7 / 76
6 再会
しおりを挟む
ドアを開けた途端、ふわりと漂う白檀の香り。
「あ……」
そこに居たのは、今朝礼二郎をナンパから助けてくれたべっ甲の眼鏡をした男だった。
今朝はオシャレな服装だったが、今は部屋着なのかTシャツでラフな格好をしている。
そして正面からマジマジと顔を見ると、彼は自分に劣らなくもない、かなりのイケメンな部類なのが分かった。
「どうしたの? そんなに泣いて……」
彼はスッと手を上げると、親指で優しく礼二郎の涙を拭ってくれた。
その優しい手つきに一瞬心臓が跳ねたが、今はそれどころではない。
「ご、ゴキが出て……っ! 殺虫剤の中身もなくて……ていうか、こわくてっ! お、おねがい、助け──」
「ゴキ? ああ……何か叩くものある?」
「え……?」
彼は礼二郎の様子を察してか、突っ掛けを脱ぐとズカズカと部屋に入り込んで来た。
こんな状況じゃなかったら礼二郎も『何勝手に人んちに上がり込んでんだよ!』と突っ込むところだが、むしろ今は勝手に上がってくれてありがたいしかない。それに男なので、部屋に霊が入る心配もない。
「どこらへんにいたの?」
「べ、ベランダの近く……」
「あ、いた。部屋綺麗だし、外から来たのかな」
「多分そうだと思う……」
「要らない雑誌とかスリッパとかあったら貸して。怖いなら避難しててもいいよ」
「あ、ありがとう。あの、名前……」
「柴だよ。柴京介」
「しば、くん……」
礼二郎は柴のお言葉に甘えて、玄関に避難した。すぐにバシッバシッと雑誌で思い切り叩く音が何度かして、どうやらGはアッサリと天に召されたようだ。ただ、礼二郎には死骸処理も無理だった。
「槐君、トイレットペーパー貸してくれる?」
「は、はいっ!」
礼二郎はなるべくGの死骸を見ないようにして、ストック分のトイレットペーパーを一つ丸ごと手早く柴に手渡した。
Gは既に死んでいるのに、まだ怖がっている礼二郎に思わず柴の口角は上がった。
柴はトイレットペーパーで死んだGをサッと包み、トイレに流した。その後、アルコールティッシュで床を綺麗に拭きあげ、大捕物は無事終了したのだった。
「あー、死ぬかと思った……。柴君、今朝から二度も助けてくれてどうもありがとう。まさかお隣さんだったとは、だから俺の名前知ってたの?」
「うん。――それに槐君、違う学部だけど入学当初から目立ってたし」
「え、そうなのか?」
「うん」
礼二郎は、今度はまじまじと柴を観察した。少し長めの黒髪とメガネで隠されているが、やはり顔が整っている。それに今朝は気付かなかったが、黒い宝石のようなピアスと数珠のブレスレットをしていた。
家にいるのにオシャレかよ! と心の中で軽くツッコんだ。
「? どうしたの」
礼二郎のジロジロと値踏みするような視線に気付いたのか、柴が尋ねた。
「あ、ごめん。柴君イケメンだなって思って……」
「え、槐君の方がイケメンだよ?」
「!? あ、ありがとう……」
自分でも心からそう思っているが、最近は友人達に『ハイハイ、イケメンイケメン』と軽く流されまくっているせいで、久々にマジトーンで褒められて礼二郎は照れた。
「……でも」
「む?」
(で、でも何だ? イケメン調子乗んなよって!? でも事実だし、柴君だって俺の事イケメンって言ったじゃん!!!)
「可愛いな、とも思うよ」
「へ?」
「泣いてるとこばっか見てるからかな」
柴はクスクス笑いながらそう言い、礼二郎はそんな柴をぽかんと見つめた。
たしかにさっき助けを求めて目の前でボロボロ泣いてしまったが、それ以外に最近泣いた事なんて……
「……もしかして、今朝電車で泣いたところも、見られてた?」
「うん」
「うわ、恥ずかし……」
恥ずかしさはあるものの、礼二郎は昔からわりと躊躇わずに泣く。男のくせに、などと思ったことはあまりない。
何故なら幽霊もGも当たり前に怖いので、怖いものを素直に怖がることを別に恥とは思って無いからだ。
「今朝、どうして泣いてたの?」
「え?」
「何か、ヘンなものを見たとか?」
「へ、変なものって……」
正直に言えるわけがない。走行中の電車の車窓に、血まみれの女性の霊が視えたんだ──なんて。しかもほぼ初対面の相手に。
「あ……」
そこに居たのは、今朝礼二郎をナンパから助けてくれたべっ甲の眼鏡をした男だった。
今朝はオシャレな服装だったが、今は部屋着なのかTシャツでラフな格好をしている。
そして正面からマジマジと顔を見ると、彼は自分に劣らなくもない、かなりのイケメンな部類なのが分かった。
「どうしたの? そんなに泣いて……」
彼はスッと手を上げると、親指で優しく礼二郎の涙を拭ってくれた。
その優しい手つきに一瞬心臓が跳ねたが、今はそれどころではない。
「ご、ゴキが出て……っ! 殺虫剤の中身もなくて……ていうか、こわくてっ! お、おねがい、助け──」
「ゴキ? ああ……何か叩くものある?」
「え……?」
彼は礼二郎の様子を察してか、突っ掛けを脱ぐとズカズカと部屋に入り込んで来た。
こんな状況じゃなかったら礼二郎も『何勝手に人んちに上がり込んでんだよ!』と突っ込むところだが、むしろ今は勝手に上がってくれてありがたいしかない。それに男なので、部屋に霊が入る心配もない。
「どこらへんにいたの?」
「べ、ベランダの近く……」
「あ、いた。部屋綺麗だし、外から来たのかな」
「多分そうだと思う……」
「要らない雑誌とかスリッパとかあったら貸して。怖いなら避難しててもいいよ」
「あ、ありがとう。あの、名前……」
「柴だよ。柴京介」
「しば、くん……」
礼二郎は柴のお言葉に甘えて、玄関に避難した。すぐにバシッバシッと雑誌で思い切り叩く音が何度かして、どうやらGはアッサリと天に召されたようだ。ただ、礼二郎には死骸処理も無理だった。
「槐君、トイレットペーパー貸してくれる?」
「は、はいっ!」
礼二郎はなるべくGの死骸を見ないようにして、ストック分のトイレットペーパーを一つ丸ごと手早く柴に手渡した。
Gは既に死んでいるのに、まだ怖がっている礼二郎に思わず柴の口角は上がった。
柴はトイレットペーパーで死んだGをサッと包み、トイレに流した。その後、アルコールティッシュで床を綺麗に拭きあげ、大捕物は無事終了したのだった。
「あー、死ぬかと思った……。柴君、今朝から二度も助けてくれてどうもありがとう。まさかお隣さんだったとは、だから俺の名前知ってたの?」
「うん。――それに槐君、違う学部だけど入学当初から目立ってたし」
「え、そうなのか?」
「うん」
礼二郎は、今度はまじまじと柴を観察した。少し長めの黒髪とメガネで隠されているが、やはり顔が整っている。それに今朝は気付かなかったが、黒い宝石のようなピアスと数珠のブレスレットをしていた。
家にいるのにオシャレかよ! と心の中で軽くツッコんだ。
「? どうしたの」
礼二郎のジロジロと値踏みするような視線に気付いたのか、柴が尋ねた。
「あ、ごめん。柴君イケメンだなって思って……」
「え、槐君の方がイケメンだよ?」
「!? あ、ありがとう……」
自分でも心からそう思っているが、最近は友人達に『ハイハイ、イケメンイケメン』と軽く流されまくっているせいで、久々にマジトーンで褒められて礼二郎は照れた。
「……でも」
「む?」
(で、でも何だ? イケメン調子乗んなよって!? でも事実だし、柴君だって俺の事イケメンって言ったじゃん!!!)
「可愛いな、とも思うよ」
「へ?」
「泣いてるとこばっか見てるからかな」
柴はクスクス笑いながらそう言い、礼二郎はそんな柴をぽかんと見つめた。
たしかにさっき助けを求めて目の前でボロボロ泣いてしまったが、それ以外に最近泣いた事なんて……
「……もしかして、今朝電車で泣いたところも、見られてた?」
「うん」
「うわ、恥ずかし……」
恥ずかしさはあるものの、礼二郎は昔からわりと躊躇わずに泣く。男のくせに、などと思ったことはあまりない。
何故なら幽霊もGも当たり前に怖いので、怖いものを素直に怖がることを別に恥とは思って無いからだ。
「今朝、どうして泣いてたの?」
「え?」
「何か、ヘンなものを見たとか?」
「へ、変なものって……」
正直に言えるわけがない。走行中の電車の車窓に、血まみれの女性の霊が視えたんだ──なんて。しかもほぼ初対面の相手に。
10
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる