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3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-2.クッキーを食べても良いのだろうか?
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3-2.クッキーを食べても良いのだろうか?
「ヴィル? どうしたのかしら?」
「いや、なんでもありませんわ」
実は、アンナと応接間でお茶をしているのだけれども、お茶菓子が、あの『クッキー』なのだ。
あぁ、これは、このクッキーを口にするのは、クライネスに悪い気がする。
いや、そもそも、こんな気分にさせているのは、私の後ろに直立している二人のせいなのだけれども。
そう、バターをすべて機雷にしてしまったイリーゼとエルメンヒルデの護衛の二人が、私の後ろで直立不動で立っている。
しばらくして、ノックがされ、伯父のアルブレヒトが入室してきた。
「やあ、ヴィル。待たせたね」
私は立ちあがり、ニッコリとして礼をした。
「まあ、座って」
わざわざ、ラム酒と砂糖をアインズ商会として販売するということは、報告する必要はないのだけれど、こういった細かい報告をしていると、何かと良いこともあるはずだと思い、伯父には連絡をしている。
おそらく、伯父は、私が私掠船の船長をしているとは思っていないかもしれない。
いつも、『アインス商会として販売』しているのだから、きっと、アインス商会の船を買ってオーナーをしていると思っているに違いない。
無論、間違いではないのだけれどもね。
お茶を楽しんでいると、伯父の表情が暗くなった。続いて、アンナもだ。
これは、どうしたのだろうか?
「実は、ヴィル。ここ最近、『バルト海に幽霊が出る』と商人が騒いでいるんだよ」
「えぇ? 私たちは、そのバルト海を渡ってきましたけれど」と、私が答えると、イリーゼとエルメンヒルデも顔を見合わせている。
「今は、霧の季節だろう。その霧の中、三隻から五隻の幽霊船がバルト海を航行しているというのだ。そして、『近づくと、骸骨が躍っている』と言っているんだよ」
「お父様、嫌ですわ」
ここで、付け加えておくと、日本人と違い、欧米では骸骨とはかなり不吉な物なのだ。
下級のアンデッドではないのだ。
死神ということである。
その骸骨が船の上で踊っていると。
「商船が、気味悪がって、『陸路で輸送する』と言っているんだ。
そうなると、輸送コストが上がり、誰もうちの領地とは取引をしたがらなくなってくるということなんだよ。
今のうちに手を打っておきたいのだけれど」
「ねぇ、ヴィル。何かご存じないかしら?」
――ご存じねぇ?
後ろの二人の方を振り向いてみたが、首をかしげている。
「出港まで時間がありますので、調べてみようと思いますわ」
「ヴィル。ありがとう」と、突如、アンナが笑顔になった。彼女も心配だったのだろう。領地に幽霊が出るというだけで、他の貴族から何といわれるかもしれない。
また、商人が寄り付かないと領地も廃れる。
とはいえ、私ごときに、何が出来るのだろうか?
幽霊退治のやり方など聞いたこともないのだけどね。
さて、こちらは、その後のフェロル港大西洋方面基地だ。
提督に呼び出されているのは、ダニエル大佐だ。
「ダニエル君ッ」
“ダニエル大佐”でなく、“ダニエル君”と提督は呼んだ。
「先日の一件、君はどう責任を取るのだね。“君が付いていながら”、危うくサン・フェリペ城の炎上こそは免れたが、戦闘艦が随分とドック入りしたそうじゃないか」
「申し訳ございません」
「聞けば、たった一隻の船だったそうじゃないか」
「はい、ですので、リスボンからガレオン船を入れていただきたいのです」
「ダニエル! キミは正気か? 最新鋭のガレオン船を配備して欲しいだと」
「はい、イギリスの私掠船は、間違いなくガレオン船です。あれは、以前、我がスペインで私掠船……」
「嘘をつくな。ガレオン船は、我がスペインと一部のフランス人しか、設計図を持っていない。何かの間違いだ」
そして、「ダニエル君、もう帰りたまえ」と、呼ばれたのに、追い返されてしまった。
「何が『君が付いていながら』だ。お前もいただろう。そもそも、クッキーを食べながら説教などするな」と、ダニエル大佐が呟いたのは、提督の部屋を出てからのことだった。
「それより、クレマンティーヌは、上手くやっているのだろうか」
「ヴィル? どうしたのかしら?」
「いや、なんでもありませんわ」
実は、アンナと応接間でお茶をしているのだけれども、お茶菓子が、あの『クッキー』なのだ。
あぁ、これは、このクッキーを口にするのは、クライネスに悪い気がする。
いや、そもそも、こんな気分にさせているのは、私の後ろに直立している二人のせいなのだけれども。
そう、バターをすべて機雷にしてしまったイリーゼとエルメンヒルデの護衛の二人が、私の後ろで直立不動で立っている。
しばらくして、ノックがされ、伯父のアルブレヒトが入室してきた。
「やあ、ヴィル。待たせたね」
私は立ちあがり、ニッコリとして礼をした。
「まあ、座って」
わざわざ、ラム酒と砂糖をアインズ商会として販売するということは、報告する必要はないのだけれど、こういった細かい報告をしていると、何かと良いこともあるはずだと思い、伯父には連絡をしている。
おそらく、伯父は、私が私掠船の船長をしているとは思っていないかもしれない。
いつも、『アインス商会として販売』しているのだから、きっと、アインス商会の船を買ってオーナーをしていると思っているに違いない。
無論、間違いではないのだけれどもね。
お茶を楽しんでいると、伯父の表情が暗くなった。続いて、アンナもだ。
これは、どうしたのだろうか?
「実は、ヴィル。ここ最近、『バルト海に幽霊が出る』と商人が騒いでいるんだよ」
「えぇ? 私たちは、そのバルト海を渡ってきましたけれど」と、私が答えると、イリーゼとエルメンヒルデも顔を見合わせている。
「今は、霧の季節だろう。その霧の中、三隻から五隻の幽霊船がバルト海を航行しているというのだ。そして、『近づくと、骸骨が躍っている』と言っているんだよ」
「お父様、嫌ですわ」
ここで、付け加えておくと、日本人と違い、欧米では骸骨とはかなり不吉な物なのだ。
下級のアンデッドではないのだ。
死神ということである。
その骸骨が船の上で踊っていると。
「商船が、気味悪がって、『陸路で輸送する』と言っているんだ。
そうなると、輸送コストが上がり、誰もうちの領地とは取引をしたがらなくなってくるということなんだよ。
今のうちに手を打っておきたいのだけれど」
「ねぇ、ヴィル。何かご存じないかしら?」
――ご存じねぇ?
後ろの二人の方を振り向いてみたが、首をかしげている。
「出港まで時間がありますので、調べてみようと思いますわ」
「ヴィル。ありがとう」と、突如、アンナが笑顔になった。彼女も心配だったのだろう。領地に幽霊が出るというだけで、他の貴族から何といわれるかもしれない。
また、商人が寄り付かないと領地も廃れる。
とはいえ、私ごときに、何が出来るのだろうか?
幽霊退治のやり方など聞いたこともないのだけどね。
さて、こちらは、その後のフェロル港大西洋方面基地だ。
提督に呼び出されているのは、ダニエル大佐だ。
「ダニエル君ッ」
“ダニエル大佐”でなく、“ダニエル君”と提督は呼んだ。
「先日の一件、君はどう責任を取るのだね。“君が付いていながら”、危うくサン・フェリペ城の炎上こそは免れたが、戦闘艦が随分とドック入りしたそうじゃないか」
「申し訳ございません」
「聞けば、たった一隻の船だったそうじゃないか」
「はい、ですので、リスボンからガレオン船を入れていただきたいのです」
「ダニエル! キミは正気か? 最新鋭のガレオン船を配備して欲しいだと」
「はい、イギリスの私掠船は、間違いなくガレオン船です。あれは、以前、我がスペインで私掠船……」
「嘘をつくな。ガレオン船は、我がスペインと一部のフランス人しか、設計図を持っていない。何かの間違いだ」
そして、「ダニエル君、もう帰りたまえ」と、呼ばれたのに、追い返されてしまった。
「何が『君が付いていながら』だ。お前もいただろう。そもそも、クッキーを食べながら説教などするな」と、ダニエル大佐が呟いたのは、提督の部屋を出てからのことだった。
「それより、クレマンティーヌは、上手くやっているのだろうか」
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