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攻略対象・幼馴染編(ファンディスク特別編)

【真珠】再会 前編

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「穂高に……そっちは、真珠か!? こんな所で何をやっているんだ、お前たちは」

 スラリとしたシルエット。
 品よく着こなしたグレーのスーツ。
 革靴の音が、わたしと兄に近づいてくる。

 顔が見えて――あっと驚く。

 兄もまさかの再会に驚いたようだけれど、その相手が分かった瞬間折り目正しくお辞儀をする。

「ご無沙汰しています。お元気そうで何よりです」

 わたしはマジマジとその男性の顔を確認する。


 噂をすれば影――だ。

 今朝、彼の社長就任時に親類に配られた常備薬に、貴志がお世話になったばかり。


優吾ゆうごくん?」


 父の異母弟おとうとである『齋賀さいが製薬』現社長である叔父の名を、わたしは口にのせた。



 父の兄弟だけあって、顔面偏差値も身長もすこぶる高い。

 噂好きの親戚の話によれば、かなりの野心家らしく、手段を選ばず相手を蹴落とす非情ぶりから、悪い噂がてんこ盛りの本家の次男坊。だが、抜け目のなさと、物の本質を見抜く慧眼により、おそらくこの優吾が齋賀グループの次代を担うと目されているようだ。


 真珠の記憶の中では相当なオジサンだと思っていたけれど、こうしてみるとかなり若い。三十代には一歩届かずというところか。

 ちなみに独身。
 噂によると愛人を複数人囲っている模様。


 倫理的に狂っている家で育っただけあって、貞操観念も緩いのかもしれない。


 その中にあって、誠一パパの何と清廉潔白に育ったことか。
 父に拍手を送りたい気分になる。

 いや?
 そういえば以前、父の会社を訪れトイレに潜伏した折、耳にした秘書のお姉さま方が語っていた内容を鑑みると――あまり考えたくはないが――父も女性関係で相当な修羅場を潜り抜けてきたつわものなのかもしれない。


「お前……本当に、あの真珠か? 何があった? その変わりようは……」


 優吾が舐めるようにわたしの姿を確認する。

 対するわたしは、引きつった笑顔を叔父に向けた。

 何を隠そう、コイツはわたしの天敵なのだ。


 何故そう思っていたのか分からないのだが、『真珠』は優吾に危険な空気を感じていた。
 何が危険なのか、正直なところ『真珠』には理解できていなかった。が、おそらく彼の醸し出す雰囲気というか――得体の知れない何かに怯えていたのだ。そして、その理由は、未だ以てわからない。


 貴志が漂わせる、そこはかとない色気を伴った危険な雰囲気とは違い――優吾のそれを説明するならば――『取り扱い注意』どころではなく、『触るな危険』『触れたら即死』というレベルの超劇薬及び超劇物級の有害物、と言った方が的を射ているだろう。




「真珠が綺麗になっていて、驚きましたか?」

 兄の言葉に、優吾は「ああ、その通りだ」とニヤリと笑う。

 叔父は「へぇ~」とわたしのことを視界に入れながら「兄さんは何処だ? 休みを取ったのか? 来ているんだろう?」と、兄に父の所在を確認している。


 優吾は女関係にはだらしなく、悪い噂製造マシーンのような男だが、唯一の弱点は我が父らしい。

 誠一お兄ちゃん大好きっ子の、超がつくほどのブラコンだ。

 そんな人でなし的な叔父ではあるが、誠一パパの子供である、兄とわたしに対しては、意外と大切に扱ってくれている様子がうかがえる――注意書きを入れるとすれば、現在のところは、なのだが。


 残念なことに『真珠』は、優吾に優しくされても懐くことはなかった。彼の持つ、底知れぬ闇が怖くて、とにかく苦手だったのだ。


「今日は父とではなく、母方の親類が遊びに連れて来てくれたんですよ」


 兄が視線を後方に移すと、貴志の背中とエルの横顔、それから咲也の姿が少しだけ見えた。理香の姿は三人に埋もれてしまい視界に入ってこない。

 目立つことをこよなく嫌う理香は、表面上はにこやかに対応をしているのだろうが、おそらく早くこの状況から抜け出したいと切実に願っていることであろう。

 貴志は理香と咲也にエルを紹介し、エルには彼等を紹介している最中のようだ。


「お前達の連れは、聖下とも旧知の仲なのか……ふぅん、あの聖下とねぇ。月ヶ瀬の関係者なら繋ぎをとっても、こちらに損はないな。挨拶でもしておくか。穂高、紹介しろ」


 優吾は胸の内ポケットからビジネスカードを取り出している。


「貴志さん、お話中に申し訳ありません。少しお時間を頂いても大丈夫でしょうか?」


 兄の言葉に貴志が振り向くと、優吾は小さな声で「これはこれは、なかなかの色男」と呟く。わたしにしか聞こえないであろう、囁くような声量だ。


 兄の紹介によって、貴志と優吾が挨拶を交わしている。
 優吾が手にした名刺を貴志に渡そうとしたところ、理香の姿がやっとのことで見えた。


 その瞬間、叔父の動きが不自然に止まった――気がした。


 一瞬のことだったけれど、明らかな動揺が見てとれたのだ。
 いつもは飄々としている掴み所のない叔父の珍しい様子に、わたしは釘付けになる。


 まさか優吾は、理香の可愛さに一目惚れをした、とかじゃあないだろうな!?


 駄目だ!
 理香よ!
 優吾の笑顔に騙されてはいけない。
 絶対に、絶対に、お勧めできない男だぞ!

 ――と、祈るように理香の心に念を送る。


 理香は一瞬だけ目を見開いたが、その後は笑顔を取り戻し、いつも通りの彼女に戻った。

 咲也の様子も何処かおかしい。
 優吾が理香にロックオンしようとしたのを、天性の勘で察知したのかもしれない。

 咲也は理香を庇うような位置に移動し、優吾に対して牽制のような、警戒のような、敵対するような素振りを見せている――気がする。


 いや、もしかしたら気のせいだったのかもしれない。
 太陽光線が見せた錯覚なのかなと思った瞬間、わたしは他のことに意識を奪われることになる。


 ラシードが晴夏に対して「お前もなのか!」と急に叫んだからだ。



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