運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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  榛名が霧咲のマンションに着いた時、まだ蓉子と亜衣乃は来ていなくて少しホッとした。
 できればもう少し心の準備をしていたかったのだ。
 あまり構えすぎるのもいけないかもしれないが、亜衣乃は別として、初めて霧咲の家族と会うということも緊張している原因の一つだった。
   霧咲は、車内でも散々注意していたことを再び榛名に言った。

「暁哉、蓉子の言うことを真剣に受け止めなくていい。あいつは君の傷つくことをズバズバ言ってくるだろうが、精神科の患者に対するような気持ちでいてくれたらいいから。実際病んでるしね」

   実の妹に対してひどい言い草だが、それほどに蓉子は口が悪いのだろう。
 水商売で色んな客の相手をしている内にそうなったのかもしれない、と榛名は思った。
   職業は違うものの、その経過はなんだか看護師の自分も少し分かる気がする。

「大丈夫ですよ、心配しないでください」

   言い返すことは難しいかもしれないが、受け流すことなら慣れている。
 榛名は霧咲を安心させるべく、穏やかに笑った。
   そして。


 ピンポーン


 インターホンが鳴り、榛名の心臓もドクンと高鳴った。
 霧咲が玄関まで行き、廊下から亜衣乃と女性の声が聞こえる。
 その声はどんどんリビングに近付いてきて、ドアが開くと同時に、榛名は立ち上がった。
   しかし、リビングに最初に入ってきたのは亜衣乃だった。
 亜衣乃は榛名の姿を見つけると、勢いよく飛びついてきた。

「アキちゃんおはよう!! あけましておめでとうございまーす」

  髪を降ろしてリボンのカチューシャをしている亜衣乃の頭を榛名はよしよしと撫でながら笑顔で返した。

「おはよう亜衣乃ちゃん、明けましておめでとう、今年もよろしくね」
「うんっ、えへへっ」

「――もう子供に取り入ってるなんて、随分とヤラシイ男なのね」

   おそろしい程冷たい女性の声がした。榛名は声の方――リビングのドアに顔を向けた。
 そこには、派手な化粧と格好をした小柄な女性が腕を組んだ横柄な態度で榛名を見つめていた。
 その後ろには、彼女の後頭部を睨みつけている霧咲が立っている。

「……貴方が、兄さんの新しい恋人のハルナ君?」
「初めまして。榛名暁哉と申します」

   榛名は、ぺこりと頭を下げた後に、蓉子と目を合わせた。
 霧咲とはあまり似ていないが、少し鼻や口元が似ている気がする。

(新しい恋人、ね)

   霧咲が恋人を作ったのは10年ぶりだというのに、何回も恋人を変えているような言い方をするなんて霧咲にとっても榛名にとっても嫌味でしかないが、榛名は反応せずに受け流した。
   そして心配そうな顔で榛名を見上げる亜衣乃とも目を合わせて、ニコッと笑った。蓉子はそんな榛名を無視して続けた。

「驚いたわ。前は年上だったのに、今度はえらく若い子なのね。それと兄さん、この10年間で随分と趣味が変わったんじゃないの?」
「!」

   榛名の顔をまじまじと見たあと、いきなり鼻で笑った蓉子に榛名は少し面食らった。
 それも先程同様受け流すが、一つ問題があった。

「あの……亜衣乃ちゃんには席を外して貰っていいですか? 子どもに聞かせられる話をしに来たんじゃないんですよね?」

   子どもの亜衣乃がいる前で、大人の醜い争いを始めようとするのだけは頂けない。

「あら、自分が子供みたいな顔してるくせに亜衣乃を子供扱いする気?」
「生憎ですが、俺はもうすぐ30になります。歳は亜衣乃ちゃんよりもあなたの方に近いかと」

 もうすぐというニュアンスには遠いかもしれないが、そんな細かいことはどうでもいい。
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