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3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-4.ドイツ騎士団の殺戮
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3-4.ドイツ騎士団の殺戮
その若い漁師が言うには、「実は、三日前に骸骨の行列に出くわしたんだよ」と。
「漁をしていたら、ポツゥーンと灯りが見えて、そしたら、海の上に骸骨の行列が歩いていたんだ。
すると、その奥から帆がボロボロの幽霊船の姿が現れたと思ったら、甲板の上にも骸骨が歩いているんだ。もうびっくりして、一目散に港に帰ってきたよ。今考えても恐ろしい」
この話を聞いた私は、これが本当なら、幽霊としか言いようがない。それが本当なら。
そう、本当なら。
だから、取り締まりも討伐も出来やしない。
今度は別の男が話し出した。
「俺も見たんだ。霧の中に骸骨が歩いているのを。どこに行くのか分からなかったけど、遠巻きに歩いているのだけは分かった」
二人話すと、話しやすくなったのか、次々と話し出す男たち。
だが、これは聞き捨てならないことを言いだした男がいた。
「俺は聞いたんだよ。骸骨が話しているのを!」
「おい、何て言ったんだ。俺は声など聞いちゃいない」
「そう奴らは、『ドイツ人、許すまじ』って、言ったんだ。
あれは、プルーセン人の亡霊だ。きっと、ドイツ騎士団がハンティングしたプルーセン人の亡霊だ」
漁村組合事務所が一気にざわつく。
「オレたち、ドイツ人を殺そうってことなのか?」
「いや、あれはポーランド人かもしれんぞ」
「なぜ、バルト海に?」と私は聞いてみた。
「そりゃそうですよ。領主の公爵様のご先祖は、ドイツ騎士団の総長をされたブランデンブルク辺境伯の血を引くお方ですからね。領主様に恨みを晴らそうと」
その時、私の血が一気に沸騰した。
火山がマグマを排出しているような、そんな気分だった。
何故なら、私も伯父も同じ血統。
つまり、私にも恨みを晴らそうとしているということではないか?
そんな中、呼び寄せられるように、このバルト海に来たというのか。私は!
「でもよぉ、領主様が殺したわけじゃない。先祖の話だよ」
「そんなこと言っても、実際、幽霊は霧の中、行列作って歩き回って、この地からドイツ人は、皆、出て行けと言っているんだよ」
こんなうわさが広がってはいけない。
伯父が領主として努力しても、これでは……
そして、アンナも周りの貴族から、“骸骨令嬢”とか言われたりするやもしれん。
社交界や貴族社会とは、微々たる弱点でも見つけると格好の噂話になる。
そういった貴族社会が嫌で、私は、飛びだし、大海原の海賊となったのだ。
そして、他の商人のところに行くと、驚いたことに、同じ話をしていた。
「ドイツ騎士団への恨みを公爵様に晴らそうとしているのだ」
「あれは、プルーセン人やポーランド人の亡霊だ」と。
そう、この地は、嘗て、ドイツ騎士団国が支配していた土地なのだ。
そのドイツ騎士団は、徹底的にプルーセン人やポーランド人と言った地元民を殺しまくった。
しかも、その殺戮を商売としていたのだ。
どういうことか説明しよう。
エルサレムへの十字軍活動が下火になると、騎士の仕事が減ってきたのだな。
そこで、ドイツ騎士団は、『北の十字軍』という活動を行うことにした。
これは、キリスト教と他宗教との闘いを十字軍活動と言って、初めはイスラムと闘っていたが、次にバルト海近郊の民間宗教を信仰する人々を制圧し始めた。
ただ単に制圧したり改宗させたのでは、儲からないので、ヨーロッパ各地の貴族へ十字軍参加の招待状を送っていた。
そして、貴族から参加料を頂く。
参加した貴族には、名誉ある騎士団から“騎士の称号”を贈るのだ。
これは、大変名誉あることとして喜ばれた。
特に、女子が騎士の称号を得られないイングランドなどは、国が認めなくてもドイツ騎士団が認めた騎士の称号が得られるというものだ。
つまり、貴族の坊ちゃんやお嬢ちゃんが、冬になるとやって来て、騎士団にカネを落とすということ。
そして、プルーセン人がいなくなったこの地方には、ドイツ人を入植させて、十年間は税金はとらないとして、開拓させた。
プルーセン人が壊滅すると、次は、ポーランドだ。
しかし、問題が起こった。
時のポーランド国王が、キリスト教へ改宗したのだ。
つまり、ドイツ騎士団の人間狩りは十字軍活動で亡くなってしまった。
しかし、下がるに下がれず戦闘を継続し、やがてタンネンベルクの闘いで敗北する。
そして、ポーランド-ドイツ騎士団戦争でも騎士団は破れ、ドイツ騎士団国は解体され、今の公国となる。
また、騎士団そのものも廃れて行くわけだ。
その騎士団の歴代総長を、我が一族からも輩出しており、結びつきは強い。
こんなことを伯父や従姉妹に報告するのか?
すると、ある作業員が叫び出した。
「オレたち、ドイツ人は殺されるんだぁ」と。
「おい、イライザッ。頼む」
「へい、お頭」と、巨漢のイライザが、その作業員の前に出て、『黙れ!』という仕草をした。
「ああ……」
「大丈夫じゃ。ワシらには、お頭が付いておる。ついでにお前らも助けてやる」
いや、イライザ。私は正義の味方ではないのだけれど。
その若い漁師が言うには、「実は、三日前に骸骨の行列に出くわしたんだよ」と。
「漁をしていたら、ポツゥーンと灯りが見えて、そしたら、海の上に骸骨の行列が歩いていたんだ。
すると、その奥から帆がボロボロの幽霊船の姿が現れたと思ったら、甲板の上にも骸骨が歩いているんだ。もうびっくりして、一目散に港に帰ってきたよ。今考えても恐ろしい」
この話を聞いた私は、これが本当なら、幽霊としか言いようがない。それが本当なら。
そう、本当なら。
だから、取り締まりも討伐も出来やしない。
今度は別の男が話し出した。
「俺も見たんだ。霧の中に骸骨が歩いているのを。どこに行くのか分からなかったけど、遠巻きに歩いているのだけは分かった」
二人話すと、話しやすくなったのか、次々と話し出す男たち。
だが、これは聞き捨てならないことを言いだした男がいた。
「俺は聞いたんだよ。骸骨が話しているのを!」
「おい、何て言ったんだ。俺は声など聞いちゃいない」
「そう奴らは、『ドイツ人、許すまじ』って、言ったんだ。
あれは、プルーセン人の亡霊だ。きっと、ドイツ騎士団がハンティングしたプルーセン人の亡霊だ」
漁村組合事務所が一気にざわつく。
「オレたち、ドイツ人を殺そうってことなのか?」
「いや、あれはポーランド人かもしれんぞ」
「なぜ、バルト海に?」と私は聞いてみた。
「そりゃそうですよ。領主の公爵様のご先祖は、ドイツ騎士団の総長をされたブランデンブルク辺境伯の血を引くお方ですからね。領主様に恨みを晴らそうと」
その時、私の血が一気に沸騰した。
火山がマグマを排出しているような、そんな気分だった。
何故なら、私も伯父も同じ血統。
つまり、私にも恨みを晴らそうとしているということではないか?
そんな中、呼び寄せられるように、このバルト海に来たというのか。私は!
「でもよぉ、領主様が殺したわけじゃない。先祖の話だよ」
「そんなこと言っても、実際、幽霊は霧の中、行列作って歩き回って、この地からドイツ人は、皆、出て行けと言っているんだよ」
こんなうわさが広がってはいけない。
伯父が領主として努力しても、これでは……
そして、アンナも周りの貴族から、“骸骨令嬢”とか言われたりするやもしれん。
社交界や貴族社会とは、微々たる弱点でも見つけると格好の噂話になる。
そういった貴族社会が嫌で、私は、飛びだし、大海原の海賊となったのだ。
そして、他の商人のところに行くと、驚いたことに、同じ話をしていた。
「ドイツ騎士団への恨みを公爵様に晴らそうとしているのだ」
「あれは、プルーセン人やポーランド人の亡霊だ」と。
そう、この地は、嘗て、ドイツ騎士団国が支配していた土地なのだ。
そのドイツ騎士団は、徹底的にプルーセン人やポーランド人と言った地元民を殺しまくった。
しかも、その殺戮を商売としていたのだ。
どういうことか説明しよう。
エルサレムへの十字軍活動が下火になると、騎士の仕事が減ってきたのだな。
そこで、ドイツ騎士団は、『北の十字軍』という活動を行うことにした。
これは、キリスト教と他宗教との闘いを十字軍活動と言って、初めはイスラムと闘っていたが、次にバルト海近郊の民間宗教を信仰する人々を制圧し始めた。
ただ単に制圧したり改宗させたのでは、儲からないので、ヨーロッパ各地の貴族へ十字軍参加の招待状を送っていた。
そして、貴族から参加料を頂く。
参加した貴族には、名誉ある騎士団から“騎士の称号”を贈るのだ。
これは、大変名誉あることとして喜ばれた。
特に、女子が騎士の称号を得られないイングランドなどは、国が認めなくてもドイツ騎士団が認めた騎士の称号が得られるというものだ。
つまり、貴族の坊ちゃんやお嬢ちゃんが、冬になるとやって来て、騎士団にカネを落とすということ。
そして、プルーセン人がいなくなったこの地方には、ドイツ人を入植させて、十年間は税金はとらないとして、開拓させた。
プルーセン人が壊滅すると、次は、ポーランドだ。
しかし、問題が起こった。
時のポーランド国王が、キリスト教へ改宗したのだ。
つまり、ドイツ騎士団の人間狩りは十字軍活動で亡くなってしまった。
しかし、下がるに下がれず戦闘を継続し、やがてタンネンベルクの闘いで敗北する。
そして、ポーランド-ドイツ騎士団戦争でも騎士団は破れ、ドイツ騎士団国は解体され、今の公国となる。
また、騎士団そのものも廃れて行くわけだ。
その騎士団の歴代総長を、我が一族からも輩出しており、結びつきは強い。
こんなことを伯父や従姉妹に報告するのか?
すると、ある作業員が叫び出した。
「オレたち、ドイツ人は殺されるんだぁ」と。
「おい、イライザッ。頼む」
「へい、お頭」と、巨漢のイライザが、その作業員の前に出て、『黙れ!』という仕草をした。
「ああ……」
「大丈夫じゃ。ワシらには、お頭が付いておる。ついでにお前らも助けてやる」
いや、イライザ。私は正義の味方ではないのだけれど。
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