213 / 322
112 榛名と亜衣乃、親切にされる
亜衣乃は表情を歪め、泣きそうな声で「……亜衣乃は、余計なことをしたの?」と言った。
「亜衣乃ちゃん」
「亜衣乃は、大好きなアキちゃんがあんなふうに言われて我慢できなかったの。アキちゃんは他人だけど、他人じゃないもの! 亜衣乃のママになってくれるって言ってくれたから……だから亜衣乃は、まこおじさんが居ないからこそアキちゃんを守ろうと思ったのに!」
亜衣乃は下唇を噛み、必死で涙が出ないように耐えていたようだが結局涙は零れ落ちた。
榛名はバッグの中からハンカチを取り出し、亜衣乃の目を軽く抑えてやりながら言った。
「余計だなんて……亜衣乃ちゃんの気持ちはすごく嬉しいよ。嬉しいけど……俺は、俺のせいで亜衣乃ちゃんが怪我をしたり、悪く思われるのは嫌だよ」
「亜衣乃だって同じだもん! 亜衣乃がいるせいでアキちゃんがいちいちあんな風に誰かに疑われるのは嫌なんだもん! 我慢なんか、できない!」
「……っ」
そこまでキッパリと言われたら、もうどう伝えたらいいのか榛名には分からない。
分からないが、きっと榛名の気持ちは亜衣乃にも伝わっただろうと信じたい。
榛名はとりあえず、慰めるようにギュッと亜衣乃を抱きしめた。
「亜衣乃ちゃんの気持ちは本当に嬉しいんだよ。だけど、自分を危険に晒すような真似はもう二度としないって約束してほしい。じゃないと俺の心臓、幾つあっても足りないよ」
「……」
「じゃあせめて、俺か誠人さんがいる時だけにして……お願い」
返事がないので、もう一度言った。
すると、亜衣乃は観念したような声でぼそりを返事をした。
「……分かった」
「うん」
身体を離すと、亜衣乃はぐすっと一度洟をすすって顔を上げた。
「じゃあアキちゃんも、早くまこおじさんと結婚して。そしたら亜衣乃だって堂々とアキちゃんは亜衣乃のママなんだって言えるから」
「うん、分かった」
堂々とそう言われるのも少し困るのだが(それに籍を入れたら、榛名は亜衣乃の母じゃなくて兄になる)それでも榛名は亜衣乃の言葉が嬉しかったので、コクンと頷いたのだった。
そして亜衣乃が泣きやむまで待ち、再びバス停まで行こうとしたら。
「あ、あの……私達、良かったらホテルまでご一緒しましょうか?」
先ほどの女性二人が榛名にそう言ってきた。
榛名はロクにお礼も言ってないことを思い出して、慌てて二人にも頭を下げた。
「先ほどは助けて頂いて有難うございました! すみません、お礼言うのが遅くなってしまって!」
「いえいえ、それは全然いいですよ! それより私達、さっきの救急車の騒ぎの時から実はずっと見てて……何もお役に立てなくてすみませんでした」
「あなたまだ小さいのに、AEDとか持ってこれるなんてすごいわね」
一人が亜衣乃に感心したように話しかけた。
亜衣乃は目と顔を赤くしたまま、「前にも一度まこおじさんと居た時に、こういう場面に遭遇したことがあるの」と少し照れくさそうに言った。
「あの、それで……どうでしょうか。また警察に声を掛けられたらその子も嫌でしょうし……」
「グループでいたら怪しまれることも無いですよ」
「で、でも見ず知らずの方にそんなご迷惑をかけるわけには……」
正直言ってもの凄く有難いのだが、だからと言って見ず知らずの人に簡単に甘えるわけにはいかない。
「行くのは宮ノ下ですよね? 私たちの取ってるホテルも宮ノ下ですし、全然気にしないでください」
「そうですよ! いいもの見せてもらったお礼っていうか」
「いいもの?」
「あっいえ! 何でもないですこっちの話!!」
榛名はよく分からなかったが、とりあえず愛想笑いした。
「アキちゃん、このお姉ちゃん達に一緒にホテルまで行ってもらおうよ……亜衣乃、また警察にアキちゃんが捕まるの、やだ」
「つ、捕まってはいないんだけどね」
彼女らの言うとおり、また職務質問をされたら一番嫌なのは亜衣乃だろうと思った。
なので榛名は申し訳ないと思いながらも、「……じゃあ、よろしくお願いします」と、もう一度頭を下げたのだった。
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
溺愛じゃおさまらない
すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。
どろどろに愛されているけれど―――。
〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳
〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳