運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
154 / 322

76 霧咲蓉子の話

 蓉子は続けて榛名に質問した。

「あんたって元々オカマなの? 兄さんの他にも男の恋人がいたわけ?」
「いいえ、俺は男性と付き合ったのは誠人さんが初めてです。それまでは女性と付き合ってました。でも、本気で彼女たちを愛したことはありませんから、きっと貴方がいうところのもともとおかまだったんでしょうね」

   蓉子の言う『おかま』という単語には引っかかるものがあったが、敢えて指摘も否定もしなかった。
 いちいちそんなことをするのは無駄だと分かっているからだ。
   女性になりたいと思ったことは一度もないが、一緒くたにしたければそうすればいい。
 理解をしてもらうことの方が難しい問題なのだ。

「ふーん。好きでもないのに女と付き合ってたんだ。可愛い顔して結構最低なのね、もしかしてヤリチン?」
「ヤっ!? ……別に、その時付き合ってた人以外とそういうことはしたことありません。好きじゃないのに付き合ってたってのは、否定できませんけど……」

   いつも振られるのは自分の方とはいえ、相手には少しの間は好かれていたように思う。
 それでも自分は彼女たちにお金を掛けることはできたが、愛情は返せなかった。
 だから同じ女性に最低だと言われるのも当然だ、と榛名は思う。
 そしてそのことは素直に受け入れる。

「そういうトコロは、少しあの男と似てるわね、あんた」
「え?」
「あたしの元旦那よ。あの男、あたしのことなんてちっとも好きじゃなかった癖に、兄さんとの子供が欲しいがために妹のあたしを利用したのよ。兄さんから聞いてるでしょ?」

   自分はそこまで最低なことはしない。
 けど、榛名は口を挟まなかった。

「兄妹だからって、あたしと作った子供が兄さんとの子供なわけないのにバカみたいよね。でも、あんたも同じことを思ってるんでしょ? だから男のくせに亜衣乃の母親になるだなんてふざけたことが言えんのよね? ……ねえ、亜衣乃は兄さんの子なんかじゃなくて、出来の悪い妹のあたしとあの最低な男の子供なんだってコト、ちゃんと分かってんの?」

   亜衣乃は霧咲の姪だ。榛名はそれ以上にも以下にも思ったことはない。
   お互いのことを本当に親だ娘だと認め合えるのは、時間がかかることだとも頭では分かっている。

「オカマってのはみーんな頭がおめでたいワケ? 兄さんと亜衣乃はただの伯父と姪よ! それに兄さんは表面上は亜衣乃を可愛がっていても、本当は憎んでいるに決まってるわ、あの男の実の娘なんだもの! 恨まないはずがないわよねぇ!」

   蓉子の口は止まらない。
 もはや榛名には、口を挟みたくても挟む余地は無かった。

「それとも兄さんはまだあの男のことを愛してるのかしら? だから亜衣乃を引き取ろうとしているのかもしれないわね。自分が亜衣乃を引き取ればもう養育費をあたしにせびられなくて済むし? 母親代わりになるとか言ってる都合のいい恋人もできたことだし? ふふっ、そうよ、それが一番しっくりくるじゃない! あーっはははは!! おっかしい!!」

   榛名には、蓉子が何をそんなに面白がっているのかが分からない。
 両手を叩きながら爆笑しているその姿には狂気のようなものすら感じる。
   霧咲が言っていた『精神科の患者だと思え』と言ってたのはこういうことなのだろうか。

「いい加減にしろ、蓉子!」

   いきなりリビングのドアが盛大な音を立てて開いたと思ったら、そこには霧咲が鬼のような形相で蓉子を睨みつけて立っていた。

「誠人さん」
「それ以上暁哉を傷つけるようなことを言うなら、即ここから追い出すぞ!」

   霧咲は榛名の元に来て『一人にしてごめんよ』と一言言い、自分もどっかりとソファに座った。
 そして手を榛名の肩に回してしっかりと抱き寄せた。
   蓉子の前なので榛名は一瞬戸惑ったが、ほっとしたのは事実だった。

(あ……)

   耳のすぐそばで、霧咲の心臓の音が聞こえる。
 少しずつ、落ち着いてきた。
 そして少しの間があったあと、蓉子が霧咲に言い返した。

「なによ兄さん。図星を突かれたからって怒鳴らないでくれる?」
「図星なわけがあるか! 俺は中原のことはもう何とも思っていないし、亜衣乃のことは普通に姪として可愛いがっている。そして暁哉のことは真剣に愛している! お前の言ってることは全部的外れで、それこそ全部都合のいい妄言だ! 笑わせるなよ」
「フンッ」

   霧咲がきっぱりとそう言うと、蓉子は不貞腐れた。
 どうやら昔から兄には頭が上がらなかったのだろうという背景が少し伺える。
 さっき自分のことを『出来の悪い妹』と言ったことも、榛名は少し気になった。
   榛名はそっと霧咲から離れて、落ち着かせようとした。
 いつまでも霧咲に守られている姿を蓉子に見せていると、ますますおかま扱いをされるかもしれないということも考えて。

「誠人さん、俺なら大丈夫ですから」
「でも君のことを都合のいい存在だなんて侮辱されて、黙ってるわけにはいかないよ」
「そんなの事実とは違うって、俺が分かっていればいいことでしょう?」

    榛名がそう言うのなら……と霧咲は黙った。
 それにしても、蓉子が榛名に何も言わなくなったのは榛名が『おかま』であるという認識はもうどうでもよくなったのかもしれない。
感想 7

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

溺愛じゃおさまらない

すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。 どろどろに愛されているけれど―――。 〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳 〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳