運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
95 / 322

46 榛名の欲しいもの

 榛名は、日が変わってから霧咲に一通のメールを送った。

『夜分遅くにすみません。体調不良で電話に出れませんでした。明日の仕事もお休みしようと思います。症状は嘔吐と下痢で、ノロにかかったのかもしれません。感染の危険性があるので、お見舞い等は絶対に来ないでくださいね』

 もちろん、内容は嘘だ。
 明日は霧咲の回診があるので仕事も休もうと思っている。
 何も知らないふりをして……平気な顔をして霧咲に会うのは、まだ無理だからだ。
 もう夜中の1時だったので、さすがに返信はこないと思っていたのだが。

「!」

 来たのは返信ではなくて、着信だった。
 今しがたメールを送ったばかりなので、出ないと確実に変に思われる。心臓の音がやけに大きく聞こえた。

(大丈夫、深呼吸しろ……)

 枯れるほど泣いた榛名が、考えて考えて出した結論は、霧咲を諦めることではなかった。
 たとえ霧咲が既婚者であっても、この関係を続けていく。
 他人よりも自分の欲を最優先する、と。
 霧咲の家族に『夫を返して』、『お父さんを返して』と泣かれても。
 完全に捨てられるまでは、決して自分からは別れない、と決めたのだ。

 霧咲に捨てられて、その先に何があるのかは分からない。
 絶望しかないのかもしれない。
 不倫が許されないことは分かっている。
 自分が100人中100人に馬鹿にされるであろう、愚かな選択をしていることも。
 結局、自分は弱いのだ。
 大人しく身を引いて霧咲の家族の幸せを願うことなんて、絶対にできない。
 まるで底の見えない泥沼にゆっくりと浸かっていく感覚だった。
 いや、もう身体の半分ほどは浸かっているのかもしれない。そしてこれから頭の天辺まで浸かるのだ。
 自らが留まらない限り、誰も引き揚げてはくれない泥沼に……。

(まるで、ゆっくり自殺するみたいだな……)

 けれど、榛名はもう知ってしまったから。
 誰かを本気で愛するという気持ちを。
 世間が許さないと言ったって、世の中には変えられない、捨てられない想いがあることを。

(俺は、本物の馬鹿だ……)

 しかし、そんなものはただの綺麗ごとで言い訳にすぎない。
 今諦めなければ、この先もっと辛い想いをするであろうことは既に目に見えている。
 それでも許される限り、霧咲と一緒に居たいのだ。
 霧咲がどれだけ最低な男でも、好きな気持ちは自分の方が上なのだから仕方ない。
 そう、仕方ないのだと自分に言い聞かす。

「……もしもし」

 重たい指先で画面をタップして、榛名は電話に出た。

『もしもし、暁哉? メール見たよ。体調が悪いって大丈夫かい?』

 霧咲の声に思わず声が詰まった。
 いつものように優しく榛名を心配してくれるその声に、思わず止まった涙が溢れそうになる。

(――泣いたらダメだ!)

「あ……っその、今日、外来行く機会が多かったから、ウイルス貰ったのかもです……」
『声が本当に辛そうだね。ちゃんと水分は摂ってるの? あまりにも辛かったら我慢しないで救急車を呼ぶんだよ、いいね?』

 榛名の少し震えた声を聞いて、霧咲は本当に体調が悪いのだと勘違いしてくれたらしい。

『俺が今からそっちに行けたらいいんだけど……』
「……」

 今まで霧咲がこういう風に言ってきたとき、榛名はその理由を深く考えなかった。
 お酒を飲んだのかもしれない。ただ、それだけ。
 でも今は違う。家族と一緒にいるからだろう、と思う。
 きっと寝室のベッドには奥さんが寝ていて、霧咲に似た可愛い娘も夢の中なんだろう。
 絵に描いたような幸せな家族。

 そこに、自分という存在がいなければ。
感想 7

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

溺愛じゃおさまらない

すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。 どろどろに愛されているけれど―――。 〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳 〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳