152 / 322
〃
しおりを挟む
榛名が霧咲のマンションに着いた時、まだ蓉子と亜衣乃は来ていなくて少しホッとした。
できればもう少し心の準備をしていたかったのだ。
あまり構えすぎるのもいけないかもしれないが、亜衣乃は別として、初めて霧咲の家族と会うということも緊張している原因の一つだった。
霧咲は、車内でも散々注意していたことを再び榛名に言った。
「暁哉、蓉子の言うことを真剣に受け止めなくていい。あいつは君の傷つくことをズバズバ言ってくるだろうが、精神科の患者に対するような気持ちでいてくれたらいいから。実際病んでるしね」
実の妹に対してひどい言い草だが、それほどに蓉子は口が悪いのだろう。
水商売で色んな客の相手をしている内にそうなったのかもしれない、と榛名は思った。
職業は違うものの、その経過はなんだか看護師の自分も少し分かる気がする。
「大丈夫ですよ、心配しないでください」
言い返すことは難しいかもしれないが、受け流すことなら慣れている。
榛名は霧咲を安心させるべく、穏やかに笑った。
そして。
ピンポーン
インターホンが鳴り、榛名の心臓もドクンと高鳴った。
霧咲が玄関まで行き、廊下から亜衣乃と女性の声が聞こえる。
その声はどんどんリビングに近付いてきて、ドアが開くと同時に、榛名は立ち上がった。
しかし、リビングに最初に入ってきたのは亜衣乃だった。
亜衣乃は榛名の姿を見つけると、勢いよく飛びついてきた。
「アキちゃんおはよう!! あけましておめでとうございまーす」
髪を降ろしてリボンのカチューシャをしている亜衣乃の頭を榛名はよしよしと撫でながら笑顔で返した。
「おはよう亜衣乃ちゃん、明けましておめでとう、今年もよろしくね」
「うんっ、えへへっ」
「――もう子供に取り入ってるなんて、随分とヤラシイ男なのね」
おそろしい程冷たい女性の声がした。榛名は声の方――リビングのドアに顔を向けた。
そこには、派手な化粧と格好をした小柄な女性が腕を組んだ横柄な態度で榛名を見つめていた。
その後ろには、彼女の後頭部を睨みつけている霧咲が立っている。
「……貴方が、兄さんの新しい恋人のハルナ君?」
「初めまして。榛名暁哉と申します」
榛名は、ぺこりと頭を下げた後に、蓉子と目を合わせた。
霧咲とはあまり似ていないが、少し鼻や口元が似ている気がする。
(新しい恋人、ね)
霧咲が恋人を作ったのは10年ぶりだというのに、何回も恋人を変えているような言い方をするなんて霧咲にとっても榛名にとっても嫌味でしかないが、榛名は反応せずに受け流した。
そして心配そうな顔で榛名を見上げる亜衣乃とも目を合わせて、ニコッと笑った。蓉子はそんな榛名を無視して続けた。
「驚いたわ。前は年上だったのに、今度はえらく若い子なのね。それと兄さん、この10年間で随分と趣味が変わったんじゃないの?」
「!」
榛名の顔をまじまじと見たあと、いきなり鼻で笑った蓉子に榛名は少し面食らった。
それも先程同様受け流すが、一つ問題があった。
「あの……亜衣乃ちゃんには席を外して貰っていいですか? 子どもに聞かせられる話をしに来たんじゃないんですよね?」
子どもの亜衣乃がいる前で、大人の醜い争いを始めようとするのだけは頂けない。
「あら、自分が子供みたいな顔してるくせに亜衣乃を子供扱いする気?」
「生憎ですが、俺はもうすぐ30になります。歳は亜衣乃ちゃんよりもあなたの方に近いかと」
もうすぐというニュアンスには遠いかもしれないが、そんな細かいことはどうでもいい。
できればもう少し心の準備をしていたかったのだ。
あまり構えすぎるのもいけないかもしれないが、亜衣乃は別として、初めて霧咲の家族と会うということも緊張している原因の一つだった。
霧咲は、車内でも散々注意していたことを再び榛名に言った。
「暁哉、蓉子の言うことを真剣に受け止めなくていい。あいつは君の傷つくことをズバズバ言ってくるだろうが、精神科の患者に対するような気持ちでいてくれたらいいから。実際病んでるしね」
実の妹に対してひどい言い草だが、それほどに蓉子は口が悪いのだろう。
水商売で色んな客の相手をしている内にそうなったのかもしれない、と榛名は思った。
職業は違うものの、その経過はなんだか看護師の自分も少し分かる気がする。
「大丈夫ですよ、心配しないでください」
言い返すことは難しいかもしれないが、受け流すことなら慣れている。
榛名は霧咲を安心させるべく、穏やかに笑った。
そして。
ピンポーン
インターホンが鳴り、榛名の心臓もドクンと高鳴った。
霧咲が玄関まで行き、廊下から亜衣乃と女性の声が聞こえる。
その声はどんどんリビングに近付いてきて、ドアが開くと同時に、榛名は立ち上がった。
しかし、リビングに最初に入ってきたのは亜衣乃だった。
亜衣乃は榛名の姿を見つけると、勢いよく飛びついてきた。
「アキちゃんおはよう!! あけましておめでとうございまーす」
髪を降ろしてリボンのカチューシャをしている亜衣乃の頭を榛名はよしよしと撫でながら笑顔で返した。
「おはよう亜衣乃ちゃん、明けましておめでとう、今年もよろしくね」
「うんっ、えへへっ」
「――もう子供に取り入ってるなんて、随分とヤラシイ男なのね」
おそろしい程冷たい女性の声がした。榛名は声の方――リビングのドアに顔を向けた。
そこには、派手な化粧と格好をした小柄な女性が腕を組んだ横柄な態度で榛名を見つめていた。
その後ろには、彼女の後頭部を睨みつけている霧咲が立っている。
「……貴方が、兄さんの新しい恋人のハルナ君?」
「初めまして。榛名暁哉と申します」
榛名は、ぺこりと頭を下げた後に、蓉子と目を合わせた。
霧咲とはあまり似ていないが、少し鼻や口元が似ている気がする。
(新しい恋人、ね)
霧咲が恋人を作ったのは10年ぶりだというのに、何回も恋人を変えているような言い方をするなんて霧咲にとっても榛名にとっても嫌味でしかないが、榛名は反応せずに受け流した。
そして心配そうな顔で榛名を見上げる亜衣乃とも目を合わせて、ニコッと笑った。蓉子はそんな榛名を無視して続けた。
「驚いたわ。前は年上だったのに、今度はえらく若い子なのね。それと兄さん、この10年間で随分と趣味が変わったんじゃないの?」
「!」
榛名の顔をまじまじと見たあと、いきなり鼻で笑った蓉子に榛名は少し面食らった。
それも先程同様受け流すが、一つ問題があった。
「あの……亜衣乃ちゃんには席を外して貰っていいですか? 子どもに聞かせられる話をしに来たんじゃないんですよね?」
子どもの亜衣乃がいる前で、大人の醜い争いを始めようとするのだけは頂けない。
「あら、自分が子供みたいな顔してるくせに亜衣乃を子供扱いする気?」
「生憎ですが、俺はもうすぐ30になります。歳は亜衣乃ちゃんよりもあなたの方に近いかと」
もうすぐというニュアンスには遠いかもしれないが、そんな細かいことはどうでもいい。
43
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる