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30 キス
しおりを挟む(俺、なんで柴君とキスしてるんだろ……)
今朝みたいな、霊力を吹き込まれるという色気もクソもない人口呼吸ではない。
──つまり柴が礼二郎にキスしたい、と思ってしているのだ。そして何故か礼二郎はそれを大人しく受け入れている。
「っふ……ぁ……」
礼二郎が抵抗しないのが分かると、柴はぎゅっと手を強く握って角度を変え、何度も口づけてきた。チュッ、チュッと可愛らしいリップ音が狭いキッチンに響く。
(意味わかんな……けど、キモチイイ……これって相手が柴く、じゃなかった。京介だから、なのかな……)
「……礼二郎」
「えっ?」
礼二郎はハッとして目を開けた。柴と至近距離で目が合う。
「鍋」
「なべ?」
「沸騰しまくってるよ」
「へっ……ああああっ!! やばいっ!!」
レトルトカレーを温めている最中だった。
*
「ご馳走様でした。レトルトカレーって久しぶりに食べたけど、美味しいね」
「きょ、京介はレトルト食べないのか?」
「んー、うち鍋無いしなぁ……」
「レンジは? 最近はレンチンで温められるレトルトあるよ」
「そうなの? レンジはあるよ。じゃあ今度探してみようかな」
「一緒にスーパー行こうよ! 俺が教えてあげる」
「ありがとう」
礼二郎は自分が柴に対してしてあげられることを見つけてウキウキだ。(既に食事という対価を支払っているのだが、何故か気付かない礼二郎であった)
夕食を食べて終えても二人はさっきのキスについては一切触れなかった。
礼二郎は照れくさくて口に出せないし、柴は既に好意を示しているので、あとは礼二郎の出方次第だと思っているからだ。
礼二郎がシャワーを浴びている間に、柴が食器を洗ってくれていた。
食後のコーヒーを淹れて、柴と礼二郎はベッドを背もたれにして並んで座った。ラグがもちもちしているので、クッションは持っていない。
礼二郎は食事前からもずっとドキドキしていたが、不思議と悪くない緊張感だった。
思い返せば今朝から誰かと二人きりという状況は、家族以外ではほとんどない経験だ。礼二郎はそれを素直に柴に話した。
「……俺、誰かとこうやって部屋で落ち着くのって初めてだ。兄ちゃ……兄貴とかは別だけど」
思わず兄のことを『兄ちゃん』と言いかけて――ほぼ言ったようなものだが――礼二郎はカーッと赤面してしまった。
さすがに大学生にもなって『兄ちゃん』呼びはあまりにも子どもっぽいかと思い、『兄貴』と呼ぶように心がけているというのに。(勿論ブラコンの兄にはひどく嘆かれた)
「え、そうなの? ……高校の時とかも?」
「うん。友達は何度か遊びに来てたけど、二人きりってことはなくて……来るのは何故かいつも複数人だったなぁ、約束してなくても急に三人目が来たりさ」
「そうなんだ。彼女は?」
「いることは、いたけどー……」
礼二郎は柴になら霊関係のことは言っても大丈夫だということを思い出し、思い切って言った。
「……ちょっといい雰囲気になると、何故かいつも霊が現れてさ……俺がビビって泣くから彼女はみんなドン引きして帰るっていうパターンだよ」
「おお……」
「だから京介も噂で知ってるかもしれないけど、まだ童貞だし」
「風の噂で聞いたよ、ごめん」
柴ははっきりと噂の内容──礼二郎がEDだという──は言わなかったが、普通に伝わった。
「ち、違うからな!? 一人でスるときはちゃんとできるから!!」
説明するのも恥ずかしいが、柴に勃起不全だと思われていることは訂正しておきたかった。なんとなく、プライドの問題で。
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