12 / 21
閑話 リアナの想い、そのはじまり
しおりを挟むリアナ・エルミア・ファーヴェル。
ファーヴェル家の公女として育った彼女は、政略結婚の駒として、幼い頃から自分の未来を“決められて”育った。
実際、15歳の頃にはすでに王家との婚姻が内定し、年が明ければ王宮入り――そんな流れの中、たった一度だけ“予定にない出会い”が訪れた。
当時の彼女は、王宮の「下見」のために、一夜だけイシュタル城を訪れた。
王と顔を合わせることはなかった。
代わりに、弟宮――シリウス・イシュタル殿下が、彼女の案内役として差し向けられた。
まだリアナが16、シリウスが17の頃。
その日、冬だった。
凍てつく風が回廊を吹き抜け、リアナは薄手のドレスの下に、肩をすくめていた。
「……冷えますね、殿下」
「寒いなら、部屋に戻ればいい。俺は、案内係には向いていない」
そんな風に、ぶっきらぼうな青年だった。
けれど、顔を背けながらも、彼は自分の上着を差し出してくれた。
「着ろ。風邪を引かれては、兄が困る」
「……ありがとう、ございます」
そのコートには、まだほんの微かに、体温が残っていた。
彼女は胸元をそっと抱えながら、彼の横顔を盗み見る。
(この人は……王にならないのに、王のような眼をしている)
どこか、寂しげな横顔だった。
けれど、真っ直ぐで、強さを秘めていた。
リアナはそっと口を開いた。
「シリウス様は……王宮の暮らし、お好きではないのですか?」
「さあ。……だが、よそから来た姫に気を使わせるようなところだから、気に入っているとは言えないな」
「……ふふ。正直な方」
そんなふうに、ふたりは回廊の陰で、短く会話を交わしただけだった。
けれど――帰る間際、リアナが振り返った時。
シリウスが、彼女を“ひとりの女性”として見たことが、はっきりとわかった。
言葉も、行動も、何もなかった。
ただ、その瞳に宿った“躊躇い”と“敬意”が、彼女の胸に焼きついた。
(私は……この人の目に、“女”として映った)
それは王宮に嫁ぐ娘にとって、初めて得た「自分だけの記憶」だった。
やがてリアナは王妃となり、シリウスは静かに王弟としてその場を離れていった。
ふたりがその後、直接言葉を交わすことは、数えるほどしかない。
それでも――
王の寝台で香に包まれながら、リアナが思い出したのは、夫ではなくその“視線”だった。
ほんのひとときでも、確かに女として見られたこと。
それが、愛ではなくても。
あの目だけは、今も胸の奥に残っている。
誰にも言えない、けれど消えることのない“想いの原点”。
0
あなたにおすすめの小説
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる