運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
139 / 322

66 榛名の言い訳

「で?」

 榛名は今、ベッドの上で正座をさせられている。
 霧咲はそんな榛名を腕を組んで見下ろして、尋問していた。
 その顔は先ほどから『怒ってないよ』とアピールしているのかなんなのか貼りつけたような笑顔なのだが、それが榛名には怖くてたまらなかった。
 まだスネたり怒ってくれた方が分かりやすくていいものの……。

「だから、俺は貴方が結婚してるって聞いてあまりのショックで水曜は仕事を休んだんです。で、前日に二宮さんが車で家まで送ってくれたので、仕事を休んだ俺を心配してお見舞いに来てくださったんです」
「なんでわざわざ二宮さんが送ってくれたの? 他にも車で来ているスタッフはいるんだろ?」
「男性の方がいいかと気を使ってくれたんじゃないですか? その辺は有坂さんが手配してくれたので、俺には分かりませんよっ」
「……」

 霧咲は眉間に皺を寄せて何かを考え込んでいる。
 何を考えてるのかさっぱり分からないが、さっきまでの甘い空気は既に一変していて、それが榛名には少し残念だった。

(今夜は、すごく優しく抱いてもらえると思ったのにな……)

 霧咲はいつも優しいが(時に激しいけども)、今日は特に優しく甘いセックスをしてもらえると期待していたし、自分も思い切り霧咲に甘えたかった。
 そんな榛名には気付いてないのか、霧咲はまた質問をしてきた。

「じゃあそれはいいとして……躊躇なく家に上げたのはどうしてかな?」

 霧咲のその質問に、榛名は少し眉毛をハの字にした。

(躊躇なくって……まあ、確かに俺から上がりませんかって誘ったけど……)

「そりゃあわざわざ職場の同僚がお見舞いに来て下さったんですから、常識として上げないわけにはいかないでしょう? マンションの前で会ったのは偶然でしたけどね。お互い電話番号も知らないし、俺の部屋番号も教えてないですから……外で会わなかったら上げることはなかったと思います」

 それは少しだけ嘘だった。
 透析スタッフには全員、緊急用の連絡網が配布されてあるので、それを見れば榛名の携帯番号はすぐに分かる。
 きっと二宮はそれを見て榛名に連絡しようとしていたのだろう。
 霧咲がそこまで分かっているのかどうかは知らないが、榛名はそこまで教える気はなかった。
 霧咲は奇妙な笑顔を浮かべたまま、また榛名に質問した。

「……じゃあそれが堂島でも、君は部屋に上げてたの?」
「え!? それはないです」

 一度襲われかかったのに、堂島を部屋に上げるわけがない。

「じゃあ、なんで二宮さんは上げたの?」
「それは……」

 榛名は霧咲から目を逸らして小さく息を漏らした。
 霧咲がかなり怒っているらしいのを空気で悟って。

「二宮さんは、男を好きな人じゃないから大丈夫だと思って……です」

 そう言いながらも、榛名は理解していた。
 二宮が女好きだろうと男好きだろうと、そんなことはきっと全く関係ないのだ。
 霧咲が問題視しているのは、榛名が『男』を部屋に上げたことだけ。
 たったそれだけなのだ。

 すると、霧咲はふうっと息を吐いた。
 その軽い仕草にでさえ、榛名は身体をびくっと反応させた。

「……まあ、今回は俺が勘違いさせた状況があるからね。むしろそれが原因だし、俺は君の迂闊な行動をそこまで責められない。悪いのは君をそんな風にさせた俺だから」
「……」

 まったくもってその通りなのだが……霧咲は本当に、そんな殊勝なことを思っているのだろうか。
 少し疑わしい。

「でも君、そんな弱った状態でもしも二宮さんに口説かれたら、あっさり抱かれてしまいそうだね……」

 案の定だった。

「ちょっ! それは無いですよ、見損なわないでください! 怒りますよ!?」

 なので流石にそこは、榛名も声を荒げて否定した。
 自分はそこまで軽くない。
 榛名があんなに苦しんだのは一体誰のせいだと思っているのだ。
 愛していると言ったばかりなのに……冗談じゃない。

「ごめん、今のは失言だった。俺はどうしても二宮さんには嫉妬してしまうらしい」
「なんでですか? 大体、二宮さんはゲイでもなんでもないですから! 俺の下着を見ても裸を見ても、何も反応しなかったし! ……あっ」

   口が滑るというのは、こういうことを言うのだろう。
 榛名は今、一番言ったらいけないことを一番言ってはいけない人物に言ってしまった。

「下着? 裸?」
「いやその」
「なに、それ……家に上げただけでなんでそんな状況になるの?」

 霧咲の顔から、笑みが消えた。
 ぎしっと音を立ててベッドの上に乗ってきて、思わず榛名は後ろへ逃げてしまう。
 しかし背中が壁に当たり、逃げ場はなくなった。

「暁哉? 正直に答えたら怒らないから……言ってごらん? 何があったのかな?」
「な、何もないですってば……」

 何もなかった。キスやセックスなど、そういう類のことは。
 けど、本当の意味で何もなかったわけではない。
 榛名は二宮の前で裸も晒したし、そういう意図では無かったとはいえ、抱きしめられた。
 怒らないとは言っているが、詳しく聞いたらきっと霧咲は激怒するだろう。
 それを分かっていて、正直には言えない。

「……」
「暁哉、言えないの?」
「だって、何もなかったから!」
「俺が知りたいのは前後の状況だよ。言えないなら、言いたくなるようにしてあげようか」
「え!?」

 今言えばよかったのか、それとも黙っていた方が良かったのか。
 怒りがこもった目で見つめられ、榛名には正解が分からなくなった。
感想 7

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

溺愛じゃおさまらない

すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。 どろどろに愛されているけれど―――。 〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳 〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳