ、優しく甘い口付けをされた。

「ンッ……」
「きみ、そういうのは昔誰かに教えて貰ったのか?」
「そういうの、って?」
「無自覚なのか……」
「……? チュッ、ジュプ、レロッ……」

 霧咲の言っていることの意味がまた分からないけれど、霧咲の機嫌はすっかり治ったようだった。
 自分が堂島に嫉妬したことが彼を安心させたのだろうか。
 榛名は少し複雑な気分に浸りながらも、霧咲のキスに応えて舌を濃厚に絡ませた。
 身体が熱い。今すぐ霧咲とセックスがしたい。
感想 7

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕