運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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『暁哉? どうしたの。また気持ち悪くなった?』
「大丈夫、です……」
『うん……君の大丈夫はあんまり信用できないけど。そういえば今日、うちの病院に来たんだろう? 会えなくてごめんね。朝井くんに失礼なことを言われなかったかい?』

 朝井とは榛名の対応をした看護師だろうか。
 失礼なことというか嫌味を言われまくったのだが、それを霧咲に告げ口する気はない。
 知りたくなかったことまで教えてもらったが。

「……まあ、少しだけ」
『そう、やっぱりね。怒っておいたよ』
「おこっ……!?」
『当たり前だろ。俺の可愛い恋人に意地悪していいのは、俺だけなんだからね』
「……」

 霧咲のその言葉に、榛名の目からは静かに涙がこぼれた。
 自分を恋人と言ってくれるのが、こんなに嬉しいなんて。
 でも、この嬉しさは前とは違う。霧咲は何も変わってないのに、一体何が違うのだろう。

『それと俺が今年いっぱいで助っ人をやめるとかいう話も彼女の勘違いだからね。具体的な期間の話はまた、年が明けたらそっちの院長先生と奥本先生と相談する予定だから……それに、決まったら君に一番最初に報告するよ』
「本当ですか?」
『うん。……あんまり嬉しそうじゃないね?』
「そ、そんなことないですよ、嬉しいです……」

 慌てて否定する榛名に、霧咲がクスクスと笑う。
 榛名はその甘い声を聴きながら、嗚咽が漏れてしまわないように必死で耐えた。
 声を出さない代わりに涙はぽたぽたと雄弁に流れ落ちて、榛名のパジャマのズボンに染みを作っていく。

『ところで……今週末はクリスマスだけど、君の勤務はどうなってる?』

 ――来た。恐れていた、クリスマスの話題。
 恋人同士にとって欠かせないイベントだが、不倫をしている人達はどうやってこの日を過ごしているのだろうか。
 特に、『待っている側』は。
 そんなこと、今まで考えたこともなかった。
 昨日の午前中までは、まさかこんなことで悩むなんて思ってもいなかったのに。
 この日の夜勤を嫌がるスタッフの若い女性陣にイヴを譲って――『主任、本当にいいんですか!?』と激しく心配されたが――自分はあとで霧咲と二人だけで一日遅れのクリスマスを楽しもうと思っていたのだ。

 榛名にとってクリスマスなど、本当はどうでもいい。
 ただ霧咲と一緒に過ごす口実で、それ以上でも以下でもない。
 けれどそれは、自分が霧咲の恋人だという自信があったからそう思えていたのだ。
 『この日は絶対』だなんて、そんなことを思ったのは今まで一度もなかったのに。
 改めて、自分が心底女々しいと榛名は思った。

「……イヴの日は、夜勤です」
『そっか……じゃあ、会えないね』

(会えなくて、少しホッとしてる?)

『俺もちょうど金曜日から関西へ出張なんだ。だから今週の木曜はその準備で回診も行けないんだけど……じゃあ、そうだな。26日の日曜日に二人でクリスマスをしようか?』
「えっ……出張、ですか?」

 それは意外な返答だった。
 平日で、その上回診にも来ないのなら嘘ではないのだろう。

(じゃあ、家族と過ごすクリスマスは?)

 正直かなり気になるが、それを直接聞く勇気はない。
 それに25日の土曜日に帰ってきて、その日に家族と過ごすのかもしれない。
 きっとそうだろうと思った。

『こんなことを聞いたら身も蓋もないかもだけど、何か欲しいものはあるかい?』
「え?」

(俺が、欲しいもの?)

『プレゼント候補を色々考えたんだけど、なかなか決まらなくてね。でもどうせなら君に喜んでもらいたいし、君はどちらかというとサプライズよりも自分の欲しい物のほうが喜ぶかな、と思ったんだ。何か今欲しいものとかあったら言ってみて。……ちなみに俺が欲しいのは君だから、君以外は何も用意しなくていいよ』

 電話の向こうで、霧咲が気障ったらしくウインクをした気がした。
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