マイダーリン、この世の全ての怖いものから俺を守ってくれ!!!

すずなりたま

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29 特別な存在

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 絶望している礼二郎をよそに、礼二郎の持ってきた買い物袋を手にした柴が遠慮がちに聞いた。

「あの、礼二郎君。これ冷蔵庫に入れた方がいいものとか入ってないのかな?」
「あっごめん!   うん、肉類は既に買ってたから大丈夫!」
「晩御飯どうしようか。買いにいく? それとも外食する?」
「柴君が良かったら、その……」

 礼二郎は家にレトルトのカレーがあるからそれでもいいか、と聞いた。

「え、全然いいよ! でもどうしよう、ご飯がない」
「うち、冷凍ご飯もあるから」
「すごい」

 柴は主婦のような礼二郎に素直に感心した。ちなみに柴は炊飯器すら持っていない状況だ。
 しかもテーブルすらもないので(食事はデスクで取っている)結局また礼二郎の部屋に行くことになった。

「ごめんね、わざわざ呼んだのに飲み物すら出さなくて……っていうか出せないんだけど。カップも一人分しかないんだ」
「いいよ、除霊してくれただけで十分だから。……柴君も、友達とか彼女、部屋に呼ばないんだな?」

 礼二郎は今朝自分も聞かれたことを聞いてみた。

「うん。理由は大体礼二郎君と一緒だよ」
「そ、そっか。……でも俺はいいんだ?」
「礼二郎君だからね」

 礼二郎はなんだか嬉しくなった。柴は自分のとって特別な存在だが(命の恩人ということもあり)自分も柴の特別だ、と言って貰えているようで……。

(いや待てよ、それって何でだ? 俺は柴君に多大な迷惑しか掛けてないのに……)

 いくら容姿が好みだからと言って、生活空間にまで踏み込むのはなんだか違う気がする。礼二郎はもしも自分好みの女優が『礼二郎君の部屋に行きたいな♡』などと言ってきても入れたいとは思えない。

「あのさ、なんで俺だからいいの……?」

 さっきは普通に受け入れてしまったが、それ自体がおかしいのだと気付いた礼二郎は顔を赤くして聞いた。
 礼二郎の問いに、柴はふむ、と少し考え込むような仕草をして答えた。

「分からない?」
「う、うん……」
「じゃあ、考えておいて」
「えっ」

 柴はニコッと笑うと、それ以上は答えませんという意思表示をしてみせた。
 礼二郎も観念して、夕食の準備を始めた。と言ってもレトルトカレーを温めて、冷凍ご飯を解凍するだけなのだが。

「何か手伝うことある?」
「ない、……あ、じゃあ飲み物準備してもらおうかな。冷蔵庫は勝手に開けていいよ」
「了解」

 礼二郎は作業をしながら、ふと聞きそびれたことを柴に訊いた。

「そういえば柴君、なんで俺のこと名前で呼ぶようにしたんだ? 全然構わないんだけど、長くて呼びにくくないか?」
「え」

 柴はそれ聞いちゃうんだ、というような少し困った顔をした。その顔を見た礼二郎も、聞いたらいけないことだったか、と察して少し口元を歪ませた。

 柴はぽりぽりと頭をかいて、答えにくそうに言った。

「いや……そんなに深い意味はないんだけど、オトモダチが名前で呼んでたからさ、俺も呼びたいなって思っただけだよ……」
「そっか。じゃあ呼び捨てでいいよ! 君付けだと呼びにくいと思うし」
「礼二郎?」
「はい!」

 礼二郎はいい声で返事をし、柴はクスクスと笑った。

「いや、呼んだだけ。……じゃあ俺のことも名前で呼んでよ」
「京介君?」
「呼び捨てでいいよ」
「それはなんか恐れ多い……」

 柴は礼二郎にとって、恩人なのだから。

「なんで? 全然いいよ。――礼二郎なら」
「!?」

 急に耳元で聞こえた声にドキッとした。いつの間にか柴がキッチンに立つ礼二郎の隣に来ていて、礼二郎の右手をそっと握っていたのだ。

(い、いつのまに隣に……っ!? し、しかも手……!!)

 無言だが目を見開いて驚く礼二郎のリアクションを柴はさらりと受け流して、再び名前呼びを促した。

「ね、呼んでみて」
「きょ、う、すけ……?」

 さっきは自分から思い切り抱きついていたくせに、柴の方から近づかれると心臓が落ち着かない。
 顔を覗き込まれて、柴の黒い瞳に自分の姿が映る。

「……もう一回」
「京、介……」

 柴の顔が近付いて来て、礼二郎は自然に目を閉じていた。
 2秒後、唇にふにっと柔らかな感触した。
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