静かなる誓い(完結)

もちもち

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最終話

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東境の騒乱は予想以上に早く、そして激しく広がった。旧王派の残党は、かつての将軍家の血を継ぐ男を旗頭に擁立し、「真の王」を名乗らせて兵を集めていた。

 ヴァイズ王国は一丸となり、これに対処すべく軍を動かした。その先鋒に立ったのは、まだ若き准将にして、王家の血を継ぐ者──シキ・アルフリートだった。



 出陣前夜。王宮の厩舎裏、静かな中庭に、ミリカがシキを呼び出していた。

「明日、兄上は前線に立たれるのですね」

 彼女の声は震えていた。心の奥から湧き上がる不安と、伝え切れぬ想いを抱えたまま。

「……今の私は、兄上の背中を見ているだけ。それがとても、苦しいです」

 シキはゆっくりと頷いた。そして、答える。

「お前は見ているだけではない。俺にとって、お前の眼差しは、道を照らす灯火だ」

 その言葉に、ミリカは目を見開き、そして静かに涙を零した。

「なら……待っていても、いいですか? 兄上がすべてを終えて、帰ってくるのを……」

「もちろんだ。俺は必ず、戻る。……生きて、未来を選ぶために」

 彼女の肩を抱き寄せ、しばし沈黙の時が流れた。



 そして、戦は始まった。

 シキは見事な指揮で敵軍を翻弄し、わずか十日足らずで敵将の首を討ち取った。その才は戦場で知れ渡り、敵兵でさえ彼の名を畏れた。

 だが、その勝利の影には、決して見えぬ苦悩があった。

「……人の命で成り立つ勝利に、誇りなどない。ただ、守るべきものを見失わぬように」

 戦の終結と共に、彼は王都へ帰還した。



 凱旋の夜、王宮の広間は祝賀でにぎわっていた。だが、シキは群れに加わらず、ひとりバルコニーから夜空を見上げていた。

「おめでとうございます、王子殿下」

 振り返れば、そこにリリィベルが立っていた。彼女は軍服姿のまま、ひとつの勲章を彼に差し出す。

「これは、あなたが最後に討った敵将の副官が残していったものです。『あの男には、王の器がある』……そう言っていたわ」

「……皮肉な褒め言葉だな」

 シキは苦笑する。そして、問いを返す。

「お前なら……王という道を選ぶか?」

 リリィベルは少し黙り、そして答えた。

「私は、選ばれた者の隣に立つ女でありたい。それが、王であろうと……ただの男であろうと、関係ない」

 その視線はまっすぐだった。シキは言葉に詰まり、やがて静かに頷く。



 後日、王宮にて王は公に告げた。

 「第二王子シキ・アルフリートは、王位継承権を保持したまま、東方方面軍の総司令として任じられる」

 王子ではあるが、王にはならぬ道。だがそれは、シキが自ら選んだ「国を支える者」としての覚悟だった。



 そして、再び春が訪れた。

 シキは軍務の傍ら、アルフリート領に近い軍学校で後進の指導を始めていた。そこには、かつての彼のような若者たちが目を輝かせていた。

 放課後、視線の先に見覚えのある姿が現れる。ミリカだった。

「会いに来てしまいました。……もう、兄上とは呼びません」

 そう言って、彼女はまっすぐ彼に歩み寄る。

「私は……あなたを、ひとりの人として、愛していると、やっと言葉にできます」

 シキは、そっと彼女の手を取った。

「……ありがとう。お前がそう言ってくれるなら、俺も……迷わない」

 微笑み合う二人の間に、風が吹いた。

 過去も、運命も、すべて背負って。それでも彼は歩き続ける。

 誰かのために剣を取り、己のために生きる道を選んだ――それが、静かなる誓いだった。
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