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第一章 過去から来た者たち
1.剣ダコまみれの令嬢は、ダンスは嫌いですの。
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母の三年祭が終わった……
そして、この年、私は18歳となり、帝国貴族が集まる社交界にデビューする。
「お母さん、今年から社交界に出ることになります。お母さんの娘として恥をかかないように頑張ります」と、母の墓前に誓い、父の顔を見ると、何やら母のことを思い出していたのだろうか、思い耽っているようだった。
何故、突然に母が死んだのだろうか?
人一倍、元気で明るく、病気などしない母が突然に!
それは、三年前のこと、母はいつものように、火曜日は乗馬の日で愛馬に跨っていた。
馬に乗ることにかけては、数十年のベテランである母が落馬し、首や頭を骨折したのだ。
そして、意識不明となり、その夜に亡くなった。
――あの母が落馬? 他の貴族の子弟に乗馬を指導している母が、そんなことがあり得るのだろうか? しかも愛馬から。
その日は、学園の長期休暇であったため、母の死に目には会えたが、こんなに呆気ないものだろうか?
人が死ぬということは。
そして、簡単には、母の死を吹っ切れるものではなかった。
なので、可愛がっていた馬には、申し訳ないのだけれども、私は、あれ以来、馬に乗ることはしなくなったのは、自然の流れと言うものだと思う。
――ごめんね。アレクサンドロス号。
しかし、私は活発な母の血が流れているのだろう、武芸を行わないというのは、ストレスだった。
なので、馬を使わなくとも、剣などの稽古を盛んにするようになっていった。
それを見た親戚達は、「アグネス・エルツみたいに、男性にグーパンチで婚約破棄なんてことになりやしないかい?」と言っていたらしい。
アグネス・エルツとは、いわゆる、デュラハン。つまり、首なし女騎士の怪談で知られるお姫様だ。
アグネス・エルツは、男兄弟の中で育ったらしく、ドレスより甲冑や乗馬に興味があった女性と言われている。
しかし、幼いころからある騎士と婚約しており、結婚もまじかになったころ、舞踏会を開いた。
その時に、騎士はアグネスにキスをしたようだ。
それを、何故かアグネスは激怒する。
何が気に入らなかったのか?
それは、アグネス様から言わせると、この騎士は「ひ弱」だそうだ……
そして、グーパンチでお返し!
今度は騎士が激怒し、手袋を投げつける。
これは、貴族社会では挑戦状ということになる。
そのため、エルツ家は臨戦態勢を取っていたが、1ヶ月経っても騎士は現れず、一家の男達は狩りに出かけてしまった。
そこに、騎士は仲間を連れてエルツ家を襲撃する。
何と卑怯な!
そこに立ち向かったのは、兄の鎧を着たアグネス様だ!
騎士は、兄の鎧を見て激怒した。いつも、アグネスに「我が兄たちのように勇敢に……」などと言われていたのだから。
しかし、多勢に無勢。
アグネス様は首を打ち取られ即死した。
しかし、騎士は知らなかったのだ、兄の鎧の下にはアグネスがいることを!
アグネスの死体を見た騎士は、驚き逃げ去った。
その後、その騎士を見たものはいないという。
そして、エルツ城は首を斬られたアグネス様が、自分の首を探しに徘徊しているという噂が出来たのだ。
そんなアグネス様みたいに、私がなるのではと心配していたようだが、私は、この母の死を身体を動かさずに乗り越えることは出来なかった。
剣を振り続け、手にマメが出来、潰れそうになるとハンカチを手に巻いて、さらに剣を振るった。振るい続けた。
そして、剣が自分の一部と化したと思えた頃、学園を卒業し社交界デビューとなった。
しかし、そんな剣ダコまみれの私が、ダンスで貴公子たちの手を握ったら……
考えたら少し恐ろしくなってきた。
ああ、社交界デビューの日が近づいてくるわ。
そして、この年、私は18歳となり、帝国貴族が集まる社交界にデビューする。
「お母さん、今年から社交界に出ることになります。お母さんの娘として恥をかかないように頑張ります」と、母の墓前に誓い、父の顔を見ると、何やら母のことを思い出していたのだろうか、思い耽っているようだった。
何故、突然に母が死んだのだろうか?
人一倍、元気で明るく、病気などしない母が突然に!
それは、三年前のこと、母はいつものように、火曜日は乗馬の日で愛馬に跨っていた。
馬に乗ることにかけては、数十年のベテランである母が落馬し、首や頭を骨折したのだ。
そして、意識不明となり、その夜に亡くなった。
――あの母が落馬? 他の貴族の子弟に乗馬を指導している母が、そんなことがあり得るのだろうか? しかも愛馬から。
その日は、学園の長期休暇であったため、母の死に目には会えたが、こんなに呆気ないものだろうか?
人が死ぬということは。
そして、簡単には、母の死を吹っ切れるものではなかった。
なので、可愛がっていた馬には、申し訳ないのだけれども、私は、あれ以来、馬に乗ることはしなくなったのは、自然の流れと言うものだと思う。
――ごめんね。アレクサンドロス号。
しかし、私は活発な母の血が流れているのだろう、武芸を行わないというのは、ストレスだった。
なので、馬を使わなくとも、剣などの稽古を盛んにするようになっていった。
それを見た親戚達は、「アグネス・エルツみたいに、男性にグーパンチで婚約破棄なんてことになりやしないかい?」と言っていたらしい。
アグネス・エルツとは、いわゆる、デュラハン。つまり、首なし女騎士の怪談で知られるお姫様だ。
アグネス・エルツは、男兄弟の中で育ったらしく、ドレスより甲冑や乗馬に興味があった女性と言われている。
しかし、幼いころからある騎士と婚約しており、結婚もまじかになったころ、舞踏会を開いた。
その時に、騎士はアグネスにキスをしたようだ。
それを、何故かアグネスは激怒する。
何が気に入らなかったのか?
それは、アグネス様から言わせると、この騎士は「ひ弱」だそうだ……
そして、グーパンチでお返し!
今度は騎士が激怒し、手袋を投げつける。
これは、貴族社会では挑戦状ということになる。
そのため、エルツ家は臨戦態勢を取っていたが、1ヶ月経っても騎士は現れず、一家の男達は狩りに出かけてしまった。
そこに、騎士は仲間を連れてエルツ家を襲撃する。
何と卑怯な!
そこに立ち向かったのは、兄の鎧を着たアグネス様だ!
騎士は、兄の鎧を見て激怒した。いつも、アグネスに「我が兄たちのように勇敢に……」などと言われていたのだから。
しかし、多勢に無勢。
アグネス様は首を打ち取られ即死した。
しかし、騎士は知らなかったのだ、兄の鎧の下にはアグネスがいることを!
アグネスの死体を見た騎士は、驚き逃げ去った。
その後、その騎士を見たものはいないという。
そして、エルツ城は首を斬られたアグネス様が、自分の首を探しに徘徊しているという噂が出来たのだ。
そんなアグネス様みたいに、私がなるのではと心配していたようだが、私は、この母の死を身体を動かさずに乗り越えることは出来なかった。
剣を振り続け、手にマメが出来、潰れそうになるとハンカチを手に巻いて、さらに剣を振るった。振るい続けた。
そして、剣が自分の一部と化したと思えた頃、学園を卒業し社交界デビューとなった。
しかし、そんな剣ダコまみれの私が、ダンスで貴公子たちの手を握ったら……
考えたら少し恐ろしくなってきた。
ああ、社交界デビューの日が近づいてくるわ。
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